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パレオスポンディルスという古代種の化石自体は、19世紀に英国で見つかった。しかしその正体が判明していなかった。ところがこのたび、理研がハイテクで化石の正体を探った。使った施設は、「科捜研の女」でおなじみの「スプリング8」だ。
すると、次の事実が判明した。
理化学研究所などの研究チームが、約4億年前の地層から見つかった謎の生き物「パレオスポンディルス」の正体を突き止めたと発表した。陸に上がる前の脊椎(せきつい)動物で、魚と両生類をつなぐ「ミッシングリンク」(失われた輪=進化の過程で存在したはずだが、化石が見つかっていない生物)のひとつだと考えられるという。
パレオスポンディルスは「古代の背骨」という意味だ。化石は19世紀、スコットランドの約3億9千万年前(デボン紀)に湖だった場所から見つかった。大きさ5センチほどで、背骨が発達した小魚のように見えるが、口に歯はなく、胸びれや腹びれもなかった。
「生きた化石」と呼ばれる原始的な特徴を持つ魚類、シーラカンスや肺魚との共通点が見つかった。尾びれの形は、絶滅した原始的な両生類アカントステガに近かった。
肺魚と陸上脊椎動物の中間にあたる生き物と推定された。
( → 魚と両生類つなぐ「古代の背骨」 謎のパレオスポンディルス 理研など解明:朝日新聞 )
また、歯や胸びれ、手足がないという特徴は、オタマジャクシやサンショウウオの幼生の形に似ていた。
パレオスポンディルスの親が手足をもっていたかどうかは不明だが、ポーランドの約3億9500万年前の地層から、四足動物のものとみられる足跡の化石が見つかっている。
( → 4億年前の「謎の古生物」正体解明 ミッシングリンク埋める存在:朝日新聞 )
ちょっと注釈しておくと、「ミッシングリンク」は「ミッシングリング」(失われた輪)ではない。混同しないこと。どちらかと言えば、「一環」=「鎖の環」だが。
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解説しよう。
これまでの学説では、こうだった。
「魚類のうちの肺魚の仲間(肉鰭類)は、泥沼のなかで暮らしており、手足のように太いヒレをもつ。ここから両生類が進化した」
「 3億6,500万年前のデボン紀後期に生きていたアカントステガは、肉鰭類と両生類の中間的な性質をもつ」
以上をまとめると、次の順だ。
肉鰭類 → アカントステガ → 両生類
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さて。今回のパレオスポンディルスは、肉鰭類とアカントステガの中間に位置づけられる。
ただし、胸びれや腹びれがないという点では、魚類ではないのだが、手足がないという点では、両生類の幼生と共通するので、両生類に近いかどうかは何とも言えないようだ。親(成体)が手足をもつかどうかも判明していないという。どうもはっきりとわかっていないようだ。
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そこで、さらに情報を求めて、理研のページを見る。
→ 4億年前の謎の脊椎動物の正体解明 | 理化学研究所
ここには、次の詳細説明がある。
各骨要素の形態を調べると、頭骨を吻部側(口側)と後頭部側に2分する頭蓋内関節など、肉鰭類の特徴が見つかり、特に肉鰭類の中でも四肢動物に近い四肢動物型類と共通点が多いことが判明しました。
パレオスポンディルスはヒレから四肢への移行段階に当たる動物と近縁であり、肘関節や指の骨格をヒレの中に持っていた動物(エルピストステゲ、ティクターリク、パンデリクチス)とそれらを持たない動物(エウステノプテロンなど)の間の系統的位置に当たると推定されました(図4)。(図4)
ここから、こう結論した。
国際共同研究グループは、130年以上も謎の存在であったパレオスポンディルスが四肢動物の系統に属することを解明し、長い間多くの学者を悩ませてきた奇妙な形態的特徴は四肢動物の幼生的状態に相当する可能性を示しました。
というわけで、「四肢動物の幼生的状態に相当する」という結論を得たことになる。ただし、「可能性」というふうに述べて、断言まではできていない。
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ともあれ、以上において、理研の研究報告を紹介した。
【 追記 】
パレオスポンディルスとアカントステガの中間には、いくつかの化石種が見つかっている。そのうち最古のものは、パンデリクティスである。( → 上記の 図4 : 下記に再掲 )
パンデリクティスについて、Wikipedia の情報を求めると、下記の通り。
特徴
体長90-130センチメートル。左右で対になる肉質の鰭を持つことから、魚類と四肢動物の間を繋ぐ重要な存在とみなされている。魚類から陸上で暮らす四肢動物への進化は解剖学および生理学の見地から多くの変化を必要とするものであり、特に肢を支える肢帯の構造が重要なものであった。パンデリクティスの良好な状態の化石は肢帯の構造が変化しつつあることを明確に示す貴重で重要な発見となった。
鰭から肢への変化はまず胸鰭から始まり、遅れて腹鰭が続いたことをパンデリクティスの化石は示唆している。これは陸上での生活へ適応していくにつれ、体を動かす役割が徐々に後方の付属肢(胸鰭から腹鰭、やがては前肢から後肢)へと移行していったことを示している。また胸鰭の肢帯は古い特徴を残しており、四肢動物への進化の道筋を知る上での良い見本となっている。パンデリクティスの体は浅瀬での暮らしに適した姿をしており、浅い水底を身をくねらせて動き、体を支えることができたように思われる。
近年の再評価
2008年にCTスキャナーを用いてパンデリクティスの化石を再調査したところ、鰭の末端に放射状に広がる4つの骨が確認された。骨はどれも短くてまだ繋がってはいなかったものの、鰭と肢の中間の様子を示している。
その一方で、2010年1月にはパンデリクティスの生息年代よりも古い3億9700万年前の堆積物から保存状態の良好な四肢動物の足跡の化石がポーランドで見つかったとネイチャーが報じ、パンデリクティスが進化に取り残された「遅い時代の生き残り」であることが判った。足跡の発見は、化石記録からは魚から四肢動物への変化の様子を知ることはできるが、それが起きた年代を正確に示しているとは限らないことを示唆しており、四肢動物への進化を促した環境の要素についても見直しを迫るものとなった。
( → パンデリクティス - Wikipedia )
文中にある「3億9700万年前」の「足跡の化石」については、次の説明がある。これは「歩く魚」という中間的な存在を示している。
以前に、足やつま先のような指を持つ初期の陸上四肢動物の足跡化石が発見された。しかし実際には、肉鰭類の魚が水分の多い土の上を移動して残った跡かもしれない。
例えば、2010年にポーランドで発見された3億9500万年前の陸生動物の足跡化石だ。「ハイギョのヒレが残すパターンと似ている」とキング氏は指摘する。
「ポーランドの化石には尾を引きずった跡がなかった。ハイギョは歩くとき、空気で満たされた肺を使って、川や湖、沼地の底から体を持ち上げるからではないか」。
「3億9700万〜3億9100万年前には、ハイギョと機能的特徴が似ている魚が多数生息していた。四肢動物の足跡とされる化石の中には、そのような魚も含まれているだろう」とキング氏は述べる。
( → “歩く魚”を発見、歩行の起源は水中? | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト )
「歩く魚」は、時期的にはパレオスポンディルスよりも古く、進化的にはパレオスポンディルスよりも新しい。
このことについては、先の説明がある。再掲しよう。
パンデリクティスが進化に取り残された「遅い時代の生き残り」であることが判った。
【 関連項目 】
このあと、私がどう考えるかについては、次項で示す。(予定)