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( ※ 本項の実際の掲載日は 2022-06-17 です。)
九州電力が「採算に乗らない」として撤退を決めた。昨今の燃料価格高騰のあおりをうけて、LNG の長期価格も上昇しているからだ。
東京ガスの方は撤退するつもりはないようだが、事業規模が巨額すぎて、自社だけで負担できるか心許ない。先行きは暗雲が垂れ込めている。
九州電力は15日、東京ガスと検討してきた千葉県袖ケ浦市の液化天然ガス(LNG)火力発電所建設計画からの撤退を発表した。燃料価格の高騰などで事業環境が悪化し、投資を続けられないと判断した。東京ガスは「開発検討を引き続き進める」とするが見直しを迫られる可能性もある。
東京ガスは電力販売に力を入れており、発電所を確保しようとしている。建設費は数千億円にのぼるため、九電が抜けたあと1社だけで負担できるかどうかが課題となる。
太陽光発電が普及したことで、火力発電所の稼働率は伸び悩む。効率が低く多くの燃料を使う古い発電所は採算が悪化している。ロシアによるウクライナ侵攻で、原油や石炭、LNGの価格が高騰。脱炭素の流れも強まっていて、巨額の費用や時間をかけて建設することは難しくなっている。
国も対策に乗り出している。発電所の維持にかかる費用を、電力の小売会社などが負担する「容量市場」を20年度に導入した。
( → 千葉LNG新発電所、九電撤退 原発2基分規模の計画、燃料高騰で投資断念:朝日新聞 )
「容量市場」が対策だ、という口ぶりだが、これは小幅の調整ができるぐらいの話であって、抜本的に構造を変えるだけの力はない。しかしながら、電力不足の問題を解決するには、抜本的に構造を変えることが必要となる。特に、長期的には、古い発電所をバックアップとして整備するとともに、新規の発電所を建設することが必要となる。(前項を参照)
ところが、供給の増大を図ろうとして、新規の発電所を建設するにしても、上記のように建設が困難となる。
その一方で、古い発電所は「高コストだ」という理由で、次々と廃止されていく。これでは将来のブラックアウトを招きかねない。
つまり、なすべきことがわかっていても、それができない。やろうとしても、コストの問題がのしかかる。のっぴきならなぬ事態だ。困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「古い発電所が高コストで、新しい発電所が低コストであるなら、新しい発電所を建設していけばいい。しかしそのために燃料価格の高騰が問題となる。ならば、かかるコストに対応するように、高い料金を払えばいい」
これは、「必要な安定電力には高い料金を払う」ということだ。電力の安定化のためにコスト負担が必要ならば、必要な金を払う、ということだ。ごく当たり前のことだ。当たり前のことをやるだけで、あっさり解決する。こんなに簡単なことはないだろう。
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ではなぜ、現実には、その当たり前のことができないのか? それは、人々が自分の姿を理解できないからだ。自分で自分の手首を縛っている、という愚かな状態を理解できないからだ。要するに、人々は「裸の王様」のような状態なのである。自分は愚かな裸の状態になっているのだが、そのことを理解できない。かわりに「自分は正しいことをしている」(自分は裸ではない)と錯覚している。……この錯覚こそが問題の根源だ。
だから、根源対策は、「自分たちは間違った方針を取っている」(自分たちは裸だ)と理解することだ。
比喩をはずして言えば、こうなる。
「日本は現在、国を挙げて、電力を不安定化しようとする方針を取っている。そういう狂気の方針を取っている」……そのことを、自覚するべきだ。そう自覚することが大切だ。
そして、そう自覚したとき初めて、日本はなすべきことを見出すことができる。
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では、日本がなすべきこととは何か? それはもちろん、「電力を安定化するための制度」をつくることだ。つまり、次のことだ。
・ 安定的な電力を優遇する
・ 不安定な電力を冷遇する
これを具体的に言えば、次のようになる。
・ 安定的な電力には、高い価格を払う
・ 不安定な電力には、低い価格を払う
ここで、不安定な電力とは、太陽光発電や風力発電だ。安定的な電力とは、原発の電力だ。また、不安定な電力を補う形で変動する電力もあり、これを特に優遇するべきだ。具体的には、水力発電や火力発電だ。
以上のことは、前にも詳しく言及したことがある。一部抜粋しよう。
私としては、次の三つの概念を推奨する。
(i) 「安定電源」…… 原発のように一定の発電量を維持する電力。(従来の「ベースロード電源」に相当する。)
(ii)「不安定電源」…… 太陽光や風力のように、天候や気象という外部要因によって変動する電源。人間が制御できない要因で変動する電源。不安定な電源。
(iii)「可変電源」…… 不安定電源が勝手に変動した分を補うだけの発電をする電源。通常、火力発電であるが、水力発電も含まれる。将来的には、EV の充電池の電源も含まれるだろう。
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以上の三つに応じて、価格もそれぞれ変動させるべきだ。
・ 安定電源 …… 普通 10円/kWh 程度
・ 不安定電源 …… 安価 5円/kWh 程度
・ 可変電源 …… 高価 15円/kWh 程度
上の数字は、ごく大雑把な数字だが、おおよその目安にはなるだろう。
( → ベースロード電源という概念をやめよ: Open ブログ )
このように、電源の安定・不安定に応じて、電力の買い取り価格に差を付ければ、自然に、安定電源や可変電源が増えていく。特に、東京湾に新たに作られるような LNG 火力発電は、「可変電源」とされて、高価格の買い取りがなされるようになる。そうなれば、今回のような事例では、「電力の買い取り価格が上がるので、 LNG 価格が上がっても大丈夫」というふうになる。そういう形で、優先となる火力発電の新設が進むので、電力の安定化はなされるようになる。
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結論。
政府は「脱炭素化」をスローガンにして、太陽光発電の買い取り価格を上げることばかりに熱中した。しかし太陽光発電は不安定電源なので、太陽光発電を増やせば増やすほど、電力の安定化は損なわれた。現在の電力が不安定なのは、政府が自分自身で不安定な電力をめざしたからだ。そのことに自分で気づいていない。
だからまずは、「現在の電力が不安定なのは、これまで不安定な電力をめざしてきたからだ」と理解するべきだ。
その上で、今後は「安定性をもたらす電力(可変的な電力)をめざす」というふうにするべきだ。そのためには、方針を改めるべきだ。
これまでは「脱炭素化」をスローガンにして、「電源の種類を変えること」を目的とした。「火力を減らして、再生エネを増やす」というふうに、「電源構成を変えること」を目的とした。
しかし今後は、電源構成などは優先しなくていい。かわりに「システムの安定性」を最優先にするべきだ。「ブラックアウトを回避する」という意味の「システムの安定性」を最優先とする。そのために、電源構成を適当に構成し直す。その際、「炭酸ガスの削減」や「コストの削減」も考慮されるが、それらは副次的な目的だ。最優先の目的は「システムの安定性」なのである。
現状はそうではない。
・ 企業の最大目的は「利益の拡大」である。
・ 政府の最大目的は「炭酸ガスの削減」である。
そのいずれにおいても、「システムの安定性」はないがしろにされた。そして、今なお、そのことを自覚していない。だから、「国民に節電を呼びかける」というような泥縄的な対応ばかりをしていて、肝心の基幹システムを強化しようとしないのだ。
こういう愚かな「裸の王様」の状態こそ、現在の日本の電力問題における根源的な病理だろう。
[ 付記 ]
ちなみに、昔の日本はどうだったかというと、「電力の安定性」を最重視して、やや高めの料金設定をしていた。特に必要もない余剰な設備をかかえることで、いくぶんコスト高を招いたが、十分な電力供給力があり、停電の危険はなかった。「日本の電力システムは優れている」と誇ったものだ。
ところが自民党の「市場原理重視」という人々が、これを問題視した。「市場原理を導入すれば、無駄なコストをカットして、料金を引き下げることができる」と主張した。こうして電力市場が投入された。結果的に、大手電力会社はコストカットに励んで、無駄なコストをカットしようとした。だから、余剰な設備を次々と廃止していった。こうして「万一に備えたバックアップ施設」は消えていった。つまり、ブラックアウトの危険は高まった。
※ これは前項で述べた「テキサスの停電」と共通する。
→ 電力の不足への対策: Open ブログ
今日の日本の電力危機の問題は、日本政府があえて意図的にもたらしたものなのである。それというのも、目先の金にとらわれて、自分が何をしているのかも理解できなかったせいだ。
いわば、目の前に百円玉をぶら下げられて、それをつかむことにばかり専念しているようなものだ。そのとき、足元がきわめて危険な綱渡りをしていることに気づかない。自分が何をしているかを理解できない。目の前にある百円玉のことしか考えられない。……それが今の日本だ。
【 関連サイト 】
政府の節電要請についての記事。
→ 政府、夏の節電協力を要請 全国規模は15年度以来 | 共同通信
→ 政府が7年ぶりの節電要請 電力不足を乗り切れるか 新しい節電方法
→ “節電”で家庭や企業に“ポイント還元”| テレ朝ニュース
- ※ 目先の利益で誘導しようという発想。金で人を釣ることしか考えていない。泥縄対応の極み。驚くほど馬鹿馬鹿しい案だ、としか思えない。