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受賞理由
受賞理由は、「ネアンデルタール人の DNA を解明したこと」に留まらず、それによって「ネアンデルタール人との交雑」を証明したことである。記事はそう報じている。
ペーボ氏は、1856年にドイツで見つかったネアンデルタール人の上腕の骨の一部を使って、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAを解析。1997年、ミトコンドリアDNAの配列の解読に成功した。
さらに2010年、同時に大量のDNA配列を読み取ることができる次世代シーケンサーという装置で、ネアンデルタール人の細胞の核DNAの配列を解読した。アフリカ人をのぞく人類の全DNAの1〜4%がネアンデルタール人から受け継がれていることを明らかにし、現代の人類の祖先がネアンデルタール人と交雑していたことを突き止めた。
また、ロシアのデニソワ洞窟から出土した骨片のDNA解析から、これまで知られていなかった古代人を見つけ「デニソワ人」と名付けた。
ペーボ氏の発見は、アフリカから移動したホモ・サピエンスが、ユーラシア大陸の西側ではネアンデルタール人と、東側ではデニソワ人と交雑していたことを示した。古代人のDNAが、現代の我々のDNAにも一部痕跡として残されていることになる。
( → ノーベル医学生理学賞にスバンテ・ペーボ氏 古代人のDNA配列研究:朝日新聞 )
ペーボ教授は、発掘された古代の人骨などから遺伝子に当たるDNAを抽出して解析する方法を確立した。そして、10年に古代の骨からネアンデルタール人の遺伝子配列を、世界で初めて解読した。
その結果、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が共存している間に交配し、ヨーロッパ系とアジア系の現代人の遺伝子は、それぞれ約1〜4%がネアンデルタール人由来であることを突き止めた。
( → ネアンデルタール人のゲノム解読、人類史に光 ノーベル賞のペーボ氏 | 毎日新聞 )
単に「解読」しただけなら、たいして大きな業績ではない。しかしこの「解読」を通じて、「ネアンデルタール人との交雑」を証明した。これが従来の学説を根本的に覆す大きな業績だとされた。
それはほとんど「地動説から天動説へ」というぐらいのショッキングな転換だった。学問的な理屈から言えば、どうしても「地動説」が正しいはずなのに、今回の証明は、学問的にはまったく理屈に合わない事実を証明したからである。それはほとんど「狂気が正気と見なされた」というような、ショッキングな出来事だった。
分岐との矛盾
従来の学説では「交雑はありえない」と見なされていた。どうしてか? それは、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスがそれぞれ独立した別種だからである。
仮にこの両者が交雑可能だとしたら、その混血した中間種が緩やかな差をなして分布するはずである。たとえば、白人・黒人・黄色人種がそれぞれ混血した中間種が緩やかな差をなして分布するように。(アジアと欧州の中間には、白人と黄色人種の混血した人々が多く分布する。アフリカと欧州の中間には、白人と黒人の混血した人々が多く分布する。)
ところが現実には、そうなっていない。ネアンデルタール人とホモサピエンスの中間種などは見つかっていない。このこと(化石的事実)からしても、「交雑はありえない」と考えられる。
また、理論的にも同様だ。仮にネアンデルタール人とホモサピエンスが交雑可能ならば、それらは別種に分離することが不可能だったのである。もともとは早期ネアンデルタール人というものがあって、ここから「ネアンデルタール人」と「ホモ・サピエンス」に分岐したと考えられる。だが、その両者が交雑可能であるならば、勝者は別種に分離することができないはずなのだ。
現実には、この両者は分離された。それは、ホモ・サピエンスが出現したときに、「ゲノム・インプリンティング」という機構が働いたからである。この機構のおかげで、両者は別の種となって分離できた。そして、この機構は「交雑した個体は生まれない」という機構と同義である。それゆえ、この両者の交雑は原理的にありえないのだ。詳しくは下記項目を参照。
→ 異種間交雑が起こりにくい理由(ゲノム・インプリンティング): Open ブログ
なお、次の解説もある。(本項の話と重複するので、読まなくてもいい。)
→ 進化論とゲノム・インプリンティング: Open ブログ
ともあれ、理論的には、「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスとの交雑」は、ありえないはずだったのだ。なのに、「ありえない」という従来の見解を覆したのが、今回のノーベル賞受賞の業績だ。それはまったく画期的と言えるほどの大転換となった。
しかしそのかわり、これまでの生物学の常識が成立しなくなる、という矛盾ももたらした。
真相
この問題を名探偵の推理によって解決したのが、本サイトだ。
名探偵はこう推理した。
密室に凶器が見つかった。それゆえ、「凶器は外部から持ち込まれたことが証明された」と人々は思った。しかし、真相はそうではない。凶器はもともと密室に存在していたのだ。密室に凶器が見つかったからといって、その凶器が外部から持ち込まれたと思うのは、論理の飛躍だったのである。もともとそこに存在していたのだ、という可能性を見失ってはいけない。
このことは、DNA についても言える。
ネアンデルタール人と白人に共通遺伝子が見つかった。それゆえ、「共通遺伝子はネアンデルタール人から白人へ流入したことが証明された」と人々は思った。しかし、真相はそうではない。共通遺伝子はもともとネアンデルタール人と白人に備わっていたのだ。白人にネアンデルタール人との共通遺伝子が見つかったからといって、その共通遺伝子がネアンデルタール人から持ち込まれたと思うのは、論理の飛躍だったのである。両者はもともとその共通遺伝子をもっていたのだ、という可能性を見失ってはいけない。
このことは図示的に説明できる。再掲しよう。
「ネアンデルタール人との混血はなかった。かわりに、アフリカのネグロイドが、ネアンデルタール人との共通遺伝子を失っただけだ。そのせいで、非ネグロイド系の人々が、ネアンデルタール人との共通遺伝子を持っているように見える。それだけのことだ」
ネアンデルタール人 ネグロイド 非ネグロイド
●▲■ ●△□ ●△□
↓ ↓ ↓
●▲■ ○△□ ●△□ネグロイドと非ネグロイドは、ネアンデルタール人との共通遺伝子 ● を持っていた。ところが、ネグロイドは時間の経過とともに、共通遺伝子 ● を失った。(かわりに変異遺伝子 ○ をもつようになった。)一方、非ネグロイドは、共通遺伝子 ● を持ち続けた。
( → ネアンデルタール人との混血はなかった: Open ブログ )
結果的に、ネアンデルタール人と非ネグロイドだけが、 ● を持ち続けた。つまり、別に、両者が交配したわけではない。
これは簡単に図示的に説明しただけだが、もっと詳しくは、次の図で説明できる。
この図が何を意味するかは、下記項目で詳しく説明した。そちらを参照。
→ [真]ネアンデルタール人との混血: Open ブログ
※ 本項の核心は、上のページを読んでほしい、ということだ。肝心の説明は、そこに書かれてある。
有利・不利
さらに補足的に、傍証となる話を記そう。
ネアンデルタール人の遺伝子がホモ・サピエンスと交雑したあとで、その遺伝子がホモ・サピエンスの大部分に拡散したとしたら、その遺伝子は有利な形質を備えていたことになる。(さもなくば交雑で拡散するはずがない。)
そこで、それぞれの遺伝子(共通遺伝子)の性質を見るといい。それらの遺伝子は、どのような有効な形質を備えているのだろうか?
ところが、調べてみると、意外なことに、それらの遺伝子のほとんどは、「あってもなくても大差ない遺伝子」ばかりなのである。この件は、
→ ネアンデルタール人との混血はなかった(証拠): Open ブログ New !
また、これらの遺伝子(の一部)には悪い形質がある、という報告もある。
ペーボ氏らは2020年に発表した研究報告で、現生人類(ホモ・サピエンス)が約6万年前にネアンデルタール人と交雑した際にネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子変異があり、その変異を持つ者は新型コロナウイルス感染症の原因となるウイルスに感染すると人工呼吸が必要になるような重症化する可能性が高くなると指摘した。
( → ノーベル生理学医学賞にスバンテ・ペーボ氏、人類の進化を研究 | ロイター )
以上のこと(有利な形質をもたないこと)は、「共通遺伝子がホモ・サピエンス内で広範囲に拡散した」という説に矛盾する。
一方、本サイトの説では、こうなる。
「ネグロイドは、コーカソイドから分岐した。その後、(ネアンデルタール人との)共通遺伝子とされる遺伝子集団を、失った。なぜなら、それらの遺伝子は有利な形質ではなかったからだ」
この場合は、先の図式(●△□ などの図式)と合致する。矛盾はない。現実とも整合的である。
二つの説を対比すれば、「混血説」は現実との矛盾が生じるが、本サイトの説(混血説の否定)は現実との矛盾が生じない。
ソマリア・エチオピア
もっと直接的な形で、混血説を否定することができるだろう。
混血説に従えば、混血が起こった場所は、出アフリカのあとで集団居住した場所、つまり、メソポタミアである。
→ ネアンデルタール人は私たちと交配した?: Open ブログ
そこで、これを否定するために、出アフリカの前の場所(つまりソマリアやエチオピア)で、現地の人々の遺伝子を調べればいいだろう。
現地の人々はネアンデルタール人との共通遺伝子を持つか?
・ 混血説によれば …… 持たない。(ネアンデルタール人と出遭う前なので)
・ 本サイトによれば …… 持つ。(ネグロイドと分岐する前の古いコーカソイドであったから。)
こうして、二つの説のどちらが正しいかについて、決着を付けることができる。本サイトとしては、当然、後者が証明されると予想している。
チンパンジーとの交雑?
「両者に共通遺伝子があるのは、両者が交雑したからだ」
という説が、仮に正しいとしたら、その説はチンパンジーにも成立することになる。
「ホモ・サピエンスとチンパンジーに共通遺伝子があるのは、両者が交雑したからだ」
というふうに。さらには、
「ホモ・サピエンスとバナナに共通遺伝子があるのは、両者が交雑したからだ」
というふうに。(馬鹿げた話だが。)
この件は、前に別項でも述べた。
たとえば、人間とチンパンジーの遺伝子は98%が共通する。
→ 人間のDNAの半分はバナナと同じ?: Open ブログ
では、これほどにも遺伝子が一致するのは、人間とチンパンジーが交雑したからか? また、ネズミとは 97%が一致し、魚とは 85%が一致し、ハエとは 60%が一致する。とすれば、人間はネズミや、魚や、ハエとも交雑したのか? ……もちろん、否である。それらの遺伝子が共通するのは、交雑したからではなく、祖先から同じ遺伝子を引き継いできたからだ、というだけの話だ。
そして、現生人類とネアンデルタール人とに共通遺伝子があるのも、同様である。この共通遺伝子は、交雑によって得られたものではなく、単に古い祖先から同じものを引き継いだ、というだけのことなのだ。
( → [真]ネアンデルタール人との混血: Open ブログ )
【 関連項目 】
→ [新]ネアンデルタール人との混血: Open ブログ
→ 日本人の顔は平たいのはなぜか? : Open ブログ
ネアンデルタール人のDNAシークエンスを可能にする技術を開発したこと、が本質なのでしょうね。
これで数万年前までのDNAシークエンスが可能になりました。
次は数十年前まで可能になってほしいです。
そのシークエンス技術があって、初めて厳密な考察ができますから。
ただ、世間受けを考えると、シークエンス技術の開発では、
どうしてもセンセーショナル成分が足りないですね。
その技術の開発こそが本質なのですが。
今回の研究者は、最後の1段を加えただけで、それ以前の 99段をやって来た研究者の業績が無視されています。
この1段は、機械や機構のレベルで言えば、たいしたことはない。ただしこれまでの学説を全部否定するという効果が生じたので、話題を呼んでいるだけです。
> シークエンス技術
その技術を開発したのは、機械のメーカーの数十人の技術者でしょう。今回の受賞者は、その機械をうまく使いこなしただけです。
自動車レースで言えば、自動車本体の開発者を差し置いて、ドライバーが業績を独り占めするようなものだ。本当の貢献者は、機械の開発技術者なんだが。
 ̄ ̄
なお、仮に「ネアンデルタール人との混血」という説が正しいと判明したなら、今回の受賞に異論はありません。それだけの価値はあると思う。
問題は、その説が正しいと言えないことだ。少なくとも、批判に対する反論ができていない。
比喩的に言えば、間違った実験をして「 STAP細胞は存在する」または「重力は存在しない」と証明したようなものだ。
その報告が本当に正しいとしたら、その成果はノーベル賞に値すると思う。問題は、その報告が正しくないことなんだけどね。
> チンパンジーとの交雑?
という章を追加しました。
もちろん、ただのシークエンス技術がすごいと言いたいわけでなく、
「ネアンデルタール人の」というところを強調したつもりでした。
現生人類のゲノムプロジェクトは2001年に完了しており、
シークエンス技術そのものは、既存の技術であることは知っています。
https://www.brh.co.jp/salon/shinka/2014/post_000016.php
たぶん上記のサイトで見たと思いますが、
ネアンデルタール人のゲノム解析の場合、
シークエンスに足る質のDNA抽出、
シークエンスの結果の妥当性の検証、
に相当な困難があったそうです。
あと、
>次は数十年前まで可能になってほしいです。
は数十万年前の間違いです。
こういう技術は、霊長類以外にも適応できると思うので、期待しています。
もちろん私も管理人様に賛同します。
ヨコになりますが、佐藤栄作氏が『平和賞』をもらえるくらいですから、
そもそも『ノーベル賞』自体に『価値や有難み』すらないのかもしれません。
の章で、リンクを加筆しました。(見つからなかったリンクが見つかったので。)