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台風が来る前には、ダムで事前放流をするべきだ……という話は、本サイトで 2013年ごろに何度か述べた。
→ サイト内検索
その後、政府はこの方針を取ることを決めた。
→ ダムの事前放流が実現へ: Open ブログ(2020年08月12日)
今回の台風 14号に際しても、事前放流を実施した。
国土交通省は、台風の接近に伴いダムの水位を下げるための事前放流を16日午前8時時点で、広島、徳島、高知、宮崎、熊本の各県にある計25ダムで実施していると発表した。
( → 台風14号、列島縦断へ 3連休は九州に最接近 早めに備えを:朝日新聞 )
だが、それで十分かというと、そうでもない。事前放流をしていたにもかかわらず、台風が近づくと、早くも緊急放流に踏み切るところが出た。
国土交通省によると、台風の接近に伴いダムの水位を下げるための事前放流を、18日午後2時までに九州、四国を中心に計105ダムで実施した。統計を取り始めた2020年以降で最多。台風14号が大型で非常に強い上、広い範囲に影響する進路予想となっているためという。宮崎県の松尾ダムでは18日午後緊急放流を始めた。
( → 台風14号、鹿児島・宮崎に特別警報 各地で観測史上1位の強風:朝日新聞 )
立派なことをやっているように見せかけて、とんだ不様なていたらくを見せている。
・ 16日午前8時では 25ダムで、18日午後2時で 105ダムだから、開始時期が遅すぎる。
・ 台風の増水が来る前に、早くも満杯に達した。(緊急放流の開始)
以上をまとめれば、こうだ。
「事前放流は、やるにはやったが、開始時期があまりにも遅すぎたので、ダムの水量を減らす効果はわずかだけだった。だから台風が来ると、その後の大幅な増水が来る前に、満杯になってしまった。結果的には、大幅な増水を受け止める効果は、ゼロ同然だった」
つまり、このように小規模の事前放流は、やってもやらなくても、同じことなのである。どうせなら、台風が来る前に緊急放流をして、ダムを空っぽにしておくべきだった。そうすれば、以後の大幅増水を少しでも緩和する効果があった。なのに、そうしなかったから、大幅増水の最中には、緩和率がゼロである。つまり、ダムに入る量と出る量とが同じ量である。これでは、ダムがあってもなくても同じことだ。何の意味もない。
では、どうしてこういう馬鹿げたことが起こるのか?
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参考記事がある。
1947年のカスリーン台風で渡良瀬川の堤防が決壊し、320人余の死者、行方不明者を出した栃木県足利市。
最近の台風被害では、2019年10月の台風19号が記憶に新しい。
上流の草木ダムでは台風襲来2日前から事前放流をし、通常の洪水貯留準備水位(440.6メートル)から約20メートル下げて湛水(たんすい)量を増やしていた。だが、10月12日午後6時ごろには1時間に39.5ミリの雨が降り、流れ込む水は毎秒1637立方メートルに達した。緊急放流の可能性が出て、橋も堤防も低い足利市の中橋では、たもとに大型土?(どのう)が積み上げられた。その後、雨が弱まって流入量が減り、緊急放流は避けられた
( → カスリーン台風の教訓、75年後の今も 足利で慰霊式:朝日新聞 )
この例では、緊急放流は(運良く)避けられたが、水位は 440.6メートルから約20メートル下げただけだった。 440分の 20 だから、5%弱である。事前放流をするといっても、ダムの貯水量を増やす効果は、これっぽっちにすぎないのだ。「スズメの涙」というよりはマシだが、あまりにも小さな効果しかないわけだ。というか、それほど小規模でしか実施していなかったわけだ。
《 加筆・訂正 》
コメントを受けて調べ直したのだが、この「水位」というのは、水深のことではなく、標高のことであるようだ。
→ 解説図
水深は、最低水位との差だから、440メートルではなく、もっとずっと少ないようだ。(3分の1ぐらいか。)
とすると、事前放流の量は、5% ということはなく、20%ぐらいはあったのかもしれない。
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別の記事もある。
豪雨などの際に水をためて洪水を防ぐ治水用のダムは、近年の水害の増加によって、容量に余裕がなくなってきている。
これを受け、国は19年に利水用のダムの容量を、治水用にも活用する方針を決めた。全国に稼働中のダムは約1500基あり、容量は計180億立方メートル。うち治水用の容量が54億立方メートルなのに対し、利水用は125億立方メートル。大雨が予想される際、利水用にためていた水を事前に放流すれば、空いた容量を洪水調整に使える。
( → (取材考記)外れた需要予測 利水ダム、治水活用柔軟に 座小田英史:朝日新聞 )
「治水用の容量が54億立方メートルなのに対し、利水用は125億立方メートル」
とある。つまり、ダムの容量に対して、治水用と利水用の量があらかじめ固定的に定められてあって、それぞれ相手の量については不可侵になっている。
とすれば、台風の直前になって、ものすごく大量の水量が流れ込むとわかっていても、あらかじめダムを空にすることはできないわけだ。上記の比率に従えば、70% はもともと利水用として確保されているので、どんなに水量を減らしても 70% は残しておかないといけない。治水用に減らせる分量は 30% しかない。
台風で莫大な増水があるとわかっていても、そのうち 70%は「渇水の心配があるから、ずっと保水しておこう」という方針を取っているわけだ。大幅増水のある台風の最中に、「もうすぐ日照りで干ばつの恐れがある」と心配しているわけだ。記事にはこうある。
事前放流したあと水がたまらなかったら渇水に陥るという懸念もある。取り組みはこれからだ。
9月の後半で、大幅な降雨があるとわかっている最中に、「8月のような渇水が怖い」と心配しているわけだ。9月の後半以降に渇水になることなどありえないのに、ありもしないことを心配しているわけだ。もう、馬鹿丸出しというか、白痴というか、気違いというか。よほど知能指数の低い大馬鹿野郎が、日本のダムの水量の決定権を握っているわけだ。
ちなみに、利根川の水位の過去実績は、下記だ。
クリックして拡大
出典:東京都水道局
台風が来る前(または台風が来ないとき)に渇水になったことは何度もある。だが、(大雨をもたらす)台風が来たあとで渇水になったことは、ただの一度もない。
だから、台風が来るとわかったなら、もう渇水の心配はしなくていいのだ。なのに、そのことがわからないのが、日本のダム担当者だ。
呆れるしかない。
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それだけではない。もっとひどい間抜けぶりがある。同じ記事には、こうある。
多くの利水用のダムでは事前放流できる吐き出し口がなく、改良が必要だ。
事前放流をしたくても、事前放流をするための吐き出し口がない。水を出したくても、水を出す口がない。
これはもはや、くちあんぐりである。ダムに口がないので、私のあいた口がふさがらない。
[ 余談 ]
今回の台風 14号は、史上最大級らしい。
大きな台風のときに窓ガラスが割れて大変だった、という体験記がある。
→ 「私みたいになるな」台風ナメてて死にかけた時のお話が恐ろしくてゾッとする「これ覚えとかなきゃ」 - Togetter
養生テープを貼っても、窓ガラスが割れるときの対策にはならないので、むしろ(内側から)段ボールを貼っておくべきだ……と記してある。
だが、段ボールを貼っても、窓ガラスが割れることを防ぐことはできない。窓ガラスが割れたあとの破片防止になるだけだ。被害の拡大を防ぐだけだ。被害の発生そのものを阻止することはできない。
窓ガラスが割れるのを防ぐには、雨戸を付けるのが最善だ。戸建てならば、雨戸を設置するべきだろう。特に、断熱雨戸は、断熱効果もあって、最適だ。
→ 雨戸と庇(ひさし): Open ブログ
マンションだと、雨戸を付けることは無理ですね。ただ、マンションだと、高い階まで石や金属が跳んでくることはないから、心配の必要も薄そうだ。心配の度合いが高いのは、2階以下の低い階数の窓ガラスですね。
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※ なお、最近は、雨戸のない戸建てが多い。どうなっているんだろうね。見映え重視のせいかな。そのせいで、予想外の大型台風が来ると、一挙に大被害を負うわけだ。「 Openブログの言うことを聞いておけば良かった」と後悔しても、後の祭り。
草木ダムの最低水位は403.7メートルだそうですよ。
https://www.water.go.jp/kanto/kusaki/syoryou.PDF/R04cyosuichi.pdf
>だが、(大雨をもたらす)台風が来たあとで渇水になったことは、ただの一度もない。
示唆に富む指摘ですね。
引用している東京都水道局のグラフを見ると、10月は貯水する時期であり、
ここで貯水できないと冬渇水になる確率が相当に上がりそうです。
それなりの確率で台風による降水があるときは(もちろん外れることもありますが)、
例年の平均値まで放水しておくことは、個人的には妥当な判断だと思います。
ゆえに、現状では放水しておくべきでしたね。
それは、事前放流のための排水口がないせいでしょう。上の方にある放流口の位置が、その高さだ、ということ。
現状ではそうすることしかできないようだが、別途、排水口を設置するべきだろう。
> 例年の平均値まで放水しておく
ゼロまで下げるべきです。どうせ台風が来れば、満杯になるのだから。
こちらの13、37ページによると、
草木ダムの最低水位403.7メートルより下の貯水量は、
1000万立方メートル、ただし55%が堆砂済みとのことです。
なるほど。事前放流を毎年やっていれば、堆砂もなかっただろうに。こまめに水を節約していたら、かえってダム全体がダメになった(元も子もない・本末転倒)……みたいな話かな。
なるほど。
だけど、ダムの面積がとても広いと、
\_/
ではなく、
\___________________/
のようになるので、あまり意味はなさそうです。
なるほど。
だけど、ダムのほとんどは円錐や三角錐ではなくて、川の流域に沿って(地図上では)細長い形になっています。
今回の草木ダムも、とても細長い形です。
https://x.gd/PnTqr
つまり、
\/
ではなく、
\___________________/
のようになるので、あまり意味はなさそうです。
「水位は 440.6メートルから約20メートル下げた」ってことだけど
ダム湖の水深は440mもあるってこと?
そもそも日本最大の黒部ダムの堤高は186mしかない。
440mは水深ではなく標高なのでは?
なるほど。水位というのは、標高のようですね。
→ https://www.water.go.jp/kansai/hiyoshi/html/aboutdam/use.html
ご指摘に従い、本文中に加筆しました。
《 加筆・訂正 》 の箇所です。