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「真犯人は警察だ」というドラマが、ここのところ、立て続けに放送されている。ネタバレになるのを防ぐために、あえて題名は記さないが、ツイッターなどで「"犯人は警察"」を検索すれば、ドラマ名もわかる。
しかも、それが続発している。「イ***」「D***」というドラマもそうだ。それというのも、昨年7月に「ボ***」というドラマで警察の一員が真犯人だったことから、それを真似して、一気に増えたらしい。(真似というところからして安直だね。)
しかし、これは気に食わない。「真犯人は警察だ」というのは、禁じ手だと言えそうだ。「ノックスの十戒」に含まれてはいないが、「ヴァン・ダインの二十則」には含まれる。
探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。これは恥知らずのペテンである。
「真犯人は警察だ」というのは、意外感はあるが、興醒めである。警察というのは、事件の扱いをいろいろと左右できるのだから、それが真犯人だというのでは、スポーツで言えば、「プレーヤーが審判を兼ねている」「ジャッジする審判がプレーヤーになる」というようなもので、不公正であるのも甚だしい。
特に、最近話題になった 某ドラマでは、真犯人は「その事件を扱う警察の管理官」という立場の、捜査一課長だった。しかし、「犯人はたまたま警察のどこかの部局に所属していた」というのなら、まだしもありえなくもないだろうが、「犯人はちょうど その事件を担当する担当者で、しかもチーム内で最高権限をもつ捜査一課長だった」というのは、ピッタリすぎる。そんな偶然、あるわけがないだろう。ご都合主義も甚だしい。
こんなご都合主義による解決なんて、それこそ「タナボタ」ふうである。「空にむかって銃を撃ったら、たまたま銃弾がその人に当たったのが真相です」というのと同じぐらい、偶然に頼っている。「この犯罪のトリックは偶然です」なんて、馬鹿馬鹿しすぎて、呆れるしかない。真相を聞かされても、興醒めになるだけだ。
「私は警察です」
「おまえが犯人だ!」
ちなみに、「マイ***」というドラマでは、最後の直前まで、真犯人の条件は何もなかった。真犯人は日本中の誰でもありえた。だったら、最後まで、真犯人は警察以外の誰かにしてもよかった。ことさら「犯人は警察だ」ということにしなくても、「これまでまったく不明だった第三者が犯人だ」ということにしてもよかった。むしろその方が自然だろう。(現実の犯罪ではそうなるのが普通だ。)
その意味で、「犯人は警察だ」というのは、ドラマとしては筋悪なのである。ドラマとしては「登場人物のうちの誰かにする必要がある」のかもしれないが、だからといって「犯人は警察だ」という禁じ手を使うのは、ドラマの全体を興醒めにしてしまう。「急に新たな証拠が見つかって、これまで不明だった未知の人物が真犯人だとわかった」という方が、よほど現実的なのである。
[ 付記 ]
「マイ***」というドラマでは、もう一つ、興醒めな点があった。「首謀者(主犯)は小学1年生だ」という点だ。この主犯が実行犯を脅迫して、最初の犯罪を起こした。しかし、これはあまりにも不自然すぎる。
というのは、「犯人が幼児だ」ということだけでなく、「この幼児が実行犯を脅迫した理由は、実行犯が不倫をしていたと知っていたこと」だからだ。この場合、この幼児は「不倫とは何か」を知っていたことになる。これはあまりにも不自然だ。
ま、ませた子供なら、概念的には「不倫とは何か」を知っていたかもしれない。しかし、「不倫とは何かを知っていて、それが弱みになると理解して、相手にとんでもない犯罪をするように仕向ける」というのは、許容の範囲を超えている。小学1年生がそこまで「不倫とは何か」を理解しているはずがない。
視聴者は大人だから、そこを不思議に思わなかったのかもしれないが、「犯人が幼児だ」というのは、あまりにも度が過ぎており、許容の範囲を超えている。こんなドラマは、インチキすぎると言える。
※ 脚本家の名称は「黒岩なんとか」である。
《 加筆 》
この作品をいちいち批判するのは、どうしてかというと、この作品が今季の出来映えでは1番だからだ。視聴率もトップだった。そういう人気作品が、こういうデタラメな方針を取るというのは、許しがたい……というわけだ。ミステリーファンからの批判である。(うるさいマニアからの立場だ。)
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今回は、同じようなテーマのドラマが続出している。ただ、そういうことは前にもあった。数年前のことだが、「タイム・リープ」をテーマにしたドラマが次々と続出したことがあった。そして、今年は「犯人が警察だ」というドラマが続出している。
日本のドラマというのは、どうもブームみたいにテーマをそろえる傾向がある。ヒット作の真似しているせいですかね?
[ 余談 ]
ついでだが、秋元康の原案になる「真犯人フラグ」というドラマでは、あまりにも御都合主義で犯人が決まってしまったので、視聴者は頭に来たらしい。呆れたすえに、
「秋元ドラマを推理ドラマとして観ることは二度とないでしょう」
というふうに見限った人もいる。
→ 真犯人フラグは、推理小説の原則と言われる ヴァン・ダインの〜 - 知恵袋
※ ちなみに、私はこのドラマ(2シーズン)を見なかったので、時間を無駄にしないで済んだ。なぜ見なかったかと言えば、1シーズンを全部録画したあとで、最初の1回の冒頭 10分間を見たときに、「つまらない。見ない」と決めて、さっさと全部消去したからだ。ゴミドラマは、最初の 10分を見ればわかる。