2022年08月17日

◆ ウクライナ戦争とゲーム理論

 ウクライナ戦争の今後を考えるには、ゲーム理論を使えば一発で正解はわかる。

 ―― 

 朝日の見通し


 ウクライナ戦争の今後を見通そうとする、朝日新聞のコラム記事がある。
 ロシアがウクライナに侵攻してから半年になる。
 戦線は膠着(こうちゃく)している。
 戦争の長期化。
 さらにこの戦争の奇怪な特徴は、ロシア軍も交戦意思がまだ固いことだ。その理由は、戦争の長期化がロシアに有利な状況をもたらすだろうとの期待に求めることができる。
 期待は希望的観測に過ぎない。だが、軍事大国の抱く力の幻想は無視できない。時間が経てば勝てると考えるとき、戦争を断念する理由はないのである。
 ウクライナ支援と対ロ制裁の効果を過大視することはできない。突き放して言えば、この戦争に勝てないとプーチン政権が判断するまで、残虐な消耗戦が続くことになるのだろう。
( → (時事小言)ウクライナ侵攻、半年 引かぬロシア、続く消耗戦 藤原帰一:朝日新聞

 最後に筆者の見通しが書いてある。「残虐な消耗戦が続く」と。なるほど。そういう見通しは、十分に妥当性がある。見通しの内容を批判するつもりはない。
 だが、大切なことは、「どうなるか?」ではなく、「何をなすべきか?」なのである。
 たとえば、プールで子供が溺れている。これを見たとき、「子供はどうなるか?」を考えることが大切なのではなく、「子供を救うためには何をするべきか?」が大切なのである。ただの傍観者として見ているだけでいいのではない。自分自身が何を行動するかが大切なのである。たとえ自分の手足を動かすことはしなくても、何らかの声を上げることぐらいはできるだろう。「子供を救え!」というふうに。それと同じように、「ウクライナを救え!」と声を上げることはできる。
 なのに記事は、そうしようとはしない。単に「戦争はどうなるか」というふうに考えて、傍観者たる立場から離れようとはしない。まったく情けないことだ。

 現状分析


 現状分析をしよう。
 現状は、ほぼ膠着状態にあると言える。(上記記事と同様。)
 1〜2カ月ほど前には、ロシア軍が押し気味で、ウクライナ軍は後退しつつあった。
 しかしその後、長距離攻撃のできるロケット砲を配備したことにより、ウクライナ軍が盛り返しつつある。最近ではロシア軍が少し後退気味だ。
  → クリミア軍用空港「攻撃成功」の真相──これで「戦局」は完全に逆転した

 ではこのままウクライナ軍がロシア軍を退却させるか……というと、どうも、そう単純には行きそうにない。全体としてみれば、双方の勢力はほぼ同じぐらいであり、一方が他方を圧倒するには至っていない。その意味で、朝日の記事に記してあるように、「膠着状態」「長期戦」「消耗戦」という表現が妥当であろう。

 行動指針


 では、何をするべきか? 「どうなるかを分析するより、何をするべきかを考えるべきだ」と言ったが、いったい何をするべきなのか?

 ここで、西側はジレンマにとらわれる。
  ・ ウクライナの敗北は絶対に認められない。( NATO に危機が及ぶ。)
  ・ ウクライナの勝利(ロシアの敗北)は、ロシアが核を使う危険がある。


 つまり、ウクライナの敗北も勝利も、どちらも認められない。だから現状のように「膠着状態」を選ぶしかなくなる。しかし、それでは困る。
 困った。どうする?

 ゲーム理論


 そこで、困ったときの Openブログ。解決案を出そう。
 というか、その案は、すでに示されている。ゲーム理論による解決策だ。下記項目。
  → ウクライナ戦争 19(補遺3): Open ブログ

 ここでは「ブルジョワ戦略」というものが示されている。「内部ではタカだが、外部ではハトになる」という戦略だ。つまり、こうだ。
  ・ 自国の領域内では、敵を攻撃する。
  ・ 自国の領域外では、敵を攻撃しない。


 この戦略に従えば、ウクライナは次の方針を取ればいい。
  ・ ウクライナ領内では、ロシア軍を攻撃する。
  ・ ロシア領内では、ロシア軍を攻撃しない。(ロシア領に踏み込まない)


 この方針に従えば、西側諸国はウクライナに対し、次のようにするべきだ。
 「ウクライナ領内でという限定を付けた上で、戦闘機やミサイルなどの高度兵器を大量に供与する。それらの高度兵器を、ロシア領内で使用することを禁じる」


 これが正解だ。今は高度兵器の供与を惜しんでいるが、惜しむことなく、どんどん供与するべきなのだ。「ウクライナ領内で」という条件を付けて。
 こうすれば、戦争は長期化することなく、短期間で決着が付く。ロシア軍はウクライナから追い出されて、ウクライナ領内は戦争が終結する。一方で、ロシア軍はロシア領内にいる限り、攻撃を受けることはないから、ロシア軍が敗北することもない。事実上の停戦(終戦)となるだけだ。……かくて平和は実現する。

 本サイト


 上で述べたことは、本項が初めてではない。すでに記したように、前にも下記項目で詳しく述べた。(ゲーム理論とブルジョワ戦略の話)
  → ウクライナ戦争 19(補遺3): Open ブログ

 また、結論となる話は、もっと前に記したことがある。
  → ウクライナ戦争 7(共同防衛): Open ブログ

 これを書いたのが 2022年03月07日。この時点で、すでに正解は判明していたのだ。なのに、今になっても、何をなすべきかわからないまま、右往左往しているありさまだ。そのあげく、「戦争は長期化するだろう」などと、他人事の顔をして評論しているだけだ。
 それはいわば、「消防車がまだ来ない」と泣き叫ぶだけで、自分では消防車を呼ぼうとしない人ばかりだ……というありさまに似ている。無為無策。
  → https://x.gd/KTR1m (画像)

 しかし、ウクライナ戦争を今すぐ終わらせる方法はあるのだ。正解はあるのだ。そのことを、本項では強調しておこう。

 ※ そして、正解を導くために役立つのが、ゲーム理論の発想なのである。特に、タカハトゲームであり、なかんずく「ブルジョワ戦略」である。



 【 追記 】
 本項で示した方針は、ただの夢想ではない。現実はこの方針に向かって、少しずつ進みつつある。たとえば、下記記事だ。
 英国防相は……、ウクライナに供与する自走多連装ロケットシステムM270 MLRSを3両追加して倍にするとともに、GPS(全地球測位システム)の誘導で80キロメートル離れた目標を精密攻撃できるロケット弾M31A1を大量に送ると表明した。
 ウクライナ軍はMLRSの威力を最大限に発揮できるよう英国で使用方法の訓練を受けている。歩兵技術を含め英国で訓練を受けたウクライナ兵はすでに2300人を超え、これに加えて英国は今後数カ月間に最大1万人に歩兵技術を訓練する。
 バイデン米大統領は「50カ国以上がウクライナに14万基近い対戦車システム、600両以上の戦車、500門近い大砲システム、60万発以上の砲弾、さらに最新のMLRS、対艦システム、防空システムを供与する」と宣言した。精密誘導弾による空爆に匹敵する破壊力を持つM142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」(射程80キロメートル)計16両や目標地域上空を徘徊して目標に突入し自爆攻撃を行う「神風ドローン(無人航空機)」と呼ばれる徘徊型兵器フェニックス・ゴースト計700機などのドローンが米国から供与され、戦局を完全に逆転させた。

 バイデン氏はロシアとの核戦争を回避するためハイマースでロシア領土を攻撃しないことをウクライナに誓わせた。
( → クリミア軍用空港「攻撃成功」の真相──これで「戦局」は完全に逆転した|ニューズウィーク日本版

 ここでは二つの方針が示されている。
  ・ 西側諸国による、大量の武器供与。
  ・ ロシア領土を攻撃しない。


 この二点は、まさしく本項の主張と同様だ。だから、本項の主張は、現実に少しずつ推進されつつある。
 ただし、惜しいかな、その規模があまりにも小さい。いくら大量の武器を供与するといっても、戦況を逆転させるには至っていない。それというのも、現代戦争の要となる航空戦力を投入していないからだ。特に、戦闘機を投入していないからだ。
 戦闘機を投入すれば、戦況は一変する。ロシア軍は退却せざるを得なくなり、戦争はあっという間に終わる。……ただし、西側は、それをする度胸がないのだ。なぜなら彼らは、自分たちが敗北するのを恐れているのではなく、自分たちが勝利すること(ロシアが敗北すること)を恐れているからだ。






posted by 管理人 at 22:59 | Comment(5) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「ウクライナ領内」にクリミア半島やドンバスなど東部を含むかどうか、という点はいかがでしょうか。2014年以降実効支配しているロシア側はそこをウクライナ領とはもはや認めないし、ウクライナ側は領内だと主張せざるを得ません。国際社会的にも一致しにくい課題でしょう。お互いに「落とし所」を探りつつも、引くに引けない部分があるのではないでしょうか。
Posted by けろ at 2022年08月17日 23:51
 戦争開始前の状態を基本と考えれば、
  ・ クリミアは当面は対象外とする。(保留)
  ・ 東部はウクライナ領と見なす。
 というのが妥当でしょう。 

 つまり、東部からは追い出すが、クリミアへの駐留は(一時的に)認める。ただしクリミアへの駐留が続く限り、経済制裁は継続する。(従来通り。)

 ――

 ただし、私個人の判断では、「ロシア領内を部分的に侵略して、ロシア領の一部を接収する。これを戦時賠償とする」という方針の方がいいと思う。(前出)

 とはいえ、当面は、そこまでは踏み込まない。西側はびくついてばかりいるので。

> 国際社会的にも一致しにくい課題でしょう。

 東部とクリミアで一致しにくいとしても、他の領域では一致できるのだから、他の領域でさっさと「ブルジョワ戦略」を取ればいいだけの話。
 無為無策よりはずっとマシだ。
 なのにそうしないから、双方が無駄に消耗する。最悪。現状は被害の最大化を行っている。ウクライナにとってもロシアにとっても最悪の路線だ。これだったらロシアに支配された方がまだしも被害は少なくて済む。
 橋下徹が「ウクライナは降伏せよ」と唱えるのも一理ある。現状のように最悪の路線を取るのは愚かというしかない。勇気なき者は、善意ゆえに、最悪の道を取る。地獄への道は善意で舗装されている。



Posted by 管理人 at 2022年08月18日 07:09
 最新記事から。


> 「先月以来、ロシア軍の前進は最小限にとどまっており、われわれが前進した場面もあった」と指摘。「われわれが目にしているのは『戦略的膠着状態』だ」と述べた。

 https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-idJPKBN2PO05F



> ウクライナがヘルソンを数カ月以内に奪還する「可能性」はあるが、それより早い時期に実現する公算は小さいと、アレストビッチ大統領府長官顧問は10日のインタビューで述べた。ウクライナの領土の「完全な解放」を達成するため、戦争は少なくとも新年まで、恐らく来年夏まで続くかもしれないとの認識も示した。

  https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-08-17/RGRJR6DWX2PU01
Posted by 管理人 at 2022年08月18日 14:19
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 本項で示した方向に現実は進みつつあるが、部分的であるにすぎない……という話。
Posted by 管理人 at 2022年08月18日 20:37
アメリカは残虐な消耗戦を続けたいと思っているかもしれませんね。ロシアの消耗を期待しているだろうし、新兵器の実験場が欲しいはずだから。
Posted by SSS at 2022年08月20日 12:35
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