2022年09月22日

◆ パワーアシストスーツの失敗

 パワーアシストスーツの開発・販売をする、パナソニックの子会社が倒産した。なぜか?

 ――

 朝日新聞の記事がある。
 パナソニックホールディングスは21日、体に装着して力のいる作業を補助するパワーアシストスーツを開発する子会社「ATOUN(アトウン)」(奈良市)が、奈良地裁から特別清算開始の命令を受けたと明らかにした。
 ATOUNは2003年6月、パナソニック(当時は松下電器産業)の社内ベンチャー支援制度を利用して設立された。
( → アシストスーツの「ATOUN」、特別清算へ 開発費回収できず:朝日新聞デジタル

 NHK の記事もある。
 少ない力で重いものを持ち上げられる「パワーアシストスーツ」の研究開発や販売を行っていたパナソニックホールディングスの奈良市の子会社が、経営に行き詰まり、今月7日、裁判所から特別清算の開始命令を受けました。
 東京オリンピックやパラリンピックでもスタッフの作業や競技の準備で使われていましたが、近年、販売不振が続いて債務超過に陥り、ことし4月に事業を終息させることを決めました。
( → 「パワーアシストスーツ」パナ子会社に特別清算開始命令 奈良|NHK 奈良県のニュース

 パワーアシストスーツは、「パワースーツ」という名称で、本サイトでは古くから推奨していた。「(高度な)ロボットよりは、(低度な)パワースーツの方が現実的なので、ロボットよりはパワースーツを開発する方がいい」という趣旨。
  → ロボットスーツ?: Open ブログ(2006年)
  → 介護用のロボット,パワースーツ: Open ブログ(2013年)(2004年)

 2004年、2006年の頃から、そう主張してきたわけだ。ところが今回、ロボットどころかパワースーツでさえ、「いまだ時期尚早だった」というふうになってしまったようだ。
 では、これをどう評価すべきか? 

 ――

 とりあえず、この会社のサイトを調べてみた。また、他の会社(パワーアシストスーツを開発する同業他社)も調べてみた。その結果、判明したことは、次のことだ。
  ・ 他にもライバル社がある。
  ・ ライバル社とは傾向が違う。

 順に説明しよう。

 (1) 他にもライバル社がある

 今回、この会社は倒産したが、他にもライバル社がある。1社が倒産しても、別に問題ない。業界全体がなくなることはない。単にダメな会社がつぶれただけだ。

 (2) ライバル社とは傾向が違う

 この会社はどうして倒産したか? そこには個別事情がある。簡単に言えば、研究開発力が弱い。
 他の会社は、研究者がベンチャー企業を興したという感じで、あくまで研究がメインだ。研究の延長上のベンチャー企業がある。本業は研究という感じだ。商業化はまだ先という感じである。当然ながら、研究開発のための資金は別途用意してあるという感じだ。(大きな研究機関の後押しがある場合もある。大学と連携しているところもありそうだ。)
 一方、この会社は、研究意識は弱くて、商業化がメインという感じだ。ベンチャー意識・産業意識・投資意識ばかりが強い。研究意識が足りない感じだ。研究開発の重要性を理解できていないというふうでもある。連携する学術的な研究者・開発者がいるのかも不明だし、どこかの大学と連携しているわけでもなさそうだ。独自技術があるとも思えない。人工筋肉の研究もしていないようだ。とりあえず現在技術で何とか商業化しようという目論見だけが見えていて、将来的な発展が見込めない。比喩で言えば、10年前の時点で、当時の EV 技術で EV 生産をしようと努力しているだけだ。その後の実用化段階となる EV 技術の開発をろくにしていないという感じだ。当然、将来の技術発展には乗り遅れそうだ。将来的な成功の展望はまったく見込めない。

 ――

 まとめて言えば、研究開発の金を惜しんで、商業化のことばかりを考えていたら、将来の成長が見込めないので、かえって期待薄で倒産してしまった、というようなものだ。研究のための投資を惜しんで、会社全体を損なう。「ケチはかえって損する」という見本だろう。
 目先の損得ばかりにこだわるという、浪速商人の銭ガメ根性が失敗の理由かな。長期的な研究開発を最優先にして世界トップを突き進んだテスラとは正反対の方針だ。器が小さすぎる。倒産は順当だと言える。

 そもそも、こんな短絡的な方針でベンチャーを興すパナソニックの方針が甘すぎる。研究というものを舐めている。パワースーツは、自動車のように完成された技術ではないし、EV のようにほとんど完成されつつある技術でもない。まだまだ未完成の技術だ。完成のためには、長年の研究開発が必要だ。実用化には、最低でも 10年はかかるだろう。記事によれば、価格は 70万円ということだが、これが 20万円ぐらいにならないと、普及は厳しい。そして、そのコストダウンを実現する方法は、機械的なメカニズムを持つ装置ではなく、人工筋肉を持つ装置だ。
 パワースーツの開発は、ベンチャー企業で商業化を目指すようなものではなくて、パナソニックの基礎研究所(中央研究所)が研究室レベルで研究するべきものだ。そしてまた、大学と連携して、最先端の独自技術の開発を目指すべきものだ。
 研究開発の重要性を理解できないパナソニックの方針は、先が思いやられるね。このままだと、どんどん事業縮小をするしかないかも。最後は消えてなくなるだけかな。



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posted by 管理人 at 23:55 | Comment(0) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
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