2022年08月06日

◆ 霞堤と川辺川ダム

 先日の豪雨で、霞堤が役立ったそうだ。一方、熊本では川辺川ダムの建設が進んでいる。

 ――

 霞堤


 先日の豪雨で、霞堤が役立ったそうだ。



 これを見て、次のように批判する人もいる。
  この記事は「霞堤が機能して町の水没を防ぎました!」と報道しないといけません。

 しかしそれは要求のしすぎというものだ。ニュースの第一報は、事実を早く報道することであって、その意味を解説することではない。意味を解説するのは、第一報を見た人が、時間を置いてからやればいいことだ。
 だいたい、事実を報道した朝日新聞に文句を言って、何も報道しない読売や毎日や NHK には文句を言わない……というところからして、ただの文句屋にすぎないとわかる。朝日からタダでニュースをもらう乞食ほど、朝日に文句を言うものだ。(ちなみに私は乞食じゃない。毎月 4900円を払っている。だから文句を言わない。)

 ※ 「そういうおまえが、いつもトヨタや日産の悪口ばかりを言っているのは、トヨタや日産のオーナーじゃないからだろ」と指摘する人もいそうだ。鋭い。 (^^);

 なお、霞堤については、前に詳しく論じたことがある。(情報紹介の形。)
  → 台風と流域治水: Open ブログ

 川辺川ダム


 霞堤のように、ダムを使わないで治水するという発想は、「流域治水」と呼ばれる。近年の政府の方針ともなっている。
  → ダムに頼らない治水: Open ブログ
  → 台風と流域治水: Open ブログ

 では、この方針でどんどん進行しているかというと、……そういうところも多いようだが、現実には逆行する事例もある。それが、川辺川ダムだ。本日の朝日新聞が報じている。
  熊本県南部を流れる球磨川支流の川辺川にダムを作る河川整備計画づくりが大詰めを迎えている。2年前の球磨川氾濫(はんらん)で、「ダムによらない治水」を掲げてきた蒲島郁夫知事が治水専用の流水型ダム容認に転じると、国は急ピッチでダム計画復活の手続きを進めてきた。だが、流域住民には相次ぐ方針転換への不信や「ダムありき」への異論が根強く、計画通り進むかは見通せない。
( → 復活する川辺川ダム 2年前の豪雨で空気一変 「ダムありき」異論も:朝日新聞

 川辺川ダムは、国の計画のあとで、清流破壊などの問題があることから、流域住民が反対してきた。知事も白紙撤回を打ち出した。ところが、熊本水害が起こった。すると、国は「ダムがあれば水害は減らせた」と我田引水ふうに理屈を述べて、ダム推進をさらに打ち出した。すると、知事は日和って、「それじゃダムを容認します」と一転した。ここまでは報道済み。
 本日の朝日記事によると、新たな情報がある。
 知事は「利水や発電にも使う多目的の貯留型ダムから、洪水時だけ水をためる治水専用の流水型ダムに変わる」と述べて、理解を求めた。
 だが、地元ではやはり反対意見が強いようだ。知事が「計画は変わった」と述べても、新計画が建設許可されたわけでもないので、従来の計画がそのまま進んでいる。「流水型ダムにする」というが、それがどういうものかも情報公開されない。
 川底付近に水を流す穴を設けるとはいえ、巨大なコンクリート壁で洪水をせき止めることは変わらない。
 穴の詳しい構造や材料となる岩石の採取地などによって環境影響は変わるが、国は、穴にゲートを設けるなどの基本事項以外は「検討中」として示していない。
 
 さらに決定的に問題な点が二つある。

 第1に、コスパがひどく悪いことだ。
 ダムの総事業費は、2650億円(98年)から4900億円に膨張した。国が6月に公表した費用対効果分析では、ダムで防げる洪水被害の額より費用が大きく上回る「0.4」と算出された。

 第2に、肝心の洪水予防効果が当てにならないことだ。
 「ダムで本当に命を守れるのか」という根本的な疑問もある。清流を守ることをめざす地元市民団体のメンバーらは、流域で亡くなった50人の死亡状況や豪雨当日の水の流れを独自に調査。自ら被災しながらも地元のつてを駆使して2千枚以上の写真や映像と200人ほどの証言を集めた。
 その結果、50人の死者のほとんどが、球磨川本流の水位がピークになる数時間前に、球磨川に注ぐ中小支流からの水や山側からの濁流にのまれていたことがわかった。

 この件については、私が当初から指摘してきた。「ダムにはろくに効果がない」と。
 別に頭ごなしに否定するつもりはないが、現地の状況を見ると、ちょっと見ただけで、「これは筋が悪い」と評価できる。
 なぜか? 川辺川ダムは、支流のひとつ(川辺川)にかかるものであるにすぎないからだ。


kawabegawa.jpg


 もともと二つの流れがある。その二つのうちの一つにダムを作るわけだ。だが、ダムを一つ作っても、二つのうちの一つの分だけだから、水量削減の効果は半分でしかない。(もう一つの方の水量には影響しない。)
  ※ 半分というより、半分以下である。本流(球磨川)の方が水は多いからだ。

 また、ダムで水を止めるのは、ダムよりも上流の水だけだ。ダムよりも下流に降った雨水の分には、どうしようもない。(当り前だ。)

 結局、このダムで止められる分の水は、せいぜい全体の3分の1程度でしかない。他の3分の2については効果がない。その意味で、ダムを建設しても、コスパは悪い。その意味で、筋が悪いのだ。
( → 川辺川ダムは必要か?: Open ブログ





 では、被害を減らすには、どうすればいいか? 基本的には、こうだ。
 「ダム以外の方法を取るとすれば、流域治水だ。霞堤や遊水池の導入が好ましいだろう。そのための場所は、十分にある。人吉市よりも上流の側には、広大な田畑があるからだ。そこに遊水池と越流堤を作ればいい。霞堤でもいい」
 この件は、前にも述べたとおり。
 他の件については、以下の [ 付記 ] で示す。



 [ 付記 ]
 「遊水池と越流堤を作ればいい」と上に述べたが、それができない場合がある。作る場所がない場合だ。この件について例示的に説明しよう。

 下の地図の右下には、人吉市がある。
 一方、下の地図の左上には、「親林業」という文字が見える。これは、(川辺川に似た名前の)川内川の流域だ。




 川内川の流域で大きな被害があった。
 球磨川からの浸水のほか、川内川からの大量の土砂の流入により被害が大きい地域です。

kawabegawa4.jpg

( → 神瀬地域の被災状況 | アーカイブくまむら

 ここでは、川辺川や那珂川が氾濫したのではなく、川内川の上流から、鉄砲水が押し寄せたようだ。狭い渓谷に大量の水が流れ込むと、一帯はすべて水没する。そのことがわかる。

 ここでも、何とかしたい。しかしながら、ここは非常に狭い渓谷なので、平地がほとんどないのだ。水を他の場所に流し込みたいとしても、そんな余裕のある場所はどこにもない。ここには、遊水池を作る余地はないのだ。

 では、どうすればいいか? 地元民は、土地のかさ上げを要望する。
 球磨川中流にある球磨村神瀬(こうのせ)地区。2年前の豪雨で3人が死亡し、一帯は3.8メートルまで浸水した。住民の多くは宅地のかさ上げを望むが、国が検討する高さは場所によっては1メートル程度だ。「ダムとか遊水地の対策をするから、実際に浸水した高さまでかさ上げしなくてよい、と国は考えているようだ。ダムにどれだけ効果があるのか。もっとかさ上げしてもらいたいが……」と地区の区長を務める男性(78)は話す。
( → 川辺川ダム、異論のなか復活 「命も清流も守る」流水型、20年の豪雨きっかけ:朝日新聞

 しかし、「かさ上げをすればいい」というのは、勘違いだ。
 なるほど、(津波のように)水が下から来るときには、かさ上げは有効だろう。しかし水が上から来るときには、かさ上げは無効だ。「一帯は3.8メートルまで浸水した」という状況は、かさ上げをしても何も変わらない。いや、むしろ、状況は悪化する。鉄砲水をすぐに下流に流し去る効果が弱まって、その場所に水が滞留するからだ。仮にかさ上げした場合は、「一帯は4.5メートルまで浸水した」というふうになり、さらに「水が引くまでの日数は大幅に延びた」(何日間も水が抜けない)というふうになりそうだ。最悪である。「被害を拡大するために金をかける」という結果になる。

 では、どうすればいいか? 簡単だ。
 「ここにはまったく場所がないのだから、ここから脱して、別のところに住めばいい」

 では、その方法は? こうだ。
 「ここは、林業が盛んで、材木工場もある。ならば、働き場をなくすことはできない。一方、住むための場所は、ここである必要はない。別の場所に住めばいい」

 では、別の場所とは? ここだ。





 「親林業」という場所の左下に、「芦北警察署 天月駐在所」という場所がある。このあたりは、田畑がたくさんあるので、ここに住居をたくさん建てることができる。ここに住めばいい。
 ここから「親林業」 という場所までは、距離で 9.4km で、自動車では 13分の距離だ。だから毎日 13分の通勤時間をかけて、住居から職場まで、通勤すればいい。それだけのことだ。

 ではなぜ、現実にはそうしないか? 「毎日 13分の通勤時間をかける」というのが、田舎の人にとっては億劫で仕方ないからだ。田舎の人間は、すごく腰が重い。ちょっと歩くのも嫌がるし、自動車で 10分以上 走るのも嫌がる。ものすごく、ものぐさなのだ。そして、そのことゆえに、多大な水害が発生すると、自宅が水没して、家財をなくして、人命をなくす。そのあとで、「被害をなくしたいから、国が金を援助してくれ」と言う。
 ならば、国は、「13分の通勤時間がかかるところへの移転を援助しよう」と言えばいい。それならば、ごく小額の金で住むからだ。
 しかし地元民は嫌がる。「通勤時間に 13分もかかるのか? そんなに長い通勤時間は、とても耐えられない! 絶対にイヤだ! 通勤時間は 10分以内でないと困る。いや、5分以内であるべきだ。そのためには、今の危険な場所に住みたい。そのための費用として、土地のかさ上げのために、国は1戸あたり 5000万円の工事費を援助してくれ」
 こういう過大な要求を出す。そのすべては、「通勤時間を減らすため」である。田舎民というのは、これほどにも強欲なのである。いや、ものぐさで、出不精なのである。
 これが、水害による被害が起こることの根本原因だろう。(そこを改めさえすれば、あっという間に解決する。安全な場所への移転によって。)


( ※ 実は、この「田舎民のものぐさ」というのは、三陸の場合にも当てはまる。三陸では、海辺に水産工場があるので、そのすぐそばに自宅を作った。「通勤時間は徒歩数分」というのを望んだからである。内陸部に自宅を作れば、「通勤は自動車で5分以下。電動自転車で 15分以下」にできたのだが、それを嫌がる。どうしても「通勤時間は徒歩数分」というのにこだわる。だから、東日本大震災では大きな津波に襲われて、住居で多大な被害が発生したのだ。……彼らがものぐさでなければ、ちょっと離れた高台に住んでいたので、こんなに多大な被害は生じなかったはずなのだが。)

posted by 管理人 at 22:35 | Comment(2) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あとは「先祖代々の土地が……」というやつですね。その代々というのが3〜4代なのか、20〜30代も続くのかわかりませんが。
持たざる者にとっては何のこだわりもないのだけれど。
Posted by けろ at 2022年08月07日 23:58
> 先祖代々の土地

 土地や家を手放すわけじゃないので、そのまま別宅として持っていればいいのでは?
 住んでいない家を持っていると、固定資産税が高くなりそうだが、払えない額でもない。どうせ田舎だし。
Posted by 管理人 at 2022年08月08日 06:19
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