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COCOA の闇
政府は COCOA の機能を停止させる方針を決定した。
河野太郎デジタル相は13日、新型コロナウイルス対策の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」について、機能を停止させる方針を明らかにした。今月26日から政府が感染者の全数把握を簡略化するため、アプリの必要性が薄れたとしている。
COCOAは医師が提出する陽性者の発生届をもとに、過去14日間に1メートル以内で15分以上接触した人に通知が届く仕組み。26日以降は発生届の提出は65歳以上の人や重症化リスクがある人など、これまでの2割ほどに絞られ、大半のケースで接触者に通知を届けることができなくなる。
( → 接触確認アプリCOCOA停止へ デジタル敗戦の象徴、政府も検証:朝日新聞 )
この方針自体は、やむを得ないと言える。全数把握をしなければ、感染者が不明なのだから、COCOA の意味もなくなるからだ。
だが、それ以前に、COCOA の普及率があまりにも低いので、この決定は「失敗を確定させた」(いつか改善する見込みはなくなった)と言える。ずっと失敗続きだったのが、とうとう挽回の機会もなく終わったわけだ。
その惨状は、記事の後半に記されてある。下記の通り。
COCOAは2020年6月に開始したサービスで、開発や運用の費用としてこれまでに約13億円をかけた。厚生労働省によると、累計ダウンロード数は今年8月末時点で約4千万件で、効果を上げるために当初必要と見込まれていた「国民の6割近く」には届いていない。アプリの有効性や費用対効果を疑問視する指摘が国会などでも上がっていた。
COCOAは当初から、陽性者との接触の通知を過剰に送ったり、接触があっても通知が届かなかったりするトラブルが続いた。コロナ禍で露呈した日本の「デジタル敗戦」の象徴の一つとも言われた。
通知が届かない不具合では、障害の発生から4カ月以上も放置していたことが発覚。厚労省がまとめた検証報告書では、アップデート時に動作確認のテストをしなかったことなど、ずさんな対応も明らかになった。ITの知識を欠く同省が開発を業者任せにするなど、責任をあいまいにしたまま事業を進めたことが背景にあるとしている。
ではどうして、COCOA はこれほどにも失敗したか?
次のツイートが話題を呼んだ。
COCOAがダメだったのは「技術に対して投資して結果が得られなかったのがダメ」とかではなく企業の中抜き構造がダメだったというのが浮き彫りになったのが正しいんだよなぁ pic.twitter.com/MUCwCQr92b
— 炒飯 (@jdgtmpdawj) September 13, 2022
出典 → 東京新聞
これを見て、「マイクロソフトはしっかりやっていたようだから、エムティアイがうまく開発できなかったということか?」という疑問を出す人もいる。しかし、そういう問題ではない。
この問題の本質は、最終責任者たるパーソル(元請け)に、まともな開発力がなかった、ということだ。この会社は、もともとは人材派遣業であって、プログラムの開発能力などはなかった。ただし、「受注した事業を丸投げする」という方針で、受注することができた。それで実際、HER-SYS を受注した。(丸投げしたが。)
その後、「 COCOA の開発」という課題が舞い込んだ。それを受けた政府は、「大急ぎでやらなくちゃ。時間の節約が最優先」と考えて、「入札の時間を節約するために、HER-SYS の開発会社に(入札なしで)発注しよう」と決めた。
パーソル&プロセステクノロジーはもともとHER-SYS(COVID-19陽性者登録システム等)を受託していたところで、
この接触確認アプリの開発については予算要求からやっていたのでは時間的に間に合わないので、
HER-SYS関係のの一環として追加契約発注された形になっているとのこと。
ソースは楠正憲内閣官房情報化統括責任者補佐官のツイート。
(以下略)
( → Re:受託者はなにやってんの? (#3839713) | 新型コロナ接触確認アプリで発見された不具合、OSS利用をめぐる議論にまで発展 | スラド )
普通ならば、COCOA の要求水準を理解した上で、それにふさわしいプログラムの概要を計画して、その計画に基づいて、開発規模を決めて、入札に応じる。プログラムの概要はすでにできているから、受注したらすぐに開発を実行できる。また、プログラムの概要を立案できなかったら、どうしようもないので、入札に参加しない。
ところが今回は、そうはならなかった。プログラムの概要を考えるまでもなく、いきなり政府から発注があった。それでも、富士通みたいな会社なら、何とかプログラムの概要を作っただろうが、パーソルはもともと人材派遣業である。何をしたらいいのかわからないまま、上記の図の3社に丸投げした。
その3社のうち、エムティーアイは、自分が何をやるべきか(何を分担するべきか)も、ろくによくわからないまま、とにかくさらに下請けに発注した。そのとき、たっぷりと中抜きをして利益を吸い上げた上で、下請けの会社に開発を任せた。
最終的には、開発した会社が受け取った額は 405万円ポッキリだ。これでまともに開発できるわけがない。
結局、政府が 3億9000万円で発注した仕事は、405万円で最終下請けが開発することになった。これでまともに開発ができるわけがない。当然ながら、大失敗となった。ま、当り前ですね。
で、その責任はどこにあるかと言えば、パーソルに発注した政府の担当者にあるのだろう。だが、それは、その人が個人で勝手に決めたとも思えない。何らかの圧力があったと考えるのが妥当だろう。
では、その圧力は? 当然ながら、パーソル(またはエムティーアイ)から発されたと見なすのが論理的だ。(誰が利益を得たかを考えれば当然だ。)
HER-SYS の闇
COCOA の闇は、パーソルが HER-SYS を受注したことがきっかけだった。
では、そもそもの話、パーソルはどうして HER-SYS を受注できたのか? ただの人材派遣会社であるに過ぎず、プログラム開発の能力もないし、単に丸投げするしかできないのに、そんな会社がどうして HER-SYS を受注できたのか?
実は、これが最大の闇である。
情報を求めて、ネット上を調べてみたのだが、情報が見つからない。この会社と自民党とには何らかの関係がありそうだが、会社名でも、経営者名でも、関係がどうにも見出せない。情報があまりにも不足している。ということは、どうもこの癒着関係を気にして調べた人はいないようだ。誰も調べないから、情報が出てこない。
しかし、ここには何らかの癒着があるはずなのだ。そうでなければ、コンピュータのプログラムの開発能力をもたないただの人材会社(プログラマーもいない会社・丸投げすることしかできない会社)が、政府の巨額事業を受注できるはずがないからだ。
また、このパーソルという会社は、丸投げする能力すらもない。なぜねら、COCOA の開発を丸投げしたエムティーアイという会社もまた、ろくに開発する能力がないからだ。(だから COCOA は大失敗した。)
さらには、HER-SYS の開発を丸投げした先もどこかにあるはずなのだが、その会社名がよくわからない。明確に公表されていないようだ。
ただ、HER-SYS の開発がひどい状況だということは、あちこちで指摘されている。
《 ため息しか出ない「HER-SYS」の入力作業 》
このHER-SYS関連の作業にてこずっている。
何とかログインしても、今度は情報入力に右往左往。当院の紙カルテでは患者さんの生年月日を和暦で表記しているが、HER-SYSでは西暦での入力で、いちいち年齢早見表を確認しなければいけない。患者住所の郵便番号の入力も求められるので、ネットなどで検索する手間も生じている。
( → 日経メディカル )

出典:厚労省
「いちいち年齢早見表を確認しなければいけない」というのは、ひどいものだ。こんなことは、本来なら、ドロップダウンメニューで選択させれば済むのだが。(右端の V をクリック )
これなら、年齢早見表を確認する必要はない。操作は簡単だ。
こんなことはごく簡単に変更できる。なのに、その簡単なことすらやらないのが、HER-SYS のプログラマーだ。いかに劣悪なプログラマーばかりか、ということがよくわかるね。(というか、そもそも開発コストそのものを投入していないので、開発命令すら出ていないのだろう。)
患者住所の郵便番号の入力の問題は、もっと簡単だ。「郵便番号の入力は必須ではない」と定めればいいだけだ。住所がわかればいいのであって、郵便番号は必要ない。
さらに言えば、もっと重要なことがある。これらの入力(誕生年や住所の入力)は、患者本人に任せるべきなのだ。( My HER-SYS で)
その情報を転用すれば、医者や保健所職員は、いちいち入力する必要はない。彼らのような専門家が、莫大な手間をかけてやっている入力作業は、何一つ必要ないのだ。かわりに、患者が My HER-SYS を操作するのをアドバイスするための、スマホの説明者がいればいいだけだ。(これはスマホの操作法を教えるだけだから、素人の派遣社員でも十分に間に合う。時給 1000〜1200円で済む。)
そういうシステムを構築しなかったパーソル社の責任は、きわめて重い。
なお、パーソル社の責任が重いことについては、COCOA の開発失敗の件でも、会計検査院が問題を指摘している。各種のチェックをしないで、なおざりに開発したので、ミスが見逃されて欠陥商品が納入された……というような話。
だが、これは「ミスが見逃されて欠陥商品が納入された」というよりは、「もともと中抜きでまともに開発コストをかけなかったから、もともとゴミ商品を開発するつもりだった。そして予定通り、ゴミ商品を納入した」ということなのだろう。
そして、なぜそうするかといえば、「納入された商品がゴミであるかどうかを検品することなしに、開発料金を全部支払う」という契約がなされていたからだ。
普通ならば、納入された製品に検品を実施して、「要求した水準が達成されていないので、料金を払わない」というふうにするべきだった。当たり前のことだ。なのに、その当たり前のことができていない。そういう滅茶苦茶な契約になっていたからだ。
では、どうしてこういう滅茶苦茶な契約がなされたか? その理由は、たった一つしか思い浮かばない。安倍首相(当時)の介入だ。その根拠はあるか? 直接の根拠はないが、似た事例がある。五輪で賄賂をもらった高橋治之・元理事の言葉だ。文春が報じている。
「最初は五輪招致に関わるつもりはなかった。安倍さんから直接電話を貰って、『中心になってやって欲しい』とお願いされたが、『過去に五輪の招致に関わってきた人は、みんな逮捕されている。私は捕まりたくない』と言って断った。だけど、安倍さんは『大丈夫です。絶対に高橋さんは捕まらないようにします。高橋さんを必ず守ります』と約束してくれた。その確約があったから招致に関わるようになったんだ」
( → 「絶対に捕まらないようにします」元電通“五輪招致のキーマン”への安倍晋三からの直電 | 文春オンライン )
ここで「守ります」というのは、「正義の力で、悪の手から守ります」という意味ではない。その逆だ。「あなたが悪の行為(賄賂をもらうこと)をしても、正義の手があなたを逮捕するのを阻止します」という意味だ。つまり、「いざとなったら、検察にストップをかけます」という意味だ。
これほどにも強力な不逮捕の保証をすることで、違法行為(賄賂をもらうこと)を強引に後押しした。それが、安倍元首相だ。
だとすれば、それと同様のことが HER-SYS の開発でもあったはずだ、と推定していいだろう。何しろ、それほどにもとんでもないゴリ押しだったからだ。「何のプログラム開発能力もない人材派遣会社が、国民の命を預かる HER-SYS のシステムを開発する」というのは、「日本人の命を大量に無駄につぶして、金儲けができるようにします」という意味だ。そんなことを推進するのは、安倍元首相以外にはないだろう。
ともあれ、安倍元首相の狙いは成功した。パーソル社は、見事に受注して、国から( COCOA とあわせて) 17億円もの金をもらっている。
→ 会計検査院の該当文書
その一方で、HER-SYS は「入力しにくい」とあちこちからさんざん不評を買っていて、医者や保健所員に莫大な手間をかけることで、国民のための医療資源を大幅に削っており、そのせいで国民に医療面で被害をもたらしている。(入院できなかったり、治療を受けられなくなったり。)
一将功成りて万骨枯る。
一商金成りて万民斃る。
どうしてマイナンバーを使わないのでしょうか。これが最大の問題だと思います。
番号入力によって他人に個人情報がばれるとまずい、という問題があるので、パスワードを設定すればいい、としてもいい。(パスワードは氏名と誕生日で代用してもいい。)
なお、マイナンバーの使い方が下手な例は、別項でも論じました。
http://openblog.seesaa.net/article/485186510.html
http://openblog.seesaa.net/article/484400711.html