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( ※ 本項の実際の掲載日は 2022-08-28 です。)
人は物事を「善悪」の二元論で片付けたがるものだ。
たとえば、「われわれは正義であり、敵は悪である。ゆえに、正義が悪を懲らしめるのは、良いことだ」と思いがちだ。
これは、アメコミ(アメリカ漫画)にはありがちな発想だ。スーパーマンのような物語では、善と悪が対局的に描かれている。
一方、日本の漫画はもっと複雑だ。「悪党とされるものにも複雑な事情があり、単純に善悪二元論では片付けられない」というふうに描かれることが多い。これは、大人向けの漫画に限ったことではなく、子供向けの「鬼滅の刃」でさえそうだ。たとえば、上弦の鬼や下弦の鬼には、苦しんでいた逆境の過去があったことが描かれる。その逆境ゆえに、(無惨の血を受けることを通じて)、善人が鬼に転じてしまう。悪は単純な悪ではないのだ、と描かれる。そういう複雑性が描かれる。
フィクションの世界では、単純に善悪二元論では片付けられないことも多い。
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一方、現実の世界では、人はあっさりと「善悪」の単純な二元論に陥りがちだ。たとえば、次の記事がある。
→ (日曜に想う)民族紛争の陰にある精神の空洞 ヨーロッパ総局長・国末憲人:朝日新聞
ここでは、ウクライナ戦争を考えるに当たって、次の視点をとる。
隣人同士だった民族が、なぜある時を境に対立し、殺し合うようになるのか。
その上で、同じような民族間の争いである、ユーゴ内戦のことを調べる。だが、ユーゴ内戦はあくまで民族間の争いであり、ロシアとウクライナの戦争には当てはまりそうにない。その上で、こう結論する。
ロシアによるウクライナ侵攻は、民族紛争とは言えない。単なる侵略戦争であり、政治指導者が侵略をやめれば、戦争も止まる。
ウクライナ戦争を「民族紛争とは言えない」と判断したのは適切である。だが、「単なる侵略戦争である」と見なしたのは妥当だろうか? 話はそれほど単純なのだろうか? 善悪二元論で、「ウクライナは善、ロシアは悪」というふうに割り切れるのか?
そもそも、これは本当に侵略戦争なのだろうか? なるほど、現時点で判断するなら、「政治指導者が侵略をやめれば、戦争も止まる」というのは妥当だ。だが、戦争開始の時点では、「ロシアは侵略を目的として戦争を始めた」と言っていいのか?
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この問いに対する答えは、簡単だ。
実は、上の記事では「侵略のために戦争を始めた」と言っているが、こういう人は自分の都合のよいようにフィルターをかけて物事を見ているだけだ。つまり、偏光フィルターならぬ偏見フィルターを通して物事を見ているだけだ。なぜなら、戦争開始の時点で、ロシア自身がそれを否定しているからだ。「侵略のためではない」と。
では、何のためか? ロシアの具体的な要求は、戦争開始の直前の要求を見ればわかる。ロシアはウクライナに何を要求したか? 「領土を寄越せ」と要求したか? 「クリミアや東部やキエフを寄越せ」と要求したか? いや、そのような要求は何ひとつしなかった。では当時、ロシアは何を要求したか?
それを覚えている人は少ないようだ。上記記事を書いた人もすっかり忘れているのだろう。この記事を読んでいる読者も、どれほどの人が覚えていることやら。……では、ロシアの当時の要求は何だったか?
それは、前項 に記したとおりだ。その後半の 【 追記 】 を読んでほしい。まず、前振りとして、こう記してある。
疑問を感じる人もいるだろう。
「今回のウクライナ戦争で、ロシアの目的はウクライナ侵略であったはずだ。それは悪質な領土的な野心であって、自国の生存という正当な目的とは違うはずだ」
と。
なるほど、それはありがちな発想だ。だが、そういう発想をしているから、今回の戦争を防げなかったのだ。事実を根本的に誤認しているからだ。
そう記したあとで、ロシアの要求が何だったかを示している。
「ウクライナのNATO加盟を否定せよ」と要求した。
これが、ロシアの要求だった。ロシアは何かを侵略しようとしていたのではない。むしろ、何かを奪われまいとしていたのだ。なぜなら、西側がそれを奪おうとしていたからだ。そこで、何としても奪われまいとして、「ウクライナのNATO加盟を否定せよ」と要求した。
このとき西側は「はい」と答えれば済んだはずだ。西側はウクライナを奪うつもりはなかったし、NATO加盟を認めるつもりもなかった。(仮に NATO加盟を認めたら、ウクライナの一部を支配しているロシアとの間で、自動的に開戦となる。それが NATO の規定となっている。)
要するにこのとき、ロシアは「侵略を目的として開戦した」のではなく、「(自国の)生存を目的として開戦した」のである。そのことは、前項で示したとおりだ。
「ウクライナの NATO加盟」は、ロシアにとっては自分の体の一部をもぎとられるような痛みと感じられた。ウクライナ人にとってはウクライナはロシアとは別の独立国だが、ロシアにとってはウクライナはロシア連邦(CCCP)の一部となるものだった。それは実質的に、自らの支配下となる自国領の一部だった。なのに、西側はそこに手を突っ込んで、ロシアからもぎとろうとしている。
なのに西側は「ウクライナのNATO加盟を否定しない」という方針を取った。これをもって、プーチンは「西側はウクライナをもぎとろうとしている」という確信を持った。それは「ロシアの一部をもぎとろうとしている」ということなのだから、「ロシアの生存を脅かされる」ということだった。だからロシアは「生存」を目的として、否応なしに戦争に踏み切ったのだ。
ロシアがウクライナ戦争を始めたのは、「侵略のため」ではなかった。むしろ自国の「生存のため」だった。この戦争を始めなければ、自国の生存が脅かされる、と信じた。
それは(病気のせいで)過剰な心配に駆られたプーチンの妄想だったかもしれない。ならば西側は「それはただの思い過ごしですよ。決してロシアの生存を脅かすつもりはないですよ」と安心させればよかった。つまり、「ウクライナの NATO加盟を認めるつもりはないし、そんなスケジュールもありません」と明言すればよかった。そうすれば、ロシアは「生存を脅かされる」と感じることもなかったし、ウクライナ戦争を始めることもなかった。
ところが、西側の選んだ道は、最悪だった。「ウクライナの NATO加盟を認めるつもりはないし、そんなスケジュールもありません」と明言しなかった。逆に、「ウクライナには民族自決の権利があり、NATO加盟の権利があります」というふうに答えた。これを聞いたとき、プーチンの頭は沸騰した。「おれの心配は疑心暗鬼ではなかった。やはり西側はロシアを少しずつ切り崩して、ロシアを滅ぼそうとしている。その証拠が、この回答だ」と判断した。「もはや堪忍袋の緒は切れた。向こうがこちらの領域を奪う前に、先に手を出してこちらの領域を守るしかない」と。
かくてウクライナ戦争は始まった。……「侵略のため」ではなく、「生存のため」に。
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以上が歴史の真実だ。そのことは、プーチン自身の言葉を読んでもわかる。
→ ロシア大統領による演説(機械翻訳): Open ブログ
→ 前項の解説(プーチン演説): Open ブログ
これを読めばわかるだろう。プーチンの主張のすべては、「ロシアの生存のため」である。「ウクライナを侵略するため」ではない。
なるほど、西側の目からすれば、「西側はロシアの生存を脅かすつもりはない」のだし、「ロシアは戦争でウクライナを侵略している」というふうに見える。
だが、ロシアの目からすれば、「西側はロシアの生存を脅かしている」のだし、「ロシアは戦争でウクライナを侵略していない」というふうに見える。
両者の見方には、それほどにも差があるのだ。だから、この二つの見方を、それぞれちゃんと理解すればいい。要するに、双方の言い分に耳を傾けて、双方の言い分を理解すればいい。
なのに、朝日の記事は、それができない。西側の意見だけに耳を傾けて、ロシアの意見に耳を傾けない。なぜなら、彼らは単純な善悪二元論に染まっているからだ。それというのも、根っからの平和主義ゆえに、「戦争は悪だ」「侵略は悪だ」という一面的な見方しかできないからだ。(その意味では、「ウクライナに武器を供給する米国も悪党だし、自衛のために戦うウクライナ兵も悪党だ」という判断になる。)
理想主義的な単純な平和主義は、物事を単純化して見るがゆえに、物事の真実を見抜くことはできないのだ。偏見フィルターというものは、そういうものだ。
プーチンの本心は「ウクライナを侵略するため」でない、つまり領土を拡大したいという野心は毛頭ないという根拠はあるのでしょうか。
それが世界に通じるかどうかはともかく、プーチンはそう思っている。
「台湾は中国のものだ」と思っている習近平と同様だ。
彼らの意識では、「侵略」ではない。
とにかく、彼ら自身は「侵略」だとは思っていない。その意識を理解するべきだ。理解しないで「侵略は悪だ」と言っても、話が噛み合わない。相手の言うことを聞かない人間は、議論ができない。
本項で言っているのは、「議論ができるか否か」という小学生レベルの話だ。初歩の初歩。なのに、それができていない(小学生以下な)のが、西側諸国だ。
まるで大日本帝国ですな。
前項にそう書いてあります。ちゃんと前項も読んでください。本項は前項の続きです。
土地は誰のものか?
左派のある有力な政党がロシアのウクライナへの「侵略」と書きます。どの新聞やメディアを見てもほとんどが「侵攻」です。「侵略」と書かれると、大国ロシアが傲慢な私欲でか弱い他人のものを強奪しているように感じます。強欲なロシアは悪、奪われる小国ウクライナは善となります。「侵略」という書き方が、平和を願う一般市民の心にロシアが悪であると植え付け、ロシアに対する憎悪を煽ります。わかりやすく言えば、ロシアを懲らしめろ!との空気が日本国民に広く醸成しています。
でもここに書かれたように、ウクライナはもともとロシア連邦の一部であり、ロシアは他人のものを強奪する「侵略」とは思っていないでしょう。立場によって人の意識は正反対になります。
『生まれた地 違っただけで 敵味方』
この川柳を深く味わって欲しいです。
台湾は原住民族のものでしょうか。それとも大陸を追われた蒋介石をはじめとする外省人のもの?それとも広大な中国の一部?北海道はアイヌのもの?それとも和人のもの?米国はインディアンのもの?それとも白人のもの?
土地なんてもともと誰のものでもないんです。人間のものですらない。全ての生物のものでしょう。
その土地を平和のために活かすことが人間の知恵でしょう。
その土地をめぐって人間同士が殺し合いをすることこそが悪であると哲学が生まれてきます。
先に書いた川柳をよく噛み締めて欲しい。