――
車椅子をタクシーで利用すると、乗車するまでに大変な手間がかかるようだ。朝日新聞の投書欄に、体験者の不満が掲載された。
以前は経験不足のドライバーが多く、左側のドアから車椅子ごと乗降できる背の高いタクシーに乗るまでに30?40分かかるのが普通だった。
(今回は)電話で予約しても、「車が故障した」などと30分ほど待たされたことは2度や3度ではない。やっと来ても、今度は「まだやったことがなくて」と後席をはね上げ、スロープを設置して乗るまでに30分以上待たされることも度々だ。これでは待つほうが苦しくなり、「手間をかけて申し訳ない」と恐縮する始末。
1人だけ、普段から練習しているようで約5分で準備ができたドライバーがいたことが未来への可能性を残してくれた気がする。
( → 朝日新聞 5月06日[有料会員のみ] )
これは解説を要する。
タクシーで車椅子を利用するというのは、どの車でもできることではなく、トヨタのタクシー専用車の場合に限られる。
→ トヨタ ジャパンタクシー | トヨタ自動車WEBサイト
→ トヨタ・ジャパンタクシー - Wikipedia
もともとは非常に手間と時間がかかったので、不満の声が多く寄せられた。そこでメーカーはいろいろと改良して、「5分でできるようにした」と述べた。しかし、改良後でも、慣れないドライバーには困難なので、額面通りに5分で実行できるドライバーは稀であるようだ。
また、実行するには、道路に広いスペースが必要であることなど、いろいろと条件があるので、やはり額面通りに実現できるとは限らないようだ。
さらに問題なのは、何十分もかかる労力を掛けながら、その間は時間メーターを回すことができないので、この労力はただの無償奉仕になってしまうことだ。仮に 30分の時間がかかるとしたら、その分、収入減になるので、運転手にとっては大損である。こんなことなら、車椅子のお客は拒否したい、と思うのが自然だろう。
こうして、車椅子の乗客も困るし、運転手も困るし、あっちもこっちもみんな困ってしまう。まったく困ったことだ。どうすればいい?
――
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「車椅子用のタクシーと普通のタクシーとを分離する。車椅子用のタクシーは、500円程度の別料金を取って、車椅子を乗せる。普通のタクシーは、原則、車椅子を乗せない」
このことの意味は、こうだ。
「車椅子を乗せるのは、一部の慣れた専門家だけにする。そういう専門家ならば、車椅子を乗車させるのに習熟しているので、5分間で乗車させることが可能だ。この際の料金は、500円程度の固定額にする。時間が短ければ短いほど、運転手の収入増につながるので、なるべく手早くテキパキと実行する。かくて運転手も乗客も得をして、 win-win となる」
ひるがえって、現状はどうか?
まず、狙いはこうだった。
「車椅子を乗せるのは、すべてのタクシー専用車と、すべての運転手だ。専用の運転手などはいない。どの運転手でも車椅子を乗せることにする。だから別料金を取ることもない。おかげで乗客は別料金を取られずに、安価にタクシーを利用できる」
しかるに、現実はこうだった。
「すべての運転手が担当することになったが、ほとんどの運転手は、慣れない作業なので、うまくできない。だから、できませんと言って、乗車拒否することもある。何とかやってくれるとしても、慣れない作業なので、5分ではできず、30分ぐらいかかることもある。やたらと時間がかかるので、大損である。乗客も無駄に待たされるので、大迷惑だ。夏は暑いし、冬は寒い。そんな戸外で待たされるのは大迷惑だ。少しぐらい料金が安くなるとしても、実質的には大損だ。かくて運転手も乗客も損をして、 lose-lose となる」
要するに、「安上がりに済ませよう」と思って、「どの運転手でも車椅子を使える」という制度にしたのだが、現実のタクシーはとても不便なタクシーなので、制度が現実に合っていない。かくて矛盾が噴出したわけだ。
※ なお、この問題がどうして起こったかというと、「車椅子を後ろから乗せる」という方式を取らずに、「車椅子を側方から乗せる」という方式を取ったせいで、スムーズな乗車方式がとれなくなったせいであるらしい。
→ トヨタ・ジャパンタクシー - Wikipedia
――
この問題を抜本解決する方法もある。「車椅子を後ろから乗せる」という方式を取ることだ。そのためには、そういう車種を採用すればいい。
実際、車椅子専用車というのもある。そういう専用車を使えば、あっという間に乗車できるし、手間もかからない。だが、さすがに専用車だけあって、高い料金を取られることが多いようだ。
ただし一部の会社では、通常のタクシー料金だけで済むそうだ。(別途、迎車料金がかかるが。)
→ 車椅子タクシー|株式会社平和自動車

――
結局、次の二通りの方法がある。
(1) 普通のタクシー専用車を使うが、運転手は専用の運転手とする。車椅子の利用料金は 500円程度の有料とする。
(2) 車椅子専用車を使う。操作は簡単なので、特に専用の運転手は必要としない。ただし迎車料金がかかる。(通常、500円以下の定額であるらしい。)
いずれであっても、応分の負担をすることで、乗客も運転手もハッピーになる。
一方、乗客が過剰に得をしようとして、かかる負担を運転手にばかり皺寄せしようとすると、運転手は大損をして、乗客も大損をして、誰もが不幸になる。
[ 付記 ]
「ケチな奴が1人いると、世の中が歪んで、誰もが大迷惑を被る」というのは、よくある話だ。
本件では「車椅子利用者の負担を減らそう」という善意が、本来のあるべき姿を歪めて、誰もが大迷惑を被るという結果になった。
地獄への道は善意で舗装されている。
※ 以下は読まなくてもいいです。
[ 蛇足 ]
「もっとうまい案はないか? Openブログなら、もっとキレのいい案を出せ」
という要求もありそうだ。そこで、キレのいい(かもしれない)案を出そう。こうだ。
「トヨタのタクシー専用車が、車椅子を側方から取り込むのは、LPG に対応するためだ。そこで、新タイプのタクシー専用車を開発すればいい。それは、ガソリン専用で、かつ、車椅子を後方から取り込むものだ」
これは、上記の写真の車と同様の方式である。(車椅子を後方から取り込む。)
ただし元となる車種が、トヨタのタクシー専用車(ジャパンタクシー)である。一方、上記の写真の車は、トヨタのシエンタだ。
※ なお、この新タイプのガソリン専用車は、量産してもいいのだが、台数が多く出るとは思えないので、手作りふうの特別製のカスタマイズモデルでもいいだろう。その意味では、上記の写真の車と同様の生産方式となる。
※ この案は、LPG 方式からガソリン専用へという改造があるので、実現は困難であるかもしれない。実現性の点で、疑問符が付きそうだ。もし駄目なら、この案はボツにしてください。「ひょっとしたらうまく行くかも」というだけの案です。駄目なら駄目でいい。実際にできるかどうかは、トヨタの人に聞かないとわからない。
プロが担当すればお互いの不安と不満を解消できると思います。
もちろん資格者なのでその分料金は高くなります。
出入口のスロープなどが代表的ですが、今まで障碍者がなんでも自力でできることを目指してきたと思います。しかしこれから本格的高齢化社会に入ることを考えると、社会的コストをよく考えなければならないと思います。(最近のWindowsは「しょうがいしゃ」は障碍者と変換されますね)
⇒ 技術的には、改造も新規開発も余裕でできます。これまでのよくある改造例は、この逆にガソリン車をLPG車にしたり、両方の燃料(バイフューエル)が使えるようにするものですね。主な目的(狙い)は燃料費の節約で、その改造を請け負う民間業者さんもそれなりにいるようです。
ただし、ジャパンタクシーはハイブリッド車なので、これがハードル高いかもですね。動力制御もさることながら、排ガスの面ではガソリン燃料よりもLPG燃料のほうがかなり有利なはずなので、エンジン制御の大幅な変更や、触媒の作り直し(貴金属の増量)が必要になるかもしれません。
それと、LPG専用に作られたクルマなので、ガソリンタンクのスペースがなく、どこかにタンクを追加するならば衝突安全性の試験もやり直さないと、構造変更の許可がおりないかもしれません。
やっぱり、新規開発(メーカーがマイナーチェンジ的にやる)ならともかく、タクシー会社が独自に改造で対応するのは難しいかも(技術的には十分できるんですが、法規対応の面でワリにあわない)。
それと、下の記事によると、「このジャパンタクシー、日産のNVタクシーと同様に国土交通省のユニバーサルデザイン認定を受けており、購入するタクシー会社には台あたり約60万円の補助金が国から出る。加えてオリンピック、パラリンピックを控えた東京は、EV、PHVと同列で上乗せの補助金を用意しており。国と都合計で100万円近い購入支援となっており、これが東京都でのジャパンタクシーへの普及が進む理由のようだ。」とのこと。
https://response.jp/article/2019/06/21/323670.html
この補助金が(今も100万円かはわかりませんが)、改造してしまうと出なくなる可能性が高いと思います。そこが最大のネックかも。そもそもの補助の理由が、次世代のユニバーサルデザインのタクシーだから、だとしたら、例え燃料を変更しても、車椅子での乗降の利便性は高くなるのだから、引き続き出てもいいはずですが、アタマの固いお役所相手では、そこがグレーなのでリスクが伴います。
それと、上の記事でも言及のある、同じユニバーサルデザインの認定を受けている、日産のNV200という車両ベースのタクシー。こちらは、トヨタ・シエンタと同様に車両後部から車椅子が乗降できます。しかし、商用車ベースということで、別の理由からジャパンタクシーに駆逐されて、すでに生産終了のようです(下の記事を参照)。私は個人的に、非常に惜しいと思うのですがね。
https://bestcarweb.jp/feature/column/260658