――
イランの核開発の制限をめぐる交渉は、いくらか進みつつあるという報があった。
イラン核合意の再建協議で、イランが複数の主な要求を取り下げて交渉が前向きに進んでいることを8月22日、米高官が認めた。
8月8日、米イランの交渉を仲介するEU(欧州連合)が妥結案を提示。イランの回答に続いて、米国も24日に回答した(その中身は明らかになっていない)。
( → 【Exclusive】イラン要求撤回で核合意再建へ前進 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) )
これが 22日のことだが、その 8日後には調子が一転した。
イランの核開発を制限する核合意の復活に向けた交渉をめぐり、イランのライシ大統領は29日、記者会見で国際原子力機関(IAEA)を強く批判した。IAEAがイラン国内に未申告の核物質があるとイランを追及しているのに対し、イランは反発しており、その問題が決着しなければ、交渉は「無意味だ」と強調した。
IAEAは今年6月の定例理事会で、イランの説明は不十分だとする非難決議を採択した。グロッシ事務局長は今月22日にも米CNNに「イラン側は科学的に信頼できる情報を提供していない」と話し、この問題の追及を続けると明言した。
( → 核交渉は「無意味」 イラン大統領、核物質の問題めぐりIAEA批判:朝日新聞 )
せっかくイランと米国が合意に達しそうになったかと思ったら、横から IAEAがちょっかいを出して、成立しかけた合意をぶち壊そうとしている。理想主義的な平和至上主義を取ると、自分の信じる理想が満たされなければ、すべてをぶち壊してやれ、というふうになるものだ。現実からはまったく遊離してしまう。足元が見えないわけだ。
次の話もある。
「乃木坂46」のコンサート中に、メンバーの掛橋沙耶香さん(19)が一塁ベンチ上の階段から落ち、救急車で病院に搬送された。
コンサートを見ていたアルバイトの20代男性によると、事故は公演終盤のアンコール中に発生。掛橋さんは一塁側ベンチの屋根に上り、端まで行ったところで転落した。柵はなく、「下が見えていなかったのでは」と男性。
( → 乃木坂46の掛橋沙耶香さん、公演中に転落し救急車で搬送 軽傷:朝日新聞 )
足元が見えないとケガをしがちなものだ。注意しましょう。
――
さて。イランの核開発の問題については、私は前から一貫して述べていた。「合意していた元の状態に戻せ」と。まずは、こうだ。
単に元に戻すだけのことだ。簡単に実現できるはずだ。査察受け入れと核開発停止を条件に、さっさとイランの条件を呑めばいい。
ところが、くだらないメンツにこだわって、「元に戻す」ということができずにいる。その間に、イランはどんどん核開発を進める。
このまま無為無策で何もしないまま時間が流れるのを放置するだけでは、状況はどんどん悪くなるばかりだ。
当面は「オミクロン株のコロナ」への恐怖のおかげで、原油価格は下がっているが、どうせ遠からず、原油不足と石油高騰は再現するだろう。
( → イランの核開発の現状: Open ブログ )
こう述べたのが、昨年末ごろ(2021年11月28日)のことだ。そして、その予想(原油不足と石油高騰は再現するだろう)は、まさしく現実化した。ウクライナ戦争が勃発したからだ。
そして、戦争開始後には、こう述べた。
ロシアの石油を輸入禁止にしたいが、そうすると価格が上昇する。それでは不都合だ。何か うまい手はないか?
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「イランへの経済制裁(石油輸出の禁止)をやめる。イラン産の石油を西側にもってくることで、ロシア産の石油がなくなる問題(石油不足)を回避する」
では、制裁を解除すると、どうなるか? もちろん、イランの石油生産量が増える。だが、それだけではない。ここでは、重要な効果が生じる。
「イランの石油生産量が増える分、世界全体の石油生産量(供給量)が増えるので、ロシアからの石油輸入の減少を、補うことができる」
( → ウクライナ戦争 6(石油・ガス): Open ブログ )
こうして、世界的な「原油不足と石油価格高騰」という現在の問題を、うまく解決する( or 緩和する)ことができるようになるのだ。現状では、世界各国で原油不足や天然ガス不足で大変なことになっているが、それをかなり改善できるのだ。
しかも、別の効果もある。
現状では、石油価格高騰の恩恵をもっとも受けているのは、ロシアである。本来ならば、ロシア産の石油や LNG の輸入削減によって、ロシアの輸出額は激減しているはずだった。ところが、石油や LNG の価格が高騰しているせいで、ロシアの資源輸出額は大幅に伸びている。ボロ儲けというありさまだ。おかげで、ロシアのルーブルは、戦争開始前よりもずっと高くなっている。(日本円との比較で、約2倍の価値に上がっている。)
その金で、日本の中古自動車をどんどん買いあさっているありさまだ。日本国内では、新車の生産不足により、中古車価格が急騰しているのだが、それも気にせずに、高いルーブルで安い円の値段が付いた中古車を、どんどん買いあさっているそうだ。
→ 日本の中古車、ロシアから注文殺到 侵攻前の3倍、制裁下でなぜ? :朝日新聞
→ ロシア極東、日本の中古車あふれる人気:朝日新聞
現状では石油価格が高騰しているので、ロシアは(西側の制裁を受けても)これほどにもウハウハとしていられる。
ならば、この状況を転換させることが、何よりも最優先となるはずだ。
・ 石油価格高騰の恩恵を受けているロシアを懲らしめる。
・ 石油赤く高騰の被害を受けている西側国民を助ける。
この二つの目的を同時に達するべきだ。
そして、その方法が、「石油の増産」なのである。そのためには、イランとの核開発の合意が必要不可欠となる。
・ イランの核開発を止める (完全でなくともいい)
・ イランの石油を西側に輸入する
この両者を同時に達成するべきなのだ。それこそが、世界にとって何よりもの急務となる。
ところが、これにちょっかいを入れるのが、一部の理想主義者だ。( IAEA とトランプ )
「イランの核開発停止の実行レベルが、完全ではない。実行レベルが完全でない限りは、核合意をするべきではない。すべてをぶちこわしてやれ」
こうして彼らの理想主義によって、合意はぶち壊される。おかげで、ロシアは石油価格高騰の利益を大幅に得るし、西側の国民は石油価格高騰の被害を受ける。西側の国民全体を苦しめて、ロシアに莫大な利益を与える。
理想主義的な人間というものは、こういうことをするものだ。それというのも、足元が見えていないからである。
――
ここで話は変わるが、NPT 決裂というニュースがある。
核拡散防止条約(NPT)再検討会議は最終日の26日、最終文書案にロシアが反対し、決裂して閉幕した。
( → NPT会議、土壇場で再び決裂 ロシア反対、文書不採択―揺らぐ核不拡散体制:時事ドットコム )
この NPT の決裂によって、思いつくことがある。
会議はほとんど成立しそうに思えていた。成立すれば双方に利益があると思えていた。ところが最終的には、ロシアがちゃぶ台をひっくり返して、すべてをぶち壊してしまったのである。
「ロシアのやることはひどいね」
と思った人が多いようだ。
だが、よく考えてみよう。それと同様のこと( or もっとひどいこと)を、米国はイランとの間でやっているのだ。
(イランとの)合意はほとんど成立しそうに思えていた。成立すれば双方に利益があると思えていた。ところが最終的には、米国がちゃぶ台をひっくり返して、すべてをぶち壊してしまったのである。
「米国のやることはひどいね」
と思った人はいるが、それをはっきり指摘する人は少なかった。「裸の王様」のようなものである。誰もが口をつぐんでいた。
だから本サイトが言うのだ。「王様は裸だ」と。「米国のやることはひどいね」と。
イランとの関係で些事にめくじらを立てている間に、ロシアは巨利を得て、西側国民は莫大な損失を負う。
最近では日本でも電気料金がどんどん上がりつつある。泣き面にハチだ。
→ 高騰続く電気代...値上げの“上限”に達したのにまだまだ上がる?そのわけとは
→ 電力難企業向け、値上げへ 東電・中部は3割近く :朝日新聞
特に新電力と契約した人は惨憺たるありさまだ。
→ 「殺す気か?」 新電力崩壊、料金1カ月で2倍に:朝日新聞
→ 経営難の新電力、11市の公共施設で電気供給止まる: 読売新聞
→ 新電力挫折、冬の電力不足も決定、空中分解、日本のエネルギー政策(山本 一郎)
→ 相次ぐ新電力会社の倒産や撤退…その理由を徹底解明!
[ 余談 ]
話のついでに言及しておこう。
NPT は決裂した。これをどう評価するべきか?
これについては、「残念だ」という声が強い。だが、私としては、さして影響はないと考える。
「核拡散防止条約」は、「核不使用条約」ではない。核保有国を縛るものではなく、核非保有国を縛るものだ。すでに核保有国であるロシアは、この条約で何かを制約されるわけではないのだから、ロシアが合意しようとしまいと、たいして影響はない。
また、このような条約が意味をもつのは、加盟国がたがいに平和関係にある場合に限られる。現状では、ロシアと西側諸国は、間接的な戦争関係にあるので、平和関係にない。何らかの条約を結んでも、その条約が遵守される保証はない。ならば、条約を結ぼうが結ぶまいが、たいして意味はないのである。
ゆえに、決裂という結果そのものについては、特に何らかの評価をする必要はあるまい。「どうでもいい」と言える。