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電動キックボードは、これまで制限されていた。原付きバイク同様に、運転免許が必要だった。そこで、これを大幅に緩和するというふうに法律改正がなされた。しかし、疑問の声が多い。
衆議院で2022年4月19日、道路交通法の一部を改正する法律案が可決され、その中で「特定小型原動機付自転車」という新たな乗り物が車両区分として認められた。特定小型原動機付自転車は、同改正においていわゆる電動キックボードを主に想定したものだ。施行は2024年夏頃までを目途としている。
なぜ、このタイミングで「電動キックボード」の規制緩和が行われるのか。しかも、一定の条件を満たす機種では、16歳以上であれば運転免許不要でヘルメット着用は任意、さらに歩道も走れることになるという。
( → 「電動キックボード」の不安が拭えぬ2つの法解釈 | 東洋経済 )
▽最高時速が自転車並みの20キロ以下なら免許不要とする(16歳未満は禁止)
▽電動車いすと同等の6キロ以下に制御されていれば、自転車が通行できる歩道での走行を認める
▽ヘルメットの着用を努力義務に緩める
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電動キックボードは手軽な移動手段として都市部を中心に利用が広がる。一方で歩行者との衝突事故などが相次ぎ、重傷者も出ている。昨年9〜12月の検挙・指導・警告は、全国で300件を超えた。条件つきとはいえ歩道走行を公に認めれば、トラブルが増えるのは必至だ。
歩道上の速度超過の認定は容易でなく、公正な取り締まりができるかとの懸念も生じる。ここはやはり「歩車分離」の徹底を図るべきではないか。
より弱い立場にある歩行者を危険にさらすのはおかしい。
歩行者優先の考えをないがしろにしてはならない。
( → (社説)道交法改正案 歩道の安全守れるか:朝日新聞 )
私がこれらの記事を読んだときの感想は、「時速 20キロというのは速すぎて危険だ」ということだった。ではどこまで認めるかというと、「15キロでもまだ危険だな」と感じた。そこで、ひとまず、こう考えた。
「 最高速度は高くても時速 12キロに限るべきで、現実的には時速 10キロが妥当だ」
つまり、「時速 10キロ」を条件に容認する、という方針だ。
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ところが、速度以外の点で、次の指摘があった。
「小径タイヤ故に自転車やバイクよりも路面の影響を受け易く、……非常に危険です」
電動キックボードの開発者です。
— 藤井 充 (@mitsurufujii) April 20, 2022
使い方によってはとても便利な道具ですが、小径タイヤ故に自転車やバイクよりも路面の影響を受け易く、現状の日本道路行政のままで免許不要(安全教育なし)で運用するのは非常に危険です。いろんな意味で危うい試みだと感じています。 pic.twitter.com/O08jlaqwsi
この人は、「後で大きなしっぺ返しが来る」と述べて、現状の方針を否定している。その一方で、完全な否定論ではなく、「対処可能だ」とも言っている。
主な危険性には以下の3つがあるという。制動性能や旋回性能がバイクより劣るため、「走行性能は自転車以上バイク未満」であること。小径タイヤであるため、「荒れた路面や段差は苦手」であること。立ち乗りで重心が高いことによる、「急激な姿勢変化に対して弱い傾向」を持つこと、これら3点を挙げた。
その上で、「これらは『知って、学び、訓練すること』で乗り越えることができる課題」と指摘。自身が過去に携わってきたという自動車レースを例に挙げて、危険だから遠ざけるのではなく、いかに知って制御するか考えたいとした。
具体的に必要な知識には、普通自動車免許を取得する際に学ぶ基本的な交通に関する知識と、上述に挙げた危険性など電動キックボードの特性の2点を提示。免許未取得者でも1日かけて学べば、問題なく公道を走ることができるとし、免許不要であっても安全講習の必要性を説いた。
( → 電動キックボード開発者が“免許不要”のリスクを指摘 「後で大きなしっぺ返しが来る」 - ITmedia NEWS )
この人が容認論になるのは、「電動キックボードの開発者」であることから、やむを得ないとも言える。(それでメシを食っているから原理的に否定論を取れない。)
しかし私としては、同意はできない。なるほど、安全講習や訓練によって対処可能になることもある。だが、対処可能になるのは、せいぜい、「段差を超えること」ぐらいだろう。たとえば、段差の前で速度を落として、段差のところでジャンプするようにすれば、かろうじて対処可能になる。とはいえ、段差の大きさを見誤れば、対処できなくなることもあるだろう。その場合、失敗したときへの安全度の幅はきわめて小さい。(すぐに転倒する。)
また、道路に凸凹があったり、道路でスリップしたり、他人にぶつけられたりすれば、やはり、容易に転倒する。
特に、自転車との違いが重要だ。自転車では、足が自由だから、体が傾いたときには、足が接地する。ゆえに、人は倒れにくい。一方、キックボードでは、足が(体重を支えるために)固定されているから、傾いたときには、足が接地しない。ゆえに、人は倒れやすい。(つまり、危険だ。)
以上のように懸念してたところ、それを見事に実証する動画が示された。これだ。
ひろいものだけど電動キックボード乗る人は義務で見るべき #電動キックボード pic.twitter.com/a69LExRvVc
— パブロフの犬 (@pabrofdog2) May 8, 2022
この動画では、上記の懸念が見事に具現化している。「小径タイヤ」「重心の高さ」「足が固定されている」ということによる危険が、まさしく事故という形で具現化している。
そして、これへの対処は、安全講習や訓練ぐらいでは解決しないのだ。これらの人々は、「下手だから事故を起こした」というものばかりではない。「ちょっと気を抜いた」「ちょっとミスった」というぐらいのことで、人命に関わるような大きな被害に結びついている。ミスの規模と、事故の規模とが、釣り合っていない。これは、「フェイル・セーフ」という発想とは正反対だ。
先の対策は、「安全講習で事故減」という「フェイル・プルーフ」の発想をしていたが、いくら「フェイル・プルーフ」の発想をしても、ミスや事故をゼロにすることはできない。そして、ミスや事故がいったん起こったなら、被害が非常に大きくなるのが、電動キックボードの特徴だ。
これはもはや、町中に地雷を埋めておくのも同様だ。
「地雷には地雷というマークが付いているので、地雷を踏まない限り安全です。だから問題ありません」
というわけだ。しかし、マークが付いてるとしても、間違って踏んでしまうことはある。そういうときにいきなり大怪我や死をもたらすような制度は、もともと狂っているのである。わざわざそんなことをするのは愚の骨頂だ。
そして、そういうことと同様なのが、電動キックボードの導入なのだ。
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では、どうすればいいか? 上記の点を認めた上で、最大限の容認をするには、どうすればいいか?
まず、最低限の条件としては、次の二点が上げられる。
・ 車道は走行禁止。(凸凹などで転倒しやすいので。)
・ 歩道も走行禁止。(段差で転倒しやすいし、歩行者にも危険だ。)
とすると、車道も歩道も禁止なので、残るのはそれ以外の場所だ。つまり、こうだ。
「歩車道が分離されていない道路(生活道路)でのみ、走行を認める」
この場合には、自宅の近辺の住宅街を走行することができるだけとなる。長距離走行は無理だろう。というのは、長距離走行をすれば、どこかで太い車道とぶつかるからだ。……こういうきわめて制限された形でなら、容認してもいいだろう。また、速度は時速 10キロが上限となる。
とはいえ、そのような形で容認しても、需要はほとんどなさそうだ。また、それで楽しむ人は出るだろうが、住宅街でいきなり電動キックボードと遭遇すれば、びっくりして驚く人も多そうだ。出会い頭の事故も起こりそうだ。
あれこれ考えると、いっそのこと、全面禁止にした方がマシかもしれない。
ともあれ、仮に容認するにしても、きわめて制限された形に限定するべきだろう。現状のような大幅な容認は、あまりにも愚行だと言える。
法律改正は成立したが、施行は 2024年なので、まだ猶予の期間がある。そのときまでには、電動キックボードを大幅に制限するように、法律の再改正をするべきだろう。
《 加筆 》
施行は 2024年ではなく、2024年までだという。2023年中の施行が見込まれているらしい。世論の動向次第だろう。
[ 付記 ]
こういう変な法律改正がなされたのは、どうしてか? その事情を探る記事がある。
→ 電動キックボード「免許不要」を後押した実験結果の奇妙な中身 | FRIDAYデジタル
この記事には、こうある。
このように、違反行為の種類によっては、約4倍の差が出る結果となった。やはり免許不要で電動キックボードに乗ることが、いかに危険かがわかる。しかし、驚きなのは表2で示されたような数値化されたものを分析し、総括した「結果」と記された部分のコメントである。
免許の有無で大きな違いが出ているにもかかわらず、
<多くの違反ではさほど差が見られず、全体的には運転者の運転行動に大きな差はなかった>
と結論付けている。
つまり、データでは「4倍の差があるので危険だ」と判明しているのに、結論では「さほど差が見られないので安全だ」という結論になってしまっているのだ。
つまり、「危険性がある」というデータを見て、「危険性がない」というふうに逆の認識をして、「安全だ」と結論しているわけだ。
これは、データそのものを捏造したわけではないが、データの意味を逆にとらえているわけで、曲解の極みと言える。デタラメにもほどがある。嘘つきと言ってもいい。「黒を白と言いくるめる」と言ってもいい。一種のペテンであろう。
こういうインチキによって、電動キックボードは「安全」と認定された。あいた口が塞がらないとは、このことだ。
※ どうしてこうなったか? たぶん業界による圧力だろう。献金をもらった自民や維新の議員が、「業界発展のため」と言って、せっせと活動しているのだろう。危険なものを普及させようとしているとは気づかないまま。……たとえば、維新の議員はこうだ。
内閣委員会で道交法改正の審議に先立ち電動キックボードの試乗会が行われました。電動キックボードに乗って疾走するおじさんたち。時速15kmと6kmで試乗しましたが、15kmの方はかなり快適。今後どんどん普及していくのだろうなと思います。今週金曜の質疑にも立ちますのでご注目ください! pic.twitter.com/6jizMIBDB6
— 阿部 司(衆議院議員/東京12区/日本維新の会) (@abe2kasa) April 13, 2022
【 関連サイト 】
朝日新聞の記事で、「安全に利用している」という紹介記事がある。
(1) 大きな公園で実施
→ 風を切ってスイスイ「また乗りたいな」 電動キックボード乗車体験 [沖縄はいま]:朝日新聞
(2) 車道と自転車用の通行レーンで実施
→ 電動キックボードをシェア 歩くには遠い観光地へ「ちょい乗り」期待:朝日新聞
文意がわかりにくいが、「車道」と「自転車レーン」の双方である。( → 出典 )……ゆえに、車道ではかなり危険な状態になると見込まれる。記事ではその指摘がないので、提灯記事になっているね。
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日経は、「容認していたシンガポールでは、一転して、禁止になった」と報じている。
手軽さで人気を集めた電動キックボード(通称eスクーター)が、シンガポールの道路からほぼ消えた。事故が増えたため、国が規制を強化し事実上の禁止扱いとなった。
歩道での使用を5日から禁止すると発表した。 車道での使用はすでに禁止されており、唯一使用が認められているのは、自転車専用レーン。ただ同レーンはわずかしかない。
一転して、事実上の禁止に追い込まれたのは、無謀運転で事故が増えたためだ。政府は時速10キロメートルに速度制限するなど対応してきたが、9月には死亡事故も起きた。廉価品では、電池発火によるアパートでの火災も相次ぎ、危険な乗り物のイメージも強まった。
( → シンガポール、人気の電動キックボードに「禁止令」: 日本経済新聞 )
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次の体験談もある。
今年の1月に電動キックボードのハンドルが倒れそのまま転倒 足の骨を骨折し2ヶ月の入院と現在も通院してます。バイクと違い安定性も乏しくかなり危険な乗り物です。YouTubeで便利で免許不要で乗れると評価上々ですが危険ですhttps://t.co/V6HkXBtHMe #電動キックボード免許不要 #電動キックボード pic.twitter.com/toW33yXsl4
— する suru4787 VRC (@suru4787_VRC) April 19, 2022
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最近のバカ発見器:カラフルドーナツのバッジ
https://www.broadcreation.com/blog/news/134558.html
最新のバカ発見器:電動キックボード
日本人は狭い道に慣れているので、いまの状態をそれほど危険と思っていない人が多いことは確かです。でもそれこそがより安全な交通体系の確立を妨げていると思います。