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朝日新聞の 27日朝刊では、アマチュア無線で連絡が付いた、と報じている。
事故当時、カズワンはアマチュア無線で状況を伝えていた。だが、別の観光船従業員ら複数の関係者によると、知床遊覧船の事務所の受信設備は壊れていた。カズワンの異変を察知し、救助を要請する118番通報をしたのは別の観光船会社の従業員だった。
今冬ごろに事務所のアンテナが折れたといい、遊覧シーズンの前に修理などの対応をしなかった理由も問われそうだ。
( → 観光船の社長、まもなく会見 出航判断・会社の態勢、どう説明?:朝日新聞 )
だが、次の報道がある。
事故当日は、アマチュア無線で状況を知った別会社から118番通報がされたが、総務省の規定では、アマチュア無線は業務に関連する使用を認めていない。
( → 【知床観光船事故】無線は義務化なし、携帯等は自社判断 通報されたアマチュア無線は認められず - 社会 : 日刊スポーツ )
つまり、違法な連絡方法を取っていたわけだ。
では、正しくはどうするべきだったか? それについては、次のツイートが参考になる。
知床観光船遭難の件のメモ
— 書肆ふろすてぃ?(JN4IFD/ことうらKO63) (@Cub_of_Kotoura) April 25, 2022
荒天下出航
船体ヒビ割れ
過去に座礁
携帯圏外
無線局免許されてたのは監視用レーダーのみ、海保が常時聴取する国際VHFとSART(トラポン)、EPIRB(自動遭難通報装置)は非搭載
救命艇無し(小型船のため義務はなし)
連絡にアマ機使用との報道(違法)
役満だこれ……
「海保が常時聴取する国際VHFとSART(トラポン)、EPIRB(自動遭難通報装置)は非搭載」とある。ここが根源的に問題だったようだ。
一方で、次の報道もある。
国土交通相海事局安全政策課によると、旅客船舶には無線設備を設置することは義務化されていないが、非常時に通信可能な携帯電話、もしくは衛星電話を用いることは運行会社それぞれの判断にゆだねるとしている。
( → 【知床観光船事故】無線は義務化なし、携帯等は自社判断 通報されたアマチュア無線は認められず : 日刊スポーツ )
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携帯電話については、次の情報がある。
「乗っている船が沈みそうだ。本当にお世話になった。ありがとう」
乗客の1人とみられる佐賀県有田町の男性は、カズワンが消息を絶つ前に、妻に電話で、こんな言葉を伝えていたという。
( → 「沈みそうだ 本当にお世話になった ありがとう」 妻へかけた電話:朝日新聞 )
この時点では、ケータイはつながっていたようだ。
一方で、ケータイがつながりにくい、という報道もある。
午後1時過ぎに観光船から海上保安庁に携帯電話で通報がありましたが、連絡は1回に限られたということで、海上保安庁は、海上で携帯電話の電波が届きにくいことが影響した可能性もあるとみています。
( → 観光船遭難「衛星電話つながらず」運航会社が海保に説明 | NHK | 知床観光船遭難 )
圏外になりがちであるようだ。ネット上でも、「私が遊覧船に乗ったときには圏外だった」という声が見られる。
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一般に、陸地から離れた海上では、電波が届きにくいこともしばしばあるだろう。船舶の連絡をケータイに頼るべきではあるまい。
衛星電話ならば何とかなりそうだが、今回は衛星電話も故障して使えなかったようだ。
カズワンの運航会社「知床遊覧船」(斜里町)が緊急時の連絡体制が不十分なまま運航していたことが、関係者の話で分かった。カズワンに搭載していた衛星携帯電話が故障したままだったほか、カズワンと交信する事務所側の無線のアンテナが破損していた。
( → 衛星電話故障、無線アンテナ損壊 緊急連絡体制に不備 知床の観光船事故:北海道新聞 どうしん電子版 )
連絡手段が故障していたのなら、当然、出港禁止になるべきだったのだが、そうなっていない。
そもそも、「無線設備を設置することは義務化されていない」(上記)ということが、根本的に問題であるようだ。
会社の運営がデタラメだったのも問題だが、安全設備が疎かなままの運営を認めるという、ずさんな法制度にも問題があると言えるだろう。
[ 付記1 ]
事件の陰には、経営コンサルタントがいた。その事情は、下記からわかる。
→ 経営コンサルタントの小山昇について / Twitter
下記記事もある。
桂田精一社長は有名百貨店で個展を行うほどの元陶芸家で、突然ホテル経営を任され、右も左もわからないド素人。
運よく何もわからないから、小山にアドバイスされたことは「はい」「YES」「喜んで」ですぐ実行した。
知床観光船が売り出されたとき、私は、
「値切ってはダメ! 言い値で買いなさい」
と指導した。
( → 【魚拓】なぜ、世界遺産知床の「赤字旅館」はあっというまに黒字になったのか? | 数字は人格 | ダイヤモンド・オンライン )
要するに、経営のことをわからない元陶芸家に、ポンコツ会社を買わせて、経営指南した。コンサル料を得るために、黒字にする必要があり、やたらとコストカットを指示した。社長は「はいはい」と素直に従った。かくて人材が劣化し、安全装置が削除された。
[ 付記2 ]
では、どうすればよかったか? 根源的に考えると、次のような対策が必要だ。
・ 同業の他船といっしょに、協同組合を作り、そこに所属すること。
・ 荒天時の運行は、協同組合の判断に統一すること。
・ 協同組合への所属を、保険加入の条件とすること。
・ 保険加入を、遊覧営業には義務づけること。
このようにすれば、今回の問題が起こるはずはなかった。
現実にはどうだったか。同じ港の仲間たちは当日、「荒天だから出航しない」と決めていたのに、この事故の会社だけは、独自の判断をして、異なる行動を取った。「出航する」と。……そういう単独行動が事故の原因の本質だ。だから、この本質への対策をすることが重要だ。
※ 「同じ港の仲間たち」という点については、報道された記事を見た覚えがあるのだが、出典を改めて探し出すことはできなかった。うろ覚えなので、情報は少し違っているかも。それが「協同組合」というような携帯であったかどうかも、覚えていない。
【 補説 】
この件では、保険会社の責任も大きいようだ。というのは、次の記事のことがあるからだ。
北海道斜里町の知床半島沖で乗員乗客計26人を乗せて行方不明になった観光船「KAZUT(カズワン)」がもともと、波の穏やかな瀬戸内海の平水区域で使う旅客船として40年近く前に建造されていたことが、船の所有者を記した書類や関係者の話などからわかった。波の高い海域向けの改造がされていたとみられるが、当時を知る関係者は「瀬戸内海仕様の船をよく知床で使っていたなと思う」と驚いた。
日本小型船舶検査機構によると、船舶は航行できる海域が定められている。穏やかな「平水区域」仕様の船を、知床沖のような海岸から5カイリの「沿岸区域」仕様にするため、船の底に重りを入れるなどして安定性を高める改造をした可能性があると、男性はみる。
男性は「生口島やその周辺は穏やかな瀬戸内海でも特に穏やかな海域。改造はしても、しけには弱かったと思う」と語った。
( → 不明の観光船、もともとは瀬戸内海の仕様 関係者「よく知床で…」:朝日新聞 )
この船はもともと瀬戸内海(という波の弱い内海)向けの船だった。それが、高さ3メートルの高波のある知床の外海で利用された。滅茶苦茶と言える。
このようなことは、法律で禁止されていないのか? 調べてみたところ、特に禁じられていないようだ。

出典:沿岸小型船舶とは? | 国交省
海岸から5海里を超える沖合を航行する船には厳しい条件が付くが、5海里以内と平水とを区別する規制はないようだ。だから、平水用の船を、5海里以内の外洋で使っても、法的には問題がないようだ。
ここではちょっと、法的に「甘すぎる」という問題があるようだ。
※ 最後の 【 追記 】 で加筆しています。
だが、法的な問題はさておき、保険会社の方でも、こういう問題には対処しておくべきだった。「平水用の船を、5海里以内の外洋で使う」ということには、法的には問題がないとしても、保険会社の側で対処するべきだった。「そのような想定外の利用は、危険な利用なので、保険を受けることはできません」というふうに。
そして、保険会社が「危険な運用については保険の引き受けを拒否する」というふうにしていれば、今回の問題は避けられた可能性が大きい。なぜなら、今回の遊覧船には、「保険がかかっているので安全です」というふうな宣伝がなされていたからだ。

出典:公式ページ
ここに「船客障害賠償責任保険加入」と記してある。これを見て、安心感を覚えた乗客も多いだろう。
だが、保険会社がまともに仕事をしていれば、「平水用の船を、5海里以内の外洋で使う」という運用には、「危険なのでお引き受けできません」というふうに保険を拒否していたはずなのだ。
なのに、保険会社はそうしなかった。そのせいで、危険な運用をする船に保険を引き受けたせいで、とんでもない大損を負った。乗客数は 24人である。保険金は死亡時に1億円だと仮定すると、24億円。これほど巨額の金を払うハメになった。保険会社の間抜けさのせいで。
しかも、24人の命が奪われてしまった。それはとうてい金では換算できない価値がある。ざっと見て、人々には 100億円の損失が発生した。そして、そのすべては、保険会社がまともに仕事をしていれば防げたはずなのだ。
※ 船籍の履歴は、登録を見ればすぐにわかる。履歴から瀬戸内の内海(平水)で使われていたとわかる。「平水用の船を外海で使うのは危険だから駄目だ」というチェック項目があれば、すぐに「保険の引き受けは不可」という判断を下せる。……こういう当たり前のことをするだけで、保険会社は 24億円の損失を防げたし、乗客は命を失わずに済んだ。そして、その手間は、ほんのわずかで済んだのだ。
【 関連サイト 】
→ 衛星電話は壊れたままだった「見殺しは保険金狙いか」知床遊覧船沈没事故
【 関連項目 】
本項の続編
→ 知床の遊覧船の無線装備 2: Open ブログ
【 追記 】
「平水用の船を、5海里以内の外洋で使っても、法的には問題がないようだ」
と本文中で記したが、改めて調べ直すと、次の記述が見つかった。
湖沼、河川、港湾内など波の穏やかな水域をいい、この区域のみを航行する船舶を平水船といいます。
平水船は、船舶安全法の構造規則が緩和されています。
( → 船の用語解説|鶴見サンマリン株式会社 )
ここにある「船舶安全法の構造規則」は、下記のことだ。
→ 船舶構造規則 | e-Gov法令検索
ここで「平水」という語を検索すると2箇所しかない。
・ 船首楼への義務づけが、平水船では免除される。
・ 水密ハッチでなく、機関室口への風雨密だけでいい。(緩和)
つまり、人員への防水対策があるだけだ。構造上の強化というようなことは規定されていないようだ。たいして意味のない規定だと言える。
要するに、まともな強化の規定はない。