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ダムの事前放流を正確に制御するには、正確な気象予報が必要だ。
たとえば、今回の台風 14号では、次のような特徴があったので、予報はかなり難しかった。
(1) 進行速度の遅さ
今回の台風は進行速度が遅かった。そのせいで、特に九州では、長時間の雨天が見込まれたし、線状降水帯の発生も見込まれた。かくて、大量の降水量が見込まれたので、比率的にはわずかな予想の差でも、絶対量では大きなズレが起こりがちだった。
(2) ムラ
今回の台風では、雲は一様には分布せず、局所的に分布していたようだ。地上から見ると、一様の薄い灰色に見えても、地上では極端な豪雨になったり、雨がやんだりした。そういうふうに、濃淡のムラがあった。
これは、Yahoo の 雨雲レーダー でも同様だった。狭い地域に、局所的な豪雨の地域や、雨の降らない地域など、濃淡が混在していた。
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以上の (1)(2) のような状況下では、特定のダムに寄せる降水量を予想するのは難しくなる。そのダムのそばだけの降水量を知ればいいのではなく、そのダムに流れ込む川の流域の降水量を知る必要があるからだ。
また、流域に降った降水量が、ただちにダムに来る流入量になるわけではなく、何時間かのタイムラグもある。そのタイムラグも考慮する必要がある。(過去のデータも参考になる。)
以上のような気象データや地形データを厳密に予想して、一定の数式に流し込まないと、ダムへの流入量は正しく予想できない。これはかなり高度な知的作業が必要となる。
そこで、このような業務は、特定の専門家チームに任せるべきだろう。ダムの管理官が個人的なヤマカンなんかで決めるのではなく、専門的な気象知識や数理知識をもつ高度な人材が担当するべきだ。
なお、そのような人材は、現在のダム管理事務所(国交省所属)には、いるはずがない。そこで、そういう人材を、新たに養成するか、あるいは、外部の気象情報会社に、委託するべきだ。
委託する場合には、気象情報を有償で購入することになる。そういうことが必要となるだろう。(予算化も必要となる。)
この場合、形のあるハードウェアに金を払うのではなく、形のないソフトウェアに金を払うことになる。やたらと土木業界に金を落とすことばかりを考えている寺院党政府には、ちょっと難しいかもしれない。
だが、「知識に金を払う」というふうにすることが、台風の水害を減らすことの最高の方法なのだ。
事前放流をきちんとやっていれば、洪水の氾濫や決壊などの被害を防げる。それによる利益は莫大なものになる。知識のためにわずかな金を払えば、自然災害による巨額の損失を避けることができるのだ。
逆に言えば、これができなければ、「一文惜しみの百失い」(一文惜しみの百知らず)になってしまう。いかにも日本にはありがちなことだが。
※ 「情報に金を払うべきだ」ということは、情報化社会に生きる人にとっては常識だろうが、日本の政治では、まだまだ「物にしか金を払わない」という風潮が強いのだ。