2022年09月21日

◆ HER-SYS の問題 .3(入力自動化)

 コロナ情報システム HER-SYS の入力の作業が大変だ……という報道がある。

 ――

 朝日新聞の記事だ。感染者の全数把握が簡略化されるので、入力の手間が大幅に減る。それを歓迎する現場の声がある。そこで、現状がどれほど大変かを報じている。


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 現場の医師らからは、見直しでの負担軽減への歓迎のほか、変更での新たな不安を訴える声が漏れる。
 診察室で、岸洋二院長(55)がパソコンに向き合っていた。目の前には二つの画面。
  → 画像
 片方に表示された患者の電子カルテの情報を、もう片方の画面に出した国の感染者情報把握システム「ハーシス」の入力フォームにコピーしていく。
 氏名、生年月日、住所、連絡先など最低7項目。任意とされる「症状」などの項目も埋めると、1人あたり30~40カ所ほどにカーソルを合わせて入力することになる。この作業が診察終了後、毎日数十件分ある。「慣れれば患者1人につき3分ほどで終わることもあるが、通常は5分以上かかる」
  午前に実施したPCR検査の結果は当日午後7時ごろに医院に届く。…… ハーシスの入力が始まる。休まず作業をしても、周辺の医療機関が休んでいた8月のお盆前後は、毎日午前0時を回った。
 岸院長は「入力はやってもやっても毎日迫ってくる。医者の本来の業務は、患者を丁寧に診ることのはず。今はハーシスでの報告がメインのようだ。本質とずれている」と話す。

 東京都杉並区の住宅街にある「たむら医院」はハーシス入力をせず、発生届は全てファクスで保健所に送っている。田村剛院長(47)は「コロナに対応する自分と看護師2人では人手が足りず、ハーシスの操作に慣れるよりも手書きで送った方が早い」と話す。
 それでも、ファクスは1枚につき3分はかかる。感染者数が多かった8月上旬は、1日に50枚以上送った日もあったという。
( → 全数把握、追われた日々 簡略化開始へ、まちの医院は―― 新型コロナ:朝日新聞

 何ともまあ、馬鹿げた話だ。IT技術を使って大幅に作業を合理化できるかと思ったら、逆に、IT技術のせいで作業が大幅に増えてしまって、肝心の医療業務ができなくなっているありさまだ。
 医療というものが、患者の治療のを目的としないで、統計を取ることが目的となってしまっている。本末転倒だと言える。
 こんなことなら、HER-SYS など、ない方がまだマシだ、とすら言える。いったいどうして、こうなったのか?

 ――

 どうしてこうなったかと言えば、IT知識のない連中が HER-SYS という馬鹿げたシステムを構築したからだ。
 では、どうすれば解決できるかと言えば、前にも方法を述べたことがある。
  ・ HER-SYS には、患者が自分で項目入力すればいい。( → 別項1
  ・ HER-SYS には、患者が自分で項目入力できる。( → 別項2


 医者がいちいち項目を入力しなくても、患者が自分で入力すれば、医者が入力する手間は省ける。
 そして、そのようなシステムは、すでに実現しており、患者は自分で入力している。

 ……ここまでは、すでに述べた通りだ。だから、現実には、医者がいちいち入力する必要はないはずなのだ。
 氏名、生年月日、住所、連絡先など最低7項目

 というのは、もともと入力されているはずなのだ。だから入力の手間はかからないはずなのだ。
 では、なぜ、そうなっていないのか? 
 それは、患者の入力した My HER-SYS の情報を、医者の記入する HER-SYS に自動入力する機能が欠落しているからだ。連携機能の欠落。……こういうシステム上の機能欠落のせいで、全国にいる医者が膨大な無駄作業を強いられているわけだ。何たる無駄! 

 ――

 しかも、である。あとでよく考えてみると、もっと壮大な無駄がある。
 そもそも、このような情報は、マイナンバーカードで自動入力できるはずだ。ただ、マイナンバーカードは、普及率が低い。ならば、健康保険証番号を使うことで、個人情報を自動入力できるはずだ。

 健康保険証番号は、どうすればわかるか? 健康保険証を見れば、すぐにわかる。たとえば、国民健保の保険証は、こうだ。そこに番号が記してあるのがわかる。(被保険者番号と、保険者番号。)


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 他の種類の健康保険証の画像は下記にある。
  → 保険証の種類はこんなにあった! 記号や番号の意味をイラストで解説

 こういう番号がわかれば、患者の同定(個別特定)はできる。住所氏名も、生年月日もわかる。そのデータはもともと厚労省のデータベースに入っているからだ。だから、いちいち入力する必要はないのだ。
 
 それでも、「他人のなりすましがあるから心配だ」と思うのであれば、次の対処をすればいい。
  ・ 保険証番号と氏名だけを入力する。
  ・ 番号に対して、氏名が一致すれば、氏名がパスワードとして機能する。
  (一致しなければ、なりすましと見なして、以後では別ルートに移動する。)
  ・ 保険証番号と氏名以外の項目は、厚労省のデータベースから得る。
  ・ それらの項目は、My HER-SYS の画面上には表示されない。
   (患者 or なりすまし人には、その個人情報が見えない。)
  ・ 症状などの情報は、保険証番号ごとのデータとして入力できる。


 以上のようにすれば、個人情報の漏洩もなく、きちんと処理できる。自動化が大幅に進むので、入力の手間は大幅に省略される。(患者にとっても、医院にとっても。)
 入力されたデータを、個人情報(住所・誕生日など)と結びつけることができるのは、その個人情報をもっている厚労省(の内部データ)だけである。その結びつけをしない限りは、患者本人も、医院も、自分の入力した情報だけを見ることができる。それ以上は見ることができない。(だから、他人によるなりすましで情報漏洩が起こることもない。)

 こうして安全を確保したまま、入力を自動処理することが可能となった。問題は解決した。
   
            Q.E.D.



 [ 付記 ]
 記事には別の問題も提示されていた。
 患者の電子カルテの情報を、もう片方の画面に出した国の感染者情報把握システム「ハーシス」の入力フォームにコピーしていく

 これも面倒な作業だ。これも簡単に自動処理することができる。
 電子カルテのデータを「ハーシス」の入力フォームにコピーするというのは、容易ではない。電子カルテの方ではデータの書式がさまざまであり、データのエクスポートをしようとしても、エクスポート・データの規格は統一されていないからだ。
 そこで、方向を逆にするといい。先に「ハーシス」の入力フォームに記入してから、そのデータをエクスポートして、電子カルテに入力すればいい。
 この場合、ハーシスの方では、データのエクスポート形式を一つ定めておけばいい。すると、あとは電子カルテの方で、「ハーシスのデータをインポートする方法」というのを、電子カルテごとに用意すればいい。それは各メーカーが対応することで済む。仮に対応しないメーカーがあれば、病院はその電子カルテ・システムを捨てて、別の電子カルテ・システムに乗り換えればいい。……そして、それがわかっているから、電子カルテ・システムの会社は、必死になって「ハーシスのデータをインポートする」という新機能を、大急ぎで追加するはずだ。(仮に、できない会社があれば、競争で負けて滅びるだけだ。)
 こうして問題は解決する。医師としては、何百何膳ものコピー作業をするかわりに、「データのインポート」というボタンを一つクリックするだけで済む。こうして作業は自動化される。
 


 【 追記 】
 一方で、HER-SYS の方にも「データのインポート」という機能を備えるべきだ。CSV 形式で外部データをインポートする機能を付ければいい。
 なお、CSV 形式より、もっと使いやすいやすい形式としては、CSV 形式を拡張した「Jアドレス形式」というものがある。
  → https://x.gd/nq5TJ
 
posted by 管理人 at 23:48 | Comment(2) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
HERSYSなどの入力のわずらわしさと対策は仰せの通りと思います。ただこのブログの最大の長所、「問題の根本原因を突き止める」立場から言うとやや突っ込みが足りないと思います。根本原因はこのようなシステムを注文し、試作品をテストする役人がどう考えてこんなシステムにしたのかだと思います。役人が恐れるのは失敗です。どんなに使いにくくても責任はないが、エラーがあると責任を追及されるのが役人社会です。マスコミも失敗を報道するのが大好きです。新しいことをやって失敗して退職金を減額されるなんてことが問題なのです。昔の中国やソ連がそういう社会でした。今は日本が先頭を切っています。
Posted by よく見ています at 2022年09月22日 12:15
> 根本原因は〜

 それはまあ、これまで何度も論じてきたことなので。
 今回はシリーズの3回目だが、HER-SYS の問題を論じたのはこのシリーズ以外にもあり、いろいろあります。
  → https://x.gd/Dc2hd
Posted by 管理人 at 2022年09月22日 13:46
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