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Amazonの宅配は最近、ヤマト運輸から、Amazon の業務委託を受けて宅配をする人たちに替わりつつある。この人たちはフリーランスで働いているが、個人事業主としての扱いなので、労働者としての権利がない。そのせいで、苛酷労働に悲鳴を上げている。1日13時間の苛酷労働で、賃金は最賃以下だ。
本日の朝日新聞が報じている。
男性はフリーランスとして、アマゾンの2次下請けの運送会社と業務委託契約を結び、配送の仕事をしている。朝7時半に出勤し、1日13時間働く。
2020年1月からアマゾンの荷物を配り始めた。当初は1日に配るのは70個ほど。夜8時ごろには帰宅できた。週5日働き、休憩も3時間ほど取れることも多かった。
ところが1年ほど前、状況は一変した。契約を結ぶ会社側から、アマゾンが配達ルートの選定にAI(人工知能)を採用したと知らされた。荷物は急増。かつての3倍近くの荷物を配る日もあり、休憩が1時間も取れない日も出てきた。「一緒に住んでいると思えないほど、顔を合わせない。疲れて家族のことを考える余裕もないです」
日当は1万8千円のまま。ガソリン代や車の維持費は自己負担で、手元に残るのは月26万円ほどだ。
( → (政治とくらし 2022参院選)荷物3倍、家族との時間がない 配送業、AIがルート選定:朝日新聞 )
1日13時間労働で、月 22日なら、月286時間労働。経費を除いた収入が 26万円なら、時給は 909円。残業割増しの分を考慮すると、時給は 829円だ。
( ※ 計算法: 残業は1日5時間だが、これを 25%割増しで換算すると、6.25時間分。1日14.25時間働いているのと同じになるので、月 313.5 時間分。26万円をこの時間で割ると、時給は 829円。)
一方、神奈川県の最低賃金は 1,040円だ。
→ 最低賃金のお知らせ - 神奈川県ホームページ
( ※ 残業割増しや休日出勤割増しは別途加算される、と記述してある。)
ともあれ、最低賃金 1,040円に対して、Amazonは時給 829円しか払っていない。これは明らかに違法行為(脱法行為)であると言える。
のみならず、1日5時間の残業を月 22日もやらせたら、月 110時間になる。これは「月 45時間まで」という残業規制の規定に反する。ここでも違法行為をしていることになる。
→ 時間外労働の上限規制
実際には、「業務委託をしている個人事業主」という扱いで、労働者に対する規制をすり抜けているわけだが、こういうのは脱法行為であり、許しがたい。労働者を奴隷扱いしているとも言える。
朝日新聞は、単に事象を報道するだけでなく、法律面でも指摘するべきだろう。
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以上の話に対して、読者は文句を言うかもしれない。
「困ったときの Openブログはどうした。うまい案を出せ」と。
まあ、私としても、簡単な解決策を示すことはできる。こうだ。
「転職すればいい。さっさとアマゾンとの契約を打ちきって、ヤマト運輸に乗り換えればいい。ヤマト運輸でも、個人事業主に業務委託をしている。そこで働けば、まともな生活ができる。つまり、短い労働時間で、多くの収入を得ることができる」
まあ、これは当り前なんですけどね。私がいちいち言うまでもないことだ。
ではなぜ、彼らはあえて Amazon と奴隷契約を結ぶのか? うーん。よくわからないが、「自分の失敗を認めたくない」と思っているのかも。以下で説明しよう。
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実は、以前は、Amazon はヤマト運輸や佐川急便よりも高収入だった。ヤマト運輸や佐川急便は、1個 140円の業務委託だったのに、Amazon は1個 170円の業務委託だった。
→ ヤマト運輸、佐川急便、Amazon、これから委託を受けるならどこ?
そこで、冒頭記事のような人は、「Amazonで高収入になるから、Amazonの業務委託を受けよう」としたわけだ。それで高収入を得て、「成功した」と思っていた。
しかし1年前に、Amazon は方針を改定した。配達の数量は3倍になったのに、払う料金総額は同じとなった。結果的に1個あたりの単価は3分の1になった。ガソリン代などの経費が多くかかることも考えると、3分の1以下になったとも言える。ざっと見て、170円から 60円にまで下がった。これは、ヤマト運輸や佐川急便の 140円 よりも大幅に安い。
結局、最初は高値で契約したあとで、途中で安値に切り替える、という詐欺的な手法を採ったわけだ。そういう詐欺に引っかかった人が、冒頭のように、ひどい目に遭うわけだ。
ただし、彼らは「自分が詐欺に引っかかった愚か者だ」とは認めたくない。そこで、ヤマト運輸や佐川急便に転職しないで、あえて Amazon で耐え忍ぶ……というふうになるらしい。
だから、そういうプライドを捨てて、さっさとAmazonから離れて、ヤマト運輸や佐川急便に転職すればいいだけのことだ。ちなみに、ヤマト運輸に勤めるなら、ここで応募すればいい。
→ 中途採用 | 契約社員採用(アンカーキャスト) | ヤマト運輸
問題の解決法は、以上で示した。いちいち私が示すまでもないような、簡単な解決法だ。
なのに、労働者も朝日新聞も、その簡単なことに気づかないようだ。どうなっているんだか。頭が猛暑でイカレたわけでもあるまいし。

※ それはそれとして、最低賃金以下で働かせる Amazon については、摘発するべきだろう。政府が何らかの介入をするべきだ。場合によっては業務委託契約をすべて解除させるべきだ。その場合、労働者が解雇されるというよりは、日本 Amazon がつぶれる。
【 関連サイト 】
同趣旨の話は、前にも記事になって、話題を呼んだ。朝日の記事と読売の記事がある。
(1) 朝日の記事
神奈川県内の50代男性ドライバーは、2019年3月、アマゾンの2次下請けの運送会社と業務委託契約を結んだ。個人事業主なので、自分の車を使い、荷物の配送を担う。
この1年ほどで、扱う荷物の量が急増。働き方が過酷になり、疲労がたまるようになった。
荷物量が増え、毎日190個ほどを配る日が続いていた。前日、帰宅後に妻に「このままじゃ、倒れるか、事故を起こすかもしれない」と話したところだった。
男性が毎日パソコンに入力してきた荷物量の記録によると、20年7月の1日の平均個数は116個。ところが、1年ほど前、業務委託契約を結んでいる会社側から、アマゾンが宅配ルートの選定にAI(人工知能)を採用したと知らされた。荷物は急増し、21年8月には平均が178個、今年5月は214個に増えた。
一方、報酬は日当1万8千円のまま。個人事業主のため、ガソリン代や車の維持費など月5万円は自己負担で、手取りは月22万円ほどだ。
「もう限界。改善されないと、いつか倒れる」と漏らす。
労組の立ち上げに加わった40代の別の男性ドライバーも、長時間労働の問題を訴える。
1日12時間以上働き、今年3月の週の平均労働時間は、66時間だった。
「週2日の休みは疲れてほぼ寝るだけ。湯船で寝てしまい、おぼれそうになって気づくのは日常茶飯事です」と話す。
( → アマゾン配達員「荷物量が異常」、AIで決まる激務 労組結成の背景:朝日新聞 )
(2) 読売の記事
1日あたり200個前後の荷物を担当。配達が早く終わっても、遅れている別のドライバーの荷物を引き受けるよう会社から指示され、1日に働く時間は12時間以上になることもある。どれだけ運んでも報酬は1日で固定だ。
配達状況は、スマートフォンの位置情報で同社に把握される。契約で月に働く日数が定められているが、「人手が足りない」と急な休日出勤を求められることもある。契約書には同社の指示に従うよう記され、違反すれば契約を解除される項目があるという。
同社は取材に「契約内容は答えられない」としている。しかし、是正勧告は、個人ドライバーとの間に事実上の雇用関係が認められるとする内容だった。
個人事業主を保護するため、政府は昨年3月、指針を策定。実質的に発注元の指揮命令下で働いていれば、労働基準法など労働法令の対象となると明記し、▽報酬の減額▽一方的な発注取り消し――など12類型について、独占禁止法違反などになりうるとの見解を示した。
( → 1日200個の荷物・ガソリン代は自己負担…立場弱い宅配個人ドライバー「自由なんてない」 : 読売新聞 )
最後の話を読むと、独占禁止法などで、法的規制はちゃんとできているらしい。なのに Amazon は違法行為のやり放題だ、ということらしい。
あるいは、例によって、「企業は独禁法違反のやり放題。いざとなったら自民党に頼めば、公取委を黙らせてくれる」ということなのかもしれない。
思えば、能年玲奈などを排除する芸能事務所の問題でも、公取委が介入したのに、途中で沙汰止みになってしまった。ここでもはやはり、芸能事務所が自民党に献金で圧力をかけて、公取委を黙らせたのだろう。そうとしか思えない。
日本では独禁法違反のやり放題となる。だから、Amazonの違法行為も、のさばるままだ。
そして、そういう自民党を「素晴らしい」と評して、選挙で勝たせるのが、日本国民だ。
ウーバーなどの雇用といっしょで、ギグワークの問題であるようだ。
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ただし、今調べてみたら、「Amazonと契約するのは、報酬が高いので、大手運送会社と契約するよりも、収入がいい」という反論があった。
→ https://www.bengo4.com/c_5/n_14439/
この人の場合は、Amazonの方がいいらしい。ならば、それで満足しているのだから、それでいいのだろう。
Amazonはあるとき急激に単価を切り下げることがあるが、そうなるまでは、Amazonで続ければいいのだろう。
一方、単価切り下げなどでブラック労働にされた人は、さっさとAmazonから離れればいいわけだ。これらの人がなぜ離れないのかは、不思議である。本文に記したとおり。
まあ、人それぞれで、現状はまだら状態であるようだ。