2022年06月30日

◆ 日本の供託金が高いわけ

 選挙の供託金は、日本だけが極端に高い。なぜか? 隠れた真相を探る。

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 選挙の供託金は、日本だけが極端に高い。このことで、「一般人の立候補を困難にさせるので、民主主義にとって好ましくない」という批判がある。朝日新聞がしばしば同趣旨の記事を掲載する。
 《 立候補だけで300万円 「乱立防ぐ」高額な供託金、なぜ日本だけ? 》
 社会を変えたいと思って政治家を志しても日本では簡単には立候補できない。立候補の乱立を防ぐために設けられた供託金制度があるためだ。主要先進国と比べて高額な日本の供託金は、政治参加を制限しているとの指摘もある。海外では裁判所の違憲判決を受けて制度を廃止した国や有権者らの一定数の署名を金銭の代わりに立候補の条件にする国もある。
 7月10日に投開票される参院選の供託金は、選挙区が300万円、比例代表は1人当たり600万円かかる。一定の得票数に達しなかった場合には没収され、国の収入となる。
 実は世界の主要国で、日本のように供託金制度を導入している国は少ない。
 国立国会図書館などの調査によると、先進国を中心につくる経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国のうち、国政レベルの議会選挙で供託金制度を採用しているのは日本を含めた13カ国で少数派だ。主要7カ国(G7)では日本と英国以外はいずれも供託金が必要ない。
( →  朝日新聞デジタル

 記事のタイトルには「なぜ?」とあるのに、疑問だけがあって、回答がない。記者も最初から反語のつもりで書いているらしくて、批判の論調ばかりで、解明の態度が見られない。まったくもって、読者を馬鹿にしている。自分の言いたいことばかりを言っている感じの記事だ。

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 そもそも、供託金が高額であることは、たいして問題とならないはずだ。どうせ当選するのであれば、全額が返済されるからだ。当選しなくても、ちょっと善戦すれば、全額が返ってくる。没収されるのは、ろくに票を取れない泡沫候補ばかりだ。だから、もともと実害はないはずだ。

 そう思っていたところへ、今日になって、選挙公報が配達された。その量を見て、びっくりした。とんでもない分量の紙数が費やされている。こんなものを読む人がろくにいないことを考えると、ものすごく資源の無駄になっていると言えるだろう。
 逆に言えば、立候補者にとっては、こんなに大量の宣伝ができるのだから、たとえ供託金が没収されても、十分に宣伝効果はあったことになる。無料の政見放送の分も考えると、供託金が没収されても十分にペイする、とすら言える。
 そして、そういう大きな宣伝効果こそが、「泡沫候補が乱立する」ことの理由だとわかる。

 どうせ「なぜ?」とタイトルに書くのなら、以上のことは記すべきだった。以上のことは、私の独自見解ではなく、これまでも何度も指摘されたことだからだ。

 ――

 さて。このあとで本サイトの独自見解を加えよう。
 供託金が高額であるにもかかわらず、立候補者が大量に出る。その理由は、選挙公報と政見放送には大きな宣伝効果があることだ。……ここまで理解すれば、海外との比較について、次の推測が成り立つ。
 「日本では(無料の)選挙公報と政見放送があるが、外国ではどちらもない」


 外国では選挙公報と政見放送がないはずだ、という推測だ。こういうことであれば、何の宣伝効果も得られないのだから、「高い供託金を払っても立候補したい」という動機がなくなる。

 そう思って、調べてみた。
 まずは、「外国には選挙公報と政見放送がない」という結論を狙って、ググってみたが、何の情報も得られなかった。「何かがある」という情報は見つかるが、「何かがない」という情報は見つかりにくい。

 では、どうやって調べたか? こうだ。
 「選挙公報」と「政見放送」が日本独自の概念であるとするならば、その言葉を英語で訳して、英語検索すると、日本の英語情報しか見つからないはずだ。

 こういう判断の下で、
選挙公報  official gazette for elections
政見放送  broadcast of political views

 という訳語を DeepL で得てから、そのフレーズを、ダブルクオーテーションでくくって、ググってみた。

 結果は、はい。予想通りであって、「英語検索すると、日本の英語情報しか見つからない」というふうになった。欧米におけるその語の情報は皆無だ。
 というわけで、「選挙公報」と「政見放送」という概念は、日本にしかない。なぜなら、そういうものは海外には存在しないからだ。

 結局、海外では「選挙公報」と「政見放送」がないから、供託金は安いのだ。
 逆に言えば、日本で供託金が高いのは、民主主義を阻害するためではなく、選挙を宣伝行為のために悪用するのを防ぐためだ。そして、どうしてそういう悪用がなされるかというと、日本では「選挙公報」と「政見放送」があるからだ。この二つがあることによって、日本の民主主義のレベルは高くなっている、とも言える。(少なくとも広報活動という面では。)

 ――

 結局、朝日新聞が「海外並みに供託金を下げよ」と主張するのであれば、まずは「海外と同様に選挙公報と政見放送をなくせ」と主張するべきだった。
 なのに、そうしないで、供託金だけを引き下げると、宣伝目的の人が大量に立候補するだろう。そうなると、選挙公報(の紙数)は今の何十倍にも増えてしまいそうだし、政見放送の時間も何十倍にもなってしまう。(普通の番組が削られてしまう。)つまり、弊害が莫大になる。……そんなことをするのは、愚の骨頂だ。



 [ 付記 ]
 朝日新聞は、頭でっかちの傾向がある。「民主主義」や「自由」という概念に囚われるあまり、現実の金銭勘定(コスト計算)ができなくなっていることが多い。
 それというのも、文学部出身の記者が多いせいかもしれない。足が地に着いていない書生気質が多いのかもね。

posted by 管理人 at 22:54 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
イギリスには "Party Political Broadcasts" という日本の政見放送に相当するものがあります。前回選挙で 50 議席以上獲得した「政党」が公共放送で政策を放送する権利を得ます。

https://www.bbc.com/historyofthebbc/100-voices/elections/party-political-broadcasts
Posted by alkalifearts at 2022年07月01日 09:06
> 前回選挙で 50 議席以上獲得した「政党」

 それだと、泡沫候補は対象外なので、日本の政見放送とは事情がまったく異なりますね。(個人よりも)政党に与えられた権利だと見なせそうです。
Posted by 管理人 at 2022年07月01日 10:14
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