2022年05月31日

◆ ヘテロクロニー/ヘテロトピー

 「ヘテロクロニー」および「ヘテロトピー」という概念がある。小進化と大進化の中間にあたるような進化を意味する。

  ※ 難しそうな用語ですが、進化の知識が面白く紹介されています。画像多数。
  ※ 長文です。通常の 2〜3日分の量があります。


 ――

 これは下記ページで紹介されている。
  → 動物の進化 異時性とは何か?

 以下では解説しよう。

 ヘテロクロニー


 ヘテロクロニーとは、体の各所で成長の速度が変わることで、種の独特の形態が生じていることだ。逆に言えば、種の独特の形態は、体の各所で成長の程度が変わることで生じていると言える。
 記事中の例では、次のことが例示されている。
  ・ トビウオでは、ひれが極端に大きくなっている
  ・ サヨリでは、下顎が極端に大きくなっている


tobiuo.jpg


 また、次の例も示されている。
heterochro.png


 記事にはない例も示そう。猫と犬の頭部の構造は相同であり、犬は頭部が前後に細長くなって、猫は頭部が前後につぶれている。そのせいで、結果的にはまったく別の形状になっているが、実質的には同様の構造をもっている。

 全身の矮小化という点では、ピグミーが該当する。同じホモ・サピエンス内でも、まるで別種の生物のように、体のサイズが矮小化している。その理由は、人類の初期の時点で別々に分岐したせいか、または、進化の途上で環境に合わせて矮小化したか、どちらかであろうと推定された。遺伝子的に調べたところ、6〜7万年前に(ホモ・サピエンスから)分岐したと見なされるので、全車は否定されることにあなった。つまり、ピグミーはホモ・サピエンスのうちの一部であり、進化の途上で環境に合わせて矮小化したにすぎない。
  → ピグミー - Wikipedia

 同様のことは、フローレス原人という「小さな原人」にも当てはまる。小さな全身をもつので、他の原人とは別の種かと思われたこともあったが、ジャワ原人の仲間であることが判明した。
  → フローレス原人: Open ブログ

 以上では器官のサイズ(大小・長短)に着目したが、「全身の成熟が途中でとどまる」というタイプの事例もある。ウーパールーパー(オオサンショウウオ)の「幼形成熟」(ネオテニー)が該当する。……冒頭記事では、これは「大局的なヘテロクロニー」と呼ばれている。





 ――

 ヘテロクロニーは、遺伝子的にはどう説明されるか? 
 1塩基レベルの突然変異で生じたとは思えない。多くの形質が同時に変化しているからだ。とすると、次のようなことが考えられる。
  ・ 遺伝子の発現を調節するホルモン(性ホルモン)などの変異。
  ・ ホメオボックスの変異。


 遺伝子的には、上のように説明されるが、これを進化上で位置づけようとすると、わかりにくくなる。
 というのは、このような変異は、異なる種を区別するときの決定的な要因ともなるが、一つの種の内部でも生じるからだ。
 たとえば、ハシブトガラスとハシボソガラスは、クチバシの大きさの違いが決定的な差であるようにも見える。
  → ハシブトガラスとハシボソガラスの違い|東京都環境局
 その一方で、同じ種の内部でも、全身のサイズが大きく異なる集団が生じることがある。(先の例を参照。ピグミーの例。フローレス原人の例。)
 また、犬の品種では、まるで異なる生物種のように大きさや形状が異なる品種が、すべて同一の「犬」という種の内部に収まる。
  → さまざまな犬種(画像)

 ――

 結論として言えば、こうなる。
 「大進化にともなってサイズや形状や形態が大幅に変化することはあるが、サイズや形状や形態が変化することが大進化だとは言えない。(同じ種の内部でも品種差が生じることがある。)」
 「サイズや形状や形態が大幅に変化することは、遺伝子的には、塩基レベルの変異によるのではなく、もっと大きな変異による。その意味で、通常の小進化よりは大きな進化である」


 以上の二点からして、ヘテロクロニーは、「大進化と小進化の中間にあたる」と言えるだろう。
  ・ 種を変える大進化ほど大規模な進化ではない。
  ・ 同一種内の微小な進化(個体差の延長)ではない。


 遺伝子的にも、同様のことが言える。
  ・ 多数の遺伝子が大幅に変わる大進化ではない。
  ・ 塩基レベルの変異による小進化ではない。


 以上の点からして、ヘテロクロニーは、「大進化と小進化の中間にあたる」と言えるわけだ。
  ※ 大進化とは、種を変えるような進化を言う。多くの遺伝子がいっせいに変化する。

 ただし、よく考えると、次のように言う方が妥当だろう。
 「ヘテロクロニーは、遺伝子的には、大進化と小進化の中間である」
 「ヘテロクロニーは、形質的には、大進化の一面であるが、小進化の一面であることもある」

 ヘテロトピー


 ヘテロトピーというのは、冒頭記事ではうまく説明されていない。
 サボテンや、ゴマフイカの発光器が、例示されているが、それのどこがどうなのかは説明されていないので、何を意味しているのか不明である。
 亀の甲羅の例ならば、すでに進化論的に説明済みだ。下記で詳しく解説されているとおり。
  → カメの甲羅はどうやってできるか知っていますか(理化学研究所) | ブルーバックス
 動画もある。下記ページの1番目の動画(Quick Time)がわかりやすい。
  → CGアニメーション:カメの甲羅はどこから来たか?
 より専門的な話は下記。
  → カメが甲羅を作った独特の進化過程を解明 | 理化学研究所








 亀に甲羅ができたのは、肋骨の構造を変えるような進化であり、かなり大規模な進化ではあるが、特定の器官の変形をもたらす遺伝子の変化があったという点では、ヘテロクロニーと同様である。したがって、ヘテロクロニーと同様に、「大進化と小進化の中間にあたる」という位置づけでもよさそうだ。
 ただし、ここまで大規模な形態的変化があるとすると、種を変えることは不可避だし、科や目レベルの差をもたらすとも言える。実際、亀は「爬虫綱カメ目」に分類され、爬虫類のなかでは最大級の差をもっている。……その意味では、単なる種間の差をもたらすだけの大進化よりも、はるかに大きな差をもっていると言える。

 ヘテロトピーについては、ちょっと位置づけが難しい。大進化よりも大きいのかもしれないが、これはあくまで形質の一つだけを意味するので、多くの遺伝子が同時にいっせいに変化するという大進化の特質を満たしていないので、その意味では大進化よりも部分的であるにすぎない。
 ヘテロトピーについては、「大進化を見るときの見方の一面」というふうに解釈するのが妥当かもしれない。
 その意味では、ヘテロクロニーもまた、「大進化を見るときの見方の一面」というふうに解釈するのが妥当かもしれない。

 ――

 なお、前々項の「ミュー進化論」の話は、大進化(種の変更)よりももっと大規模なものだ。種レベルではなく、属レベルや科レベルでもなく、綱レベルという最上級のレベルの、特大級の進化となる。それは、「大進化」の替わりに「超大進化」もしくは「ウルトラ大進化」とでも言うべきものだ。
 そして、その特徴は、「器官の消失」が途中にあることだ。この特徴は、本項のヘテロクロニーやヘテロトピーには当てはまらない。
 また、「ミュー進化論」では、「遺伝子の休止」や「偽遺伝子」が必要となるのだが、この点も、本項のヘテロクロニーやヘテロトピーには当てはまらない。

 ――

 もう少し詳しく調べるために、次の2例を見る。

 (1) 翼の遺伝子

 読者コメントで、次の記事を紹介された。
  → 鳥類の進化に関わった DNA 配列群を同定 ―鳥エンハンサーの発見―

 「鳥類の誕生」(翼の出現)という、綱レベルの進化が起こる場合でも、そのための遺伝子は、新規にゼロから作られるわけではなく、既存の遺伝子の使い回し(遺伝子の部分改造)で済んでいる……という話だ。
 これは、遺伝子的に言っても、前から知られていたことだ。
 また、器官レベルで言えば、「(鳥の)翼の骨格と、(四肢類の)前肢の骨格は、相同である」ということが古くから判明していたので、遺伝子的に相同であることは最初からわかっていたことだ。
 というわけで、上記記事の話(遺伝子の使い回し)は、特に騒ぐほどのことではなさそうだ。

 なお、ミュー進化論との関係で言うと、「このような特別な進化(遺伝子変異)が起こったのはどうしてか」を説明するのが、ミュー進化論だ。なぜなら、「このような特別な進化(遺伝子変異)が起こる」ということは、従来の発想では説明できないからだ。
  ・ 1塩基レベルの変異の蓄積(小進化の蓄積)
  ・ 多数の塩基の同時発生

 そのいずれを取っても、蒸気の変異(四肢・翼の発生)は、原理的に不可能だ。
 では、その二つ以外に、どういう理由で、上記の変異が起こったのか? ……それを説明するのが、ミュー進化論だ。
 そして、いったん進化があったあとで、進化の結果としての遺伝子配列を研究すると、「 Before 」と「 After 」の遺伝子を比較できる。それが上記ページの研究だ。
 ※ 進化そのものと、進化の結果としての遺伝子配列の違いは、別々のことなので、分けて考えるべきだ、ということ。進化では、「 Before 」と「 After 」の中間における動的な過程が重要となる。
 ※ 比喩的に言えば、電車の移動で、出発点と到着点に当たるのが遺伝子配列だ。一方、進化とは、出発点から到着点に至る移動状態(動的な過程)に当たる。

   出発点   移動    到着点

    ●――――――――――→●

   遺伝子   進化    遺伝子


 (2) 顎の遺伝子

 魚類よりももっと原始的な動物は、顎をもっていなかったが、進化の過程で顎をもつようになった。では、いかにして動物は顎を獲得したか? それは、同じ遺伝子が、元の場所とは異なる場所で働くことによって、それまでなかったところに顎ができるようになったからだ。
 脊椎動物の進化における顎の獲得において、ある同じ遺伝子が、胚の発生時に、それまでとは異なる場所に働きかけて顎を形成させるようになったことを世界で初めて明らかにしました。
 原始的な脊椎動物は顎を持っておらず、脊椎動物の顎は、進化により二次的に獲得されたと考えられています。獲得の過程を探るためには、現在生きている顎を持たない脊椎動物の一つ、ヤツメウナギの胚発生を理解することが近道です。研究グループでは、顎を持つ脊椎動物において顎の構造(前後軸)を決定する遺伝子をヤツメウナギから単離し、その発現パターンと発現機構を調べました。
 その結果、ヤツメウナギ幼生の口(上唇と下唇)の発生が、顎を持つ脊椎動物の上顎と下顎の発生と同じ機構になっていることが分かりました。しかしながら発生パターンの分析から、それらは別の細胞群によって構成されており、同じ遺伝子が別の場所に働きかけて、顎という新しい構造を作りあげていると考えられます。
 それまで働いていた遺伝子が場所を変えて、新しい構造を作る働きをするという「異所性:ヘテロトピー」があることが理論的には言われていました。本研究成果は、まさにその数少ない実例の一つとして、ヘテロトピーによる新規形態の進化の証拠を示したものです。
( → 脊椎動物の顎が発生・進化するメカニズムの証拠を世界で初めて発見


yatumeunagi.jpg
出典:ヤツメウナギ - Wikipedia


 これに関連して、Wikipedia には次の記述がある。
 遺伝子レベルでは顎口類はHox遺伝子クラスターが重複しているという特徴があり、これが顎の進化などを可能にしたものと考えられる。
( → 脊椎動物 - Wikipedia

 次の記事もある。
  → ヌタウナギとヤツメウナギがHox遺伝子の進化のシナリオを明らかにする| 理化学研究所

 ここでは、「顎の発生」という非常に大きな進化が、やや小さな遺伝子レベルの変異で起こったことが示されている。塩基レベルの変異というほど小さいわけではなく、それよりは大きな変異なのだが、大きな進化のきっかけとしてはかなり小さな変異があっただけである。

 これをどう解釈するか? 私としては、次のように考えたい。
 「変異の大きさとしては、普通の大進化の変異の場合と同様で、ただの種レベルの変異と同程度のことが起こったにすぎなかった。その意味では、ミュー進化論のような特別な進化理論は必要なく、普通の進化論(ダーウィン説を拡張した程度のもの)で足りる。
 しかしながら、それ以後の進化が極めて急速だった。いったんその変異が起こったあとでは、さまざまな変異が急激に蓄積して、大規模で広範な進化が発生した。いわば、進化の爆発のように。それゆえ、顎そのものではなく、顎にともなって生じた多くの進化のせいで、顎の進化が特別なものであると見えるようになった。いわば分類学上の観点からの都合だ」

 ここでは、次の疑問が生じるだろう。
 「顎の有無で、円口類(無顎類)と顎口類とに分類される。顎の有無は、それほどにも大きな差をもたらす。では、どうしてそうなったか? たかが顎の発生ぐらいが、のちの進化に特別な影響をもたらしたのだろうか? 顎にはそれほどの大きな意味があるのか?」
 これについては、こう答えよう。
 「円口類(無顎類)と顎口類とに、大きな差があると思えたのは、昔の分類学上の解釈であるにすぎなかった。最近の研究では、遺伝子的には、円口類(無顎類)と顎口類とに、大きな差はない。両者の差は、単に、種レベルの差と同様のものと考えていい。たいして気にするほどのことではないのだ」

 この点では、次の説明がある。
 円口類はC. Dumerilにより1806年に初めて提唱されたグループである。顎を持たない現生脊椎動物であるヌタウナギとヤツメウナギを分類群としてまとめるため、その口器の形状から「円口類」(Cyclostomata)と名付けられた。
 ところが、後年になると多くの研究者がこれをクレードとしては支持しなくなってきた。すなわちヌタウナギとヤツメウナギがそれぞれ別のグループとされるようになったために、一時円口類という分類群は消滅したのである。ヌタウナギは脊椎骨を持たないことや神経堤細胞の発生が独特であるなど、あまりに顎口類とかけ離れた特徴から穿口蓋類(Hyperotreti)としてまとめられ、その他の全ての脊椎動物全体の姉妹群と見なされた。このため脊椎動物にその外群であるヌタウナギを加えた分類群として、有頭動物(Craniata)が置かれた。(Janvier, 1996)つまり、一時ヌタウナギは厳密な意味での脊椎動物ではなくなったのである。
 しかし現在では、分子系統や詳細な形態・発生の比較などにより、再び単系統性が支持されるようになっている。上述のヌタウナギの独特な神経堤細胞の発生も、観察を誤ったものであったことが現在では証明されている。
( → 円口類 - Wikipedia

 ヌタウナギとヤツメウナギはまったく別々のものだと見なされた時期もあったが、遺伝子的に見るとそうではなく、同類であると判明した。
 つまり、ヌタウナギは他の脊椎動物(顎口類)とはまったく別のものだと見なされていても、顎口類に似ているヤツメウナギと同類だと判明したわけだ。
 とすれば、ヌタウナギがいくら顎口類から懸け離れていると見えても、顎口類に似ているヤツメウナギとは大差ないわけだ。「顎の有無が大きな差をもたらした」というようなことは、必ずしも成立しないわけだ。

 どちらかと言えば、顎の有無よりは、「固い体をもつ」ということの方が大きな影響をもっていただろう。
 最古の顎口類の化石は板皮類という鎧を持つ系統であるが、この系統は3億5,900万年前頃に絶滅した。ほぼ同時期に棘魚類という系統も出現したが、板皮類の絶滅から7,000万年後には絶滅した。

banpirui.png
板皮類

( → 脊椎動物 - Wikipedia


banpirui2.jpg
板皮類の骨格図

( → 板皮類 - Wikipedia

 分類上では顎の有無が大きな特質と見えるのだろうが、現実には、有効だったのは、顎そのものではなくて、顎とほぼ同時に発生した別のもの(固い体の構造体となる鎧)だったのである。
 
 ※ 顎の骨と、鎧の骨は、一体化していた。これらが背骨のかわりとなった。ヤツメウナギは「骨格が未発達である」(出典)という特質があるので、それよりも発達した板皮類の骨構造には明らかに優位な点があった。つまり、大事なのは、顎ではなく、顎のまわりの骨(鎧)だったのである。

 まとめ


 最後に、まとめふうに述べておこう。
 進化の過程は、遺伝子レベルでは、さまざまな突然変異として理解できる。それは、古典的には「1塩基レベルの変異」と見なされた。しかし科学の発達につれて、突然変異にもさまざまな形のものがあるとわかった。
  ・ 1塩基変異
  ・ 遺伝子集団の転移
  ・ ホメオボックスの変異や転移

 また、遺伝子の種類でも、「形質の遺伝子」の変異もあり、「遺伝子発現を調節する遺伝子」の変異もある、とわかった。
 このように、遺伝子の変異には多様な種類があり、それにともなって、古典的なダーウィン説の解釈だけでは収まらない、とわかってきた。そこで、上記のような変異にも対応する形で、ダーウィン説は拡張されていった。(ネオ・ダーウィニズム)

 しかし、変異の種類をいくら増やしても、それだけでは話が済まないこともある。それは「器官の消失」である。器官の消失は、形質としては圧倒的に不利になるので、そのような種は滅びてしまうのが、ダーウィン説による説明の帰結だ。ところが現実には、圧倒的に不利になるはずのところから、圧倒的に有利になるものが生じている。(四肢類、鳥類)
 これは、「有利なものが生き延びて、不利なものが滅びる」というダーウィン説の原理と根本的に対立する。ゆえに、ここではダーウィン説とはまったく異なる原理が必要となる。

 さまざま遺伝子の変異を見て、それに説明を与えるのが、ダーウィン説だった。「遺伝子の変異」という事実に対して、「どうしてその変異が起こったのか」を、ダーウィン説は説明した。「突然変異と自然淘汰」という原理で。
 なるほど、その説明で、たいていの進化は説明できた。かなり特殊な進化に対しても、変異の形を「1塩基変異」から「多様な変異」に拡張することで、「拡張されたダーウィン説」という形で説明できた。
 しかし、四肢類の出現と、鳥類の出現は、それでは説明できなかった。「器官の消失」は、ダーウィン説の原理とは根本的に矛盾するからだ。「器官の消失」があった種が生き延びたのは、「自然淘汰があったから生き延びた」のではなく、「自然淘汰が弱かった(特殊な環境だった)から生き延びた」のだ。つまり、ダーウィン説の原理が働かなかったから、大規模な進化が可能となったのだ。

 ではなぜ、ダーウィン説の原理が働かないところで、大規模な進化が可能となったのか? それを説明するのが、ミュー進化論だ。四肢類や鳥類の出現は、「突然変異と自然淘汰」という原理によって起こったのではなく、「遺伝子発現の停止と、偽遺伝子における多様な変異と、遺伝子発現の再開」という3段階の原理によって起こったのだ。それは、ただの「突然変異」という言葉ではとうてい説明しきれない原理だ。それは「1塩基変異」を「多様な変異」というふうに拡張するだけでは済まない原理だ。

  ・ 1塩基変異 …… 古典的な ダーウィン説
  ・ 多様な変異 …… 拡張されたダーウィン説
  ・ 遺伝子発現の停止と再開 …… ミュー進化論


 このように話を整理することができる。

  ※ ヘテロクロニーとヘテロトピーは、上の2番目に該当する。
 


 [ 付記 ]
 ミュー進化論では、自然淘汰については、特に言及されない。しかし、あえて言うなら、「自然淘汰が働かないこと」「自然淘汰が弱まっていること」が必要条件となる。なぜなら、自然淘汰が強く働くと、器官の消失した個体は淘汰・排除されてしまうからだ。そういう個体がかろうじて生き延びられるようなニッチが必要となる。
 その意味では、ミュー進化論では、「ダーウィン説が成立しないこと」が前提条件となる。ミュー進化論は、ダーウィン説を拡張した理論ではなく、ダーウィン説が成立しない特殊状況に適用される説である。
 ミュー進化論とダーウィン説は、たがいに矛盾するので、両方がともに成立することはありえない。ただしこれは、どちらか一方が正しいということではなくて、状況によってどちらか一方が適用されるだけだ。……さまざまな病気に異なる薬物が処方されるように、さまざまな状況に異なる原理(学説)が適用される。つまり、ケース・バイ・ケースだ。どちらか一方だけが常に正しいというわけではない。人の着ている洋服だって、季節ごとに取り替えられるのだから、進化の学説だって、状況ごとに取り替えられていいのだ。



 【 関連項目 】

 → パレオスポンディルス .3: Open ブログ

  ※ ミュー進化論の解説。

 
posted by 管理人 at 20:23 | Comment(4) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お説のような機構もあるかもしれません。ただこの説で見過ごされている概念にエピジェネティックスという考えがあります。この名前でネットにいろいろ解説が出ています。
 生物は1個の細胞からいろいろな器官に分化していくわけですが、それを制御する機構がエピです。DNA塩基のメチル化がそれを制御しているらしいのですが、個々の器官への分化でどの塩基のメチル化が関係しているかはまだあまり分かっていないようです。また特定の生物種で同じように分化が進む理由もわかっていないようです。やはり遺伝しているわけですから最終的にはDNAに帰着するはずと思われますが。
 エピの研究はがんの発生、つまり正常細胞ががん細胞に分化する機構にも関係しているので、世界中の研究者が取り組んでいます。日本の研究者にも頑張ってほしいです。
Posted by よく見ています at 2022年06月02日 12:19
 エピジェネティックスは、遺伝子の塩基集団のうちの、その一部の塩基の、そのまた一部の化学装飾です。進化には関係なく、誕生後の個体の成長の過程で現れます。老化など。
 病気などでは重要な働きをすることがありますが、進化とはあまり関係ありません。遺伝もしません。医学では重要ですが、進化論では無視して構いません。
Posted by 管理人 at 2022年06月02日 14:37
ヘテロクロニー/ヘテロトピーとミュー進化論のご解説ありがとうございました。
余談ですが、遺伝子の水平伝播というのもありますね。
これは「拡張されたダーウィン説」の方に属するのでしょうね。
でも、もしかすると逆にウィルスによる遺伝子の消失または無効化というのも
あり得るかも?

https://globe.asahi.com/article/13707574
『哺乳類の母親がおなかの中で子どもを育むのに欠かせない胎盤。鳥類や爬虫(はちゅう)類には
ない大事な臓器は、ウイルスなどが外から運び入れた遺伝子によってつくられたことが近年の研究でわかってきた。』

https://www.mie-u.ac.jp/topics/kohoblog/2014/03/post-837.html
『これは世界で初めて、動物間での機能性遺伝子の水平伝播が自然界で起こったことを証明する成果です。』

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/a/120100053/
『「これからは生命を系統樹ではなく、クモの巣のような形で考えることができるかもれません。
例えば今回の場合、細菌の枝から動物の枝に遺伝物質が渡っているのです」』
Posted by DDD at 2022年06月05日 12:50
 有胎盤類の話は、「胎盤形成に関わる遺伝子PEG10が新規に挿入された」ということを根拠としているが、それがウイルスに由来するものであるかどうかは、書いた本人も「示唆する」「可能性がある」 「(?)」というふうに記すだけであって、断定していない。あまりにも根拠不足だからだ。
 ただの突然変異によって内発的に生じた可能性も、十分にある。ウイルスに由来するものであるかどうかは、はっきりしない。単に「共通する遺伝子配列がある」というだけだ。

 また、内発的かウイルス由来かは、検証のしようがない。
 また、ウイルス由来であるからといって、何か特別に大切なことがわかるわけでもない。ほとんど「どうでもいい話」に近い。「進化論学者の酒飲み話」ぐらいの意味にしかならない。

> これからは生命を系統樹ではなく、クモの巣のような形で考えることができるかもれません。
例えば今回の場合、細菌の枝から動物の枝に遺伝物質が渡っているのです

 仮に例外となる事例が1つか2つ見つかったからといって、生命の系統樹としての関係に揺らぎが生じるわけがない。
 体の中に輸血が少し混じった、というぐらいの意味しかない。輸血が混じったからといって他人の息子や娘になるわけじゃない。研究者が自己の研究を過大視するのはありがちだが、この件では自惚れが過ぎるね。

Posted by 管理人 at 2022年06月05日 13:24
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