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炭酸ガス削減というと、EV や太陽光発電が話題になることが多いが、意外な方法が出てきた。「土壌に炭素を貯め込む」という方法だ。朝日新聞の特集 globe (9月18日)という記事で紹介されている。(
- 【 訂正 】
朝日新聞のサイトにはなかったが、外部の別サイト(独立したサイト)には掲載されていた。
→ 耕さない農業:朝日新聞GLOBE+
有料読者には隠しているが、無料読者には見せる、という方針。ずいぶんと有料読者を馬鹿にした話だ。
そもそも、これは炭酸ガス削減を目的とした話ではない。新しい農業方法の紹介だ。それは有機農法の一種だとも言える。
有機農法は、通常は評判が悪い。収穫量は激減し、味も良くないし、見映えも悪い。(虫食いになる。)……化学肥料や農薬は、農業生産を飛躍的に高める効果があるので、ムードだけで有機農法をやっても現実的にはナンセンスなのだ。せいぜい家庭菜園で趣味でやるぐらいの意味しかない。
ただし、通常の有機農法とは違って、「不耕起農法」というものが現れた。これは「土を耕さない」という農法だ。通常は「土を耕す」というのが常識だから、常識に反する方法だ。人類が古来、千年以上も用いてきた農法を、根本的に覆すことになる。
ここで「耕す」というのは、どういう意味か? 記事にはこうある。
自然界に作物と雑草の区別はない。農業とは、人間にとって都合のいいものだけを育てようとする試みだ。一方で、その土地や環境に最も適応した植物が雑草だ。ハンディキャップなしで競争すれば、作物の分が悪い。これに人はすきなどを使って耕すことで対抗した。土壌環境を一変して雑草を根絶し、いったんゲームをリセットするのだ。
耕すことで、雑草を抑え、種をまく苗床を準備し、肥料を土に混ぜ込む。これにより作物の種子は、雑草よりも早く発芽して競争に勝てる。こうした効果は短期的には農家にとって利益になるが、長期的には土壌の侵食や有機物の減少をもたらし、土を悪くする。
耕さなければ雑草に負けてしまうが、耕すことで雑草に勝てる。これは「雑草対策」としての方法だと言える。
( ※ 実は、水田も同様だ。水田がなぜあるかといえば、雑草対策である。特に水を深く張ると、除草剤なしで済むこともあり、除草剤の経費を抑えることができる。 → 出典 )
ともあれ、雑草対策で、耕すことは必要不可欠だった。特に、化学肥料で(土地あたりの)単位収穫量を増やすと、耕すことは必要不可欠だった。
ところが、化学肥料で農業をすると、土地の養分がどんどん搾り取られて、土地が痩せてしまう。そのせいで土地が硬くなり、(目先はともかく)長期的には収穫量が減ってしまう。
耕している隣人の小麦畑はスコップがなかなか入らない。直射日光に照らされた厚さ5センチほどの薄茶色の表土は乾燥し、コンクリートのように硬い。「私が農業を始めた時もこんな感じだった。化学肥料や農薬の使いすぎで生命がいないからだ」
一方、耕していないブラウンの畑の土には、収穫後の作物の残りがじゅうたんのように敷き詰められ、スコップがすっと入る。土はチョコレートケーキのように黒く、団子状になっていて柔らかい。「これは炭素の色。隣の畑の土には2%以下しか有機物が含まれていないが、うちのは7〜8%も含まれている」
ブラウンの農場は、もう25年以上も耕していない。農薬や化学肥料も使っていない。だが、雑草はほとんどない。穀物や野菜などの商品作物の合間に、土壌を健康に保つために、ヒマワリやササゲなど12種の被覆作物を育てている。
マメ科植物で被覆すると、肥料なしでも生育に必要な窒素が十分に得られ、発芽抑制物質によって雑草も抑えられる。加えて害虫の発生や水分の蒸発も防ぐ。種のまき方もこれまでと違う。多品種の被覆作物を植えることで、土の中の微生物や動物が元気になり、生物多様性が豊かになって土も健康になる。
作物が育つと、狭い区画に100頭以上の牛を集めて放牧し、1日ごとに移動させる。「牛の排泄(はいせつ)物が、肥料になって行き渡るのでほかに何もする必要がない。より多くの二酸化炭素(CO2)を取り込み、炭素として長く地中にとどめるので気候変動対策にもなる」
耕すかわりに、被覆作物を植える。それが雑草を抑制し、かつ、収穫後には朽ちて有機物となって、土壌を豊かにする。こうして化学肥料に依拠しない有機農法が確立した。
よくある有機農法は、単に「化学肥料を使わない」「農薬を使わない」というふうに「ない・ない」の農法であるにすぎなかったが、上記の不耕起農法は「被覆作物がある」「牛などの家畜がある」という「ある・ある」の農法だった。だからこそ成功した。
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さて。ここまでは「不耕起農法」という新しい農法の紹介だった。
ところが、この新しい農法が、「地球温暖化阻止」のための「炭酸ガス抑制」のためにも、大きな効果があることが判明した。
土壌は巨大な炭素の「貯蔵庫」だ。大気には約3兆トン、森林などの植生にはCO2に換算すると約2兆トン分がたまっているとみられているが、土壌にはその2倍以上の5.5〜8.8兆トンがあるという。表土だけでも約3兆トンを貯蔵している。耕すことで、植物の根や微生物が地中にため込んだ炭素が大気中に放出される。
全世界の土壌中にある炭素の量を、毎年 0.4%ずつ増やすことができれば、人為的な活動による大気中への温室効果ガスの排出を帳消しにできるという。
有史以来農業活動によって排出された土壌の炭素量は、産業革命以降に化石燃料の燃焼で排出されたCO2を上回るという。
不耕起有機栽培の日本での草分けで茨城大学教授の小松崎将一らは20年前から陸稲や大豆などを試験栽培し、耕す場合と耕さない場合による収量や炭素貯留量などを比べている。その結果、耕さずに被覆作物にライ麦を植えると、土壌の炭素貯留量が著しく増えた。温室効果ガスの亜酸化窒素などは増えたものの、CO2の排出は半減し、差し引きで温暖化防止に役立つことがわかった。
二酸化炭素は森林の植物中に大量に貯蔵されると思っていた。実際、大気中の3兆トンに対して2兆トンも貯蔵される。だがそれにも増して、土壌中に保存される。特に表土だけでも約3兆トンが貯蔵される。(上記)
なのに、耕す農法を取ることで、その二酸化炭素が空中に解放されてしまう。そこで、耕す農法をやめることで、二酸化炭素を土壌中に大量に貯蔵できる。その量は「人為的な活動による大気中への温室効果ガスの排出を帳消しにできる」ほどだ。
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これは重大な結論だ。われわれは今、自動車の EV 転換や、太陽光発電や風力発電の普及など、多大な努力をしているし、多大な経済的負担もしている。しかし、そういう莫大なコストをかける方法と同程度以上のことが、不耕起農法を採用することで実現できてしまうのだ。その方が圧倒的にコスパが高いだろう。
そもそも、森林に炭素が貯蔵されるというのは、森林の樹木が炭素構造物であるからだ。また、特に広葉樹林の根元には、落ちた葉っぱから作られた腐葉土がある。これらの全体には多くの炭素が含まれている。(それは草地や農地にはないものだ。)
だが、そういう森林以上に、森林や草地や農地の土壌中には、大量の炭素が含まれている。ただし、そのうちのかなり多くの部分は、人類が農業をすることによって、土中から空中に解放されてしまった。そこで、人類が「炭素を空中に解放しない農法」を採用することで、土壌による炭酸ガス吸着を大幅に増やすことができるのだ。
そもそも、太古の地球には、炭酸ガスが高濃度に存在した。恐竜が繁栄していた頃には、炭酸ガスの濃度は現在の5倍以上もあった。
地球の5億年の歴史を見ると、二酸化炭素CO2炭酸ガス濃度と、地球の気温は、無関係に見える。地球温暖化詐欺は特定の100年のスケールでないと騙せない。アイスホッケーのスティックの先端には終りがあり、無限に伸びてはいない。 pic.twitter.com/5FiqP9aJaP
— kegasa (@kegasa2007) October 1, 2017
なのに、そのあと地球上では炭酸ガスの濃度が急激に減少していった。なぜか? 大量の植物が炭酸ガスを吸着していったからだ。つまり、植物には、それほどにも炭酸ガスを吸着する能力があるのだ。
だから本来、人類が何もしなければ、炭酸ガスはどんどん吸着されて、炭酸ガス濃度はどんどん低下していくはずなのである。なのに、実際にはそうならないのは、どうしてか?
「人類が(工業的に)炭酸ガスをたくさん排出するからだ」
と人々は思った。しかし、そうではないのだ。たしかに、そういう要因もあるが、もう一つ、別の要因がある。
「人類が(農業的に)炭酸ガスを土中から解放したからだ」
ということだ。それが「耕す」ということだ。
ゆえに、「耕す」ことをやめさえすれば、「炭酸ガス削減」という人類の目標は、一挙に達成できる。「今世紀なかばまでに、EV ・太陽光発電・風力発電の普及」という遠大な目標を立てるまでもなく、今すぐ「不耕起農業」を実行することで、目標の実現は大幅に早まるのだ。しかも、きわめて低コストに。
近年、大型台風や豪雨や渇水が各地に発生することで、「地球温暖化による異常気象」を嘆く声が高い。そして、そのために「 EV ・太陽光発電・風力発電の普及」という難しい技術目標を掲げることが多い。だが、そんな技術的に難しくて高コストな方法を取らなくても、「耕す」ことをやめさえすれば、「炭酸ガス削減」「地球温暖化の回避」という目標は達成できるのだ。
【 関連動画 】
【 関連サイト 】
「不耕起農法」は「不耕起栽培」とも言われる。Wikipedia にも記事がある。
20世紀前半から半ばころに、目先の効率ばかりに気をとられて土地を耕す耕起栽培が広がりすぎたせいで、地球規模で土地劣化(英語版)(ランド・デグラデーション) が進み、表面数十cmの有用な微生物が豊富な土壌が風や雨で失われてしまい、一度失われてしまった表面土壌の再生はきわめて困難なので、農地として使えなくなってしまった荒れ地が猛烈な勢いで世界中で増え続けてしまった。
1960年代には北米の耕地のほとんどは耕起されていたが、カナダでは1991年には33パーセント、2001年には60パーセントの農場が不耕起栽培もしくは保全耕転を採用している。アメリカ合衆国では2004年に保全耕転が全農地の41パーセント、不耕起栽培が23パーセントで実施されている。
米国でより広く使われるようになってきており、2010年には米国の60パーセントの農地が不耕起栽培になると予想されている。
しかし今のところ、地球全体の農地のうち、不耕起栽培が行われているのは、5パーセントほどに過ぎない。つまりまだまだ不耕起栽培の推進が足らず、このまま耕起栽培が放置されたままでは数十年後には地球上の主な農地の大半が土地劣化(land degradation)によって失われる事態となり、人類は悲惨な状況を迎える。[
( → 不耕起栽培 - Wikipedia )
> 朝日新聞の特集 globe (9月18日)という記事で紹介されている。(ネットにはない。紙の新聞のみ。)
とありますが、関連をチェックしていたら、それらしいものが見付かりました。これ(↓)ですか?
※ 6回?ぶんのシリーズもの。下のサムネイル画像&見出しをクリックすると全部読めそうです(私はまだ全部は読んでないですが)。
https://globe.asahi.com/feature/11034381
本文を修正・加筆しました。(冒頭付近)