2022年10月06日

◆ ヘボン式と訓令式

 ローマ字のつづり方は、ヘボン式と訓令式が混在しているので、混乱を避けるために整理しようと、政府が検討するそうだ。

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 朝日新聞のコラム「天声人語」にこうある。(2022-10-06)
 文化庁の最近の世論調査で日本語のローマ字のつづりが混在している状況が明らかになった。英語の音に近いヘボン式は道路標識にも使われる。広く普及していると思ったが、戦前に国が示し、いまも小学校で習う訓令式を用いる人も意外と多いらしい。
 文化審議会は混乱をさけるための議論を始めたという。
( → (天声人語)博士が愛した日本語:朝日新聞

 元になる報道記事は、こうだ。
 ローマ字のつづり方で、小学校の国語科で中心的に学習する「訓令式」よりも、「ヘボン式」が浸透している言葉が多い一方で、訓令式の表記が選ばれる言葉もある――。文化庁が30日に発表した2021年度の「国語に関する世論調査」で、そんな結果が明らかになった。文化審議会では、つづり方が混在している現状を整理し、混乱を避けるための考え方を示そうと検討を始めている。
 文化庁は、「意識せずに訓令式が使われていることもあり、様々な意見がある。今後さらに実態調査をし、どのように考えればよいか議論していきたい」としている。
( → AichiそれともAiti ローマ字つづり方混在、文化庁が整理検討 国語世論調査:朝日新聞

 「現状を整理し、混乱を避けるための考え方を示そう」ということだが、「どちらか一方に統一しよう」というのとは、ちょっと違っているようだ。「どのように考えればよいか」を議論したいらしい。

 ──

 どうやら状況が混在していると、頭が混乱してしまうらしい。なるほど。困ったことですね。
 そこで、困ったときの Openブログ。うまい説明を出そう。こうだ。
 「訓令式は日本語の一部であり、ヘボン式は英語の一部である」
 こう解釈すれば、物事はうまく説明が付く。

 さらに詳しく述べよう。
 ヘボン式と訓令式は、どこがどう違うのか?

 まず、想定された読者が違う。その文章の読者は、外国人か日本人か。ヘボン式ならば、読者は外国人であるが、訓令式ならば、読者は日本人である。というか、ヘボン式は、外国人のために書かれた表記であり、訓令式は、日本人のために書かれた表記である。
 
 このことは、文章自体でも区別される。つまり、その単語の前後にある文だ。前後にある文が、英語か日本語か、という違いがある。前後にある文が英語ならば、ヘボン式であり、前後にある文が日本語ならば、訓令式となる。

 例示すれば、こうだ。
  That is Ichiban-cho Shinkan.  (英語表記)
  Are ha Itiban-tyo Sinkan desu. (日本語のローマ字表記)


 この二つの例文では、前者は英語なので、ヘボン式の表記を取るが、後者は日本語なので、訓令式の表記を取る。


hebon.png


 結局、ヘボン式というのは、英語圏の人のための表記であるから、その表記をどうしたいかは、英語圏の人々が決めればいい。英語の書法を日本人が決めるというのは、越権であるから、文化庁は何も言う権限がない。英語圏の人々だって、日本人に何か言われたからといって、英語の表記方法を変えようとは思うまい。たとえ文化庁が「訓令式の英語を書け」と命令したって、英語圏の人々は耳を貸そうともしないだろう。
 一方で、訓令式というのは、日本語のアルファベット表示の方式であるから、あくまで日本人が勝手に決めていい。英語圏の人々が「訓令式なんて馬鹿げているからやめろ」と注文したからといって、その要望を聞く必要はない。「訓令式の日本語は、あくまで日本語なのだから、英米人が口を挟む資格はない。お前らは口出しするな」とシャットアウトすればいい。

 ともあれ、ヘボン式は、英語の一部であり、英語圏で決めればいい。訓令式は、日本語の一部であり、日本だけで決めればいい。
 そして、この両者は、用途も使用者も異なる。たがいに干渉しない。したがって、混在していても、何ら差し支えない。

 ちなみに、そこいらの交通標識などでは、「日本語と英語の併記」だけがあればいい。たとえば、「一番町 / Ichiban-cho 」という表記だけがあればいい。前者は漢字であり、後者はアルファベットだ。これで、前者は日本人向けであり、後者は外国人向けとなる。それで片付く。
 一方、ここでは、訓令式の出番はない。訓令式のローマ字を使う日常的状況などは考えられないからだ。どうしても訓令式のローマ字を使いたいというのであれば、もう一つの日本語表記である「一番町」という漢字表記を削除するべきだ。(だが、それはナンセンスだろう。)

 では、訓令式のローマ字というのは、どういう状況で使われるか? それは、パソコンのタイピングのときである。そのときには、かな漢字変換の前に、ローマ字入力をする。そこでは、訓令式を使うのが常道だ。ヘボン式を使う人は、頭が歪んでいると言えるだろう。
 たとえば、「ち」を入力するのに、「TI」と2文字で済ませずに「CHI」と3文字を打つような人は、わざわざ無駄手間をかけていることになる。アホくさ。しかも、「た行」の規則性を破壊して、例外的な打鍵をして、脳に余計な負担をかけていることになる。アホくさ。

 ※ ただし「じゅ」は「ZYU」よりは「JU」の方が早く打鍵できる。つまり、ヘボン式の方が早い。したがって、この場合にはヘボン式の方がいい。……その意味で、訓令式とヘボン式を混用することが、パソコンの入力では最善だと言えるだろう。
posted by 管理人 at 23:30 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
英語以外の言語だと、それぞれにしっくりくる綴りも違うでしょうし、どうでもいい感じですかね。
看板表記などは基本的に英語基調なのでヘボン式が良さそうに思います。
訓令式の看板には違和感を感じる今日この頃。

タイピングなんて、それぞれ好きにすればいいじゃないですか。「常道だ」「歪んでる」「アホクサ」なんて貶さなくてもいいのに。ひらがな1本指打法だって何だって、本人が良けりゃいいのです。
って、マジレスしてみました。
タイピング以外に脳に余計な負担を多大にかけてるので、2文字だろうが3文字だろうが大した違いには感じません。どうせ予測変換で次々出てくるし。
Posted by けろ at 2022年10月07日 12:09
> 貶さなくてもいいのに

 それは私も気にしたんですけど、特定個人でなく、方法への悪口だから、許容範囲かな、と。
 その方法が「私が悪口を言われた! 訴えてやる!」と言い出すわけでもなさそうだし。

 ……と思ったけど、読み直したら、「ヘボン式を使う人は」と書いていますね。済みません。
Posted by 管理人 at 2022年10月07日 12:59
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