2022年07月03日

◆ 停電したらペナルティ

 電力不足による停電の可能性がある。これに対しては電力会社にペナルティを科するべきだ。「賠償金」のほかに、「値上げ抑止」という方式がある。

 ――

 「停電が起これば、電力会社は賠償金を払うべきだ」
 という方針を、先に示した。前項でも示したとおり。
  → auの通信障害/電力不足の停電: Open ブログ

 ここでは「賠償金」という案を示したが、別案もある。こうだ。
 「電力料金は公定料金である。料金には政府の許認可が必要だ。そこで、停電を起こした場合には、この許認可制度を使って、値上げ幅を圧縮するといい」
 




 たとえば、電力会社が値上げの申請で、こう言う。
 「燃料価格が高騰しているので、電気代を 10% 引き上げることを、申請します。そうしないと、赤字になってしまうので、許可してください」
 ところが、である。このときの電力会社は、停電(ブラックアウト)を引き起こしており、契約者に莫大な損失を与えていた。停電による損失は 1000億円程度に上ると見込まれた。一方で、必要となる旧式の火力発電所については、どんどん廃止しており、それによるコスト削減は 100億円になると見込まれた。つまり、電力会社の方針は、「国民に 1000億円の損をさせることで、自分は 100億円を儲ける」という方針だと判明した。

 これを認定した政府は、次の裁決を下した。
 「電気代を 10% 引き上げることを、認めない。国民に 1000億円の損失をもたらしたのだから、電力会社の収入が 1000億円の減少になるように、料金値上げを圧縮する」

 ちなみに、東京電力の年間売上げは5兆円弱だ。1000億円はその 2% に相当する。そこで、値上げ幅を 10% から 8% に引き下げればいい。そうすれば、1000億円の賠償金を払ったことに相当する。

 なお、そのことで、電力会社の配当金は減少して、株主は損するが、それは当然のことだ。馬鹿げた経営方針を取った経営者をのさばらせた株主の責任がある。
 そこで、株主としては、経営者を解任して、「旧式の火力発電所を稼働させる」という方針を取る経営者を、新たに任命すればいい。それが正解となる。
 こうして、万事は丸く収まる。以後は、旧式の火力発電所を稼働させるようになるので、コストは上がるが、停電は起こらなくなる。めでたし、めでたし。



 【 関連サイト 】
 旧式の火力発電所を廃止していることが問題の根源だ、ということは、何度も指摘されてきた。
 なぜこれほど電気が足りなくなるのか。
 主な要因は、電力会社が古くなった火力発電所の休廃止を進めていることだ。
 電力自由化もあり、火力発電所の絞り込みなどの経営改善を図っている。
( → (日本経済の現在値:5)猛暑の今夏、高騰 32.2%、電気代上昇率:朝日新聞

 太陽光発電の普及で稼働率が低下した古い火力発電所の休廃止が進んでいる。
( → (2022参院選 政策の分岐点)エネルギー 上昇する電気代、強まる原発推進:朝日新聞

 電力不足の背景には、太陽光発電の普及で稼働率が低下した火力発電所の休廃止が進んでいることがあります。2016年度からの5年間で大手電力会社の石油火力発電所は計1千万キロワット分がなくなりました。原発10基分に相当します。
( → 原発も再エネ拡大も安くない 日本はエネルギー「負け組」になるのか [参院選2022]:朝日新聞

 なお、本質については、本項末の 【 追記 】 を参照。



 【 補説 】
 電力会社は旧式の火力発電所を廃止しているが、その根本的な理由は、正しい金銭勘定ができていないことによる。単に「コストを削減すれば利益が上がる」というふうに思い込んでいるのだ。(頭の悪い単細胞の発想。)
 この問題を正しく指摘したのが、「ザ・ゴール」という本だ。




ザ・ゴール


 この本の解説は、前に記したことがある。
 停電の解決のためには、「ボトルネック」という発想が必要だ。

 ボトルネックを解消するためであれば、いくらか高いコストがかかってもいい。余分なコストがかかっても、それまで遊んでいた他の部門が稼働するようになれば、全体の効率は大幅にアップする。
( → ボトルネックの発想(停電で): Open ブログ

 生産効率のアップのためには、すべての箇所で効率を最適化することが必要だと思われているが、実は、そうではない。ボトルネックとなる部分があるので、そこだけを解消すればいい。そのために部分的にはいくらかコストがかかっても、そのことで全体の効率が大幅にアップするのであれば、部分的に高コストをかけても問題ない。
 特に、「古い機械をボトルネックに当てることで、ボトルネックを解消する」という事例に着目するといい。

 この話をピーク電力に当てはめると、次のように言える。
 「ピーク電力のときに電力不足になると、全体の効率が大幅に落ちてしまう。だからピーク電力に電力不足にならないように、ボトルネックを解消するといい。そして、そのためには、部分的に高コストをかけてもいい」

 さらに、次のように言える。
 「ここで言う高コストとは、ランニングコストのことであり、設備費のことではない。短期間であれば、ランニングコストは高くてもいい。ただし、設備費はかけるべきではない。そのためには、予備用の低能率な中古品を用いるといい」

 これを具体的に当てはめれば、次のように言える。
 「ピーク電力対策としては、古い火力発電所を用いればいい」

 古い火力発電所というのは、効率が低くて、発電コストが高い。燃料も多く食うし、保守費もかかるので、ランニングコストが高い。それでも、設備はすでにあるので、(新規の)設備費はゼロで済む。
 だから、古い火力発電所を用いることで、ボトルネックの解消(ピーク電力対策)ができるのだ。
( → スマートハウスの愚 2: Open ブログ

 同趣旨の話は、約1年前の項目でも記した。
  → 電力自由化で電力不足?: Open ブログ

 ともあれ、以上の原理を理解すれば、次のことがわかる。
  ・ 旧式の火力発電所は、運転コストが高い。
  ・ しかし、電力不足になるのは、年間でもごくわずかな日数だ。
  ・ わずかな日数しか稼働しないのであれば、効率のいい新型発電所を使うのは無駄だ。
  ・ わずかな日数しか稼働しないのであれば、効率が悪くても固定費のかからない旧式発電所を使うべきだ。
  ・ 旧式発電所を使うことで、ボトルネックを解消できる。
  ・ 以上の方式が「全体最適化」の発想だ。
  ・ コストダウンを目的に旧式発電所を廃止するのは「部分最適化」の発想だ。(部分だけを見て、全体を見ない。)
  ・ 部分最適化だけを狙うと、社会全体に莫大な損失をもたらすことがある。 




 【 追記 】
 上記では  【 関連項目 】 の箇所で、朝日新聞の記事を紹介した。そこでは(停電の原因について)「旧式の火力発電所を廃止していることが問題の根源だ」と示した。
 では、そのことがわかっているのに、なぜ電力会社は旧式の火力発電所を次々と廃止していくのか? 別に、今になってわかったことではなく、以前からずっとわかっていたことだ。たとえば、こうだ。
 背景には、古い火力発電所の休廃止が相次いでいることがある。電力自由化に伴う競争の激化で、電力各社は採算が悪化した老朽火力を維持できなくなっている。
( → 社説:慢性的な電力需給逼迫 再生エネ軸に安定化策を | 毎日新聞 2021/7/19

 こういうふうに「古い火力発電所の休廃止が問題だ」と1年以上前からわかっていた。なのに、わかっていながら、どうしてその愚行を継続しているのか? これでは「穴に落ちる」とわかっていて、わざと穴に落ちようとしているようなものだ。どうしてそういう愚行を継続するのか? 

 その理由が、本項の 【 補説 】 で説明された。つまり、「部分最適化と全体最適化」という概念である。経営者は「部分最適化」のことばかりを考える。コストの高い発電所は廃止した方がいい、と考える。そうすれば利益は最大化する、と考える。
 しかしそのとき、「全体最適化」のことは見失われる。確かにコストだけは削減されるが、広い目で見れば、停電によって莫大な損害が発生しかねない、とわかる。
 実は、これは、東日本大震災のときの構造と同様である。あのとき、「津波対策の費用を節約すれば、防災対策コストを削減できて、コストを削減できる。それで利潤を最大化できる」と考えた。それが当時の東電社長の方針だった。かくて彼はコストの削減に勤しんだ。目先の局所的な利益にばかりとらわれた。部分最適化ばかりにとらわれた。しかしその結果、全体最適化には失敗した。東電は(短期的には)部分的な利益を最大化できたが、(長期的には)日本全体に莫大な損失をもたらした。……これが、福島の原発事故を起こした構造だった。
 そして、それと同じことが、今も「電力不足」という形で起こりつつある。その根源は、「部分最適化と全体最適化」という概念で理解できるのだ。

 ※ 比喩的に言えば、「木を見て森を見ず」と言える。
   視野があまりにも狭すぎるのだ。愚か者にはありがち。


 ※ この件は、下記項目でも言及した。
    → 局所最適化と全体最適化: Open ブログ
posted by 管理人 at 20:55 | Comment(1) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2022年07月03日 22:49
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