2022年10月02日

◆ 猪木 vs アリ の秘話

 世紀の凡戦と言われた「猪木 vs アリ」戦には、隠れた秘話があった。

 ――

 猪木が亡くなったので、それを偲んでの話。

 そもそも、凡戦になったのは、猪木の技のほとんどが「ルールで禁止」というふうにされていたからだ。
 異種格闘技では、ヒクソンが圧勝したように、「柔道系の選手が飛び込んで、相手の懐に入ってしまえば、もはや勝ちになる」というのが常道だ。
 猪木もそのつもりでいたが、アリがそれを事前に知って、「プロレスの技は禁止。さもなくば帰る」と言い出した。
 それで仕方なく猪木は言い分のすべてを飲んだ。かくて「猪木は手も足も封じられた」という状態で戦った。これが「凡戦」の理由だ。
 1ラウンドから猪木は滑り込むような体勢で蹴りを繰り出し、マットの上に体を置いてアリのパンチを避けた。これは、猪木の技のほとんどが禁止され、蹴り技にしても〈膝をついたり、しゃがんでいる状態の足払い〉のみ認められるというルールだったからだ。
( → あのアリ戦から40年! 猪木は今、何を思うのか… 「もう一回やってしっかり勝負つけたいね、ということにしようか」 - スポーツ - ニュース|週プレNEWS

 「アリがそれを事前に知って」と述べたが、その理由は、こうだ。
 猪木は、プロレスを八百長視する世間の目を覆すために、金銭面を含めた多大なるリスクを背負って、一世一代の闘いに挑んだのである。
 一方、当初はエキシビション気分で来日し、お気楽だったアリだが、猪木が本当に真剣勝負をやるつもりだと知り、様子は一変する。しかし、すでに契約は済ませてあり、キャンセルすれば20億円のファイトマネーの3倍の違約金を支払わなければならない。もはや後戻りができない状況のまま、試合6日前の公開練習を迎えた。
「あのとき、アリ側を脅かしすぎたんだよな。公開練習で、猪木さんが俺にハイキックを入れたとき、俺は猪木さんの強いところを見せようと思って、思いっきり倒れたんだよね。そしたらアリ側のヤツが『これは危ない』ってことで、いろいろルールに禁止事項をつけてきたんだ」(藤原)
( → アントニオ猪木はなぜモハメド・アリ戦で“リアルファイト”にこだわったのか? 繰り返したローキック、極限の緊張感「生きるか死ぬかだからね」 - プロレス - Number Web - ナンバー

 こうしてアリの側はさまざまな禁止事項を突きつけた。「飲まなければ帰る」と言い出したので、猪木はすべてを受け入れた。
 ルールは試合の直前まで変更が重ねられ、多くのプロレス技が禁止された。
 「土壇場で、あれはやれない、これはやれない、『駄目ならそのまま帰る』と言うので、全ての条件を飲む、とにかくリングに上げろ、と」
( → アントニオ猪木、モハメド・アリを語る:時事ドットコム

 猪木vsアリ戦の3日前に大きな事件が起こった。6月23日、京王プラザホテルの公開調印式の際、散々挑発されてきた猪木は、怒りを押し殺すように「今回の契約について、ルールについて、全てアリ側の条件を呑んできました。なぜか? 私は絶対にこの試合を実現したいためで、今日まで耐えに耐えてきたわけです。そして、私は手と足を縛られた条件でなおかつ闘うわけです」と反撃した。
( → 新間さん断言!「猪木vsアリ戦は真剣勝負! ルールも存在した」 | 巌流島

 ともあれ、こうして「禁止事項だらけ」という条件下で、試合は行われた。その結果は、猪木が床の上でのたうち回るというだけの、「世紀の凡戦」となった。

 ……というのが歴史的経緯だった。ところが、実はそれは真実ではなかった。ずっと後になって、真相が明かされた。こうだ。
 アリ氏のパンチも数回、猪木氏をかすめた。その後も猪木氏はキックを見舞ったが、決着はつかなかった。
 「(額を指差しながら)こぶになってたから。いくつか。そんなにダメージはなかったけど、こぶは相当固いのじゃないとできない。アリのパンチは速かったね。見えないというか。他のボクサーともやりましたけど、比較にならない。アリはフットワークが違う。他のボクサーは、足が細い。蹴ればほとんどみんな倒れた。アリの一番すごいのは、パンチもそうだけど、足だった」
 試合後、猪木氏の体には大きな影響があった。
 「翌朝起きて、足を剥離骨折していた。今まで言ったことなかったけど、もう肘が駄目で。電気が走るような感じ。あと、その後、左の肩も手術したしね。コップが持てない状況だった」
( → アントニオ猪木、モハメド・アリを語る:時事ドットコム

 というわけで、実は凡戦どころか、とんでもない真剣勝負だったことになる。猪木はたぶん、生涯で最大のケガを負った試合ではなかろうか。
 そして、この試合が凡戦ではなかったことを知るのは、当の二人だった。
 試合の評価は微妙な物があったが、その後の二人には友情が芽生えた。アリ氏から贈られたテーマ曲が「炎のファイター・イノキボンバイエ」として猪木氏のテーマ曲になったのは有名な話だ。
 「彼の結婚式に招待されて、ビバリーヒルズの部屋にいたら、アリがどこかに隠れていたんだね。後ろから首を締めてきた(笑)。その時アリが、『あれでよかったな、お互い。俺も怖かった』と言った。あれだけプライドの高い人間だから、なかなかそういうことは言わないんだろうけどね」
( → アントニオ猪木、モハメド・アリを語る:時事ドットコム

 何だか、泣けてくる。

 アリはこのあとパーキンソン病になった。「あしたのジョー」で言うところの、「パンチ・ドランカー症」だ。
 「あしたのジョー」では、まずカーロス・リベラが、そして最後には矢吹丈がパンチドランカーになってしまいます。
( → パーキンソン

 アリは6年前に亡くなり、猪木もあとを追った。二人は今ごろ天国で会っているだろう。






posted by 管理人 at 14:58 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ルール違反を承知で、つまり莫大な違約金はらうこと覚悟で組み付けばいいとおもってましたがそういうことだったんですね
Posted by ファミマ at 2022年10月03日 08:36
 ルール違反をした場合は、莫大な違約金を払うのではなく、レフェリーストップが入って、一時中止になるか、猪木の反則負けで試合終了となります。
Posted by 管理人 at 2022年10月03日 09:45
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ