2022年05月02日

◆ スイッチブレード600 の衝撃

 今後の戦車対策では、対戦車ミサイル(ジャベリン)よりも、カミカゼドローン(スイッチブレード)の方が主力となるだろう。

 ――

 ジャベリンの意義


 まずは前項を引き継いで、ジャベリンの意義を考えよう。


 (1) ジャベリン批判

 戦車大好きな人々が、ジャベリンを批判しているようだ。
  → 「戦車よりジャベリンがコスパ高める」財務省、防衛省に指摘するも大炎上 ? SAKISIRU
  → 日本財務省、戦車と装甲車を削減せよと宣告する - Togetter
  → 財務省「ジャベリン(対戦車ロケット)あれば戦車いらなくない?」←えぇぇぇ! - Togetter
 世の中には阿呆な人があふれているものだ、と感嘆する。


 (2) 別記事

 それとは別に、比較的まともな記事もある。
  → ウクライナの守護天使「聖ジャベリン」のリアル 対戦車ミサイルでの戦いかたとは? | 乗りものニュース
 これは阿呆な軍事オタクとは違って、冷静な論調だが、それでも軍事オタクと同じ認識ミスに陥っている。一部抜粋しよう。
 (a) 対機甲戦闘においては、敵戦車と対等に戦うには戦車が必要、というのが基本です。本来、携帯対戦車火器は歩兵が敵戦車と遭遇したときに使う防戦用です。

 (b) 戦車が「走(エンジンと履帯)」「攻(主砲や機銃)」「守(装甲)」の3要素を備えているのに対して、携帯対戦車火器を持った歩兵は「攻」だけ突出しており、「走」は2本足、「守」はヘルメットに防弾チョッキという具合で、対機甲戦闘で歩兵側が主導権を握るなど望むべくもありません。
 陣地に立て籠もって手元に「ジャベリン」があれば、迫りくるロシア軍戦車を狙い撃ちできるような気がします。しかし実戦は、ゲームや映画のようにノロノロと動く戦車をボタンひとつで遠くから撃破できる射的ではありません。
 こちらが撃てば、すぐに居場所がバレて反撃を受けます。撃ちっ放しできるといっても、100%命中して確実に撃破できる保証はなく、重い機材を抱えて徒歩で退避しなければならないかもしれません。身を守るものはせいぜいヘルメットや防弾チョッキ程度です。

 (c) 対機甲戦闘では戦車に戦車で対抗できない時点で、対等の戦闘にはなりえません。対戦車ミサイルを抱えた歩兵に戦車の代わりはできませんので、過剰な期待は禁物です。

 番号の (a)(b)(c) は、私が便宜的に付けたものだ。

 このうち、(b) は妥当である。戦車を攻撃するとき、対戦車ミサイルを持つ側はほぼ無防備である。「見つからない」ということに賭けているだけであり、見つかれば圧倒的に不利だ。それでも、敵戦車を破壊しようとするときには、リスクを負っても対戦車ミサイルを使うのが常道だ。

 一方、(a) と (c) はほぼ同趣旨だが、妥当でない。「戦車に対抗するには砲兵では不利だから、戦車に対抗するには(防御力のある)戦車が必要だ」という論調である。しかし、これは正しくない。
 なぜか? 現代では、戦車と戦車が戦うことは、原則としてありえない。湾岸戦争でもそうだった。戦車と戦車が相対したが、両者が接近することはなかった。双方の主砲の射程が違っていたからだ。米軍の戦車の射程(P)は長く、イラク軍の戦車の射程(Q)は短かった。そこで、P と Q の中間の距離で、米軍は主砲を撃った。すると、米軍の弾はイラク戦車に被弾したが、イラク軍の弾は米軍戦車に被弾しなかった。かくてイラク戦車ばかりが一方的に被弾して、壊滅した。……これが「アウトレンジ戦法」である。
  → アウトレンジ戦法 - Wikipedia

 この戦いでは、米軍の側は、戦車には厚い装甲などは必要なかった。防護力などは必要なかった。単に射程の長い主砲があれば良かった。半面、イラクの側は、戦車の厚い装甲があっても、無意味だった。単に一方的に被弾して破壊されるだけであり、戦車であることのメリットはなかった。……だから、この戦いは、一見、戦車と戦車の戦いに見えても、戦車と戦車の戦いではなかった。(戦車が戦車であることの有利さ[装甲による防御力]はなかった。)
 というわけで、戦車と戦車が戦うことは、原則としてありえない。では、何があるかというと、戦車が圧倒的に有利になる状況、つまり、戦車と歩兵との戦いである。……つまり、戦車が本当に役立つ場面は、戦車が歩兵を圧迫する場面だけだ。(対戦車戦でなく、対歩兵戦だけだ。)
 ただし、戦車と歩兵との戦いの場面では、歩兵の側は対戦車ミサイルを使うことができるのだ。

 すると、歩兵の側は、こうなる。
  ・ 対戦車ミサイルがある  ⇒ 歩兵が有利 (やや有利)
  ・ 対戦車ミサイルがない  ⇒ 歩兵が不利 (圧倒的に不利)

 こういうふうに区別される。だから、対戦車ミサイルは大事だ。

 とにかく、ここでは、「戦車と歩兵との戦い」だけがある。「戦車と戦車の戦い」などはない。「戦車と戦車が接近して戦う」ということはない。昔ならばあったかもしれないが、現代ではそういう場面はほとんどない。戦車と戦車が接近する前に、どちらかの戦車が破壊されているのが通常だからだ。
 その意味で、「戦車に対抗するには戦車が必要だ」という上記記事の主張は、時代遅れだと言える。そしてまた、一般の軍事オタクの掲げる「戦車に対抗するには戦車が必要だ」という主張も、時代遅れだと言える。戦車と戦車が対決する場面などは、現代ではありえないのである。あるのは、戦車と歩兵との戦いだけなのだ。

( ※ ただし航空機まで含めると、最初に航空機が戦車を壊滅させる。制空権を持つ方が圧倒的に有利だ、となる。この場合は、戦車の出番はなくて、戦車は単に航空機に破壊されるだけだ。なぜか? 戦車の弾は高空には届かないが、高空にいる爆撃機の弾は地上の戦車に届くからだ。かくてアウトレンジ戦法で、戦車は一方的に壊滅させられる。……現代戦では、制空権を握った方が圧倒的に有利になる、というのが原則だ。)

 ジャベリンの限界


 戦車と戦車の戦いはない。戦車と歩兵との戦いだけがある。そして、戦車と歩兵との戦いでは、対戦車ミサイルの有無が優劣を決める。……ここまでは、上に示した通りだ。
 だが、対戦車ミサイル(ジャベリン)にも、限界がある。それは「射程が短い」ということから来る限界だ。
「ジャベリン」は三脚で地上設置して使った場合で最大有効射程4000m、歩兵が携帯する場合の射程は2500mとされています。
( → ウクライナの守護天使「聖ジャベリン」のリアル 対戦車ミサイルでの戦いかたとは? | 乗りものニュース

 このように射程が短いので、かなり接近しないと、ジャベリンは有効にならない。その分、危険性が高まるわけで、接近しづらい。……そういう限界がある。

 このことは、米軍も理解している。そこで米軍が開発したのが、カミカゼドローンと言われるスイッチブレード 300 だ。
 これは、いくらか量産されたし、ウクライナにも供与された。だが、致命的な難点がある。それは「機体が小型なので、爆弾も小型だ」ということだ。その爆弾はあまりにも小さいので、人を殺すことはできても、戦車を破壊することはできない。かくて、スイッチブレード 300 は、ジャベリンのかわりにはならない。

 新兵器


 そこで登場したのが スイッチブレード 600 だ。これはスイッチブレード 300 に比べて、2倍の能力をもつ……と思いきや、それどころではなかった。ざっと 10倍ぐらいの能力をもつのだ。ジャベリンの高性能爆弾を搭載することもできる。だから戦車を破壊することもできるのだ。


sw-blade6.png
出典:公式サイト.


 上図は公式サイトの機械翻訳である。AUR というのは、発射装置である。この重量が 50ポンドだ。
 ミサイル本体は 15kg だが、ジャベリンの弾頭は 8.7kg なので、十分に搭載できる。


sw-blade-set.jpg


 ともあれ、スイッチブレード 600 というものが新たに登場した。これはジャベリンの弱点を解消しており、まさしく「戦車キラー」と言える。
 戦車大好きな軍事オタクが、「ジャベリンには弱点があるぞ」と、いろいろと批判したが、それはもはや スイッチブレード 600 には適用されない。射程も 40km 〜 90km もあるので、敵の戦車の攻撃を被弾することもない。こちらは安全圏にいたまま、アウトレンジ戦法で、敵の戦車を一方的に壊滅させることができる。もはや戦車大好きの軍事オタクは、真っ青だ。(まっツァォ になる パンツァー信者 )
 
 スイッチブレード 600 は、コスト的にも安くなることが見込まれる。ジャベリンは1発 2000万円(以上)だが、スイッチブレード 600 はそれをかなり下回ると予想される。というのは、ジャベリンは今から25年も前の旧技術で作られていて、コスト的には無駄が多いからだ。その無駄をそぎ落として、最新技術で作れば、コストは大幅なコストダウンが見込める。

 では、スイッチブレード 600 に弱点はないか? ひとつだけある。それは、「いまだに量産試作段階であるにすぎない」ということだ。量産はまだ先の話である。今すぐ大量配備することはできない。
 とはいえ、時間がたてば、量産は可能となるだろう。また、日本の将来の計画についてならば、いくらでも間に合うだろう。(日本は今すぐ戦争をするわけではないからだ。)

 というわけで、財務省の「コスパを優先せよ」という勧告を受けたあとは、「ジャベリンを買います」という代わりに、「スイッチブレード 600 を買います」と答えればいいのだ。そうすれば、軍事オタクは、何も批判できなくなる。(そして、戦車擁護論の敗北を噛みしめる。悔し涙をこぼしながら。)


pose_kuyashii_man.png




 ※ ジャベリンの有効性はすでにはっきりと判明している。( → 前項) なのに JSF は、ジャベリンの意義を認めずに、ジャベリンの限界ばかりを強調している。そこに戦車の意義を認めようとして。……なるほど、その弁明は一応、成立する。とはいえその弁明も、スイッチブレード 600 が出たあとでは、粉砕される。スイッチブレード 600 は、ジャベリンの限界を超えているからだ。もはや戦車オタクの弁明は成立しないのだ。


 ※ ただし、これは「戦車は不要だ」ということにはならない。戦車は、防御用の兵器としては役立たないが、侵略のためには役立つからだ。たとえば、ロシアには対戦車ドローンがないという状況で、ロシアが制空権を失っていれば、ロシアの極東地域を侵略するためには、戦車は有効だ。ウラジオストクあたりを完全に侵略して、都市住民を日本軍の支配下に置くためには、戦車は絶対に必要である。将来、日本が外国を侵略するという意図を持つならば、戦車は必要なのである。……換言すれば、軍事オタクが戦車必要論を唱えるのは、日本を防衛するためではなくて、ロシアや中国を侵略するためなのだ。いわば大日本帝国の再興を狙っているのだろう。
 そして、戦車を失うということは、もはやロシアや中国を侵略できなくなるということを意味する。だからこそ軍事オタクは、悔し涙をこぼして、地団駄を踏むのである。



 【 追記 】
 アウトレンジ戦法を採るなら、厚い装甲は特に必要なく、射程の長い手法さえあればいい。この発想から出来たのが「自走砲」だ。日本でも 75式自走155mmりゅう弾砲 などが開発された。
 自走砲に使う弾薬に、ロケット推進弾を使用すると射程が伸びる。この観点から、ロケット弾を主体にした兵器が開発された。それが自走ロケット砲だ。
 これをさらに発展させたものが 多連装ロケットシステム だ。これが 1992年から配備された。それにともなって、自走砲はもはや時代遅れとなって退役した。
 だが、多連装ロケットシステムはクラスター弾禁止条約(オスロ条約)に抵触するため、やがては退役していった。今日では退役が進んでいるが、一部は残っている。 すでに全部が退役している。(取り消し)
 そのかわりとなるものについては、予定がある。
 オスロ条約締結に伴い必要性が低下した装備、とされており、後継品を検討しない、としている。実際に、2019年3月の改編でMLRSを装備する第1特科群の第133特科大隊と、東北方面特科隊の第130特科大隊が廃止された。
 今後は新型地対艦誘導弾の開発、島嶼防衛用高速滑空弾(30大綱では2個大隊規模を予定)の開発が予定されており、MLRSの役割はこの装備に引き継がれると考えられる。
( → MLRS - Wikipedia

 地対艦誘導弾や高速滑空弾が、かわりになる予定だ。どちらもミサイルの一種である。つまり、アウトレンジ戦法を突き詰めると、戦車よりもミサイルの方が上になる、というのが最終的な結論だ。
 そして、ミサイルをさらに洗練させたものが、ドローンだ。打ちっぱなしのミサイルに比べて、自律的に航路を決められるドローンの方が、自由度が高いからだ。
 以上のような流れがあるので、陸上戦におけるドローンの優位は、もはや圧倒的だろう。ただし、陸上戦で有利なものが、航空機の一種であった、というのは、一種の皮肉である。
( ※ 陸軍はそのうち空軍に吸収されるかもね。というより、陸軍は空軍の形態に変貌するかもね。)
 
posted by 管理人 at 23:58| Comment(5) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。その直前のあたりも加筆しました。
Posted by 管理人 at 2022年05月03日 10:47
前提に問題があるかと思いますが、ドローンや個人携行の対戦車ミサイルによる攻撃で破壊された戦車、装甲車はそれほど多くなくて、ロシア軍の損失のほとんどは火砲の砲撃や故障で動けなくなったものだそうですよ。

そもそも反転攻勢にでようとしているウクライナ軍はなぜ戦車の提供を諸外国に求めているのでしょうか?

>だが、多連装ロケットシステムはクラスター弾禁止条約(オスロ条約)に抵触するため、やがては退役していった。今日ではすでに全部が退役している。

MLRSは現役装備です。
2021年の富士総合火力演習でも展示されています。

https://www.mod.go.jp/gsdf/nae/1ab/soubi/soubi.html
https://www.monomagazine.com/24204/


> 以上のような流れがあるので、陸上戦におけるドローンの優位は、もはや圧倒的だろう。ただし、陸上戦で有利なものが、航空機の一種であった、というのは、一種の皮肉である。
( ※ 陸軍はそのうち空軍に吸収されるかもね。というより、陸軍は空軍の形態に変貌するかもね。)

圧倒的な航空優勢とドローンや精密誘導爆弾で優位に戦闘を進られる、陸軍はただ陸から前進するだけで済むという思想は、イラク戦争やアフガンでの武装勢力との戦闘でアメリカがすでに通った道です。現実にはこれらは幻想におわり、むしろ陸軍の重要性が高まっただけでしたね。
Posted by なまず at 2022年05月03日 11:17
> ドローンや個人携行の対戦車ミサイルによる攻撃で破壊された戦車、装甲車はそれほど多くなくて、

 スイッチブレード 300は戦車の破壊ができないし、600はまだ試験生産で少量しか提供していないんだから、当り前でしょ。ありもしない兵器で攻撃することはできない。
 本項で述べたのは、過去のことではなく、未来のことです。あなたが言っているのは、「未来の出来事は過去には起こっていない」ということであって、当たり前のことです。

 なお、スイッチブレードでなくジャベリンの戦果は多大です。前項冒頭で述べたとおり。

 あなたの言うことは、
 「ジャベリンは戦車を圧倒できていない」
 ということだろうが、人々が言っていうのはそうではなく、むしろ、
 「戦車なしで完敗するはずだったのに、ジャベリンのおかげで五分五分以上に持ち込めた。かくてロシア軍をキーウから撤退させた」
 ということです。
 話の趣旨をお間違えなく。

 なお、「ジャベリンは戦車を圧倒できていない」ということについては、本項でも「ジャベリンの限界」という章で、詳しく論じています。


> イラク戦争やアフガンでの武装勢力との戦闘でアメリカがすでに通った道です。

 これも同じ。過去の事例をいくら持ち出しても、未来への反例にはならない。
 ま、タイムワープして、スイッチブレード600を過去の時点に持ち込む、というのなら話は別だが。

> MLRSは現役装備です。

 ご指摘ありがとうございました。該当箇所を修正しました。

 ※ 元の記述は私の勘違いでした。
Posted by 管理人 at 2022年05月03日 11:30
 筆者の、前項からの論旨に同意します。

 ところで、前項では紹介のみで中身にはあまり言及されなかった記事(以下のURL)で紹介されている「フェニックス・ゴースト」は、どうなんでしょう? この記事中で紹介された特性が、さらに戦術をどのように変えるのかはすぐに思いつきませんが。
 それとも、名前どおりに、まだ実用化どころか構想段階の「ゴースト」」なんでしょうか?

 https://news.yahoo.co.jp/articles/ffb15ad0c5f3181a0149607475463244753633f0?page=2

(記事の2ページ目より)
 @ スイッチブレードの滞空時間は、スイッチブレード300が15分、スイッチプレード600が40分と比較的短時間。

 A ところが、「フェニックス・ゴースト」はここが著しく強化されており、滞空時間が6時間=480分と、先行機の12倍も長く飛んでいられる。

 B さらに、「フェニックス・ゴースト」は自力で垂直離陸が可能
Posted by かわっこだっこ at 2022年05月03日 13:24
> フェニックス・ゴースト

 私も知りたいんだけど、滞空時間以外は不明のようです。

 滞空時間の長さから、前線にいる戦車ではなく、奥にいる倉庫や人員が攻撃対象と見なされるので、厚い装甲を貫徹する必要はなく、巨大な爆弾は搭載しない、と考えるのが合理的です。

 爆発威力の大きさよりも、滞空時間の長さを特徴として、コストはかなり安い、と考えるのが良さそう。スイッチブレード 300 の強化版だ、と見なすのが妥当だろう。

 本質的な意味は、スイッチブレードとは別の会社なので、生産数がかなり増える、ということかな。スイッチブレードの生産規模は少なすぎるので。
Posted by 管理人 at 2022年05月03日 13:54
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