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ミッドウェー海戦の映画を、Amazon プライムで見ることができる。加入していれば追加料金なしで、無料で見られる。(私は無料会員のまま見た。)
→ Amazon プライム「ミッドウェイ」 (吹き替え版)
ここで、真珠湾攻撃の後の場面の描写がある。米国海軍は真珠湾で大被害を受けて、残った戦力はわずかしかなかった。映画からセリフを抜粋しよう。
(28:30)(真珠湾攻撃の後)
「我々の空母は3隻。日本軍は10隻。米戦艦は0隻。日本軍は9隻。 巡洋艦や爆撃機や戦闘機も日本軍の方が多く、新型だ」
(1:17:05)(ミッドウェー海戦の直前)
「お前らが闘う相手は、空母4隻、航空機 250機、そして世界最大の戦艦」
「日本軍は無敵だ」
米軍は圧倒的に不利というありさまだ。実際、連戦連敗というありさまだ。しかし米軍にニミッツという司令官が就任したあとで、事情は変わった。ニミッツは少将の地位にあったが、28番の席次から一挙に飛んで、トップの司令官に就いた。(大統領命令。)
ニミッツは特別な方針を取った。それは暗号解読の重視である。ワシントンの軍本部は、情報分析をして、日本軍の進路を予想した。
ワシントンのアメリカ統合参謀本部は攻撃目標をハワイ、陸軍航空隊ではサンフランシスコだと考え、またアラスカ、米本土西岸だと考える者もいた。
( → ミッドウェー海戦 - Wikipedia )
一方、ニミッツの直下の部下は、暗号解読をして、日本軍の進路を予想した。その予想先は、ミッドウェーである。ここでニミッツは判断を迫られた。軍本部のエリートたちの意見を採用するか。何ら実績のない、はずれ者たちの奇妙な暗号技術による情報を採用するか。
ニミッツは決断しかねた。そこで部下に命じた。「暗号解読の情報が正しいというのなら、その証拠を出せ」と。
まったく無理難題の滅茶苦茶を言うものだ。しかし部下は見事に応えた。その証拠を出したのだ。
暗号解読との検討を繰り返して作戦計画の全体像が明らかになると、略式符号「AF」という場所が主要攻撃目標であることまでわかってきた。しかし「AF」がどこを指しているのかが不明であった。
諜報部にいた青年将校ジャスパー・ホームズの提案により、決定的な情報を暴くための一計が案じられた。彼は、ミッドウェー島の基地司令官に対してオアフ島・ミッドウェー間の海底ケーブルを使って指示を送り、ミッドウェーからハワイ島宛に「海水ろ過装置の故障で、飲料水不足」といった緊急の電文を英語の平文で送信させた。その後、程なくして日本のウェーク島守備隊(クェゼリン環礁所在の第六艦隊説もあり)から発せられた暗号文に、「AFは真水不足、攻撃計画はこれを考慮すべし」という内容が表れたことで、AFはミッドウェー島を示す略語と確認された。こうしてミッドウェー島及びアリューシャン方面が次の日本軍の攻撃目標だと確定された。
こうしてニミッツはアメリカの残る戦力をすべてミッドウェーに集中させた。しかも暗号解読に追って、日本の作戦をすべて見抜いていた。見事に迎え撃ち、日本軍の艦隊を徹底的に撃破した。(ここでは、レーダーの有無も大きく影響した。米軍にはレーダーがあり、日本軍にはレーダーがなかった。これだけでも大差が付いた。)
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だが、さらにその伏線がある。それは、ミッドウェーの直前にあった海戦だ。珊瑚海海戦という。あまり有名ではない海戦だが、これがミッドウェー海戦の趨勢を左右した。
戦後、アメリカ太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将は「……さらに重要なことは、(日本の)空母「翔鶴」の損傷修理と打ちのめされた空母「瑞鶴」の飛行隊再建の必要から、これら両艦ともミッドウェー海戦に参加できなかったことである。両空母がミッドウェー海戦に参加していたならば、この海戦の成果に決定的な役割を充分果たしていたであろう。」と語っている
( → 珊瑚海海戦 - Wikipedia )
珊瑚海海戦で二つの空母がミッドウェーに参戦できなくなった。これがミッドウェー海戦において重大な影響をもたらした。もしこの二つの空母が参戦していたら、ミッドウェーでは日本軍が勝っていた可能性が高い。なのに、参戦できなかった。それは、珊瑚海海戦で、米軍がこの二つの空母を打破したからだ。
では、先立った珊瑚海海戦では、米軍はどうして大きな戦果を上げたのか? それもまた、暗号解読のおかげだった。
珊瑚海に進出する日本軍の計画を、暗号解読によって知った連合国軍が先に進出し、艦上機で日本の攻略部隊を空襲した。
こうして暗号解読によって攻撃に成功し、珊瑚海で日本の空母2艦を打破した。そのことで、ミッドウェー海戦の勝敗を左右した。その後、日本軍がミッドウェーに来るということも、暗号解読で見抜いた。
しかも、レーダーがあるので、近づいた日本軍の行動を正確に知ることができた。
結局、日米戦争の趨勢を左右したのは、暗号解読技術だったのだ。戦力では日本軍の方が圧倒的に上回っていたのだが、暗号解読技術には大差があった。米軍は日本軍の暗号を解読して、日本軍の行動をすべて見抜いていた。驕る日本軍は、「こっちの暗号は完璧なんだから、解読できるわけがないさ」と楽観していた。また、「たとえ解読されても、米国人は日本語を理解できるわけがないさ」と思って、敵を軽んじていた。そのくせ、自分からは米軍の暗号を解読しようとはしなかった。逆に、「敵性語を学ぶのは禁止」と言って、米軍の情報を取ることを禁じてしまった。(馬鹿丸出しとはこのことだ。)
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21世紀は、コンピュータが発達したので、情報技術の時代だとも言われる。だが、半世紀上も前の第二次大戦期においても、すでに情報技術が戦争の趨勢を左右していたのだ。その時点ですでに、情報技術の時代になっていたのだ。戦争の勝敗を決めるのは、空母や戦闘機ではなく、情報技術だったのである。だからこそ、空母や戦艦や戦闘機では圧倒していた日本軍が敗北して、戦力的には大きく劣後していた米軍が勝利したのだ。
日本軍は山本五十六の天才的な作戦で、真珠湾で圧倒的な戦果を上げた。それによって米国海軍に壊滅的な被害を与えて、残った戦力では圧倒的に優位に立つことができた。
しかしながら、戦力では圧倒的に優位に立っても、暗号技術では完全に劣っていた。情報技術では完全に劣っていた。そのせいで、ミッドウェーでは負けたのである。
そして、話はミッドウェーだけでは済まなかった。その後も日本は、暗号解読のせいで、連戦連敗というありさまだった。のみならず、山本五十六さえ、その移動情報が暗号解読で見抜かれていたので、米軍に事前準備されて、撃墜されてしまった。
この前線指揮に関して、山本は……後方の戦艦「武蔵」で指揮をとることを望んだが、連合艦隊参謀長・宇垣纏に説得された。
巡視計画電報に対して第十一航空戦隊司令官・城島高次は「前線に、長官の行動を、長文でこんなに詳しく打つ奴があるもんか」と憤慨したという。
アメリカ海軍情報局は、4月17日に「武蔵」から発信された暗号電文を解読してこの前線視察の情報を知った。ニミッツは、山本暗殺の議論で後にもっと優秀な司令官が出てくることを心配したが、太平洋艦隊情報参謀エドウィン・レイトンから「山本長官は、日本で最優秀の司令官である。どの海軍提督より頭一つ抜きん出ており、山本より優れた司令官が登場する恐れは無い」という答えがあり、また、山本が戦死すれば日本の士気が大きく低下すること、山本がきわめて時間に正確な男で今度も予定を守るだろうということを理由に山本の暗殺を決断し、南太平洋方面軍司令官ウィリアム・ハルゼーに対する命令書を作成した。
(山本は)零式艦上戦闘機6機に護衛されブイン基地へ移動中、ブーゲンビル島上空で、アメリカ陸軍航空隊のP-38ライトニング16機に襲撃・撃墜され戦死した。
( → 山本五十六 - Wikipedia )
暗号解読を軽んじていた日本軍は、兵器の性能向上ばかりに熱中していて、情報戦というものをないがしろにした。時代はもはや情報の時代になっていた、ということを見抜けなかった。だからこそ、半世紀以上も前の戦いで、日本は敗北したのである。
[ 余談 ]
余談だが、この映画は「米国視点で、米国寄り(米国びいき)だ。偏向している」という批判がある。Amazon プライムの感想にも、そういう批判が多い。
まあ、それはそうなんだが、私は「どうせ米国びいきだろ」と予想していたので、「思ったよりは公平だったな」という感想をもった。「日本軍は無敵だ」なんていう礼賛みたいな言葉が出てくるのを見ると、「ちょっと意外だな」とも感じた。(もっとも、無敵のラスボスをやっつける、正義のヒーローである米国人」という構図を作るために利用された感はあるが。)
ただ、それにしても、明らかに偏見があると見られた場面もある。それは、日本の戦闘機が中国の市民を銃撃している場面だ。
米軍人「軍施設じゃない。何を狙った?」
中国人「人です」
これは、軍人ではなく民間人を戦闘機で銃撃する日本軍は悪党だ、という印象づけを狙った場面だ。「悪の日本と、正義の米国」というふうに。
ま、こういう場面がなかったとは言えない。実際、米軍機だって、日本の田畑で田んぼの農民を銃撃することがしばしばあったからだ。
アニメの「この世界の片隅に」にも、戦闘機に銃撃される場面があったはずだ、と思って、ググってみると、次の文章があった。
すずは海辺から逃げてきた鳥を追って外へ出たとき、戦闘機2機を目撃。怒りで睨んでいると銃撃され、危うく殺されるところを、周作に助けられた。
( → 【この世界の片隅に】ネタバレを最後まで )
だから、「戦闘機が人を銃撃する」という場面があったことは、別に問題ない。ただし、それを口に出している米軍人が問題だ。この米軍人は、日本を空襲した直後である。日本を空襲したというのは、民間人に多数の被害を出したということだ。
ジミー・ドーリットル中佐を指揮官とするB-25爆撃機16機は、日本本土各地(東京、横須賀、横浜、名古屋、神戸、等)に空襲を実施し、民間人に被害があった。
( → ドーリットル空襲 - Wikipedia )
この空襲は、民間人に大きな被害を出すものであって、軍事的被害はほとんどなかった。(空襲にともなう別の同時攻撃で、いくらか被害が生じた程度だった。)
つまり、空襲で(軍施設のかわりに)多数の民間人を殺していた本人が、日本の戦闘機が中国人市民を1人攻撃するのを見て、「悪党だ」と怒っているのである。
このドーリットル中佐は、事後に英雄として勲章をもらった。つまり、
「一人を殺せば悪党だが、多数を殺せば英雄だ」
というジョークみたいな話が、まさしく現実になっているわけだ。呆れるしかないね。
ま、ドーリットル中佐本人がそのセリフを語ったわけではなく、映画の登場人物が語っているだけなのだが、それにしても、この映画の偏向ぶりには、呆れるしかない。
「おまえが言うな」と言ってやりたくなる思いを、どうにも抑えかねるね。
[ 付記 ]
この映画は、CG を駆使して、戦争の場面をリアルに描写している。その戦争の場面の迫力は、ものすごい。実際に参戦して、戦闘機に乗っているような迫真性がある。ウクライナの戦争を見て、戦車の残骸などを見て、適当に想像することはできるが、リアルな戦争というものがどれほどすさまじいものであるかを、見事に映像化しているという点で、この戦争映画は傑出しているね。CG 技術を見事に利用しているという点で、感嘆する。無料で見られるので、是非、見ることをお勧めする。
なお、これ以前には、ミッドウェーでなく真珠湾の方を主題にした「トラ・トラ・トラ」という大作があった。社運をかけた超巨額をかけて、黒澤明の脚本でつくった、傑作だ。日本と米国を公正な立場で見た映画であり、日本人の観客にはとても評価が高かった。
だが、その分、米国賛美ができなかったので、米国賛美を期待していた米国人観客の評判は悪かった。映画の出来は良かったのに、米国での興収はまったく振るわなかった。映画会社は大損をしたようだ。社運をかけて、超巨額を投入したのに。
それに懲りたので、米軍が負ける真珠湾攻撃ではなく、米軍が勝つミッドウェー海戦を主題にして、米人びいきに偏向して、この「ミッドウェイ」という映画は出来た。米国人が勝つ正義のヒーローの話なので、米国人の観客は喜んだ。客がホイホイやって来て、映画会社はちゃんと儲けたようだ。……ただし日本では、興収はさっぱりだった。(たったの4億円だけ。)なお、製作費120億円とのことだ。
※ Amazon プライムは、商品購入をすると、無料会員になれる。すぐに退会手続きをすると、1カ月後に、自動退会となる。それまでの1カ月間は、会員として無料視聴をすることができる。(すぐには退会にならない。)
『トラ・トラ・トラ!(Tora! Tora! Tora!)』は前に視ましたが、筋書きはともかく、映像は本当によくできていると思いました。戦闘機にしろ空母にしろ戦艦にしろ、特撮によくあるオモチャ感というか作りモノ感がありません。「実写」の迫力といいますか。1970年公開の映画なので、CGなど全くない時代によくぞここまで、という感じです。あらためて Wiki で調べてみたら、米アカデミー賞の「視覚効果賞」を獲得しているんですね。