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報道はこれだ。(1カ月あまり前の記事。)
JR東日本は5日、駅のバリアフリー整備を進めるため、2023年春から首都圏の主要路線の普通運賃に10円を上乗せすると発表した。国土交通省が昨年12月、ホームドアやエレベーターなどの整備費用を「バリアフリー料金」として運賃に上乗せできる制度を創設。この制度を活用する予定で、国交省によると全国で初めてという。
JR東によると、山手線や中央線、京浜東北線、埼京線など首都圏の主要16路線が対象(一部区間を除く)。
( → 首都圏のJR運賃、来春から10円上乗せへ バリアフリー整備に活用:朝日新聞 )
これを聞いた人は、「バリアフリー化のために値上げするのなら仕方ないな」と思うことが多そうだ。「受益者負担の原則から当然だろう」と思うわけだ。
だが、これはペテンである。なぜなら、これは受益者負担ではないからだ。お金を出す人と、サービスを受ける人とは、異なる。
・ 10円の値上げをされる人 …… 黒字駅の乗客
・ バリアフリー化される人 …… 赤字駅の乗客
つまり、ここでは「黒字駅から赤字駅の乗客へ」という利益移転があるだけだ。
なぜか? それは、黒字駅では、黒字のおかげで、バリアフリー化はとっくに達成されているからだ。
一方、赤字駅では、金がないので、バリアフリー化は実施されていなかった。
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そこで、「バリアフリー化をさらに実現しよう」という方針が立った。とはいえ、赤字駅では、金がない。
ならば、「赤字駅を値上げする。その値上げした金でバリアフリー化を達成する」というのが常道だ。
ところが、JR東は、そうしなかった。かわりに、「黒字駅で値上げして、その金を赤字駅にもっていこう」とした。
なのに、JR東は、その真相を隠す。あたかも「値上げしたお金でサービスを向上させます」と見せかけて、「受益者負担です」というふうに見せかける。
これは詐欺である。
詐欺の定義を言えば、
「人をだまして金を奪うこと」
と言える。そして、JR東のやっていることは、これにピッタリと当てはまる。「10円を値上げして、10円分のサービスを向上させます」と見せかけるが、実は、値上げを受け入れた人は、サービス向上のメリットをまったく受けられない。たとえ年寄りで杖を使うような人や、病気で車椅子を使うような人でも、サービス向上のメリットをまったく受けられない。なぜなら、値上げを受ける駅では、すでにバリアフリー化は達成されているからだ。バリアフリー化のメリットを受けるのは、10円の値上げにならない赤字駅の人々なのだ。両者はまったく異なる。
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もう少し詳細を述べよう。
首都圏でも、山手線は営業係数が 50以下であり、大幅黒字である。
京浜東北線や埼京線も、大部分が黒字であると見込まれる。
これらの駅では、ほとんどがすでにバリアフリー化は実現済みである。また、実現していない駅でも、もともとの黒字を利用して、バリアフリー化はもともと実現可能である。(つまり値上げの必要はない。)

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一方で、東京から離れた地点で、主要駅ではない駅では、無人駅もかなりある。そこでは当然、利用客が非常に少ないので、赤字駅となる。こんなところでバリアフリー化を実現しても、乗客はほとんどいないので、バリアフリー化に掛けた費用を回収することなどは、とても無理だ。たとえば、1年間の売上げが 1000万円というような駅で、10億円の金を掛けてバリアフリー化を実施しても、その費用を回収することなどはとうていできない。
というわけで、これらの赤字駅のバリアフリー化を実現するために、首都圏の乗客が値上げという形で負担をするわけだ。
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ただし、このような無人駅をすべて廃止してしまえば、10円の値上げはまったく必要なくなる。
あるいは、「無人駅は廃止しないが、身障者以外の人だけがご利用ください。身障者の人は、無人駅以外をご利用ください」と言えば、その場合も値上げは必要なくなる。……実は、これが最も合理的な方法であり、これまではずっとその方針が取られてきた。
ところが、例の「車椅子で無人駅を利用できなかった」という騒動があった。この件は、本項でも扱った。
→ 鉄道駅の車椅子対応: Open ブログ
その元となったのは、次の記事だった。
→ JRで車いすは乗車拒否されました : コラムニスト伊是名夏子ブログ
これが大騒動をもたらしたので、今回の JR東 の「値上げ」という方針が決まったわけだ。
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実を言うと、このJR東の方針は、前から予定されていたので、その時点でも言及したことがある。
→ バリアフリー化で運賃値上げ 2: Open ブログ
そこではすでに、次のことが述べられている。
都市部の住民にとっては、駅のバリアフリー化はほぼ達成されているので、新たにバリアフリー化がもたらされるわけではない。なのに、果実を与えられないまま、金だけを取られるのである。何のために? 都市部の周辺の田舎駅でバリアフリー化を達成するためだ。
そういうデタラメさが指摘されている。
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また、実を言うと、値上げなんかしなくても、別の方法(情報伝達によるサービス向上)だけでも、ババリアフリー化は達成可能だ、とも示している。(別案の提示)
※ 簡単に言えば、わざわざ無人駅を選んで旅行をするよりも、すぐそばの主要駅を選んで旅行をすれば、バリアフリー化は達成可能だ、ということ。上のコラムニストは、情報不足のせいで、当日になってバリアフリーでないと気づいたから、困ってしまった。最初から情報伝達ができていれば、何も問題はなかったのだが。
→ 鉄道駅の車椅子対応: Open ブログ
→ 無人駅と車椅子 2: Open ブログ
そもそも、今回の値上げの対象となる駅は、山手線など、大幅黒字の駅なのだから、値上げの必要などはなく、むしろ値下げするべきだ、と言える。この件は、前にも述べた。
→ バリアフリー化で運賃値上げ 1: Open ブログ
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ともあれ、さまざま方法で、バリアフリーの問題は解決可能だ。なのに、知恵を使わずに、強引に値上げをしよう、というところが、とんでもない愚行である。
特に、それによってバリアフリーを実現する駅というのが、たいていが乗客の少ない無人駅である。あまりにも馬鹿げた方針だと言えるだろう。
「金の無駄遣い」の典型だと言える。そのために、JR東の乗客は余計な金をむしり取られるわけだ。
[ 付記1 ]
今回の顛末を、簡単に要約すれば、こうなる。
車椅子の身障者が一人、家族で旅行をしようとした。宿代を安上がりに済ませるために、不人気な宿を取った。そこは無人駅を利用するので、交通不便だ。だから宿代は安かった。ところが(IT技術をろくに使えないので)事前に JR の駅情報を調べなかった。だから、そこは無人駅であり、バリアフリーではない、と気づかなかった。すると当日になって、無人駅を利用できなくなり、困ってしまった。
そこで事後になって、自分の情報音痴と調査不足を棚に上げて、「 JR はバリアフリーにしろ」と大騒ぎした。
それを聞いた読者は、「だったら、隣の主要駅のそばの宿を利用すればいい。主要駅なら、バリアフリーだから、何も問題はないぞ」と指摘した。
それを受けて、本人は反論した。「主要駅のそばの宿は、宿代が高い。そこには行きたくない。私は宿代の安い宿に行きたいんだ。だから無人駅のそばの宿を使いたいんだ」と。
かくて、その人が 宿代を 3000円ほど節約するために、JR東 は 5900億円の出費をしてバリアフリーを実施すると決めた。そのうち 3000億円は、首都圏の乗客に負担してもらうことにした。
結局、1人の身障者に 3000円の利益を与えるために、莫大な乗客が 3000億円を負担することになった。たった 3000円の利益を得るために、何と 3000億円の損をする、と決めた。つまり、1円を得るために、1億円の損をする、と決めた。
これを国は歓迎した。「国の費用は1円も出さないまま、バリアフリーを実現するんだ。つまり無料でバリアフリーを実現するんだ。何て賢明なんだ!」と。
こうして国民に大損させる政策が決まった。
※ 乗客が負担する 3000億円のほかに、JR東の負担する 2900億円もある。この分を負担するのは、会社であるが、めぐりめぐって、乗客の負担になる。具体的に言おう。たとえば、駅の時計がなくなって、乗客はサービス低下という損害を受ける。
→ “駅の時計”が消えていく? JR東日本が今後10年で約500駅での撤去を計画
→ なぜJR駅から時計が撤去される? 維持費は年間4億円…専門家が解説
もちろん、サービス低下は、これだけではない。バリアフリー化にともなう費用を捻出するため、あれやこれやとサービス低下が起こる。さらには、料金値上げが追加されるだろう。10円の値上げはもう1回起こるだろう。
[ 付記2 ]
「それでもバリアフリーを実現するためには、仕方ない」
と思う人もいるだろう。だが、勘違いしてはいけない。バリアフリー(で旅行すること)は、すでに実現しているのである。「主要駅を利用する」ということで。
だから、問題は「バリアフリーを実現するか否か」ではなくて、「身障者の利用料金を下げるか否か」なのである。そして、「3000円を下げるためには 3000億円(5900億円)の出費が必要だ」というときに、「ならば、その金を払う」という方針を取るか否か、ということだ。
ここで JR東 は、「その出費を払う。どうせ乗客に料金を転嫁するんだから、おれの腹は痛まない」と思ったのだろう。「2回の値上げで 6000億円を得れば、5900億円の出費を払っても、差し引きで 100億円の黒字になる。かえって得するさ」という腹づもりだ。
しかも、「値上げを2回に分割して、1回の値上げを半分にすれば、払う客の痛みは半分で済む。半分ずつを2回にすれば、客はだまされて痛みを感じない」と考えたわけだ。
頭いいですね。これでうまく値上げを誤魔化せる。朝三暮四と同様の発想だ。「客は猿と同様の頭しかない」と思っているのだろう。
こうして「朝三暮四」ならぬ「朝十暮十」という新たなことわざができた。「十円ずつ2回繰り返せば、猿は痛みを感じない」という意味である。
※ 「猿扱いするのはけしからん! われわれは猿じゃない!」と憤る人もいるだろう。だが、憤る方向が逆である。憤るのならば、JR東 に向けて憤るべきだ。本サイトに向けて憤るのは、猿だけだ。
※ そもそも、この問題があることを指摘しているのは、本サイトだけだ。その意味でも、猿でない人は(本サイトを除けば)世の中にはいない、とも言える。誰も計算ができないのである。(猿ならば、四つまでは計算できるのだが、日本人は十という計算ができないのだ。どっちも同類だ。)
ハードにカネをかけることばかりで運用がダメダメなのでとにかく集金することしか考えられないようです。
下の記事によると、運賃転嫁(計画)のもととなった、2021年5月に閣議決定されたという第2次交通政策基本計画なるものでは、例えば、「3000人/日以上の利用者がある駅を原則100%バリアフリー化することなど」を整備目標としているようです。
https://response.jp/article/2022/04/06/355989.html
また、本稿でやり玉に挙げられたJR東日本が目指している「バリアフリー化」の中身については、これまでエレベーターがない駅にはそれを設置するという、文字どおりの「段差解消」的な内容も当然あるとは思いますが、この記事によれば、「2032年度末頃までの目標としていた、東京圏在来線主要路線330駅660番線程度のホームドア整備を758番線に拡充した上で、1年程度前倒しする」というのが主体のように読めます。
また、次の記事では、中部地方の鉄道各社の動きが報じられていますが、やはり同じように、ホームドアの整備がまず考えられているように読めます。
https://www.chunichi.co.jp/article/382303
すなわち、筆者が[ 付記1 ]の箇所などで「簡単に要約」されているような、車いす使用者が1日に1人利用するかしないかの「赤字の無人駅」にもエレベーターやスロープをきちんと整備していく、のではなく、少なくとも3000人/日以上の利用者がある駅(それでも少ない利用ですが)がターゲットであり、そのような駅の「段差解消」も目標のうちですが、主要路線の利用者の多い駅についてあらたにホームドアを設置する計画を拡充する、ほうが重点のようにみえます。
つまり、(車いす使用などの)身障者に特化して便益をはかるのではなく、そういう人たちを意識してはいますが、主には利用者全体のためのものではないでしょうか。(まあ、とは言っても、運賃の値上げぶんが実際にどのようなものに支出されたのかは、これからしっかり検証していく必要はあるでしょうが。)
(1) ホームドア整備を事例に示しているが、ホームドアは安全設備であって、バリアフリーとは関係ない。「視覚障害者向けの対策」という意味かも知れないが、それは「視覚障害者向けの安全対策」であって、バリアフリーではない。むしろ逆に、物理的な「安全バリア設置」であるから、バリアフリーとは別の概念だ。
(2) 記事ではホームドアの設置について、
> 東京圏在来線主要路線330駅660番線程度のホームドア整備を758番線に拡充
とあるが、660を値上げなしで実現して、残りの 100 は 10円の値上げを必要とする、というのでは、金の勘定が合わない。
仮に、その程度に 10円の値上げが必要なら、これまでの分に 66円の値上げが必要だったことになる。しかし、そんな事実はない。ゆえに、「追加の 100 のために 10円の値上げが必要だ」という論旨は否定される。
(背理法)
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いずれにせよ、「ホームドア設置が主目標」というのでは、「わけわからん」になります。
ホームドアは、あくまで首都圏向けに、「黒字駅にも便益がありますよ」ということでしょう。
あるいは、「ホームドア設置の事業にこれまで金がかかったから、回収したい。しかし、単に値上げを言うと、不評になる。だから、バリアフリーのためという虚偽の名目で、インチキの値上げをする」ということかな。
仮に、「ホームドア設置が主目標」であるなら、「バリアフリー」名目は虚偽なので、これはこれで詐欺みたいなものだし、「本来の手続きで値上げを申請するのを回避した、違法行為」とも言えます。犯罪的ですね。
バレたら逮捕されても仕方ないくらいだ。
> (1) ホームドア整備を事例に示しているが、ホームドアは安全設備であって、バリアフリーとは関係ない。「視覚障害者向けの対策」という意味かも知れないが、それは「視覚障害者向けの安全対策」であって、バリアフリーではない。むしろ逆に、物理的な「安全バリア設置」であるから、バリアフリーとは別の概念だ。
> 仮に、「ホームドア設置が主目標」であるなら、「バリアフリー」名目は虚偽なので、これはこれで詐欺みたいなものだし、「本来の手続きで値上げを申請するのを回避した、違法行為」とも言えます。犯罪的ですね。
⇒ 私も、そうかもしれないなと感じますが、従来からの政府見解(閣議決定)は違うようですので、それを下敷きにしての2021年の閣議決定(第2次交通政策基本計画)、またそれを受けての JR東日本の整備計画の中身は、筆者(管理人さん)のいわれる本来のバリアフリーとはどんどん外れていくことになります。
〇 政府によるバリアフリーの定義
障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、もともと住宅建築用語で登場し、段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられる。(障害者基本計画;H14.12.24閣議決定)
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonkeikaku.html
また、これに少し先立つかたちで、いわゆる「交通バリアフリー法」(正式名称は「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)が、H12年5月に成立しています。
下の、日本視覚障害者団体連合のHPの記述では、
@ この法律により、駅構内へのエレベーター、エスカレーター、スロープなどの設置や運賃表、ホームへの案内板などの点字表示などが改善されるようになりました。
A 視覚障害に関する項目の一例として、エレベータのバリアフリー化も含まれていましたので、音声による階数案内やボタン横の、点字表記、点字が分からない視覚障碍者のために立体的に浮き出された数字ボタンなどの普及が進みました。
とありますので、日本政府および日本国内のこういった団体の認識は、「バリアフリーは視覚障害者のためのものでもある」ということのようですね。
http://nichimou.org/impaired-vision/barrier-free/barrier-free-law/
なお、同HPの目次のところ(下のURL)をみると、点字ブロック、ホームドア・ホーム柵、音響式信号機、ハイブリッド車・電気自動車の模擬走行音、などの項目が並んでいますので、こういったことは全て、世間一般的には「バリアフリー」に関わることなんでしょうね。
つまり、筆者(管理人さん)のいわれる「物理的な安全バリアの付加」、すなわちホームドア・ホーム柵のようなものでも、交通バリアフリー法が目指す「バリアフリー」に該当するという解釈のようです。
http://nichimou.org/impaired-vision/barrier-free/