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( ※ 本項の実際の掲載日は 2022-09-12 です。)
朝日新聞の記事にある。
群馬県は企業誘致の際に、「災害リスクが低く、安定操業が可能」とPRする。それを裏付けるデータとして、震度4以上の地震の発生回数(1919年1月〜2022年3月)を近隣県と比較するマップを作成している。
群馬県は73回。近隣の栃木県238回、埼玉県161回、長野県187回、新潟県159回。地震が少ないのは一目瞭然だ。
地震発生の将来予測を見てみよう。国の地震調査研究推進本部が昨年3月に公表した「全国地震動予測地図2020年版」では、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が地域別に示されている。
関東地方の「県都」を比べると、前橋市が6.4%と最も低く、宇都宮市12.7%、横浜市38.1%、東京都(新宿区)47.2%、さいたま市60.2%、千葉市62.3%、水戸市80.6%=表=と続いた。
( → NTT、大阪王将、群馬進出は「災害少ないから」 際立つ低リスク:朝日新聞 )
では、どうしてか? 地震については、地盤の影響もあるだろう。本州の中央にあって、沿岸の地震多発地帯からは遠いので、たとえ沿岸の海洋で地震があっても、本州中央に来るまでには地震が減衰しているはずだからだ。地震の回数が少ないというよりは、地震の震度が低いと言えるわけだ。これで説明が付く。
※ 上の数字は、引っ越し先を決めるときに有益となりそうだ。
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水害についてはどうか? 記事にはこうある。
水害リスクも低い。国土交通省の水害統計調査で、過去10年間(2011〜20)の被害額は群馬県が約559億円で、関東の他の6都県のほぼ半分以下だ。
大手地盤調査会社地盤ネット(東京都)が16年に公表した全国の「いい地盤ランキング」では……北関東エリアは上位に入った。
地盤ネットによると、「関東山地の火山からもたらされた火山灰などが平坦な台地を作っているエリアが比較的多い」ことが、高得点につながったという。
この件については、「関東平野は火山灰でできたから」と説明される。前に論考したことがある。
→ 関東平野と火山灰層: Open ブログ
ここでは、こう説明した。
関東平野の大部分は、高い丘陵部も、低い平地部も、ともに火山灰が堆積してできた沖積平野である。
これらの火山灰をもたらしたのは、富士山や浅間山など、本州の中央部にある巨大火山である。ここから大量に噴出した火山灰が、火山を中心とした数百キロの土地に拡散した。そのあと、山から川を経て流れていったり、山から風で飛ばされたりして、低い土地に移動していった。こうして沖積平野としての関東平野ができた。
火山灰の多くは東側に行ったので、富士山や浅間山の東に巨大な平野ができた。これが関東平野だ。
一方、火山灰の一部は西側にも行ったので、西側にも巨大平野ができた。これが濃尾平野だ。
これと類する説明が、Wikipedia にもある。
関東ロームとは、関東地方西縁の富士山・箱根山・愛鷹山などの諸火山、北縁の浅間山・榛名山・赤城山・男体山などの諸火山から関東平野に降下した更新世中期以降の火山砕屑物やその風成二次堆積物の総称である。
風成二次堆積物とは火山周辺に堆積した火山砕屑物(火山灰など)が、風雨などによって再度運ばれて周辺に堆積したもので、関東ロームの場合は風で舞い上がって降下したものである。端的に述べると露出した土壌から飛散したホコリである。
( → 関東ローム層 - Wikipedia )
文中にあるように「火山砕屑物やその風成二次堆積物」とある。ここで、特に「風成二次堆積物」であることに着目して、「(一次的な)火山灰そのものではない」と強調する見解もある。
《 信じられてきた関東ローム層の誤解:実は「火山灰」ではなく「風塵(レス)」 》
関東ローム層は、火山近傍の裸地から風によって舞い上げられた火山性の細粒子が堆積した「風塵(レス)」であるとした。
かつて私はまさにこのような風塵を経験したことがある。川崎のマンションに暮らしていた頃、特に春にはベランダに塵が積もるので、度々掃除をする必要があった。その塵を顕微鏡で拡大すると火山ガラスなどの火山性物質が含まれていたのだ。これこそが関東ローム層をつくる風塵なのだ。
「関東ローム層=風塵」説は火山灰説より合理的であるし、観察事実とも整合的である。
( → (巽好幸) - 個人 - Yahoo!ニュース )
「火山灰そのものではなく、その二次的な風生物である」という点は問題ないだろうが、「火山灰ではない」と言い切ってしまうのもどうかと思うね。誤解を招く言い方だ。
上の記事は、ネットでちょっと話題を呼んだので、注記しておこう。
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ともあれ、関東平野は、富士山や浅間山などの巨大な噴火物があったからこそ、広大でなだらかな平野となることができた。そのおかげで、現時点では川から離れた土地が広範にあり、水害も少なくて済むわけだ。
一方、それ以外の地域では、広大でなだらかな平野がない。川のそばにはわずかな平地しかないので、川のそばに人家を建てざるを得ない。そうなると、いざ氾濫が起こったときには、大きな水害にさらされることになる。
東京や群馬などの関東の人は、「水害が少なくていいな」と思っているようだが、それは豊かな火山灰のおかげなのである。その火山灰は、かつて巨大な噴火があったからこそ、もたらされたものだ。
巨大な噴火というのは、とんでもない厄災をもたらすと思いがちだが、実はそのあとで、とてつもない恩恵をもたらしてくれるのである。「広大な平野」という形で。
(皮肉というか、逆転というか、禍福はあざなえる縄のごとしというか。……)
神戸にしても熊本にしても、「地震の少ない地」という認識があったところで大地震に遭遇しました。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/599371/
巨大噴火による恵みが享受できる期間も長いけれど、いざ噴火が生じた際には壊滅的な被害になります。
河川の氾濫や崖崩れ、地盤液状化など、短周期で確実に起こりうる災害に大して「安全度」を言うくらいが関の山ではないでしょうか。