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(1) 新聞記事
小惑星探査機の持ち帰った砂からアミノ酸が検出された。これが地球の生命の誕生の源になった、という説が有力になったそうだ。朝日新聞の記事が報じている。
小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った砂から、23種類のアミノ酸が見つかったことが、岡山大惑星物質研究所(鳥取県三朝町)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの分析で分かった。生命の源でたんぱく質の材料になる複数のアミノ酸が、地球外でまとまって確認されたのは初めて。生命の起源や、宇宙には地球以外にも生命がいるのかといった謎に迫る結果になりそうだ。
( → はやぶさ2の砂、16粒から23種類のアミノ酸 岡山大など分析:朝日新聞 )
70年ほど前、米国の化学者、スタンリー・ミラー博士が、原始の地球の大気を模したメタンやアンモニア、水、水素を入れたフラスコの中で火花を飛ばし、数種類のアミノ酸をつくった。アミノ酸という有機物が、無機物などから直接つくり出せることは、生命の起源を考えるにあたって当時は大きな衝撃だったという。
ところが、原始の地球の大気は二酸化炭素や窒素が主で、ミラーが使ったメタンやアンモニアは想定していたほどはなかっただろうという指摘が出て、ミラーの仮説は有力ではなくなった。
現在、注目されているのは、宇宙から来たのではないかという見方。隕石(いんせき)や彗星(すいせい)などによって生命の「種」が地球に運ばれたという考え方だ。
地球は数十億年前、マグマに覆われるような極めて高温の時期があった。生命の材料になる有機物は、この時にいったん失われたと考えられている。その後、地球が冷えて海ができた。生命のもとになった材料は、地球が冷えた後に改めて運ばれてきたのではないか――。
リュウグウはもともと、地上からの観測によって炭素や窒素などからなる有機物が豊富な小惑星として知られていた。アミノ酸が確認されたことは、生命のもとが宇宙から来たのではないかという仮説を後押ししている。
小林憲正・横浜国立大名誉教授(宇宙生物学)の話
これまでアミノ酸は隕石から見つかっていたが、地球の物質に触れた可能性も否定できなかった。「リュウグウ」から持ち帰った砂から検出されたなら、小惑星からのアミノ酸検出は初めてで、我々生命のもととなるアミノ酸が宇宙からやってきたという説がほぼ間違いないということになる。
また、アミノ酸には鏡に映したように構造が反転している「左手型」と「右手型」とよばれる2種類の立体構造がある。地球上の生物はほとんどが左手型だが理由は分かっていない。リュウグウのアミノ酸も同じ特徴をもつのか、分析によって明らかになれば非常に興味深い。
( → 生命の起源は宇宙から?仮説を後押し リュウグウの砂からアミノ酸:朝日新聞 )
最後の方で「我々生命のもととなるアミノ酸が宇宙からやってきたという説がほぼ間違いない」と断じているが、これは論理がおかしい。今回の発見でわかったのは、「その可能性がある」ということだけだ。「外部から持ち込まれた」という可能性が肯定されたからといって、「地球内部で発生した」という可能性が否定されたわけではない。「間違いない」などと断じている人は、科学的論理というものを理解できない阿呆だろう。よくもまあ、こんなことを恥ずかしげもなく書けるものだ。
(2) 場所と過程
さらに言おう。「宇宙から持ち込まれた」という説が仮に正しいとしても、宇宙においてアミノ酸が誕生する過程がまったくわかっていない。これでは何も解明されていないのと同じだ。誕生の場所が(地球と宇宙で)違うだけだ。誕生の過程がわかっていない以上、不明の度合いはまったく同じだ。要するに、何もわかっていないのと同じだ。今回の発見ぐらいで、大騒ぎする必要はない。
(3) 右手型・左手型
さらに言おう。記事の最後の方で「左手型」と「右手型」の話がある。実を言うと、工業的に作られるアミノ酸は、「左手型」と「右手型」が半々だ。
有機化合物から工業的にグルタミン酸ソーダを作ると,L体・D体が半々ずつ生成されます(右か左か確率ですから半々というわけです).これに対して自然界に存在する,たとえば昆布に含まれているグルタミン酸ソーダはなぜかみなL体なのです.
( → 光学異性体の不思議 )
このことからして、宇宙においても双方が半々であることが予想される。そして、その予想は、ほぼ当たっている。
模擬宇宙環境下で合成した有機物に特殊な紫外線(円偏光)を照射することにより、2種類のアミノ酸量にわずかな差が生じることがわかった。この結果は、宇宙において円偏光の作用により左手型のアミノ酸の割合がわずかに多くなり、それをもとに地球生命が誕生した可能性を示唆している。
( → 左手型アミノ酸と右手型アミノ酸の精密測定から生命の起源を探る )
右手型と左手型がほぼ半々だが、左手型の方がわずかに多いそうだ。
このことから「地球の生命の誕生では左手型ばかりになった」ことを証明したつもりになっているようだが、全然違う。上の実験は「宇宙では双方がほぼ半々になる」ことが証明されただけだ。「左手型だけになる」ことが証明されたのではなく、その逆のことが証明されたのだ。
(4) タネと増殖
さらに言おう。たとえ宇宙からアミノ酸が飛来したのだとしても、それは単なるタネになるだけで、そのあとでタネが増殖することが必要だ。そうためには、増殖するためのシステムが必要だ。(たとえば豊富なメタンやアンモニウムや水素など)
しかし、そんな好都合なシステムがもともとあるのだとしたら、そこで自動的にアミノ酸が誕生するはずだ。ちょうど、ミラーの実験(上記)のように。
では、増殖のシステムなしに、単に宇宙から飛来したアミノ酸だけで、生命が誕生したのか? そのためには、地球の海にばらまかれても足りるほどにも、大量のアミノ酸が飛来する必要がある。そのためには、宇宙から飛来した隕石が、ただの岩石ではなくて、「アミノ酸の塊」であることが必要となる。しかし、そんなことはありえない。現実には、アミノ酸の量はあまりにも微量だ。
(5) 火の玉で燃える
そもそも、宇宙から隕石が落ちてきたとしたら、アミノ酸はみんな燃え尽きてしまう可能性が高い。過去に地球で見つかった隕石はみんな無機質の塊であって、表面には有機物などはない。(あっても燃えてしまうのだから当然だ。)
というわけで、論理的に考えて、アミノ酸が宇宙から来るはずがないのだ。(たとえ隕石に微量に含まれていたとしても、だ。)
(6) 海と生命
以上のことからして、「宇宙から来たアミノ酸が生命誕生の源だ」という説には、私は否定的である。つまり、「生命のアミノ酸は地球内部で生じた」というのが私の考えだ。
では、どういうふうに? それについてのヒントがある。
「地球がマグマに覆われたのは、40億年以上前だが、40億年弱前に、海が出現した。それからほどなく、生命が誕生した」
つまり、38億年ほど前に海が出現して、それからほどなく生命が誕生しているのである。とすれば、海ができたことが生命誕生の理由だと考えられる。
(7) 新説
では、海ができたからといって、なぜ生命が誕生したのか? そこが謎となる。困った。どうする?
そこで、困ったときの Openブログ。うまいアイデアを付けて、新説を出そう。こうだ。
「生命誕生ためのアミノ酸を作るには、炭素と水素が必要だ。炭素は炭酸ガスがあるので、そこから得られる。水素は、ちょっと問題だ。水素はどこから来たか? そこで思いつくのが、硫化水素とメタンだ。そのいずれも水素成分をもつ。つまり、硫化水素とメタンと炭酸ガスからアミノ酸が作られ、それを利用した好熱菌が出現した。これが原始の生命となった」
これについては疑う人もいるだろう。「そんなに簡単にアミノ酸ができるのかよ」と。
だが、問題ない。すでに下記の報告がある。硫化水素とメタンのある海底でアミノ酸が形成された、という報告だ。
→ 海底熱水中に溶存するアミノ酸の起源とその特徴
→ Google 検索 結果
というわけで、上の私の新説は、根拠のない荒唐無稽な話ではなく、十分に根拠のあるアイデアなのだ。少なくとも、「宇宙から来た隕石にあるアミノ酸が、火の玉になっても 燃え尽きずに残っていた」なんていう、非科学的で荒唐無稽な珍説よりは、ずっと科学的な根拠がある。
【 関連動画 】
【 追記1 】
補強となる情報がある。
《 生命は400℃の海底温泉で生まれたのか? 》
400℃の熱水を噴き出す海底温泉を発見した調査隊は、同時に信じられないほどの異様な光景を目にすることになります。チムニーに群がる無数のエビ、カニ。管状の謎の生き物、チューブワーム。鱗に覆われた足を持ち、鉄でコーティングされた巻貝、スケーリーフット。これらは光の届かない深海底において、私たちの光合成による食物連鎖とはまったく異なった生態系を持っていたのです。
生態系のもととなるのは、熱水孔から噴出する硫化水素を酸化させてエネルギーを作り出すことができる、化学合成細菌です。熱水孔に群がるチューブワームや二枚貝(シロウリガイ類など)の生物群は化学合成細菌を体内に棲まわせ、硫化水素を取り込み、体内の化学合成細菌に与えます。すると、化学合成細菌は硫化水素を酸化させてエネルギーを作り出し、宿主であるチューブワームや二枚貝に返すのです。このようにお互いに助け合って生きることを共生といいます。人間にとっては猛毒である硫化水素をエネルギーにして、これらの生物群は水深3000m、400℃の熱水の海底温泉のまわりで、不思議な世界を繰り広げているのです。
( → 「「まっくろ黒鉱 ー驚きに満ちた鉱石ー」」 東北大学総合学術博物館のすべて? )
【 追記2 】
「隕石が火の玉になる」と書いたが、厳密に言えばこれは正しくない。隕石自体が燃えるというよりは、断熱圧縮によって空気層が火の玉になるだけだから、隕石の内部が燃えるわけではないからだ。その意味で、隕石の内部にあったアミノ酸は地上にまで届く、と言えるだろう。
ただし最終的な結果は同様だ。隕石の内部にあったアミノ酸は、地上にまで届くだろうが、届いた時点で、地球表面にぶつかって、非常に高熱になる。すると、砕けた隕石の表面にあったアミノ酸は燃え尽きてしまうし、砕けた隕石の内部にあったアミノ酸は(熱変成を受けたあとで)隕石の内部に閉じ込められる。……いずれにしても、まともなアミノ酸が海の水中に溶け込むことはない。
だから、宇宙由来のアミノ酸が地上に残るはずがないのだ。
宇宙由来のアミノ酸には地球の生物には使われていない種類が含まれるそうです。異星生物は違う種類のアミノ酸でできていたら面白いですね。地球の生命体はすべて同じ20種類のアミノ酸で構成されています。おそらく当初はもっといろいろな生命体が存在したのでしょうが、それらは自然淘汰されて20種類のものだけが残ったと考えられます。
しかしこの件は、 【 追記2 】 の話で足りています。
> 砕けた隕石の表面にあったアミノ酸は燃え尽きてしまうし、砕けた隕石の内部にあったアミノ酸は(熱変成を受けたあとで)隕石の内部に閉じ込められる。……いずれにしても、まともなアミノ酸が海の水中に溶け込むことはない。
ごく微量のアミノ酸は届くかもしれないが、微量過ぎて、影響を及ぼすはずがない。