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戦争の状況が急激に変化した……という話は、前にも述べたことがある。
→ ウクライナ戦争 17(戦況の変化): Open ブログ(3月19日)
ここでは、「キーウ陥落か」と思えた状況から、「ロシア軍がキーウ周辺で敗退しつつある」という状況へ、一挙に「状況の転換」があった……というふうに示した。
ここで述べたことは現実化した。その後、ロシアはまさしくキーウ周辺から完全撤退した。
ここまでは、上の戦況分析が当たっていたことになる。
ところが、そこで撤退した戦力は、ウクライナの東部および南部に回された。そのせいで、東部および南部で攻撃が激化して、東部や南部は次々とロシアに支配されていった。
ところが、「一挙に攻略する」というロシアの目論見は成就しなかった。ウクライナ軍はよく抵抗して、一進一退の状況が続いていた。それでもロシアは徐々に支配地域を拡大していった。その速度は遅かったが。
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ここまでが、以前の状況だった。
ところが、最近になって、状況が一転した。ロシア軍は次々と敗退しており、ウクライナ軍が次々と陣地を奪還しつつあるのだ。このことは報道されている。
ハルキウは人口140万人を超える重工業都市で、ロシア軍が侵攻の初期に包囲していた。戦争研究所の分析は、「ウクライナはハルキウの戦いに勝利したとみられる」と評価。この数日、ウクライナ軍の反撃に対して陣地を守る動きがほぼみられないという。
また、米国防総省によると、ウクライナ軍はハルキウ東部でロシア軍を大きく後退させたのに続き、この数日でハルキウ北部のロシア軍部隊も国境近くにまで押し返したという。
ウクライナ軍参謀本部も14日に発表した戦況分析で、ロシア軍が積極的な戦闘行為をせず、ハルキウから自軍を撤退させることに集中していると明らかにした。
( → ロシア軍、第2都市ハルキウから完全撤退か 反撃に対応できず被害:朝日新聞 )
東部地域では一度、占領されたものの、ウクライナ側が再び奪還する街が出ています。
ウクライナ政府は4月の最終週にハルキウ州内でロシア軍に占領されていた少なくとも11の村を奪還したと発表しました。
副市長:「ほぼ毎日のように、占領されていた村が解放されています」
副市長:「ここ最近、海外から頂いた武器が届きました。オーストラリア、スロベニア、チェコ、ポーランドなどから色々と頂きました」
「ロシア軍は兵士が着るものも足りないようで、普通の靴を履いている兵士までいました。軍隊には燃料や弾薬だけではなく、服装や食料も提供する必要がありますが、現在ロシア軍には届いてない状態です。食べ物さえ足りない人がこんなに大勢いることで、ますます危険性が高くなってくる」
( → 相次ぐ奪還…東部戦線に「変化」 見えてきたウクライナ“反転攻勢”の実態|テレ朝news )
ウクライナ軍が次々と奪還しつつある。それが実現しているのは、一部の領域に限られているようだが、他の地域でも、ウクライナ軍は劣勢から優勢に転じつつあるようだ。
このことは、3月19日の状況分析のときと似ている。あのときも、状況が急激に一転した。それと似た状況が、今回も起こりつつあるようだ。(ただし、あのときほど劇的ではなく、もっと緩慢な転換であるようだ。領域も、あのときは一箇所だけだったが、今回は多方面の領域なので、一概には言えない。)
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このような状況の転換が起こったのは、どうしてか? テレ朝の動画ニュースでは、
「ここ最近、海外から頂いた武器が届きました。オーストラリア、スロベニア、チェコ、ポーランドなどから色々と頂きました」
と言っている。だが、やはり主たる武器は、米国と英国だろう。
特に米国は、圧倒的な量の兵器を送りつつある。
ウクライナへの兵器の供与や人道支援などを強化するため、アメリカ議会下院は、バイデン大統領が当初求めていた額から70億ドルさらに上乗せしたおよそ400億ドル、日本円にして5兆2000億円の追加の予算案を可決しました。
( → 米議会下院 ウクライナ支援強化で約400億ドルの追加予算案可決 | NHK | ウクライナ情勢 )
ウクライナのマリャル国防次官は……記者会見で、対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」に加え、米国が供与した155ミリ榴弾砲が前線に届いていると表明。「これら兵器は兵士にとって生命線であるため配備のペースの加速に努めている」とも述べた。
米国防総省の高官は10日、米国がウクライナへの引き渡しに合意した榴弾砲90門のうち89門を同国が受け取ったことを記者団に明らかにしていた。
( → CNN.co.jp : 外国提供の兵器、最前線へ既に投入 ウクライナ国防次官 )
ウクライナへの兵器の引き渡しの現状に触れ、「休むことなく、前例のない迅速さ」で処理し続けていることを明らかにした。
過去の事例では、数週間あるいは数カ月間かかっていた。だが、ウクライナの場合は過去数カ月間、最短で48~72時間で終えているとした。
155ミリ榴弾砲や砲弾4万発も盛り込まれた。
( → CNN.co.jp : 米のウクライナへの兵器供与、異例の最短48~72時間で実行 )
英国も武器支援している。特に、榴弾砲「M777」と砲弾「エクスカリバー」は、強烈な威力を誇っているようだ。
「特筆すべきは、『エクスカリバー』という砲弾です。羽を持ち、外観はミサイルそっくりです。GPS誘導の機能を持っているので、目標との誤差は5メートルから20メートルと、まさにピンポイントの砲撃が可能なのです。おまけに飛距離も40キロから57キロまで飛ばせます。あらゆる面で、ロシアの榴弾砲を凌駕しているのです」
M777は、アメリカ、カナダ、オーストラリアからウクライナに運ばれており、その数は100門を越えたという。
「砲弾も14万発がウクライナに到着したと報じられています」
( → ウクライナ軍に提供される榴弾砲「M777」、砲弾「エクスカリバー」の強烈過ぎる破壊力 兵器の装備でもロシア軍は惨敗 | デイリー新潮 )
ここで言う榴弾砲とはどういうものか? 普通の砲弾は、ほぼ水平に低い軌道を取るが、榴弾砲や迫撃砲は、山なりの高い軌道を取る。すると、敵の戦車に当たるときには、正面から当たるのではなく、斜め上から当たる。すると、戦車は上からの攻撃には弱いので、うまく戦車を破壊できるのだ。
特に、ドローンと組み合わせると、弾が外れるたびに、砲撃の方向を微修正できるので、数回の修正で、見事に敵の戦車に的中できる。弾はたくさんあるので、この方法で次々と敵の戦車を破壊できる。
前に 別項のコメント欄で、次の動画を紹介した。ウクライナのドネツクで、ロシアの戦車がドローンで偵察されながら、次々と爆破されていく動画だ。これで、あっという間に全滅状態となった。
榴弾砲のほかに、ドローンの攻撃も役立っているようだ。
また、前に述べたスイッチブレード(カミカゼドローン)も効果を出しているはずだ。
先のテレ朝のニュースでは、副市長がこう言っていた。
「彼らがいる所は見やすくて平地であるため、我々に対してメリットになっています。ロシア軍の戦車などを狙いやすいのは間違いない」
見通しのいい平地なので、(偵察ドローンの支援を受けた)榴弾砲や、攻撃ドローン(爆弾付きや自爆型)が、見事な成果を生み出しているようだ。
前にキーウ周辺で戦ったときには、森林だらけだった。そこではウクライナ兵が、森林に隠れながらロシア軍の戦車に近づいて、こっそりと近くからジャベリンを撃って、多大な被害を与えた。ロシアとしては、「森林では圧倒的に不利だから、ここは撤退しよう。東部ならば平原だらけだから、もうその手は食わないぞ」と思ったのだろう。
なるほど、確かにその手は食わなかった。もはやジャベリンは使われなかった。(近づけば見えてしまうからだ。)……しかし、ジャベリンのかわりに、榴弾砲や攻撃型ドローンが使われたのだ。そのせいで、思惑が外れて、ロシア軍は傷だらけになった。
特に、補給線が攻撃されたのが痛い。兵站が損なわれたので、ろくに補給ができず、まともに戦うことができなくなっているようだ。
ロシア軍の疲弊が鮮明になっている。経済制裁の影響で、兵器など軍事物資の調達がままならないことが要因の一つだ。現在の規模の戦闘を維持した場合、月内か6月に軍事資源が枯渇するとの分析があり、……
英国防省は2日、ロシアが侵攻開始時に投入した兵力について、4分の1以上が「戦闘不能」になった可能性が高いとする分析結果を公表した。空挺部隊を含む精鋭部隊が最も大きな打撃を受けているとされ、部隊再建に「数年を要する」と同省は見ている。
西側情報筋は「兵器や燃料といった物資の生産が、需要に全く追いついていないようだ」と指摘する。戦時、軍需施設では平時を大幅に上回る生産態勢が必要だが、「(ロシア国内の)軍需関連工場の稼働率は平時より低い。戦車が故障しても(修理に必要な)部品を十分に生産できていない」(同筋)状況という。
( → ロ軍の疲弊鮮明 制裁で兵器調達困難に―西側情報筋:時事ドットコム )
「経済制裁による、兵器生産の停滞」は、前にも本サイトが指摘したが、それがはっきりと顕現化しているようだ。
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以上のことからして、ロシアの敗勢は次第に鮮明になっていくようだが、近いうちにロシアが全面的に敗退するということはなさそうだ。たしかに西側諸国の武器支援で、ロシアは優勢から劣勢に転じて、徐々に後退しつつあるようだが、だとしても、ロシアがウクライナの東部や南部から全面撤退するということにはなりそうにない。それが実現するのは、まだまだ先のことになりそうだ。つまり、かなりの長期戦になりそうだ。
とはいえ、それにもやがては、「期限」というものが来る。というのは、兵站の問題があるからだ。今はまだ武器があるので戦えるが、やがては武器が枯渇する。そうなると、ロシア兵力不足で、敗勢は一挙に鮮明になる。
戦況は、なだらかに少しずつ替わるのではなく、あるとき一挙に大幅に転換することになるだろう。その日が来るのはいつか? 上の記事にあるように、6月ごろかもしれない。
ただ、本日 5月15日のころという時点で、ロシアの優勢が失われつつあるということに着目しよう。この時期は一種の「分水嶺」みたいなものだという位置づけができそうだ。あとから振り返っても、この時期の重要性は明らかになるだろう。
そして、それを決定づけたのは、西側各国からの武器支援なのだ。世界中の人々がいくら口で応援しても、国連が何かを議決しても、何の効果もないのだが、現実の武器は、まさしくウクライナを救えるのだ。
→ 「ロシア軍、”戦史に残る”渡河作戦失敗」の衝撃〜そもそも渡河作戦って、なぜそんなに難しいの? - Togetter
https://togetter.com/li/1887804
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翻訳用の海外ツイート(ウクライナ軍):
https://x.gd/SWurj https://x.gd/kDl8Q https://x.gd/0RpwJ https://x.gd/CcXLU https://x.gd/GJD0n
「教科書通りだね」という感想があるが、伝統的な陸軍の教科書とは違う。
@ 偵察ドローンが航空力の一環となった。航空優勢に近い立場だ。
A 現実の航空優勢で、航空機が空爆した。
> 空自元最高幹部が解説、ロシアが制空権を取れない驚くべき理由 今後の戦況はウクライナ西部での制空権がカギ握る | JBpress
→ https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70153