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朝日新聞の記事がある。
大都市を中心に林立するマンションの老朽化が深刻になっている。築40年以上の物件は、10年後には倍以上に増える見込み。
国交省によると、2021年末時点の国内の分譲マンション戸数は約686万戸。このうち約15%の103万戸が旧耐震基準でつくられた物件だ。築40年以上の物件は約115.6万戸で、これが10年後に約249万戸、20年後には約425万戸になると見込まれる。
一方で国交省の調査では、建て替えが済んだマンションは今年4月時点で270件にとどまっている。
大きな壁となっているのは、高額の費用負担だ。……平均の負担額は増加傾向にあり、所有者1人あたり1千万円以上になるという。
その解決策の一つとして導入された敷地売却制度も、耐震性が不足する物件でなければ利用できなかった。
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「敷地売却制度」では、自治体が耐震性不足と認定したマンションについては特例として、所有者の「5分の4」の合意で売却できるよう要件を緩和した。
耐震性不足の物件の場合、新たに建てるマンションは容積率の緩和が認められ、延べ床面積を増やし、より大きな物件に建て替えることができる。
( → 再生へ、要件緩和検討 老朽マンション、建て替え進まず 5分の4の合意で売却:朝日新聞 )
建て替えが進まないので、建て替えを推進するために、「敷地売却制度」が導入された。ただし、限界がある。「耐震性が不足する物件でなければ利用できなかった」ということだ。
そこで、その制度が拡充されて、もっと利用しやすくしたので、建て替えが促進されそうだ、という。
以上が、記事の趣旨だ。
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だが、ちょっと待ってほしい。この記事の趣旨は、
「マンションは、40年たったら、建て替えるべきだ」
ということだ。だが、たったの 40年で建て替えるというのは、早すぎるのではないか?
そう思って、ググっていると、次の記事が見つかった。
マンションは基本的に鉄筋コンクリートで作られているので耐用年数は47年となっています。
耐用年数は、あくまでも法律で画一的に定められた減価償却費の計算に用いる基準です。「実際にマンションに住むことができる年数」という意味ではありません。
マンションの平均寿命は、国土交通省が2013年に発表している資料によると平均68年で取り壊されています。
そのなかで、取り壊したのちに建て替えられたものに限っての平均は33年です。
( → マンションの耐用年数は何年?寿命を迎えたマンションの対処法とは│安心の不動産売却・査定なら「すまいステップ」 )
建て替えたマンションの場合には、元のマンションの寿命は 33年だった。しかし、建て替えられなかった(最後まで使われた)マンションも含めて考えると、平均 68年だ。
とすると、建て替えられなかった(最後まで使われた)マンションの寿命は、68年を大幅に上回って、90〜100年ぐらいはあったことになる。しっかり最後まで使うなら、そのくらい長持ちするわけだ。
一方で、焦って取り壊すと、 33年しか寿命はなかったことになる。(というか、寿命が来るのを待たずに、焦って取り壊すわけだ。)
別の記事には、こうある。
マンションは、メンテナンスが行き届いていれば100年以上建物を維持することが可能です。国土交通省の資料※1によると鉄筋コンクリートで造られた建物(RC造)の平均寿命は68年ですが、最長の寿命は120年程度で、外装仕上げによってさらに150年程度に延命されると報告されています。
( → マンションの寿命は何年?長く住める物件を選ぶポイントを解説|専門家が監修|長谷工の住まい )
ここで、リンク先の※1 を見よう。そこには、こうある。
鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄筋コンクリート造の構造体の耐用年数は、鉄筋を被覆するコンクリートの中性化速度から算定し、中性化が終わったときをもって効用持続年数が尽きるものと考える。鉄筋コンクリート部材の効用持続年数として、一般建物(住宅も含まれる。)の耐用年数は120年、外装仕上により延命し耐用年数は150年。
( → 国土交通省土地・建設産業局不動産業課、住宅局住宅政策課住宅局住宅政策課 )
十分に長い年数が「マンションの寿命」と見なされているわけだ。
なのに朝日新聞の記事は「40年で建て替えよ」と言う。「耐震性が欠けているから建て替えよ」というのならまだわかるが、記事では「耐震性が欠けているものへの措置はできている。そこで耐震性があるものまでどんどん建て替えよ」と言う。そのわけは「 40年で老朽化するからだ」という。
これを人間にたとえると、こうなる。
「人間はうまく行けば、120〜150年も生きるだけの能力があります。しかし人間は、40年で老朽化するので、40歳になったら棺桶に入ってもらいましょう。さっさと世代を交替してもらいましょう」
おいおい。人間が 40歳で老朽化すると見なすのは、ちょっと早すぎないか? ( 定年は普通、40歳でなく、60〜65歳だ。)
それと同様だ。建物が 40年で老朽化すると見なすのは、ちょっと早すぎないか? そもそも、何だってそんなに急いで、古いマンションを取り壊したがるんだ? そういうのは、省エネや SDGs にも反するし、浪費や無駄遣いというものだろう。
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なお、私の見聞きしている範囲では、55年ぐらいで取り壊されるビルが多い。私の家のそばでも、築 55年ぐらいのビルが取り壊されて、今では更地になっている。
一方で、木造住宅は、しっかりと長持ちしているね。耐震基準以前のものが多いが、築 50年を越える木造建築が、しっかり現役で続いている例が多い。
「震災で壊れたら、政府が撤去費用を払ったくれるだろうから、そのときまで待とう」
と思っているのかもしれない。で、そう思っていると、このままあと何十年も、大震災はずっと来ないままだ……というふうになるかもしれないが。ま、それはそれでいいだろう。
ともあれ、コンクリートのマンションであれ、木造建築であれ、40年を大幅に越えて、しっかり現役として使われている建物は多い。そうあっさり「建て替えるべきだ」とは言えないだろう。
朝日の記事はおかしい。
[ 付記1 ]
さらには、別の手もある。
「しっかり耐震補強をした上で、古い建物をリノベする」
という方式だ。これは、先日のテレビドラマでも紹介されていた。
→ 魔法のリノベ | 関西テレビ放送
→ 魔法のリノベ(第7話)(8月29日)
リノベという手もあるのだし、「何でもかんでも建て替えればいい」というものではないのだ。
ついでだが、マンションの耐震補強という手もある。マンション全体に X 型の補強構造を追加して、耐震性を大幅に向上させる……という手法だ。下記に画像がある。
→ Google 検索
[ 付記2 ]
ただし木造建築にも2種類あるので、注意。[取消:
※ 2×4 を例示したのは不適切だったので、取り消します。
木の特性を組み合わせた集成材であれば、強度の高い木材をつくることができます。しかし、1種類の木を使用した集成材であれば、木の種類によって強度が異なります。寿命については、接着剤を使用しているため、接着剤の寿命がそのまま集成材の寿命となり、無垢材に比べて大幅に短くなります。
無垢材は、木の種類によって強度が異なるため、適材適所で使い分ける必要があります。しかし、古くから有る総桧住宅のように全ての木材を桧にすれば、使い分ける必要もなく、耐久性の高い住宅をつくることができます。寿命についても、木の種類によって異なりますが、針葉樹芯持ち材を使用し、正しい施工方法とシロアリ、腐朽菌対策を行えば百年以上の寿命があります。
( → 木造住宅の耐用年数とは?実際に住める年数と耐用年数は違う! | 日本ハウスHD - 檜の注文住宅 )
特に、スギでなくヒノキを使うと、固くて頑丈で、長持ちする。(値段は高いが。)
ただし現時点では、無垢材はすごく高騰している。ウクライナ戦争のせいだ。この件は、前に述べた。
→ 鉄骨住宅は省エネでない: Open ブログ の [ 補足 ]
※ ヒノキの木造住宅は、古くなっても安易に建て替えたりしないで、リノベした方がいいね。耐震工事をした上で、というのは、 [ 付記1 ] で述べた通り。
ご指摘ありがとうございました。修正しました。
(勘違いしていました。私は建築分野には詳しくないので。)
日本人はお人よしすぎる。人生で一番出費するものが世界と比べてこんな粗悪品で良いわけがない。ウクライナのアパートは日本のアパートより壁が厚いのをよく見てください。
でも、それだったら、建て替えを 築55年とみて、築55年の統計数字を出せばいい。なのに、築40年の統計数字を出している。
やはり、「築40年で建て替えよ」という趣旨でしょ。そうでないと、意味が取れない。
1981年以前かどうかは重要ですが管理人の通り、
上記の"老朽化が深刻"→"築40年以上は倍以上に増える"
という書き方は40年以上は建て替え水準という意図を含んでるようにしか読めません。
築古はオフィスはニーズに合わなくなり賃料が下がり、
住居は水回りを中心とした設備が需要に合わなくなり住人がいなくなります。
日本人の「キレイ好き」も影響していると思います。
ただ、今後は人的資源も物的資源も高騰し、日本人は貧乏にもなってるので、
リノベーション中心にならざるをえないと思いますね。
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老朽化したマンションの建て替えや共用部分の工事を円滑に進めるため、葉梨康弘法相は2日、区分所有法の見直しを法制審議会に諮問すると明らかにした。
背景には、老朽化マンションの急増がある。築40年超のマンションは昨年末時点で116万戸あり、20年後には3.7倍の425万戸が見込まれている。
https://digital.asahi.com/articles/ASQ926SG9Q80UTIL02H.html
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ここでも築40年が老朽化の目安となり、それ以後が建て替えの対象とされている。
→ https://atm-koumuten.jp/narakenchiku/hanshinawaji/
よほど古いもの(瓦屋根など)は、耐震性が極端に弱いので、建て替えた方がいいようだ。
ちょっと古いぐらいだと、「1階がつぶれても、2階は生き残る」という形で済むので、2階で寝起きすれば、大丈夫かも。1階にいるときには、家具の下に逃げ込む。
もうちょっと新しくても、直下型の大地震だと、1階がつぶれるそうだ。新しければ大丈夫だとは言えない。
つぶれなくても、損傷が多大ならば、建て替えは必須なので、無事ではいられない。(命だけは助かるが、金銭的には助からない。)
ただ、現実には、直下型の大地震はあまり起こりそうになくて、南海トラフ沖ぐらいで済む可能性が大きい。その場合には、どの建物でも、最悪の事態は防げそうだ。(ただし、よほど古い建物は除く。)
ただ 各種配管の補修 設計者の力量に依存です コンクリート自体の寿命は200年です 強度がMAXは100年頃 全て施工技術の稚拙の影響です