2022年05月28日

◆ パレオスポンディルス .2

 前項の続き。
 パレオスポンディルスについて、私なりに考える。これは単にミッシングリンクの一つが見つかったというだけでなく、進化論上で大きな意義を持つ。それはダーウィン説の限界を示すことだ。

 ――

 (1) 中間形態

 今回の研究の意義は何か? 「ミッシングリンクの一つを発見した」ということではある。では、その位置づけはどうか? これを考えよう。

 前項では次の図を紹介した。

(図4)
riken_fig4.jpg


 この図の右側の一番上には、魚の絵がある。これは(左側の文字の)エウステノプテロンだとわかる。
 Wikipedia にはこうある。
 エウステノプテロンは、約3億8500万年前に棲息していた魚類の一種。肉鰭綱のエウステノプテロン科に属し、四肢動物の祖に近縁と考えられているものの一つである。
 鰭に7本の指を持ち、水中の草をかき分けていた。肺を持つ肺魚。
( → エウステノプテロン

 これは、指のあるひれをもつ魚類である。
 その後、さらに進化したものが、本項のパレオスポンディルスである。そこからさらに、アカントステガなどの、原始的な四肢類につながる。

 これらの全体を見れば、こう言える。
 「魚類から四肢類への進化は、なだらかな段階的なものである。徐々に少しずつ器官(鰭)の形状が変化していくというふうに進化していく。その中間形態はいろいろとある」

 このような中間形態は、一般的には不利である。たとえば、海中ではうまく泳げないので不利であり、陸上ではうまく歩けないので不利である。しかしながら、泥土・沼というニッチ(特殊な狭い環境)では、不利にならない。かくて、中間形態は、ニッチにおいて発達することができた。

 ※ ニッチは、単に環境が特殊であるというだけでは、食物がなくて困ることもある。だが、泥土・沼というニッチでは、昆虫類やエビ類なども生存できたので、これらの特殊な魚類は食物不足にはならないで済む。


 (2) 鰭の消失

 鰭の形状の段階的な変化ということであれば、ダーウィン説で説明が付く。だが、ダーウィン説では説明が付かないことがある。それは、「鰭の消失」だ。
 特に、両生類では、幼生の段階でそうだ。鰭もないし、四肢いし、中間形態もない。単に消失しているだけだ。
 「中間的な形が有利だから、中間的な形になった」というのは、ダーウィン説で説明できる。だが、「消失した形が有利だから、消失した」というのは、ダーウィン説では説明できない。

 また、幼生の段階で消失してから、成体の段階で四肢が発生する、というふうになることも、ダーウィン説では説明できない。消失が有利なら、ずっと消失していればいいのに、いったん消失したあとで、今度は四肢が生えるのである。
 これは「環境に有利なものが生き残った」というダーウィン説では説明できない。ダーウィン説には限界があることになる。

 なお、両生類には「変態」があるということに注意しよう。いったん魚類に近いオタマジャクシとなったあとで、一挙に成体の形に変態する。このようなことは、魚類には見られないし、爬虫類や哺乳類にも見られない。(まったく別系統の昆虫には見られるが、その原理は異なる。 → 昆虫の変態の謎: Open ブログ


 (3) 魚類で喪失

 一方、今回のパレオスポンディルスを見よう。ここでは「鰭がない」ということと「形が魚類である」ということが、ともに成立していた。
 「鰭がない」だけならば、両生類の幼生と同じだが、「形が魚類である」という点で、両生類の幼生とは異なる。
 これはつまり、「魚類における鰭の喪失」である。パレオスポンディルスは「鰭のない魚」とも言える。

 しかも、これは(たぶん)幼生の段階ではない。記事によれば、「大きさ5センチほどで、背骨が発達した小魚のように見える」「尾びれの形は、絶滅した原始的な両生類アカントステガに近かった」とのことから、たぶん成体だ。

 ちなみに、原生の魚類では、幼生では鰭があるのが普通だ。下記に写真がある。
  → https://x.gd/yLcFp
  → https://x.gd/4lhNG
  → https://x.gd/XNiOR
  → https://x.gd/XNiOR
 これらの幼生は、とても小さいし、体も透き通っているし、背骨は発達していない。そういう幼生段階ですら、鰭はすでにある。
 だから、パレオスポンディルスについては、「幼生だから鰭はない」と見なすのは妥当ではない。「幼生ではなくとも鰭はない」と見なすのが妥当だ。つまりこれはまさしく「鰭のない魚」なのである。

 パレオスポンディルスがいたことで、「鰭のない魚」がいた、ということが判明した。
 では、それは進化の過程で、どのような意義をもつのか? 


 (4) 鳥類の進化

 ここで参考になるのが、鳥類の進化だ。鳥類においては、爬虫類の前肢が消失して、翼が発生した。その過程は、次のようになる。

  爬虫類(前肢あり) → 鳥型恐竜(小さな前肢) → 恐鳥類(前肢なし) → 走鳥類(前肢なし) → 鳥類(翼あり)


 もともとは爬虫類において前肢があったのだが、恐鳥類や走鳥類では前肢がなくなった。そのあとで、前肢のかわりに翼が発生した。
 ここでは、前肢と翼の中間形態の器官が出現したことはなかった。初期の翼は未発達なものであり、鳥類は十分に飛ぶことはできなかった。せいぜい、わずかに滑空するか、あるいはニワトリのように、数メートルの高さまでジャンプできるぐらいあった。あるいはキジのように、数十メートルを飛べるぐらいだった。それが初期の鳥類の翼だった。とはいえ、それはまさしく翼だった。それは決して「前肢と翼の中間形態」ではなかった。鳥類の進化では、中間段階の器官は存在しなかったのである。

 では、鳥類の翼は、どのように出現したか? 中間段階はなかったのだから、徐々に形態が変化したのではなかった。ダーウィン説のように、「有利なものが増えることで、形態的に少しずつの進化が蓄積した」ということはなかった。かわりに、次のことがあった。

   前肢あり → 前肢の消失 → 翼の発生


 そしてこれは、魚類と両生類における成体だけを見た場合と同様である。魚類と両生類においても、成体だけを見れば、こうなるからだ。

   鰭あり  →  鰭の消失  →  四肢の発生


 これと鳥類の進化を比べると、似たところもあり、似ていないところもある。
 「消失と発生」という点では似ているが、「幼生段階の有無」という点では異なっている。両生類には幼生段階があるが、鳥類には幼生段階がない。両生類には変態があるが、鳥類には変態がない。
 では、このことはどういう意味があるか? 


 (5) ヘッケルの反復説

 ここでヒントになるのは、ヘッケルの反復説だ。「個体発生は系統発生を繰り返す」という説だ。この説は、厳密に言えば正しくないが、おおまかには正しいと言える。そのことは前に解説した。
  → ヘッケルの反復説は間違い?: Open ブログ

 さて。ヘッケルの反復説に従うならば、次のように言えるだろう。
 「両生類において、幼生の段階では四肢が消失する。それは、両生類の進化の段階で、過去には四肢のない段階が存在したからだ」
 これは、別の言葉で言えば、「鰭のない魚類が存在した」ということを意味する。つまり、パレオスポンディルスのような「鰭のない魚」が存在したことは、ヘッケルの反復説に従えば、当然のことなのだ。
 こうして、ヘッケルの反復説から理論的に結論されることが、今回の化石研究によって証明された、と言えるだろう。「鰭のない魚が存在したと判明した」という形で。


 (6) 消失の過程

 ヘッケルの反復説によれば、両生類の幼生で四肢がないのは、過去の進化の過程をなぞっている(反復している)からだ。
 両生類の個体発生の過程では、過去の進化の過程をなぞっている。
 とすれば、両生類の個体発生の過程では、幼生の(発生的)段階が必要であるように、過去の進化の過程では、「鰭のない魚」の(進化的)段階が必要だった。

 つまり、魚類から両生類への進化の過程では、「鰭のない魚」という(進化的)段階が必要だったのだ。「鰭のある魚」が「四肢のある両生類」へと進化していく過程では、「鰭の形がしだいに変化していく」ということだけでなく、その途中において、「鰭が消失する」という(進化的)過程が必要だったのだ。
 では、なぜそうなのか? 


 (7) 進化の理論

 以上のすべてを説明するには、理論的な説明が必要だ。特に、遺伝子的な説明だ。それは、簡単に記すわけには行かない。
 そこで、項目を改めて、次項で説明する。かなり長い話となる。(予定)



 [ 補足 ]
 走鳥類と鳥類の順序について補足しておこう。
 本項では、鳥類の進化の順として、次の順を取った。
   恐竜 → 恐鳥類 → 走鳥類 → 鳥類(飛ぶ鳥)


 一方、通説では、次の順を取る。
   恐竜 → 鳥類(飛ぶ鳥) → 走鳥類

   
 後者では、走鳥類は鳥類のになる。その理由は、走鳥類には「翼の痕跡器官」があるからだ。「翼の痕跡器官」があるからには、その前の種は翼をもっていたはずだ、と考えるのが妥当だろう。だから、走鳥類の前に鳥類(飛ぶ鳥)があった、と見なす。

 しかし私の説では、走鳥類は鳥類のになる。その理由は、走鳥類には「前肢の痕跡器官」があるからだ。「前肢の痕跡器官」があるからには、その前の種は前肢をもっていたはずだ、と考えるのが妥当だろう。だから、走鳥類の前に恐竜があった、と見なす。

 両者を比較すれば、こう言える。
 「通説は、前肢の痕跡器官を、翼の痕跡器官だ、と誤認した。そのせいで、順序を間違えてしまった」

 以上について詳しくは、別項で述べた。
  → 鳥と恐竜(通説の矛盾): Open ブログ の [d]

 通説については下記。
  → Developmental Evolution: Downsizing Wings in the Flightless Emu - ScienceDirect

 ちなみに、ドードーやペンギンは、翼の痕跡器官をもつ。これらはまさしく「翼が退化したあとの痕跡器官」と言えるような、小さな翼とも言うべき器官をもつ。(ただし飛ぶ能力はない。)
  → 走鳥類とドードー: Open ブログ
 
 ――――――――

 《 加筆 》
 走鳥類と鳥類の順序については、直接的な証拠もある。それは「竜骨突起の有無」だ。
 竜骨突起は、飛ぶ鳥の胸にある、平らで大きな骨だ。飛ぶ鳥は、翼を羽ばたかせるための筋肉(胸筋)が発達しているので、それを支えるための骨(竜骨突起)が発達している。下記を参照。
  → 「平胸類」って知ってますか?|ブログ|野毛山動物園
 なぜ竜骨突起があるか? もし竜骨突起がなければ、翼を羽ばたかせるうちに、胸の骨が折れてしまうからだ。
 飛ぶ鳥にはすべて、竜骨突起がある。一方、飛ばない鳥でも、竜骨突起がある種も存在する。ドードーや、ペンギンがそうだ。また、カグーという鳥もそうだ。(上記ページ)
 なぜ飛ばない鳥も竜骨突起をもつかというと、先祖は飛ぶ鳥だったからだ。そして、進化のすえに飛ばない鳥になったとしても、竜骨突起というものは消えずに残る。だから、飛ばない鳥にも、竜骨突起がある。

 ところが、である。鳥のなかには竜骨突起をもたないものがある。それらは一括して「平胸類」と呼ばれる。「竜骨突起をもたないもの」というのと同じ意味だ。そして、「平胸類」というのは、「走鳥類」の別名なのである。
 走鳥類(平胸類)は、竜骨突起をもたない。なぜか? 先祖が「翼をもつ鳥」ではなかったからだ。つまり、「鳥類 → 走鳥類」という進化の順は起こらなかったからだ。
 こうして、「竜骨突起がないこと」から、「鳥類 → 走鳥類」という進化の順は否定される。これは明白な事実であると言える。

 この件は、前にも別項で言及した。
  → 鳥と恐竜(通説の矛盾): Open ブログ
  → 走鳥類とドードー: Open ブログ
  → 進化の逆行? (鳥類で): Open ブログ
posted by 管理人 at 19:16 | Comment(4) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>
 つまり、魚類から両生類への進化の過程では、「鰭のない魚」という(進化的)段階が必要だったのだ。「鰭のある魚」が「四肢のある両生類」へと進化していく過程では、「鰭の形がしだいに変化していく」ということだけでなく、その途中において、「鰭が消失する」という(進化的)過程が必要だったのだ。
 では、なぜそうなのか?

深い考察ですね。
生命の進化に興味を持っているので、
Open ブログ様の「遺伝子の本質は生命子だ」説、以来の感動を覚えています。
まずはじっくり読ませてください。
Posted by サク at 2022年05月28日 23:43
ダーウィンは生物の進化に「目的」はなく、それは偶然の「結果」にすぎないと考えました。
という記事もありますね。管理人さんの仰る「ダーウィン説」が間違っているだけでは?
https://www.gentosha.jp/article/15884/
Posted by DDD at 2022年05月29日 08:32
 間違っていると言っているのではありません。本文を正しく読みましょう。

> 鰭の形状の段階的な変化ということであれば、ダーウィン説で説明が付く。だが、ダーウィン説では説明が付かないことがある。それは、「鰭の消失」だ。

 なお、正解は次項で示します。次項を読んでから感想をお書きください。
Posted by 管理人 at 2022年05月29日 09:19
 最後に 《 加筆 》 の箇所を書き足しました。
 走鳥類と鳥類の順序についての話。竜骨突起にまつわる話。
Posted by 管理人 at 2022年05月30日 14:15
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