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朝日新聞が報じている。
プロジェクトの名前はスコーペックス。米ハーバード大の研究者らが立ち上げた。資金の寄付者には米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も名を連ねる。
同大のチームは、地球に降り注ぐ太陽光を弱めて、温暖化を防ぐ手法を研究している。公開情報によると、地上20キロほどの成層圏にチョークの成分にあたる炭酸カルシウムなどの粉を飛行機などから放出。太陽光を反射して気温上昇を食い止める構想だ。
「自然現象でも起きている、一定の科学的根拠のある手法だと考えています」
チームの諮問機関の委員を務める杉山昌広・東京大准教授が紹介するのが、「火山の日傘効果」だ。
過去の大規模噴火では、吹き上げられた硫酸などの微粒子が日光を遮り、実際に気温低下が観測された。
( → (科学とみらい)気候を変える、気象を操る:下 「私たちの空に何を」先住民の訴え:朝日新聞 )
これはなかなか興味深いが、記事は反対論者の声を取り上げて、批判的に報じている。
ただ、スウェーデン国内の環境団体や、サーミから反対意見が続出した。
仮に北極圏上空にエアロゾルを注入しても日本付近を含む北緯30度程度まで影響が広がったり、降水量の減少などで20億人超の水や食料が左右されたりする可能性を指摘するシミュレーション研究も出ていた。
「人間には自然に介入しコントロールする権利がある、という勘違いこそが温暖化を招いた根本原因。今回の研究は、誤った道をさらに進むものに思えます」
空に祈りをささげた太古の時代から夢見る「気候や気象を操る」技術に、人類は手を伸ばそうとしている。同時にこうした技術を使うことがどこまで許されるのか、との問いが、私たちに投げかけられている。
これは「科学」への恐れを感じる、文系の人の発想っぽい。
理系の人の発想なら、そういう恐れなどはないだろう。特に善も悪もなく、単に「どうなるかを科学的に予想すればいい」というふうになるはずだ。なるべく正確なシミュレーションをすれば、どうなるかはかなり正確に予想できるはずだ。科学の力を理解している人であればあるほど、その数値に信頼性を持たせることが可能だとわかるはずだ。
その上で、そういう「人工の手」が有益か有害かを考えればいい。あくまで客観的に評価すればいい。なのに、「人工の手だから危険だ・有害だ」と一方的に決めつけるのは、あまりにも非化学的な発想だ。
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「人工の手を加えてはいけない」というのは、「人間の生命の分野」に限られる。たとえば、次の例だ。
→ セックスロボットが子どもを産める技術、100年以内に可能 - ナゾロジー
人間を相手にロボットがセックスをして、ロボットが出産をするそうだ。「遺伝子はどうするんだよ?」と思ったら、遺伝子も人工遺伝子(人工DNA)を使うらしい。「人工染色体」というものを用意して、それと人間の遺伝子を交配するらしい。
しかしそれだと、半分は「人工生命」であることになる。それはもはや、半分の「人造人間」である。しかし、人間が機械的に人間を生み出すという「人造人間」は、倫理的に許されるべきではない。もちろん、「人間の大量生産」も許されるべきではない。
「少子化で困るなら、人間を工場で大量生産すればいいさ」
というのは、ありがちな発想だが、そういうことは倫理的に許されないのだ。
この問題は、「クローン人間の悲しみ」という形で、カズオ・イシグロが小説化したことがある。かなり話題を呼んだ。
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だが、ここには大きな誤解がある。「クローン人間を誕生させる」ということは、非倫理的であるので、現実的には禁止されているのである。だから、こういうことが起こることは、現実的にはありえない。このことは別項で論じた。
→ カズオ・イシグロとクローン人間: Open ブログ
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ともあれ、人造人間の製造は、現実的に禁止されている。
一方で、倫理的に禁止されるのは、人造人間の製造ぐらいに留めるべきだ。「地球を改造するような研究は許されない」というのは、倫理的な問題とはならない。なぜなら、何もしなければ、「人間が工業的に炭酸ガスをどんどん増やしつつある」という活動ばかりが許容されるからだ。
炭酸ガスを増やす人為的行動ばかりが許容され、炭酸ガスを減らす人為的行動が(非倫理的だという理由で)禁止されるのでは、不公平すぎる。それはまるで、犯罪者の銃撃活動ばかりが許容され、警察の銃撃活動が禁止されるようなものだ。
「地球を改造するような活動は許されない」というのは、文系の人にはありがちな発想である。しかし現実には、われわれはすでに地球を改造するような活動を実行しているのである。それが現実の地球温暖化だ。
その現実を見失っているのが、文系の人たちだろう。「すでに地球を改造するような活動を実行している」と気づかないから、「地球を改造するような研究は許されない」と思い込むわけだ。
【 関連項目 】
→ 海洋緑化計画: Open ブログ
※ 海に鉄分を投じることで、プランクトンを増やし、漁獲高を増やす、という計画。
→ 沿岸漁業の不振を解決する: Open ブログ
※ 森を針葉樹林から広葉樹林にすることで、川を富栄養化し、円が眼を富栄養化し、漁獲高を増やす、という計画。
以上の二つは、いずれも技術をうまく使うことで自然の状況を改善する。乱獲ばかりしている人間の手の、カウンターパンチとなるような手だ。しかし環境保護論者は、乱獲の手には大甘であるのに、海洋を改造しようという研究には大反対する。
【 関連サイト 】
鯨には海洋を緑化する作用があるが、鯨が減ってしまったので、その作用が失われてしまった。そこで人工的に鯨の作用のかわりをする装置を作ろう、という試みがある。
深海から海面まで広大な海域を泳ぎ回るクジラは、先々で栄養たっぷりの排泄(はいせつ)物をばらまく。植物プランクトンの成長に欠かせない鉄分や窒素がたっぷりと含まれ、光合成による二酸化炭素(CO2)吸収につながる。広範囲に栄養を運ぶ様子は「クジラポンプ」「クジラコンベヤー」とも称される。
「クジラ1頭には何千本もの木々に匹敵する価値がある。炭素回収能力は脅威的だ」
激減したクジラの代わりに、ポンプやコンベヤーの役割を、合成したクジラのフンを海にまいて増強できないか。そんな狙いで行われたのが、インド国立海洋学研究所に、ケンブリッジ大が協力した実験だ。
ケンブリッジ大・気候修復センターのショーン・フィッツジェラルド博士は「単にCO2を海洋に蓄えるためでなく、生態系全体を考え、人間が手を加える前の海で回っていたサイクルを元通りに再起動することが目標です」と説明する。
( → (科学とみらい)気候を変える、気象を操る:上 クジラの人工フン、CO2吸収なるか:朝日新聞 )
これもまた海洋改造計画の一種だ。なのに朝日は、こちらにはなぜか反対しないで、賛成の趣旨で記している。
首尾一貫しないのは、単に素朴な恐怖感情だけで動いているからだろう。「自分に理解できないものは怖い」というわけだ。
そこは科学で考えるべきなのだが、科学よりも感情で動くのが、文系の人の特性なのだろう。