――
(1) 供給過剰
太陽光発電は晴れた日の日中に発電量が増える。そのせいで供給過剰になることがある。特に需要の少ない日はそうだ。電力が余ってしまうので、受け入れ停止になることもある。
《 再生エネ、停止要請相次ぐ 企業活動少ないGW、需給バランス一致 失う発電の機会、ジレンマ 》
再生可能エネルギーの「出力制御」が今春、各地で相次いで行われている。大型連休初日の4月29日には、4地域で翌日に実施するよう指示が出た。大規模停電を防ぐためのやむを得ない対応だが、発電できる機会をみすみす失ってしまうことにもなる。
( → 朝日新聞 )
《 太陽光発電出力制御 9日にも四国で初実施 太陽光発電の拡大が影響 》
【香川】太陽光の発電事業者に一時的な送電停止を求める「出力制御」が今春、四国で行われる可能性が高まっている。太陽光発電の普及に伴い、日照条件が良い時間帯などは電力供給が需要を上回り、最悪の場合、大規模停電を引き起こしかねないからだ。
( → 朝日新聞 )
(2) 送電線
この問題を解決するための方策として、「送電線を整備して、余った地域から不足する地域へ電力を融通する」という案がある。政府はこれを推進する。
《 地域間送電、容量倍増へ 再生エネ普及促す 運用は30年代: 》 国の認可法人「電力広域的運営推進機関(広域機関)」は28日、地域間で電力をやりとりする送電網の容量を、いまの2倍程度に増強する計画案を示した。投資額は最大4.8兆円にのぼり、電気料金に一部は上乗せされる可能性がある。北海道や東北、九州から、大消費地の首都圏や関西圏に電気を送りやすくして、再生可能エネルギーの普及を加速させる。
( → 朝日新聞 )
送電線があれば、余ったところと不足したところの双方が同時に解決するので、一石二鳥であり、うまい方法だ……と思うかもしれないが、それは素人の浅はかというものだ。実は送電線は建設コストがべらぼうに高くて、ほとんど「金をドブに捨てる」のも同然だ。
100万kW の送電線を作るには、100万kW の火力発電所を新設するのと同程度の費用がかかる。しかも、である。火力発電所ならば、発電してコストを回収できるから、かけた費用以上の金を回収することができて、帳尻は黒字になる。一方、送電線は、それを利用するのはほんの一瞬のことだから、たとえそのときに電力会社から費用を徴収するとしても、(ほとんどの期間で遊休しているので)売上げがほぼゼロに近い。したがって費用はまったく回収できない。仮に、送電線の費用が 100億円、火力発電所の費用が 100億円だとしよう。火力発電所ならば、(発電所を稼働させて)100億円の費用の全額を回収できる。一方、送電線ならば、(送電線が稼働するのは一瞬だけなので)100億円の費用のほとんどすべてが無駄になる。
送電線というのは、それほどにも無駄だらけの方法なのだ。愚の骨頂と言える。
→ 送電線に 4.8兆円の巨額浪費: Open ブログ
→ 連系線の拡充という方針: Open ブログ
(3) 蓄電池の施設
ならば電力を蓄電池に充電しよう……という案がある。蓄電池には大きなコストがかかるので、とうてい実用化は無理だと思えたのだが、これを事業化するという報道が出た。
《 余った太陽光発電、蓄電池に 出力制御増える九州、新事業 》
九州電力と三菱商事、NTT傘下のエネルギー企業NTTアノードエナジーは10日、蓄電池を使った共同事業を始めると発表した。九州では太陽光の発電量が増え、電気を使い切れない日が増えている。余った分を蓄電池にためて有効活用する。発電量が天候に左右される再生可能エネルギーの拡大には蓄電池の整備が欠かせず、将来的には全国に広げる考えだ。
まずは来年2月、福岡県内のNTTグループの敷地にリチウムイオン電池(容量4200キロワット時)を置き、九電の送電網につなげる予定だ。一般家庭約350世帯分が1日に使う電力量に相当する。
この蓄電池に太陽光などで発電した電気をためておき、需給に応じて卸電力市場などで売る。
( → 朝日新聞 )
よくもまあ赤字覚悟で事業化するものだ……と思ったのだが、よく読むと、こうある。
新たに置く蓄電池は小さく、これで出力制御をなくせるわけではないが、「問題解決の小さな一歩」(九電)と位置づけている。
つまり、本格的な事業ではなく、ごく小さなパイロット・プラントみたいなものだ。「容量4200キロワット時」ということだから、日産リーフで 100台分である。日産アリア(90kWh モデル)なら 47台分である。たいした量ではない。
こんなことをいくらやっても、「焼け石に水」とか「スズメの涙」と言うべきだろう。現実レベルで余剰電力の問題を解決できる見通しはまったくない。
(4) EV のバッテリー
では、どうすればいいのか? それは昔からわかっている。「 EV のバッテリーに充電する」ということだ。今はまだ普及率が低いが、将来的には、自動車のほとんどは EV になる。そのバッテリーに充電すれば、太陽光電力の余剰分をすべて吸収するのに足りるバッテリー容量がある。その計算は下記。
→ EV 蓄電の問題(太陽光発電で): Open ブログ
(5) 制度的な問題
ところが、それを実行しようとしても、それができない。なぜなら、制度的な問題があるからだ。それは、次のことだ。
「昼間電力を EV に充電するためには、昼間電力の料金を下げることが必要だ。しかし、昼間電力の料金を下げることはできない。なぜなら、個人住宅の屋根で発電した電力はすごく高コストなので、昼間電力の料金を下げると、コスト割れになってしまうからだ」
この問題を解決するには、こうすればいい。
「低コストであるメガ・ソーラーを推進して、高コストである個人住宅の太陽光パネルをやめさせる」
ところが現実には、その逆のことを政府は政策として採用する。こうだ。
「低コストであるメガ・ソーラーを抑制して、高コストである個人住宅の太陽光パネルを推進する」
こういう狂気の政策を取っている。ここに、物事の核心がある。
この件は、前に詳しく述べたので、そちらを参照。
→ EV 蓄電の問題(太陽光発電で): Open ブログ
→ 太陽光パネルの設置禁止 : Open ブログ
[ 付記 ]
蓄電施設では、新品の蓄電池を使うかわりに、劣化した中古の電池を格安で買って使う……という方式も考えられる。
しかし、以前の充電池は(温度管理しない日産製の電池だったので)劣化して格安になるものが多かったが、最近の電池は(温度管理して)劣化していない電池が多いので、値段もあまり下がらないようだ。
特に三菱の i-MiEV の M グレードは、SCiB 電池を使っているので、電池が劣化しにくい。だから、10年たっても、価格があまり落ちない。
→ 三菱自動車のeKクロスEV登場で、i-MiEVの中古車価格はドカッと落ちるか?【週刊クルマのミライ】 | clicccar.com
→ 「アイミーブ M」の中古車 | 【カーセンサーnet】
実際、相場を調べると、 10年前のモデルの i-MiEV (中古車)が 100万円程度の価格になっている。これは、同年式の日産リーフの2倍ぐらいの価格だ。
つまり、電池の劣化しない EV というのは、価格があまり下がらないのだ。だとしたら、ここから充電池を取り出して再利用するよりは、EV のまま再利用する方が利口だろう。
EV は、振動も少ないし、耐用年数が長いようなので、15〜20年ぐらい使えるかもしれない。そういう形で中古車のまま利用するのが、最も省資源になると言えそうだ。
また、充電装置としても、EV のまま昼間電力を蓄電するのが、最善だろう。蓄電池だけ取り外して、蓄電施設を作るというのは、とうてい採算に乗りそうにない。上の記事で NTT などが事業化するというのは、結果的には「大失敗と判明した」というふうになりそうだ。
《 加筆 》
この i-MiEV は 200万円以下(188万円)という低価格で発売されたのに、10年落ちでも 100万円の値段が付く。滅茶苦茶に低コストで済むね。
→ 実質200万円を切る「i-MiEV」、今夏デビュー - webCG
→ 【三菱 i-MiEV 改良新型】低価格モデル発売…実質負担188万円に
【 追記 】
家庭に置く設置型の充電池もある。テスラの充電池は、国産品に比べて激安だということは、よく知られている。
ただし、さすがのテスラの設置型充電池も、EV には大敗するようだ。テスラに比べると、EV は「電池の性能と価格は同じだが、自動車本体の分だけ、無料でオマケで付いてくる」という感じだ。
これは別に不思議ではない。EV には補助金がたっぷりと付いてくるから、補助金の分だけ、お得なのだ。
* *
家庭用の蓄電池にも、自治体が補助金を出すところもあるが、東京都など、ごく少数の例があるだけで、たいていの自治体は対象外だ。
家庭用の蓄電池には、電池の劣化で撤去するときに、高額の撤去費がかかる、という難点もある。自動車なら、自走するので、この問題はないのだが。
というわけで、設置型の蓄電池よりは EV の方がお得である。
日産のEVサクラは車の機能に20kWhの蓄電池がついて、240万円(補助金いれて180万円くらい)。
— scivan@猫のミラちゃんネルもよろしく (@scivan61) June 1, 2022
テスラの定置用蓄電池安いほうだがそれでも13.5kWhで、150万円くらい(工事費込)
定置用蓄電池買うならEV買うわって人や会社はこれから多くなるだろうね。 https://t.co/7aiLqsJCiJ
管理人様がお嫌いな燃料電池云々言うつもりはないけど..
さらに、水素を電力に戻す経路でもロスが発生する。水素を液化するエネルギー、水素の運搬エネルギー、燃料電池で発電するときの変換ロス。これらでも 30% ぐらいのロスが発生する。全部あわせて、
70% × 70% = 49%
だから、半分が無駄に消えてしまう。
一方、蓄電池と送電線ならば、合計して 10%ぐらいのロスで済む。
水素を使うとしたら、送電線を使えない場合だけです。つまり、日本国外の砂漠などで発電したエネルギーを、水素の形で運ぶ場合だけ。
送電線があるのなら、電気の形で使う方がずっと効率的です。
水素にした場合は、エネルギーの半分を捨ててしまう計算になる。大いなる無駄。
テスラの充電池との比較。
上記番組によれば、
(主に太陽光発電による)昼間の余剰電力を安く売り、
EV充電などに使ってもらう、という実験が行われています。
管理人様が指摘するこの方法が広く普及して欲しいものです。