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朝日新聞の記事だ。感染者の全数把握が簡略化されるので、入力の手間が大幅に減る。それを歓迎する現場の声がある。そこで、現状がどれほど大変かを報じている。

現場の医師らからは、見直しでの負担軽減への歓迎のほか、変更での新たな不安を訴える声が漏れる。
診察室で、岸洋二院長(55)がパソコンに向き合っていた。目の前には二つの画面。
→ 画像
片方に表示された患者の電子カルテの情報を、もう片方の画面に出した国の感染者情報把握システム「ハーシス」の入力フォームにコピーしていく。
氏名、生年月日、住所、連絡先など最低7項目。任意とされる「症状」などの項目も埋めると、1人あたり30~40カ所ほどにカーソルを合わせて入力することになる。この作業が診察終了後、毎日数十件分ある。「慣れれば患者1人につき3分ほどで終わることもあるが、通常は5分以上かかる」
午前に実施したPCR検査の結果は当日午後7時ごろに医院に届く。…… ハーシスの入力が始まる。休まず作業をしても、周辺の医療機関が休んでいた8月のお盆前後は、毎日午前0時を回った。
岸院長は「入力はやってもやっても毎日迫ってくる。医者の本来の業務は、患者を丁寧に診ることのはず。今はハーシスでの報告がメインのようだ。本質とずれている」と話す。
東京都杉並区の住宅街にある「たむら医院」はハーシス入力をせず、発生届は全てファクスで保健所に送っている。田村剛院長(47)は「コロナに対応する自分と看護師2人では人手が足りず、ハーシスの操作に慣れるよりも手書きで送った方が早い」と話す。
それでも、ファクスは1枚につき3分はかかる。感染者数が多かった8月上旬は、1日に50枚以上送った日もあったという。
( → 全数把握、追われた日々 簡略化開始へ、まちの医院は―― 新型コロナ:朝日新聞 )
何ともまあ、馬鹿げた話だ。IT技術を使って大幅に作業を合理化できるかと思ったら、逆に、IT技術のせいで作業が大幅に増えてしまって、肝心の医療業務ができなくなっているありさまだ。
医療というものが、患者の治療のを目的としないで、統計を取ることが目的となってしまっている。本末転倒だと言える。
こんなことなら、HER-SYS など、ない方がまだマシだ、とすら言える。いったいどうして、こうなったのか?
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どうしてこうなったかと言えば、IT知識のない連中が HER-SYS という馬鹿げたシステムを構築したからだ。
では、どうすれば解決できるかと言えば、前にも方法を述べたことがある。
・ HER-SYS には、患者が自分で項目入力すればいい。( → 別項1 )
・ HER-SYS には、患者が自分で項目入力できる。( → 別項2 )
医者がいちいち項目を入力しなくても、患者が自分で入力すれば、医者が入力する手間は省ける。
そして、そのようなシステムは、すでに実現しており、患者は自分で入力している。
……ここまでは、すでに述べた通りだ。だから、現実には、医者がいちいち入力する必要はないはずなのだ。
氏名、生年月日、住所、連絡先など最低7項目
というのは、もともと入力されているはずなのだ。だから入力の手間はかからないはずなのだ。
では、なぜ、そうなっていないのか?
それは、患者の入力した My HER-SYS の情報を、医者の記入する HER-SYS に自動入力する機能が欠落しているからだ。連携機能の欠落。……こういうシステム上の機能欠落のせいで、全国にいる医者が膨大な無駄作業を強いられているわけだ。何たる無駄!
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しかも、である。あとでよく考えてみると、もっと壮大な無駄がある。
そもそも、このような情報は、マイナンバーカードで自動入力できるはずだ。ただ、マイナンバーカードは、普及率が低い。ならば、健康保険証番号を使うことで、個人情報を自動入力できるはずだ。
健康保険証番号は、どうすればわかるか? 健康保険証を見れば、すぐにわかる。たとえば、国民健保の保険証は、こうだ。そこに番号が記してあるのがわかる。(被保険者番号と、保険者番号。)

他の種類の健康保険証の画像は下記にある。
→ 保険証の種類はこんなにあった! 記号や番号の意味をイラストで解説
こういう番号がわかれば、患者の同定(個別特定)はできる。住所氏名も、生年月日もわかる。そのデータはもともと厚労省のデータベースに入っているからだ。だから、いちいち入力する必要はないのだ。
それでも、「他人のなりすましがあるから心配だ」と思うのであれば、次の対処をすればいい。
・ 保険証番号と氏名だけを入力する。
・ 番号に対して、氏名が一致すれば、氏名がパスワードとして機能する。
(一致しなければ、なりすましと見なして、以後では別ルートに移動する。)
・ 保険証番号と氏名以外の項目は、厚労省のデータベースから得る。
・ それらの項目は、My HER-SYS の画面上には表示されない。
(患者 or なりすまし人には、その個人情報が見えない。)
・ 症状などの情報は、保険証番号ごとのデータとして入力できる。
以上のようにすれば、個人情報の漏洩もなく、きちんと処理できる。自動化が大幅に進むので、入力の手間は大幅に省略される。(患者にとっても、医院にとっても。)
入力されたデータを、個人情報(住所・誕生日など)と結びつけることができるのは、その個人情報をもっている厚労省(の内部データ)だけである。その結びつけをしない限りは、患者本人も、医院も、自分の入力した情報だけを見ることができる。それ以上は見ることができない。(だから、他人によるなりすましで情報漏洩が起こることもない。)
こうして安全を確保したまま、入力を自動処理することが可能となった。問題は解決した。
Q.E.D.
[ 付記 ]
記事には別の問題も提示されていた。
患者の電子カルテの情報を、もう片方の画面に出した国の感染者情報把握システム「ハーシス」の入力フォームにコピーしていく
これも面倒な作業だ。これも簡単に自動処理することができる。
電子カルテのデータを「ハーシス」の入力フォームにコピーするというのは、容易ではない。電子カルテの方ではデータの書式がさまざまであり、データのエクスポートをしようとしても、エクスポート・データの規格は統一されていないからだ。
そこで、方向を逆にするといい。先に「ハーシス」の入力フォームに記入してから、そのデータをエクスポートして、電子カルテに入力すればいい。
この場合、ハーシスの方では、データのエクスポート形式を一つ定めておけばいい。すると、あとは電子カルテの方で、「ハーシスのデータをインポートする方法」というのを、電子カルテごとに用意すればいい。それは各メーカーが対応することで済む。仮に対応しないメーカーがあれば、病院はその電子カルテ・システムを捨てて、別の電子カルテ・システムに乗り換えればいい。……そして、それがわかっているから、電子カルテ・システムの会社は、必死になって「ハーシスのデータをインポートする」という新機能を、大急ぎで追加するはずだ。(仮に、できない会社があれば、競争で負けて滅びるだけだ。)
こうして問題は解決する。医師としては、何百何膳ものコピー作業をするかわりに、「データのインポート」というボタンを一つクリックするだけで済む。こうして作業は自動化される。
【 追記 】
一方で、HER-SYS の方にも「データのインポート」という機能を備えるべきだ。CSV 形式で外部データをインポートする機能を付ければいい。
なお、CSV 形式より、もっと使いやすいやすい形式としては、CSV 形式を拡張した「Jアドレス形式」というものがある。
→ https://x.gd/nq5TJ
それはまあ、これまで何度も論じてきたことなので。
今回はシリーズの3回目だが、HER-SYS の問題を論じたのはこのシリーズ以外にもあり、いろいろあります。
→ https://x.gd/Dc2hd