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夏の表日本は、暑くて湿度が高い。では、夏の裏日本はどうか? これを考えるとき、「冬の逆だ」と想像できる。つまり、こうだ。
「冬には裏日本に大雪が降るが、表日本は乾燥して気温が高まる。北西の風が吹くからだ。では、夏には、その逆になるだろう。表日本には大雨が降るが、裏日本は乾燥して気温が高まるだろう。南東の風が吹くからだ」
こう想像して、調べてみたのだが、まったくのハズレだった。
・ 夏には、新潟の気候は、東京とほぼ同じだ。気温も湿度も。
・ 夏には、表日本で大雨が降るということはない。
つまり、フェーン現象は冬には起こるが、夏にはその効果は無効化する。ろくに風が吹いていないのも同然だ。
ちなみに、年間降雨量を見ても、それは裏付けられる。
メッシュ平年図2010(気象庁)より作成した地図タイル「DamMaps:平年値図(降水量)」試作版を公開しました。現在年間降水量の地図タイルを公開しています。どうぞご利用ください!https://t.co/Kd20smmO8R pic.twitter.com/gmNRknSFzT
— 高根たかね (@dambiyori) April 9, 2016
→ 拡大図
夏には表日本には大雨が降るのなら、関東平野の終端にあたる群馬や栃木や長野あたりでは、山地にぶつかった南東の風が、入道雲を発生させて、そこに大量の雨を降らせるはずだ。だが、現実には、そんなことはない。群馬や栃木や長野あたりでは、降水量はたいしたことはない。
一方で、北陸地方では、冬の大量の降雪によって、年間降水量が非常に多くなる。山陰地方も比較的降水量が多い。
では、この非対称性は、どうして生じるのか? それが謎だ。
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この謎を解くヒントは、西日本だ。
西日本の太平洋岸の沿岸部では、降水量がとても多い。これは、南東の風によって降水量が多くなるからだ。だが、東日本ではその効果はない。それはどうしてか?
ここで、注意深く見ると、その効果は、静岡地方にもある。つまり、その効果がないのは、関東平野以北である。とすれば、ここでは、関東平野が何らかの意味をもつと考えられる。
関東平野があると、地形は急峻でなく、なだらかになる。そのことが影響しそうだ。
そこで、念のために地形を調べると、予想が裏付けられる。
→ Google マップ(地形図)
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以上のことから、次のように結論できる。
(1) 冬に裏日本へ来る(北西の)風は、日本海で水分をたっぷりと補給される。その後、裏日本に上陸すると、すぐに急峻な山地にぶつかる。そこで空気は急激に上昇する。空気の気温が下がるので、水蒸気が凝結して雪となる。その風が山脈を越えたあとは、表日本で乾燥した高温の空気をもたらす。
(2) 夏に関東平野へ来る(南東の)風は、太平洋で水分をたっぷりと補給される。その後、関東平野に上陸したあと、長い距離を通るうちに、(地上に雨を降らしたりして)水分を失う。関東平野の西端に到達した頃には、水分をかなり失っている。また、風は急激に上昇することもない。西には前橋台地という(盆地状の)逃げ道があり、北には那須高原という(盆地状の)逃げ道がある。これらの逃げ道に沿って山地を上昇していくと、(斜面を斜めに進むので)空気は急上昇しないで、ゆるやかに上昇するだけで済む。だから水蒸気は凝結しにくい。また、もともと気温が高いので、凝結して雪になることもない。以上の効果で、風はあまり水分を失わないまま、裏日本に達する。その風は、表日本を経たときの風と、気温も湿度もあまり変わっていない。
こうして、説明ができた。
※ この説明は、実証されたわけではないのだが、十分に説得力がある。また、現実のデータに合致する。ゆえに、この説明を正解と見なしていいだろう。
(若干の修正の余地はあるかもしれないが。)
[ 余談 ]
風の方角は「南東」であり、「東南」ではない。なぜか? 調べてみたら……
東西と南北の先後は、次のようになる。
・ 日本では 東西が先
・ 欧州では 南北が先
後者が国際基準になったので、国際基準に則って、気象庁は「南北」を先にすると決めた。
それを決めたのは、戦後か明治かは(私は)知らないが、どっちみち、江戸時代には、東西が先であったはずだ。
青空文庫検索で調べると、「東南の風」は、戦前の作品にいくつか見られる。
→ https://x.gd/ylLMD
なお、江戸時代には、「東南」は「辰巳」「巽」と称されていたので、そちらの方が使用頻度は高いかもしれない。
風の向きは、南東か東南か、という話。
(誤)甲府盆地
(正)前橋台地
https://togetter.com/li/1946757
ただし熱力学的なフェーン現象はそれほど起きるものではないということが最近解明されたそうです。(少なくとも富山平野では)
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p202105171024.pdf
冬に北陸から上越にかけて降水量(≒降雪量)が多くなるのは日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)の寄与が大きいとされているようです。最近はNHKの天気解説でもJPCZをよく聞くようになりました。
https://www.jamstec.go.jp/apl/hotspot2/terms/jpcz.html
それから最近は表日本、裏日本とはいわなくなりましたね。昔は天気予報でもいっていましたけども、新潟県からの抗議により「準放送禁止用語」になりましたね。
https://twitter.com/wni_jp/status/1571732356725346311
https://twitter.com/koukimura1016/status/1571683486209286147
https://twitter.com/aomo_toppy/status/1571272299873210371
台風のように強い南東の風が吹くと、フェーン現象が目立つようです。
換言すれば、普通の(夏の)季節風ぐらいでは、裏日本ではフェーン現象は目立たないようです。
これは、本項の趣旨に合致します。
日本海側、太平洋側という表記が相応しいと思う。
この件は、Wikipedia で解説されています。そちらを参照してください。
→ https://x.gd/KW8HY
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そもそも、人に対する差別表現というのはわかるが、場所に対する差別表現というのは、論理的にありえないだろう。場所を差別するとして、差別された場所が悲しくて涙を流すわけじゃない。場所には感情はない。
「あたし、表日本さんに差別にされて、悔しくて仕方ないの。表日本さん、もうあたしのことを差別しないでね」
「うん。わかったよ。もうこれからは、きみのことをその名では呼ばないよ」
「うれしい。あたし、感謝しちゃう」
と会話するわけじゃない。
だいたい、人間の話をしているのでなく、気象の話をしているときに、差別とか何とか言う人の気が知れない。学術論議に俗世間の感情を持ち込むな。
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例:
「分子という言葉は、反乱分子のように、悪いことをする人のことを呼ぶニュアンスがあって、よろしくない。分子という言葉を使うのをやめろ。 原子も原始的とまぎらわしいので、原子という言葉を使うのもやめろ」
「陽極・陰極という言葉は、前者に対して後者には悪いニュアンスがあるので、よろしくない。陽極・陰極という言葉を使うのをやめろ。私は陰キャと呼ばれて、差別されているんだ」
「金(きん)をこの語で呼ぶのはやめろ。金(かね)とまぎらわしいし、いかにも俗的な Money のニュアンスがあると、ただの物質名に余計なニュアンスが付く。これは侮辱的だ。金(きん)のかわりに Au と呼べ。これならば英雄的で、ニュアンスがいいからな」( KDDI による主張)
場所に対する差別的表現ではなく、そこに住んでいる人に対する差別的表現なんだが。
それに場所に対しても風評被害という言葉もあるし。
実際に裏日本という表現は放送に相応しくない用語だし。
随分と態度が悪いようですね。何様のつもりだ?
あなたの理屈で言うと、「新潟には雪が多くてスキーができる適地がいっぱいありますよ。苗場や湯沢など」という宣伝をしたら、「それは新潟への差別だ!」ということになる。
> 裏日本という表現は放送に相応しくない用語だ
放送ならばまだわかるが、本サイトは放送ではありません。
https://tenki.jp/forecaster/deskpart/2023/08/11/24670.html