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ウクライナ戦争でロシアが東部で退却している。その理由は、米国と欧州諸国がウクライナに武器支援しているからだ。…… ここまでは、前項で述べたとおり。
さて。米国と欧州諸国がウクライナに武器支援しているからには、日本もまた武器支援するべきだと言えるだろう。
ちなみに、数字で言うと、下記の記事の通りだ。
→ 米議会下院 ウクライナ支援強化で約400億ドルの追加予算案可決 | NHK(前項)
→ EU、ウクライナへ武器支援2700億円に増額 石油禁輸は持ち越し :朝日新聞
→ 岸田首相 3億ドル借款を表明 ウクライナ情勢めぐるG7首脳会議 | NHK
日本は武器支援の額はゼロで、あるのは民生支援だけだ。しかもその額は、米国の 400分の3だから、1%以下。欧州の 20分の3だから、1.5割。
さらに、日本がやるのは、供与でなく借款だから、供与の分はゼロ同然だ。あまりにも貧弱であり、赤面するしかない。
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どうせなら、日本も武器を供与するべきだろう。特に、退役した戦闘機と戦車を供与すればいい。それならば、実質的な支払額はゼロでも、供与したときには莫大な額の供与に化ける。たとえば、F-4 戦闘機は、日本で退役させれば価値はゼロだが、ウクライナに供与すれば価値は1機 10億円ぐらいになるから、20機で 200億円になる。これだけで2億ドルぐらいの計算だ。74式戦車も、1輛1億円として、 56輛あるので、56億円になる。これだけで 0.5億ドルぐらいの計算だ。あれこれあわせて、3億ドル相当ぐらいの武器支援ができそうだ。
→ ウクライナ戦争 31(つづき): Open ブログ
なお、戦車はともかく、戦闘機を供与できるのは、日本だけであるようだ。理由は前にも述べたとおりで、日本だけは、ロシアから反撃されないで済むからだ。というのは、ロシアは、ウクライナと日本で、二正面作戦を採るわけには行かないからだ。
→ ウクライナ戦争 11(日本の参戦): Open ブログ
欧州が戦闘機を供与したら、ロシアは頭にきて、欧州に攻撃してくるかもしれない。しかし日本が戦闘機を供与しても、ロシアは、日本を攻撃するわけには行かないのだ。そんなことをしたら、二正面作戦を採ることになり、戦力の分断を招いて、ウクライナで負けてしまうからだ。のみならず、極東でも日本に負けて、双方で負けてしまう。……つまり、戦力の分断というのは、下の下なのである。やったとたんに、負けてしまう。だから、そんなことをするわけには行かない。
というわけで、日本がウクライナに武器支援をしても、ロシアとしては黙って見ているしかない。ゆえに、日本だけはウクライナに戦闘機を供与できるのだ。
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ただし、それでも、「もしかしたらロシアが攻めてきたら」という場合の対策を考えておくことは必要だ。
第1に、ロシアが日本領内に攻めてきた場合には、話は簡単だ。攻めてきたロシア軍を、日本が防衛すればいい。ロシアの戦闘機を、日本の F-35 で迎え撃つわけだ。これなら、話は簡単である。
第2に、ロシアが日本にミサイルを撃ってきた場合には、まずはミサイル防衛網で対処する。しかしミサイル防衛網は、すぐに弾切れになる。最初の数十発ぐらいは迎撃できても、やがては弾切れになる。そうなると、ミサイルが自衛隊基地に命中することもあるだろう。
その場合には、自衛隊基地への被害はある程度、甘受するべきだ。その一方で、ロシアの基地を撃破するべきだ。これは反撃能力(敵基地攻撃能力)による。
ところが、である。そうしたくても、現実にはできない。なぜできないかというと、法的に規制されているからではなく、日本にはその能力がないからだ。単純に言えば、「空対地ミサイル」がないからだ。敵のミサイルを撃破しようにも、日本の F-35 や F-15 は、「空対地ミサイルがない」という特殊仕様なので、対地攻撃能力がないのだ。もちろん、爆弾もないので、爆撃能力もない。ひどいものだ。
結局、敵が日本にミサイル攻撃をしてきても、それを止める手段はない。黙って被害を受けるしかないのだ。
要するに、日本の自衛隊は、自衛能力がまともにないのである。「専守防衛」というへんてこりんな政策を取っているせいで、「正当防衛」という手段を執れないのだ。
比喩的に言えば、こうだ。あなたが夜道を歩いていると、暴漢がナイフいきなり襲いかかってきた。そのとき、あなたができることは、空中でナイフを止めること(いわば真剣白刃取りをすること)だけだ。
《 真剣白刃取り 》
ここでは暴漢の顔を殴ることも、暴漢の腹を殴ることも、足払いをすることも、禁じられている。もし暴漢の体に触れたら、それは暴漢を攻撃することになるので、「専守防衛」には反してしまうのだ。やってもいいのは、真剣白刃取りだけなのだ。
ゆえに、真剣白刃取りをしようとするのだが、それは 現実には不可能だ。やろうとすれば、切られて死んでしまうだけだ。つまり、ナイフで襲われたとき、「専守防衛」にこだわれば、「正当防衛」ができないまま、死ぬしかないのだ。
同様に、暴漢がピストルを撃ってきた場合には、暴漢に石を投げて攻撃することはできない。できるのは、空中を飛んでいる弾丸をつかむことだけだ。(スーパーマンならば可能だ。)……これは、今の日本の「ミサイル防衛網」というシステムのことだ。
……以上が、現在の日本の防衛の方針である。
かくて日本は、敵基地攻撃をもたないでいる。空対地ミサイルもないし、爆撃能力もないし、巡航ミサイルもない。
空対地ミサイルについては、2017年には配備を検討したのだが、その後は沙汰止みであり、ろくに検討すらもしていないようだ。
実は、普通の空対地ミサイルではなく、大型の「空対艦・空対地」長射程ミサイル「LRASM」を導入しようとはしたが、あまりにも改修費が高くなりすぎるので、諦めた……という経緯はある。
→ 空自F15、空対艦ミサイルの導入見送り…米が改修費の大幅増額要求 : 読売新聞
しかし、こんな特殊仕様の対地ミサイルを購入しようというのが、根本的におかしい。F-15 には、標準の爆撃装置や空対地ミサイルがあるのだから、それを搭載すればいいだけだ。なのに、わざわざそれをはずすために、日本向けの特殊仕様の F-15J なんてものを特別発注して、能力をなくすために高い金をかける、という馬鹿げたことをしていた。
F-35 の場合には、空対地ミサイルを搭載できるのだが、日本向けの F-35 には、空対地ミサイルが搭載されていない。わざわざ搭載できなくするための改造がなされているとは思えないが、肝心の弾がないので、弾切れ状態で、使えない。
となると、今の日本にとって一番大切なのは、F-35 に搭載可能な空対地ミサイルを購入することだろう。それさえあれば、敵基地攻撃能力をもてるし、また、日本に攻めてきたロシア軍戦車を撃破することもできる。
現実には、自衛隊は空対地ミサイルを搭載していない。だから、ロシア軍の戦車が攻めてきたら、たとえ日本が航空優勢であっても、ロシア軍の戦車を航空機で撃破することはできないのだ。そのためのミサイルも爆弾もないからだ。
まったく、呆れた話である。日本の自衛隊は、ありもしない「離島防衛」のことにはやたらと熱中していているが、一方で、「日本に攻めてきた戦車を撃破するための武器」を用意していないのだ。陸上自衛隊の榴弾砲や対戦車ミサイルはあるのだが、肝心の航空機には、対地攻撃能力がないのだ。呆れるほどの無能ぶりだ。
頭隠して尻隠さずとも言えるし、馬鹿丸出しとも言える。世界広しといえども、これほどの間抜けぶりを見せた馬鹿軍隊というのは、めったにないだろう。「攻撃能力を封じる」という名目で、「防衛能力をも封じる」という結果になっているからだ。比喩的に言えば、警察に拳銃を配布したのはいいが、「専守防衛」という名目で、弾丸を配布しないでいるようなものだ。( F-35 の状況そのまんまだ。)
そして、軍事オタクというのは、「戦車を配備しよう」という時代遅れなことばかりを言っていて、「敵の戦車を攻撃するための空対地攻撃能力を備える」ということを、まったくなおざりにしているのである。
今回、ロシア軍の間抜けぶりが世界中で話題になっている。だが、次に笑いものになるのは、日本の自衛隊だろう。
「空対地攻撃を自ら禁じて、防衛力がない間抜けぶり」
「離島防衛ばかりに熱中して、本土防衛をしない間抜けぶり」
という感じだ。
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※ 後者の間抜けぶりについては、別項で論じた。
→ 済州島という盲点: Open ブログ
中国が日本を攻めるときは、離島経由で攻めてくるだろうから、離島防衛をするのが大切だ……と自衛隊は思っている。だが、それは大いなる錯覚だ。中国が日本を攻めるときは、離島経由ではなく、上海から直接本土を叩く。その方がずっと簡単だからだ。地図を見ればわかる。
なのに、それを理解できない人が多い。たとえば、これもそうだ。
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【 追記 】
コメント欄で記しているが、対地ミサイルは、F-15 の改修案では搭載される予定である。
ただし F-35 については、お寒い限りだ。対地ミサイルの搭載は可能であるのにもかかわらず、2017年に搭載が検討されただけで、以後は沙汰止みである。この件は、本文中に述べた通り。
【 関連項目 】
→ 反撃能力(敵基地攻撃能力)1: Open ブログ
⇒ これは、私の認識とは少し違います。暴漢がただ抜き身を下げているだけの時には、腹パンや足払いはできませんが、暴漢が先に切りかかってきたら、腹パンも足払いもできるのでは? これは専守防衛の範囲内だと思います。
ただし、治安出動や海上警備行動が発令されている場合だと、できれば体術のようなもので相手を取り押さえる(白刃取りも含む)か、攻撃をするにしてもその刀に対してだけ(例えばこちらも刀で受けて相手の刀を折るとか)かもしれませんが、防衛出動命令が出ている場合は、なるべく相手の被害が少なくなるように攻撃する(例えば相手の足を狙って撃つ)ことも、専守防衛として許されている解釈だと思います。
> 同様に、暴漢がピストルを撃ってきた場合には、暴漢に石を投げて攻撃することはできない。できるのは、空中を飛んでいる弾丸をつかむことだけだ。(スーパーマンならば可能だ。)……これは、今の日本の「ミサイル防衛網」というシステムのことだ。
⇒ 同じく、少なくとも防衛出動の場合は、先に相手がミサイルやロケットを発射してきたら、そのミサイル等を撃ってきた航空機や艦艇への攻撃はできると思います。相手が撃ったミサイル等に対してだけしか攻撃できない、という解釈ではないはずです。ただし、相手の航空機や艦艇が、相手の領空・領海内にいる場合は微妙ですね。これは、敵基地攻撃ができるかできないか、という話と同じです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/AGM-65_%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF
また、F-15J には搭載できないのかもしれませんが、F-2 の兵装には「空対艦ミサイル×4」とあります。これは、下の ASM-3 ミサイル(国産品)だと思います。(なお、現在 ASM-3 の後継ミサイルも開発中とのこと。)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ASM-3
また、このミサイルの前身の ASM-2(93式空対艦誘導弾)や ASM-1(80式空対艦誘導弾) というものもあります。これらから派生した陸自用、海自用のミサイルも複数あるようです。昔から自衛隊は、航空機に搭載できる対地(対艦)用兵器をそれなりに持っているのではないでしょうか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/93%E5%BC%8F%E7%A9%BA%E5%AF%BE%E8%89%A6%E8%AA%98%E5%B0%8E%E5%BC%BE
https://ja.wikipedia.org/wiki/80%E5%BC%8F%E7%A9%BA%E5%AF%BE%E8%89%A6%E8%AA%98%E5%B0%8E%E5%BC%BE
> 少なくとも防衛出動の場合は、先に相手がミサイルやロケットを発射してきたら、そのミサイル等を撃ってきた航空機や艦艇への攻撃はできると思います。
公海上ならば、できるようですね。航空機からの空対艦ミサイルぐらいならば。
> ただし、相手の航空機や艦艇が、相手の領空・領海内にいる場合は微妙ですね。これは、敵基地攻撃ができるかできないか、という話と同じです
そう。そういう話をしている。相手の空対地ミサイルでなく、地対地ミサイルの話。
文中では
「 第2に、ロシアが日本にミサイルを撃ってきた場合には、〜」
というふうに話が限定されているが、これは、地対地ミサイルの話です。戦略ミサイルの話。航空機や地上部隊からの小規模ミサイルの話ではありません。
本項のタイトルが「反撃能力(敵基地攻撃能力) 2」であることに注意。敵基地への攻撃が必要となる場合(地対地ミサイルなどの場合)をテーマとしています。敵が遠距離攻撃をしてきた場合です。
短距離の接近戦をしている場合は、本項の話の対象外です。この件は、「 第1に、ロシアが日本領内に攻めてきた場合には、〜」というふうに、簡単にまとめられてあります。
ただし、空対艦ミサイルは、とても大型なので、搭載できる機種が限られている。日本では専用の F-2 が開発された。
また、空対艦ミサイルは、とても高価なので、戦車を叩くのでは、効果が薄い。巡洋艦を叩くための特別なミサイルを、たかが戦車を叩くために使っていたら、あっという間に弾切れになってしまいます。
空対地ミサイルは、安くて大量にあることが大事なので、空対艦ミサイルはその代用にはなりません。
ところで、ASM-1 〜 ASM3 ミサイルは、確かに空対艦ミサイルとしての位置づけかもしれませんが、私の2番目のコメントに書いた AGM-65 マーベリックは、最初に紹介した Wiki の記述でも空対地ミサイルと書かれていますし、下の記事には、
> AGM-65は、実戦での戦果において右に出るものがない傑作ミサイルです。これまで他国軍において様々なタイプが合計5000発以上発射され、おもに対戦車ミサイルとして使われました。ターゲットが船舶でも戦車でも射撃前に映像で捕捉し射撃する手順は変わらないので、ある意味ではP-1は地上攻撃能力もあるといえます。
のように書かれているので、空対地ミサイルの位置付けになると思います。ただし、この記事では、海自のP1哨戒機には AGM-65 が8発搭載できると書かれていますが、もう少し小回りの利く戦闘機とか攻撃機(とくに、海自ではない陸自や空自の航空機)で運用がなされているかは不明です。
https://trafficnews.jp/post/96317/2
→ https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14102255289
> 航空自衛隊のF-15Jは、制空戦闘機型のF-15Cをベースに開発されていますが、2022年から開始される予定の能力向上改修で、「JASSM-ER」のような長射程の対地/対艦ミサイルなども運用できる多用途戦闘機「ジャパニーズ・スーパー・インターセプター」(F-15JSI)へと生まれ変わる予定です。
→ https://trafficnews.jp/post/99147
――
p.s.
この件は前に別項でも論じた。F-15 の改修案の話。
→ http://openblog.seesaa.net/article/486410548.html
この項目の最後で言及しているが、リンクもある。
→ https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0522G0V00C21A8000000/
「対艦ミサイルの搭載は断念したが、対地ミサイルは搭載される」と記してある。
蛇足ですが、追加で調べたところ、空対地ミサイルとして他に、陸自の攻撃ヘリ(AH64D アパッチロングボウ)に搭載される AGM-114 ヘルファイアというのがあるようですね。シン・ゴジラでもヘリから発射されていた? でも、ヘリに搭載されるものだと、筆者が想定されるような、他国領土にまで飛んでいって、そこにいる敵戦車を攻撃することはできないですね。
http://mmsdf.sakura.ne.jp/public/glossary/pukiwiki.php?AGM-114
シン・ゴジラで思い出しましたが、F-2に搭載できる空対地兵器としてミサイルではないですが、JDAMシステムという精密誘導弾(統合直接攻撃弾というらしい)はありましたね。
http://rightwing.sakura.ne.jp/equipment/jasdf/weapons/jdam/jdam.html
https://www.youtube.com/watch?v=vlf9rgxtwRg