2022年07月24日

◆ ロシアの黒海封鎖

 ロシアが黒海封鎖を解除すると約束したが、その翌日、ウクライナの出荷する港湾を攻撃して、約束を反故にした。どうすればいい?

 ――

 このことは、「約束を反故にした」ということで、世界に衝撃を与えた。
  → ロシア、オデーサ港にミサイル攻撃 穀物輸出合意の翌日 | ロイター
  → 穀物積み出しのオデーサ港にロシアがミサイル 食料輸出合意の翌日に :朝日新聞
  → ロシア軍、穀物輸出再開「合意」翌日にオデーサ港をミサイル攻撃か





 その直前には、「黒海封鎖を解除する」という合意ができたばかりだった。
  → 穀物輸出再開で合意 ロシア・ウクライナ、黒海経由 | 共同通信
  → ウクライナ輸出再開、合意なぜ? 食料危機の背景:朝日新聞

 これを歓迎して、小麦価格が急落したほどだ。
  → 小麦、5カ月ぶり安値:朝日新聞

 なのに一転して、ロシアは約束を反故にして、黒海封鎖の解除を実質的に無効化した。

 ――

 はてなブックマークでは、この事態を受けて、理解できずに戸惑っている人が多い。
 「マジで何がしたいんだロシアは」
 「 それなりに努力して合意に至ったものを一日も経たずに破棄するのは、ちょっと意味分からない」
 「 根本、不合理しかない戦争だから、合理で考えても仕方ないのだが、ロシアがやったとして、その理由が全くわからない。想像もつかぬ」
 というふうに戸惑いの声が上がっている。
  → はてなブックマーク
 
 ではどうして、こうなった? それを考えてみよう。

 それを探るには、まずは、その前の「黒海封鎖」という現状の意味を理解するといい。それは世界に大いなる損失をもたらすものだった。
  → 食料危機、16億人に影響? 黒海封鎖めぐり応酬 解決の糸口は | 毎日新聞
  → 「黒海封鎖」の衝撃……ロシアが世界を「経済的混乱」に陥れる ?
  → 黒海封鎖は「戦争犯罪」 EU高官、ロシア非難: 日本経済新聞
  → ロシアの黒海封鎖が一因 スリランカ危機―米国務長官:時事
  → ロシアの黒海封鎖、イエメンの1300万人を「飢餓」の窮地に | Forbes JAPAN

 そうなることがわかっているのに、ロシアは攻撃の手を緩めようとはせず、かえって強化していた。
  → 黒海封鎖維持へ、ロシアが大型揚陸艦3隻を配備: 読売新聞

 ――

 では、ロシアがそういうことをしているのは、なぜか? 
 ロシアの主張を額面通りに受け止めれば、こうだ。
 「西側がロシアに経済制裁をしている。西側の制裁が先だ。これを解除しろ。そうすれば、ロシアも黒海封鎖をやめる」

 要するに、ロシアとしては、経済制裁で非常に困っている。特に兵器の部品となる半導体をまったく輸入できないのが痛い。そのせいで最新型の兵器を生産できなく案っているからだ。消耗しても、消耗した分を補えない。このままでは遠からず兵器が大幅不足になってしまう。そこで、何としても西側の経済制裁を解除させるために、黒海封鎖をして、世界を相手にイヤガラセをする。世界中が食糧不足になれば、それこそ「しめた」というものだ。世界が音を上げれば、ロシアへの経済封鎖を解除する動機となるだろう……というわけだ。

 つまり、ロシアとしては、黒海封鎖は合理的な判断に基づいていることになる。世界が困れば困るほど、ロシアとしては「しめしめ」と思うわけだ。当然ながら、ロシアとしては、この状況を変えるメリットはない。黒海封鎖を解除するつもりなどは、まったくないだろう。もちろん、今後も同様だ。
 しかし、そんなことでは、世界中が困ってしまう。まったく困った。どうすればいい?

 ――

 そこで、困ったときの Openブログ。何とか解決案を出そう。ただし、その前に、物事を深く考察しよう。

 そもそもロシアがこういうことをやっているのは、「ロシアが一方的に封鎖をしている」という状況が許されているからだ。しかし、それは、本来ならばありえないことなのである。


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 ロシアは元来、海への出口に乏しかった。黒海から地中海を経て大西洋に抜けるルート(イスタンブールとジブラルタル海峡を経由する)は、ロシアにとって貴重な海洋ルートだった。それを確保するために、国際航路の通航権を重視してきた。
  → 通過通航権とは - コトバンク
  → 無害通航権とは - コトバンク
  
 ところが、ロシアがとても大事にしていたその権利を、ロシアはこのたび、一挙に否定したのだ。ただし、自分の権利を否定するのではなく、他国の権利を否定する、という形で。
 これまでは「国際航路の通航権を守らなければならない(ロシアにとって)」と声高に主張してきたのに、今度は一転して、「国際航路の通航権をないがしろにする(ロシア以外の国にとって)」というふうに、正反対の主張をするようになったのだ。……それというのも、権利の対象が「自国」から「他国」になったからだ。
 
 その意味はこうだ。
 「その権利は、おれが行使する限りは、尊重されるべきだ。しかしその権利は、おれ以外の他国が行使する限りは、踏みにじってやる」
 つまりは、ジャイアニズムである。

 ――

 ここまで理解すれば、物事の本質は明らかになる。
 今回の問題が起こるのは、ロシアがジャイアニズムを取っているのが根源だが、より本質的には、そのようなジャイアニズムを放置する世界全体の方針が原因である。
 当然ながら、ロシアがそういう方針を取ったならば、世界もまた同様の方針を取るべきだった。つまり、こうだ。
 「ロシアが他国に黒海封鎖をするのならば、他国もまたロシアに黒海封鎖をする。黒海の通航を、ロシアの船舶だけは(ロシアによって)容認されているが、ロシアの船舶もまた、(他国によって)禁止されるべきだ」

 現状では、ロシアが封鎖しているので、「ロシア向けの船は通れるが、他国向けの船は通れない」というふうになっている。それを改めて、「ロシア向けの船も通れない」というふうにするべきなのだ。つまり、他国がロシアに対して黒海封鎖をするべきなのだ。

 以上のようにすれば、「ロシアだけが一方的に封鎖する」という状況を脱して、「双方がともに封鎖する」という状況になる。すると、「世界だけが困る」という状況を脱して、「ロシアもまた困る」という状況になる。これならば、その困った状況を脱しようとして、双方が解決に向けて妥協することが可能だ。かくて、問題は解決する。
 一方、現状では、「ロシアだけが封鎖する」という状況を、世界が認めている。この場合には、強者たるロシアが一方的に譲歩することはありえない。従って、この場合には、いつまでたっても解決はしない。

 ※ このことは、タカ・ハト・ゲーム で考えれば、すぐにわかる。相手がタカの態度を取ったとき、こっちがハトの態度を取ると決めれば、その状況で安定して、ハトはいつまでも食い物にされ続ける。それがイヤならば、一時的にハトがタカに転じて、「双方がともに傷つけあう」という状況を経由する必要がある。そうしない限り、ジャイアニズムの状況は変わらない。
 ※ なのに、「タカがハトになる」と勝手に期待して外交交渉をしたのが、先日の合意だった。そもそも、甘い合意が守られる(タカがハトになる)などと期待したのが、根本的に間違いだったのだが。



 [ 付記1 ]
 なお、ロシアへの封鎖の対象は、黒海だけでなく、より広い領域にするべきだ。つまり、他の国際航路もまた、ロシアに対して封鎖するべきだ。
 特に、宗谷海峡・津軽海峡・対馬海峡を、ロシアに対して封鎖するべきだ。「ロシアが黒海封鎖を解かない限り、これらの海峡をロシア船が通ることを許容しない」というふうに。……ロシアが黒海を封鎖しているのだから、そのお返しをするのは当然というものだ。
 さらには、千島列島の全域も通行禁止にして、太平洋からオホーツク海に入ることとも禁止するといい。(封鎖する。)……これもまた、「黒海封鎖が解除されるまで」という条件で、封鎖すればいい。お返しで。

 [ 付記2 ]
 このような「ロシアに対する封鎖」の実行は、日本がやるわけではない。世界全体が共同でやるべきだ。特に、米国が主体となってやるべきだ。
 この場合、軍事的な戦闘が起こるとまずいので、軍艦は対象外とする。商用船のみを対象とする。たとえば、ロシアの商用船が対馬海峡を抜けようとしたら、米国の巡洋艦が「通行禁止」を通告して、守られなければ、その商用船のスクリューを魚雷で爆破して、航行不可能にする。
 一方、相手がロシアの軍艦であれば、反撃が怖いので、何もしないで放置する。この場合には、戦闘は起こらないので、安心できる。

 「ロシアの商用船が軍艦といっしょに来たら?」という問題もありそうだが、ロシアの軍艦は、数が限られているので、心配しなくてもいいだろう。仮に来たとしても、軍艦が1艦だけでは、手も足も出せまい。西側の艦船が 10艦ぐらいもいるところへ、ロシアのポンコツ艦が1艦だけあっても、何ら戦闘活動はできない。もしやれば、あっという間に撃沈されるだけだ。
 ちなみに、ロシアの最優秀の旗艦たる「モスクワ」は、すでにミサイルを受けて撃沈された。
  → ミサイル被弾の旗艦「モスクワ」ロシア国防省が沈没したと発表 | NHK

 では、ロシアの軍艦が艦隊をなして、商用船を守ったら? そのときは、大規模な戦闘が怖いので、通行させていい。しかし、ロシアの軍艦が艦隊をなせるのは、1箇所か2箇所だけだ。そこだけは通行できても、他の箇所は通行できない。数的な制限ゆえに、ロシアが通行可能にできる箇所は限定的だ。
 


 [ 補足 ]
 ではどうしてロシアは、その直前に、「封鎖を解く」という約束をしたのか? どうせ守るつもりのない約束ならば、どうして約束などをしたのか?
 それはたぶん、西側に「ぬか喜び」をさせたあとで、事後的にいっそう大きな精神的ショックを与えるためだろう。いったん「ぬか喜び」をさせればさせるほど、あとでいっそう苦しめることができる。だから、嘘をついて、期待を持たせて、一転して約束を反故にしたわけだ。……一種のイヤガラセである。
 ロシアとしては、「何の見返りもないのに、一方的に恩恵を与えるわけがないだろ。何を期待しているんだ、ボケ」と内心で思っているのだろう。その上で、「おまえたちは徹底的に傷つけばいい。そうなったら、音を上げて、ロシアへの経済封鎖を解除する気になるだろう。苦しかったら、音を上げろ。そして白旗を揚げろ。そうすれば、許してやるぞ」というつもりでいるわけだ。

 こんなこともわからないで、勝手に「うまく行く」と期待した西側やトルコは、あまりにもおめでたすぎる、というしかない。
 戦争の最中に平和をもたらすのは、外交交渉ではない。悪といくら交渉しても、悪と妥協に達することはありえない。残る方法はただ一つ。悪を武器によって叩きのめすことだ。それ以外にはないのだ。
 


 【 関連サイト 】
 朝日新聞のコラムから。
 人の命は、かくも軽い存在だったのか。
 病院や学校を標的に、ミサイルを撃ち込む。街を根こそぎ破壊する。無抵抗の市民を拷問にかけ、処刑する。ウクライナの現実を前に、私たちは愕然として、立ちすくまざるを得ない。

 ブチャの街の……ヤコビエンコ家の向かいのシャピロ家は、同居のいとこも含め4人全員が殺害された。3軒隣のシドレンコ夫妻は、「ロシア兵との対話も可能だ」と信じて避難せず、しかし殺された。両家の6人の遺体は手足を切断され、焼かれ、空き地に放置された。

 平和を手にする唯一の方法は、ロシアの占領を許したままでの即時停戦などではなく、ロシア軍を撤退させることなのだ。ブチャの悲劇は、そう指し示す。
( → (日曜に想う)踏みにじられた命の価値を取り戻す ヨーロッパ総局長・国末憲人:朝日新聞


posted by 管理人 at 23:43 | Comment(0) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
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