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朝日新聞の地方版に、次の記事がある。
梅澤さんは、搾乳牛約30頭から2日間で計1400リットルを搾り、全量を農協のミルクローリーで出荷する。ただホクレンは3月、生乳の取引価格(乳価)を全用途で据え置いた。飲用は1キロあたり 121円40銭だ。
「今の乳価は、酪農家がかける時間とコストに見合わない。乳価は労力に見合う必要があるし、それが酪農の未来に関わる」
飼料の値上がりも酪農家を苦しめる。Jミルクによると、今年4月時点で乳用牛の配合飼料価格は1トンあたり約9万1千円で、1年間で14%値上がりした。
( → 朝日新聞:有料版 )
「酪農家がかける時間とコストに見合わない」というが、そんなに安い乳価なのだろうか? 記事には、「1キロあたり 121円40銭」とあるが、これは十分に高い金額である。ちなみに、欧米ではこうだ。
米国の乳価はキロ50円 史上最高水準を記録。
ドイツは5月に牛乳小売価格と生産者乳価の値上げで、それぞれ大きな動きがあった。……生産者乳価を現在の1リットル当たり27ユーロセント(約44円28銭。1ユーロ164円換算)から……
ドイツ酪農連盟はこの決定に対して、「生産者乳価は7月から1リットル3ユーロセント強(約5円)値上がりして30ユーロセント台(約50円)になるだろう。……
( → 中酪VOICE37-2 )
米国でもドイツでも、1リットル 50円弱というのが、これまでの相場であるようだ。北海道の価格は、それに比べると、2.4倍もの高価格である。
では、どうしてそれほどの差が付くのか?
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すぐに思いつくのは、「欧米では土地が広いから」ということだが、日本だって北海道は土地がありあまっている状態であり、土地が狭いのが理由だとは思えない。では、何が理由か?
私が思いついたのは、こうだ。
「日本では、記事にもあるように、飼料を与えている。その飼料の価格が高すぎるのが理由だ。だから、飼料のかわりに、牧場の草を食わせればいい。そうすれば、飼料の金額を浮かせることができるので、低コストで牛乳を生産できるはずだ」
こう思ったので、調べると、次の記事が見つかった。二つある。
(1) 牧草とサイロ
自作の牧草をサイロに入れて、サイロで醗酵させる、という方法がある。(サイレージ)
これは、冬には雪で覆われる北海道に適した方法であるようだ。ただし、牧草の選び方が大切で、普通の牧草(チモシー)では適していないそうだ。大量の牧草を取り込めるように、普通とは違う種類の牧草(オーチャードグラスとペレニアルライグラス)を選ぶ必要があるという。しかし、人とは違う方法を取ると、「あいつは頭がおかしくなった」と、周囲の農家からさんざん馬鹿にされるそうだ。
それでも、この方法を取ることで、「収入の増加よりも支出の減少」を実現できて、結果的には、収益(= 収入 ー 支出)を向上させることができたという。つまり、それまでは高額の飼料を購入することで、やたらと支出が多かったのだが、その点を改善できたという。
詳細は下記。
→ 飼料の組み立て方の基本B 自給飼料主体にした高収益農家の飼料組み立て
(2) 完全な放牧
雪の降る北海道であっても、夏場ならば雪の心配がないので、完全な放牧をすることができる。これだと、飼料代が激減する。
実は、大酪農地帯の北海道でさえ、放牧は1割に満たないのが現状です。
日本における酪農のほとんどは牛舎の中で牛を飼養管理する舎飼いです。どちらにもそれぞれメリットはありますが、輸入飼料に依存しがちな舎飼いに比べ、放牧は、国産(飼料自給)率が高く、……
1頭当たりの年間乳量は5000キログラムと全国平均の6割未満ですが、支出を減らして利益を上げ、……
ニュージーランドでは1戸あたりの乳量増産ではなく、農家の利益最大化を目標に放牧を推進した結果、国全体の乳量が3倍に増えました。このように規模拡大よりも適正規模の放牧にすることで、飼料費が減り、機械代が減り、草地更新や労働時間が減り、人も牛も良くなり、酪農家が経済的、時間的にも余裕を持てる……
乳量は減りましたが、それ以上に購入飼料が半減し、牛が自ら牧草を食べるため、朝晩のエサやり時間が不要になり、牛の病気も少なくなって医療費が減るなど、あらゆるコストが大幅に減ったのです。
見た目の収入が低くなりがちな放牧経営は難しいと、酪農家に敬遠されがちですが、上野さんは、乳量や収入アップよりも、放牧による飼料自給で牛を健康に飼えばさまざまな支出が減り、手元に残る利益は増大すると話しました。
( → 「放牧」は低コストな酪農システム ポイントは「収入」より「支出」|マイナビ農業 )
放牧にすると、乳量が減り、乳価も下がる。そのことで収入はかなり低下する。しかしそれを補ってありあまるほど、支出が減る。だから手元に残る金は増える。
ここで問題だ。
では、なぜ、そのような「儲かる酪農」が推進されないのか? いったいなぜ? 正解はわかっているのに、いったいどうして正解が実現しないのか?
私が思うに、これはいつもの例と同じ理由だ。それは「利権」だ。日本の諸悪の根源は「自民党の利権」が理由であるように、農業の諸悪の根源は「農協」(JA)だ。そう思って、頭を働かせば、すぐに理由は見つかる。こうだ。
「農協は、飼料の販売で、巨額の販売手数料を得ている。だから、農協としては、飼料の販売のために、放牧をやらせたがらないのだ」
仮に北海道で放牧が進んだら、農家の収入は大幅に上昇し、かつ、牛乳の価格は低下する。酪農家は大喜びだし、消費者も大喜びだ。しかし農協だけは、飼料の販売手数料が激減して、儲けが減る。そいつは困る。
だから、酪農家が損しようと、消費者が苦しもうと、高コストな「飼料酪農」という道を選ぶのだ。「他人がどれほど困ろうと知ったこっちゃない。おれたち JA が儲ければいいのさ」というわけだ。
これが世の中の(汚い)原理というものだ。
牛乳は白いが、人は腹黒い。
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結論はこうだ。「乳事業は、ニュージーに学べ」
日本がニュージーランドの生乳生産コストの3倍かかってしまう主な要因は、「穀物を多給して舎飼い」をしているからであり、「飼料は草を主体に、草地を放牧区に分けて管理する集約放牧で、牛が自らエサを食べに行く通年放牧」にすることで、付随する設備費や機械購入費、人の作業自体も少なくなり、「放牧という営農システム」が低コストを実現しているという論理が成り立ちます。
( → 「放牧」は低コストな酪農システム ポイントは「収入」より「支出」|マイナビ農業 )
ニュージーランドは、乳事国。
の箇所の最後に、話の出典リンクを加筆しました。(書き落としていたので。)