2022年08月13日

◆ 自動ブレーキの不作動(セレナ)

 セレナが中央分離帯に衝突して大破した、という事故があった。自動ブレーキは不作動だった模様。

  ※ 最後に 【 追記 】 あり。現行セレナの初期生産車は、もともと低性能車だった。

 ――

 新宿で交通事故があった。
 午前7時すぎ、新宿区歌舞伎町前の靖国通りで、ワゴン車が、中央分離帯と信号に衝突し、乗っていた4人がケガをして病院に運ばれた。いずれも軽傷。衝突の衝撃から、ワゴン車は大破、信号機も折れ曲がった。
( → 【続報】「ディズニーシーに行く途中」家族4人乗った車が大事故 運転していた父親はアルコール分4倍超 東京・歌舞伎町|FNNプライムオンライン

 この事故では、飲酒運転の面が強調されている。
 運転していたのは父親で、警視庁が検査したところ、父親の呼気からは、1リットル当たり0.7ミリグラムのアルコール分が検出された。これは、酒気帯び運転の基準(0.15ミリグラム)の4倍超に当たる。
 父親は、きのう午後10時ごろから、きょう午前2時ごろまで、缶酎ハイを数本飲んでいた

serena7.jpg


 だが、それはそれとして、私としてはもっと注目するべき点があると思う。
  ・ 大破したのに、全員が軽症で済んだ。
  ・ 自動ブレーキは作動しなかった模様。
  ・ 車種は日産セレナ(現行モデル)である。


 「大破したのに、全員が軽症で済んだ」というのはたいしたものだ。このことから、「セレナの衝突性能は優れている」と称賛してもよさそうだ。車の大破ぶりを見れば、なおさらだ。

 だが、一方で、「自動ブレーキがほとんど作動していなかった」という点も見過ごせない。これは下記の動画からわかる。




    ※ 元の動画 → https://x.gd/2bhT3

 時速 60km ぐらいだと見えるが、他の車と同様の速度だし、減速中であるとも見えない。たぶん自動ブレーキは作動していなかったのだろう。

 ――

 では、どうして自動ブレーキは作動しなかったのか? 
 この疑問を探るために、現場のストリートビューを見る。





 垂直の柱は黒っぽくて視認しにくいし、緑の生け垣も暗くて視認しにくい。また、形状も判別しにくい。……このような物体は、単眼カメラで認識することは難しい。
 その向こうにある交通標識ならば、認識しやすいだろう。だが、これは中央分離帯よりも右にあるから、「これには衝突しない」と判断したのかもしれない。つまり、こうだ。
  ・ 信号の柱 …… 黒くで見えない
  ・ 緑の生け垣 … 暗くて見えない
  ・ 交通標識 …… 右側にあるので、ぶつからない。


 結果的には、交通標識にはぶつからなかったから、セレナの判断は間違っていなかったのかもしれない。
 あるいは、交通標識は空中にあって、その下方の生け垣は見えない状況だったから、「ぶつかるものは何もない」と判断したのかもしれない。

 ただ、最大の問題はやはり「単眼カメラの性能の限界」だろう。このように暗くて輪郭がはっきりしない物体は、単眼カメラでは認識が困難なのだ。
 そもそも、「黒い物体は単眼カメラでは認識しがたい」という根本的な難点がある。この件は、前にも述べたとおり。
  → 自動ブレーキの限界: Open ブログ

 ――

 これと似た衝突事故が、他にもあった。テスラの衝突試験の結果(子供の人形と衝突した)という事例だ。

 この件は、下記記事が取り上げて、話題になった。
  → SNSで「10万いいね」レクサスとテスラの衝突安全テストの結果が衝撃すぎた

 では、どうしてこうなったか? テスラの自動運転技術はかなり優秀なはずだし、衝突試験でも優秀な結果を残してきたはずなのに、どうしてこうなったのか? 
 それは、この衝突試験が(民間の)非公式のものであって、そこでは使用される人形が小さなサイズだったことが影響しているようだ。見ればわかるように、かなり小さな人形であり、背が低くて、しかも上半身は黒色だ。


tesla-jiko


 こういう黒っぽい物体は、やはり単眼カメラでは苦手だ。下半身の青いジーパンは認識しやすいが、カメラの設定しだいでは、低い位置の物体は対象から除外されている可能性もある。メーカーしだいで、性能が落ちることもあるだろう。

 結局、この問題は、単眼カメラを採用しているすべての自動ブレーキ車で同様の危険がある。レクサス車も、単眼カメラ方式だが、こちらの単眼カメラは比較的優秀だったのかもしれない。あるいは、ミリ波レーダーがうまく作動した可能性もある。

 この手の問題を原理的に回避するには、次のいずれかにするしかない。
  ・ ステレオカメラ方式の採用
  ・ LiDAR の採用

 ただ、LiDAR は分解能は高いのだが、「黒い物体に弱い」という点では、単眼カメラ以上に弱い。青いジーンズをはいている子供を検知するのには十分だが、全身黒ずくめの子供を検知するには不十分だ。全身黒ずくめの子供を検知することができるのは、ステレオカメラ方式しかない。
 自動車会社はこのことを理解するべきだ。



 [ 付記 ]
 ステレオカメラ方式ではどうして、全身黒ずくめの子供を検知することができるのか? 見えないものを見ることができるのか?
 いや、見えないものを見ることができるわけではない。黒いものを見ることができるわけではない。だが、「そこに黒いものがある」という輪郭を、背景のなかで浮き上がらせて、位置検出することができる。
 仮に背景が黒色ならば、「闇夜のカラス」なので、ステレオカメラ方式でも検知できない。しかし背景が少し明るければ、「明るい背景の中にある、人の形をした黒い影」というものが見える。その影の位置も立体視できる。
  → 単眼カメラ方式の欠陥(自動運転): Open ブログ

 このことは、夜間に自転車で歩道を走行しているとわかる。歩道上に人の形が見えるが、それは、その人の黒い形が目に見えるのではない。その人の背景は見えるのに、その人の黒い形だけは黒くて見えない。だから、その黒い形のあるところだけ、人がいるのだとわかる。見えないということが見えるわけだ。……あとは、両目を使って立体視することで、位置を検出できる。



 【 追記 】
 日産セレナの自動ブレーキは、現在では改良されているが、初期の自動ブレーキは低性能の欠陥品だった。そのことを前に言及したことがある。
 本サイトの過去記事を検索してみた。
  → 過去記事の一覧

 改良前の話 →  日産セレナの自動運転は欠陥品: Open ブログ(2016年07月13日)
 改良した話 →(誤)日産が自動ブレーキを改善: Open ブログ(2017年06月09日)
        (正)自動ブレーキの状況(2019夏): Open ブログ(2019年07月26日)

 2016年07月〜2019年07月までの間に生産された初期モデル(現行型)では、自動ブレーキの性能はひどいレベルだったのだ。そのことは、上記記事でもこう記してある。
 日産には、まともな自動ブレーキが装備されていない。どれほど頑張ろうと、ミリ波レーダーなしでは、時速 40km 以上での自動ブレーキは不可能だ。なのに日産は、ミリ波レーダーなしで自動運転車の販売を強行する。

 もともと時速 40km 以上では作動しないタイプだったのだ。起こるべくして起こった事故、と言うべきか。私がずっと警鐘を鳴らしていたこと(日産の自動ブレーキの欠陥問題)が、予言通りに、現実化したのだ……とも言える。

posted by 管理人 at 22:45 | Comment(5) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 本稿(付記・追記を含んで)の趣旨には直接関係ないかもしれませんが、日産は徐々に、単眼カメラ+ミリ波レーダーのシステムにシフトしているのでは?

 https://clicccar.com/2020/08/24/1005349/

 現状は、プロパイロットのような先進安全運転支援システム(ADAS)の一環として、「インテリジェント FCW」と銘打ち、主に自車の先行車を検知するもののようですが、いずれは普通に、歩行者・自転車にも対応した自動ブレーキ用のセンサーとしても、ミリ波レーダーを活用するようになるのでは。

 なお、すでに多くの車種に搭載されているようですね。

 https://www2.nissan.co.jp/SP/TECHNOLOGY/FCW/
Posted by かわっこだっこ at 2022年08月14日 14:02
 その件は 【 追記 】 の箇所で説明済みです。
 「現在では改良されているが、」と示してある通りです。

>  改良した話 → 日産が自動ブレーキを改善: Open ブログ(2017年06月09日)

 という記事リンクもあります。この記事にあるように、17年の時点で、ミリ波レーダーを搭載しています。問題が起こったのは、それ以前の分であり、

> 2016年07月〜2017年06月までの間に生産された初期モデル(現行型)では、自動ブレーキの性能はひどいレベルだったのだ。

 と記してある通り。
Posted by 管理人 at 2022年08月14日 14:11
> その件は 【 追記 】 の箇所で説明済みです。
> この記事にあるように、17年の時点で、ミリ波レーダーを搭載しています。

⇒ しかし、2017年6月9日付けの記事には、

> メカニズム自体は「単眼カメラだけ」であるのだが、システムの性能が向上して、時速 50km でも正常作動する(つまり衝突しない)ようになったのだ。
> 今回の新システムの性能向上は、たぶん画像の解像度を向上させることで実現したのだろうが、システムの原理的な問題については、回避することはできない。

 とありますが? また、同記事のコメント欄にも、

 Posted by 管理人 at 2017年09月19日 18:51
>(前略)また、他の自動車メーカーの場合、単眼カメラと前方の状況を検知するミリ波レーダーを併用する場合が多いが、日産では単眼カメラのみで対応している。

 と書かれていますが?
Posted by かわっこだっこ at 2022年08月14日 15:48
> ⇒ しかし、2017年6月9日付けの記事

 ご指摘ありがとうございました。その記事は見当違いでしたね。典拠としては不適切でした。
 正しいリンク先は別記事だったので、本文を修正しました。 (誤)(正) の箇所。
Posted by 管理人 at 2022年08月14日 16:56
↑ なるほど。私も調べましたところ、セレナにミリ波レーダーが追加されたのは、2019年8月のマイナーチェンジからのようですね(全車型に搭載ではないと思いますが)。

 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/03703/

 本稿に貼られた事故車の画像や事故動画を確認しましたが、事故を起こしたセレナは、フロントグリル(いわゆるVモーショングリル)の形状から、確かにこのマイナーチェンジ前だと思います。
Posted by かわっこだっこ at 2022年08月14日 22:45
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