2022年04月25日

◆ 反撃能力(敵基地攻撃能力).1

 「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えるとともに、これの導入を推進する。……そういう方針が取られた。

 ――

 自民党がこの方針を決めたが、朝日新聞社説が反対している。
 憲法に基づく専守防衛の原則から逸脱するとともに、軍拡競争により、かえって地域の不安定化を招く恐れがある。本当に日本の安全を守る抑止力になるのかにも多くの疑問がある。
 戦後、日本が堅持してきた抑制的な安保政策の転換につながる内容が含まれており、看過できない。
 提言案は、ミサイル技術の急速な進展で迎撃が困難になっており、反撃能力の保有で「攻撃を抑止」するという。しかし、膨大なミサイルを持つ相手に対し、その使用を思いとどまらせるのに、どれだけの備えが必要になるか。そもそも、目標を正確に把握する能力があるのか。抑止が破綻(はたん)し、攻撃を受けた場合にどう対処するのか。実際問題としても、多くの無理があると言わざるをえない。
 しかも、今回は、相手国のミサイル基地に限らず、その「指揮統制機能等」も対象に含むと明記された。軍の司令部だけでなく、国家の中枢まで標的にされると受け取られても仕方あるまい。それが抑止につながるとの考えかもしれないが、警戒を強めた相手国の先制攻撃を誘発するリスクも否定できない。
( → (社説)反撃能力提言 危うい本質は変わらず:朝日新聞

 話の前段では、「専守防衛」を維持するべきだ、と主張している。
 話の後段では、「攻撃を抑止」という目的に疑問符を突きつけている。
 この両者について、それぞれ評価しよう。

 ※ 名称を「反撃能力」と呼ぶことについては、特に問題はないので、この語を用いることにする。


 (1) 専守防衛

 「反撃能力」が「専守防衛」ではなくなる、というのはその通りだ。だが、そのことは別に問題ではない。朝日新聞はこの問題の本質を取り違えている。
 日本の自衛隊は「自衛のための戦力は、憲法の禁じる軍事力には当たらない」という意味で許容されている。この点については、前に述べた。(「自然権」という概念を用いる。人が生まれながらにして持つ権利のことである。)
  → 9条改憲の目的は?: Open ブログ
 このような「自然権」として与えられる「自衛権」の意味は、「自分の生命を守るためならば、防御行動をしてもいい」ということである。そこにある発想は、「正当防衛」ということだ。そして、「正当防衛」が問題になるのは、通常、相手を傷つける行動を含むからだ。
 たとえば、身を守るために盾(のような木板)を使う。すると、こちらを攻撃してきた相手の拳は、盾(のような木板)にぶつかるので、拳は傷つく。その場合、身を守るための行動(盾)は、相手を傷つけたので、悪の行動か? いや、それは悪ではない。それは正当防衛であるからだ。
 同様に、身を守るために包丁を手元で構える。そこをめざして襲いかかってきた相手が、こちらの包丁にぶつかってケガをする。その場合、身を守るための行動(包丁)は、相手を傷つけたので、悪の行動か? いや、それは悪ではない。それは正当防衛であるからだ。
 同様に、身を守るために石をもつ。こちらをめざしてピストルを発射しようとした相手のピストルをめがけて、石を投げて、ピストルを持つ手を打撃する。その場合、身を守るための行動(石)は、相手を傷つけたので、悪の行動か? いや、それは悪ではない。それは正当防衛であるからだ。

 以上のように、「正当防衛」という行動には、攻撃行動が含まれる。それは決して「専守防衛」ではないのだ。たとえば、凶暴な強姦魔が女性に襲いかかったとき、女性が抵抗するときに許される行動は、相手の手を払いのけることだけではない。そんなことでは、力の弱い女性は負けてしまう。だから、相手に噛みつくことも許されるし、相手の目を指でつぶすことも許されるし、手元の鋏で相手の心臓を刺して殺してしまうことも(たいていは)許される。……事情によっては「過剰防衛」と見なされる危険もなくはないが、常識的には、こういう「正当防衛」は許されるのだ。そこには「専守防衛」という発想はない。「攻撃」もまた「正当防衛」の一種なのである。
 したがって、日本が「自衛権を持つ」(自然権として自衛行動を取れる)というときには、「専守防衛」だけが認められるわけではない。「身を守るための最低限の攻撃」もまた認められるのだ。
 わかりやすく言えば、相手がピストルを撃つ構えを見せたとしよう。朝日新聞の主張に従えば、許されるのは、相手がピストルを撃ったあとで、その銃弾を撃ち落とすことだけだ。しかしそんなことができるのはスーパーマンだけだ。人間にはできない。そこで、相手がピストルを撃つ前に、そのピストルをたたき落とすべきだ。ピストルの銃口を向けるということ自体が殺人予備に当たるからだ。そして、ピストルをたたき落とすことは、最低限の攻撃なので、「正当防衛」に含まれる。一方、相手の生命を奪う行動をすること(たとえば銃殺)は、「過剰防衛」になるので、「正当防衛」の範疇を超える。

 朝日新聞が唱えるべきことは、「過剰防衛にならず正当防衛に限るようにするべきだ」ということだ。なのに、「正当防衛をやめて無抵抗になれ」とか、「スーパーマンのように空中にある銃弾をつかめ」とか、そういうことを言うのは、滅茶苦茶である。
 朝日新聞は「正当防衛とは何か」を理解していない。(「正当防衛」と「専守防衛」を混同しているのかもしれない。)


 (2) 攻撃を抑止

 社説の後段では、「攻撃を抑止する」という自民党の主張を批判している。これは、特に問題はない。たしかに、「反撃能力」は、「攻撃を抑止する」という意味では、あまり効果がない。敵のミサイルを攻撃しようとしても、敵のミサイルは可動式で、しかも隠れているから、どこにあるか見つかりにくいからだ。その意味では、社説の主張は正しい。
 だが、自民党の主張も、朝日の主張も、どちらも見失っている本質がある。それは、「反撃能力の目的は、反撃すること自体ではない」ということだ。
 では、反撃能力の目的は何か? こうだ。
 「敵の基地や重要施設を攻撃すると見せかけて、敵のミサイルを引きつけること。つまり、オトリ役となって、敵のミサイルを被弾すること」

 こちらに巨大ミサイルがあると、それが敵にとっては第一目標となる。その巨大ミサイルによって、敵の基地や重要施設を攻撃されると、多大な被害が発生するからだ。そこで、敵は自分たちのミサイルを発射して、日本の巨大ミサイルを破壊しようとする。
 こうして、日本の巨大ミサイルは、敵のミサイルを引きつけるための誘蛾灯のような役割を果たす。ここをめがけて、敵のミサイルはどんどん集まってくる。
 すると、あら不思議。日本はミサイル防衛網なんかを用意しなくても、敵のミサイルをどんどん打ち消すことができるのだ。なぜなら、こちらのミサイルが敵のミサイルを目指してぶつかろうとしなくても、敵のミサイルがこちらのミサイルを目指してぶつかってくるからだ。
 比喩的に言えば、男が女に向かって接近しなくても、女の方が男に向かって接近してくるので、どっちにしても結果的にはぶつかることになるのだ。(キス成功)

 さて。通常の迎撃ミサイルだと、1億円の敵ミサイルを迎撃するために、10億円の迎撃ミサイルを発射するので、迎撃すればするほど損をする。一方、こちらが巨大ミサイルを用意しておくと、3億円の巨大ミサイルを破壊するために、敵は1億円のミサイルを発射する。しかしこちらのミサイルは、6個に1つだけが本物で、残りの5個はダミーだとすれば、平均コストは 0.5 億円で済む。これを目指して1億円のミサイルを飛ばしたなら、そんなことをする敵の方が損をする。( 0.5 億円をつぶすのに1億円をかけるからだ。)

 というわけで、「敵のミサイルを被弾する」ということのために、巨大ミサイルを用意しておけば、それで足りるのだ。つまり、「反撃能力」としての「敵基地攻撃用のミサイル」というのは、敵基地を攻撃すること自体が目的なのではなく、敵基地を攻撃すると見せかけながら、敵ミサイルを被弾することが目的なのだ。
 その真の意味は、「ミサイル防衛網のかわりになること」だ。やたらと金ばかりを食って効果がほとんどない「ミサイル防衛網」のかわりに、あまり金をかけずに大きな効果がある「敵基地攻撃用のミサイル」を整備するわけだ。
 その本質は、「敵を攻撃すると見せかけることで、敵の攻撃を一身に引き受けて、日本の本物(本体・重要部)を守ること」である。一種のカモフラージュだ。
 ここに本質がある。なのに、朝日新聞はそのことを理解できていない。自民党もまたそうだ。

 こういう本質を理解できないようでは、せっかくの「反撃能力」を整備しても、自分が何をやっているかわからないことになる。とすると、機種の選択などでも、とんでもない間違いをしそうだ。
 たとえば、「ダミーなしで、本体ばかりを配備する」とか。
 あるいは、「配備したミサイルをすべて隠蔽して、どこにあるかわからなくする」とか。(そんなことをしたら他の重要施設がミサイル攻撃されてしまうので、かえって困ったことになるのだが。たとえば、F-35 や F-2 や空母がミサイル攻撃されてしまう、というふうな。……それじゃ、やばいだろ。F-35 や F-2 は1機 100億円以上であり、ミサイルよりもはるかに高額だ。そっちが目標になっては困る。)

 自分が何をやっているかもわからないまま、やたらと武器を持つことほど、タチの悪いことはない。やればやるほど、逆効果になりかねない。



 【 関連項目 】
 敵基地攻撃能力の意味について、同様のことは前にも述べた。
  → イージスの洋上案: Open ブログ
  → 北朝鮮の極超音速ミサイル: Open ブログ
  → 敵基地攻撃能力
  → 無人ドローンを配備せよ: Open ブログ

 ※ いずれも「オトリになる」「誘蛾灯になる」というような話をしている。

posted by 管理人 at 23:23 | Comment(0) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
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