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米国がウクライナに迎撃ミサイルを供与すると決めた。
米国のバイデン大統領は24日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対して29億8千万ドル(約4千億円)の新たな軍事支援を発表した。一度の支援額としては過去最大で「ウクライナが長期的に自衛を継続できるようになる」としている。
国防総省によると、今回の支援には、米国で首都ワシントンの防衛にも使われている高性能の地対空ミサイルシステム「NASAMS(ネイサムス)」6基や弾薬のほか、最大24万5千発の射程が長い155ミリ砲弾、最大24基の対砲兵レーダー、対無人機システムなどが含まれている。
( → 米、30億ドルの軍事支援 対ウクライナ、過去最大額:朝日新聞デジタル )

出典:Wikipedia
NASAMS というのは、「首都ワシントンの防衛にも使われている高性能の地対空ミサイルシステム」と説明されているが、要するに、(短距離)迎撃ミサイルである。
英語版 Wikipedia (機械翻訳)を示そう。
NASAMS は、 Kongsberg Defense & Aerospace (KDA) とRaytheonによって開発された、分散およびネットワーク化された短距離から中距離の地上ベースの防空システムです。このシステムは、無人航空機(UAV)、ヘリコプター、巡航ミサイル、無人戦闘航空機(UCAV)、および航空機から防御します。
( → NASAMS - ウィキペディア )
NASAMS には、3世代がある。第1世代の旧式ポンコツを供与するというのなら、まだわかるが、そんなに古い迎撃システムを保存していたとは思えない。少なくとも第2世代以降で、現行でも使用中のものを供与するのだと思える。
まあ、古いものを供与して、代わりに新しいものを配備する、というのならば、廃物利用になるので、わけがわからなくもない。とはいえ、それでも、現行で使用中のものを供与するというのは、コストがかさみすぎる。
というのは、迎撃ミサイルは、やたらとコストがかさむからだ。1発あたり 5〜10億円はかかると見込まれる。一方、それで迎撃される敵ミサイルは、2億円程度だろう。また、敵ミサイルが破壊するウクライナの民間施設は、やはり2億円程度だろう。とすると、5〜10億円の迎撃ミサイルによって得られる経済的効果は2億円程度だ、ということになる。これでは、「迎撃ミサイルを使えば使うほど損する」という状況になる。むしろ、何もしないでいる方がマシだ。(そうすれば迎撃ミサイルで巨費を失うという損害を防げる。)
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そもそもミサイル攻撃には、原則がある。
「そのミサイルにかかるコストよりも、そのミサイルによって破壊される敵の資産の損失の方が大きい」
ということだ。たとえば、2億円のミサイルを発射して、次のようなものを破壊する。
・ 弾薬庫( 100億円程度)
・ 航空機( 20〜100億円)
・ ミサイル発射機(ミサイル5発なら20億円程度)
・ ロケット弾発射機(20億円程度)
こういう例であれば、「2億円のミサイルで数十億円の敵資産を破壊する」という効果があるので、有効だ。
一方、次の例はナンセンスだ。
・ 2億円の民間アパート
・ 3億円のスーパーマーケット
こんなものを破壊しても、意味がない。なのにロシアは、そういう馬鹿げたことをやっている。本来ならば、数十億円もする高度兵器を破壊すればいいのに、安い民家を高いミサイルで破壊している。破壊すれば破壊するほど損をする。のみならず、貴重な手持ちミサイルが減ってしまう。大切な虎の子を使い果たしてしまうことになる。
ではなぜ、ロシアはそういう馬鹿げたことをするのか? それは、高度な精密誘導ができないからだ。ウクライナ領内で制空権を持たないし、ドローンによる偵察もできない。だから高度な精密誘導ができない。ウクライナの高度兵器を攻撃したくとも、それがどこにあるのかわからない。だから、敵の場所もわからないまま、やみくもに民間施設を破壊する。そんなことをすればするほど損をするとわかっていても、そうするしかないのだ。(高度な精密誘導ができないので。)
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ロシアは技術的な制限ゆえに、上記の「原則」を守れずに、無駄な(非効率な)攻撃をする。それは仕方ない。ではなぜ、米国は「無駄な迎撃ミサイルを供与する」という非効率なことをするのか? 金の無駄遣いではないのか? そういう謎が生じる。いったい、どうしてだろう?
だが、この謎を考えると、米国の本音がわかる。それは、こうだ。
「米国はロシアの敗北(ウクライナの勝利)を望んでいない。双方の膠着状態を望んでいる」
仮に米国がウクライナの勝利を望んでいるとしよう。その場合には、何よりも航空優勢を取ろうとするはずだ。そのために、航空機を供与するはずだ。また、それができないとしても、中距離ミサイルを供与するはずだ。それによって、ロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア橋を破壊することができるので、戦況は劇的に変化して、ウクライナの勝利は実現可能となる。
だから、本来ならば、米国は航空機や中距離ミサイルを供与するべきなのだ。それでウクライナ有利に転じるし、敗走しつつあるロシアは不利な講和条件を受け入れざるを得なくなる。こうしてウクライナ戦争は一挙に解決に向かう。戦死者の大量発生もなくなる。平和が実現する。
だが、それは米国の望むところではないのだ。(意外な真実!)
これについては、似た話として、次の観測記事もある。
アメリカの武器供与からは、「ロシア軍の勝利も困るが、ウクライナ軍の反攻も困る」という本音が透けて見えるという。
「あまり欧米がウクライナ軍を強くしてしまうと、ますますロシアが態度を硬化させる危険があります。ウクライナとロシアが協議のテーブルに着く気運が失われてしまうのを、欧米各国は恐れているはずです。今、欧米各国のトップは、年内の停戦を画策しています。そのためには戦線が膠着し、ロシア軍とウクライナ軍が対峙して動かないのが理想なのです」(同・軍事ジャーナリスト)
( → (3ページ目)欧米はウクライナになぜ「HIMARS」や「NASAMS」をもっと供与しないのか | デイリー新潮 )
これはもっともらしいが、妥当ではない。膠着するよりは、ロシアが敗走する状況の方が、講和は成立しやすい。成立しないとすれば、有利になったウクライナが講和を拒む場合だが、そんなことはありえない。(自力の兵器を持っているわけではないからだ。)
「(ロシアが)敗北すると態度を硬化させる」というのは、馬鹿げた想像だ。態度を硬化させれば、ますます損失が大きくなるだけだ。ちょうど第二次大戦後半の日本軍のように。敗勢になった側が講和を嫌がるということなど、ありえないのだ。むしろ、「なるべく有利な条件で講和したい」と思うのが当然だ。
ところが、である。ロシアが敗勢になれば、ロシアは講和をしたがるだろうが、米国としては、講和を望まないのだ。米国は平和を嫌がり、戦争の継続を望む。……これが決定的な本音だ。
ではなぜ、米国は戦争の継続を望むか? その理由は、こうだ。
「戦争が継続すればするほど、ロシアは兵器が消耗していく。生産に必要な部品も入手できないまま、戦争がどんどん継続すれば、ロシア軍の兵器は減少する。ロシア軍に残る兵器はどんどん少なくなって、最終的には残る兵器がゼロ同然になる」
これは第二次大戦末期の日本軍のようだ。「最後は竹槍で上陸軍と戦う」などと言い出したが、戦闘機や戦艦を作る能力もほとんどなくなっていた。残っている飛行機も数少なくなっていた。さらには飛行機を飛ばせる飛行士も(新兵以外には)ほとんどいなくなった。有能なベテラン飛行士はみんな戦死していたからだ。そして、無能な新兵の飛ばす飛行機は、有能な飛行士のいる米軍機にあっさり撃墜された。……要するに、第二次大戦末期には、日本軍の残存戦力はごくわずかとなっていた。戦争中にあまりにも多数が消耗していたからだ。
そして、今の米国が狙っているのも、その状況だ。ロシアにはウクライナで長らく戦い続けてほしい。何年も何年も戦い続けてほしい。それによって残存兵器をことごとく使い果たしてほしい。また、有能な将軍はみんな死んでほしいし、有能な飛行士もみんな死んでほしい。ロシア軍は、いわば燃え尽きる直前のロウソクのように、風前の灯になってほしい。……それが米国の望みなのだ。

だからこそ米国は、ロシア軍に今すぐ敗北してもらっては困るのだ。なぜなら、今すぐ敗北すれば、ロシア軍には多大な兵器が残るからだ。それは米国にとって好ましい状態ではない。むしろロシア軍はこのままずっと兵器を消耗して、兵器を使いはたしてほしい。……そう望んでいるのだ。
そして、その代償として、ウクライナ人は莫大な命を失って犠牲になってほしい……と願っているのだ。
だからこそ、戦争を終結させるための航空機や中距離ミサイルを供与することはなく、やたらと効率の悪い迎撃ミサイルなんかを供与するのだ。そうすれば、このまま戦争が続いて、ロシア軍の消耗もまた続くからだ。
米国が望むものは、戦争のなくなる平和ではなく、ロシア軍の被害の最大化なのだ。そのためには、戦争の継続こそ、米国が最も望むことなのである。その代償として、ウクライナ人の人命の多大な犠牲が起こるとしてもだ。
