2022年04月25日

◆ 小型原子炉で水素量産?

 三菱重工が小型現原子炉を開発した。これで水素生産をする、という計画もある。しかし、大失敗しそうだ。

 ――

 新型の小型原子炉


 三菱重工が小型原子炉を開発した。
 三菱重工業はトラックで運べる超小型原子炉を2030年代にも商用化する。電気出力は従来の100万キロワット級の原子炉の2000分の1で、災害地域などでの脱炭素電源としての活用を見込む。
 開発するのは「マイクロ炉」という原子炉。電気出力は最大500キロワットを想定する。100万キロワットを超える従来の原子炉だけでなく、同社が開発する小型原子炉(30万キロワット)に比べて大幅に小さい。
 1キロワット時の発電コストは既存の原発(10円強)よりは高いが、離島の電力コスト(20〜30円)並みに抑え、へき地などで経済性のある脱炭素電源として活用できるようにする。
( → 三菱重工、トラック輸送できる超小型原発 30年代商用化: 日本経済新聞

 うまそうな話に思えるが、発電コストが 20〜30円/kWh になるというのは、あまりにもコストが高すぎる。メガソーラーは、現時点では 10円以下であり、将来的には 6〜7円になると見込まれるので、その 3〜4倍もの価格になる。あまりにもコスト高で、およそ商売にはなりそうにない。
 ただ、太陽光発電には電力変動があって安定性がないのに対し、原子力発電には安定性がある。その点は原子力発電の長所だ。その一方で、需要の変動に対応できないという難点がある。この点では火力発電の方が有利だが、火力発電には炭酸ガスを発生するという難点がある。
 では、最善の方法は? それは、前々項で述べたものだろう。つまり、「太陽光発電と EV 蓄電の組み合わせ」だ。これでコスト的にも安定性の点でも、最善の効果が得られる。
 それに比べると、小型原子力発電というのは、コスト的に言って、まったく勝ち目がない。

 新型原子炉で水素生産


 そう思ったせいか、三菱重工は、「新型原子炉で水素生産をする」という方針を出した。(発電でなく水素生産)
 三菱重工業は22日、「高温ガス炉(HTGR)」と呼ばれる次世代原子炉を使って、水素を大量生産すると発表した。2022年中に実証実験を始め、30年代前半に実用化をめざす。原子力発電所でつくった電気で水素を製造すると、低コストと脱炭素を両立できるという。二酸化炭素(CO2)排出が多い鉄鋼業など産業界での利用を目指す。
 国内の鉄鋼メーカーを主な導入先と見込む。産業別で国内のCO2排出量の約14%を鉄鋼業が占め、脱炭素が急務なためだ。鉄鉱石と混ぜる石炭の代わりに水素を用いて鉄をつくる方法もあるが、多量の水素が必要になる。欧州は水素をつくるのに再生可能エネルギーを使いCO2排出を減らしているが、日本は再エネの発電比率が欧州ほど高くないため、原発で水素をつくる手法が役立つ可能性がある。
( → 三菱重工、新型原子炉で水素量産 脱炭素へ低コスト技術: 日本経済新聞

 まともに発電していては太陽光発電とは勝負にならないので、発電の代わりに水素生産をする。これならば、高コストが障害にはなるまい……という算段だ。
 実を言うと、水素生産の点でも、同じように電力を食うので、原子力発電の高コストがもろに直撃する。だから、太陽光発電や風力発電による水素生産には、とうてい勝ち目はない。大差で負ける。しかし、欧州と違って日本には、太陽光発電や風力発電が少なすぎる。その全量が電力に回るので、水素生産に回す分はない。だったら、その隙間を埋める形で、原子力を利用しよう……という発想だ。
 「まともに勝負しては勝ち目がないので、敵のいない隙間で商売しよう」
 という算段だ。
 しかし、この算段は、太陽光発電や風力発電が増えていったら、たちまち破綻する。最初から失敗は目に見えている。その意味で、長期的には「失敗確実」と言えるだろう。(目先の数年間だけなら、何とかなるかもしれないが。しかしそれでは、設備の償却ができない。長期的には破綻が必至だ。)

 ――

 だが、それとは別の話をしよう。ものごとの本質を論じる。
 仮に三菱重工の思惑通りになったとしよう。つまり、太陽光発電や風力発電がいつまでたっても不足していて、製鉄分野では、水素は原子力による水素生産の分だけしかないというふうになると仮定しよう。
 その場合に、製鉄では、まさしく水素が使われるか?
 この問いに、三菱重工は「イエス」と答える。つまり、「製鉄では将来的に水素による製鉄が主流になるだろう」と。
 しかし私は「ノー」と答える。つまり、製鉄では将来的に水素による製鉄が主流にならない」と。
 では、なぜか? 

 実を言うと、「水素で製鉄」という発想は、現代ではかなり多くの人が考えている。「炭素で製鉄するのでなく、水素で製鉄するほうが、炭酸ガスを出さずに済むからだ」と。
  → 水素製鉄
  → 水素製鉄などに2500億円 NEDO、脱炭素技術の開発支援: 日本経済新聞
 世間ではこういう思想が強いのに、私はそれを否定する。なぜか? 次の原理があるからだ。
 「製鉄で炭素を使うのは、炭素で生じた一酸化炭素に、強い還元力があるからだ。一方、水素にも還元力があるが、水素の還元力は一酸化炭素の還元力に比べてずっと弱い」

 一般に、製鉄の際には、強い還元力を必要とする。強い還元力によって、酸化鉄の酸素を奪い取り、酸化鉄を純然たる鉄にする。これが「製鉄」の原理だ。通常、一酸化炭素には強い還元力があるので、一酸化炭素が酸素を奪って二酸化炭素になる。同時に、酸化鉄は酸素を奪われて純然たる鉄になる。
 ここで、「一酸化炭素の代わりに水素を使えば、還元力を残したまま、二酸化炭素を発生しないで済む」というのが、普通の人の考えることだ。「これで脱炭素化できるから、うまい話じゃない?」というわけだ。
 しかし、水素の還元力は、一酸化炭素の還元力よりも、はるかに弱い。したがって、水素製鉄の方式では、製鉄の効率がものすごく悪くなる。たぶん、製鉄にかかる時間が数倍〜数十倍になる。ということは、同じ量を生産するためには、工場の規模が数倍〜数十倍になるわけだ。これでは、固定コストが数倍〜数十倍になるので、生産コストは大幅に上昇する。とうてい、商売にならない。

 では、どうすればいいか? 代案はいくつかある。
 (1) 水素のかわりに一酸化炭素を使うが、そこで発生した二酸化炭素を、そのまま排出しないで、一酸化炭素に戻す。つまり、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する。そのためには、電力を使う。(電力は、原子力でも太陽光でもいいが、通常、低コストな太陽光を使う。) その方式は、触媒を使う方式などがある。
  → Google 一覧

 (2) 同じく、二酸化炭素を一酸化炭素に還元するが、そのためのエネルギー源として、水素を使う。電力でなく水素によって、二酸化炭素を一酸化炭素に還元するわけだ。この件は、前に詳しく述べた。(本項の基本アイデアも示している。) その方式も、触媒を使う方式などがある。
  → 水素製鉄に巨額補助金: Open ブログ

 (3) プラスチックは、水素と炭素の混合物であるので、還元剤として使うことができる。そこで、廃プラスチックを還元剤として使う。
  → 製鉄の炭酸ガスを減らすには?: Open ブログ

 ……以上のように、3通りを示した。そのいずれも、単なる水素製鉄よりは、ずっと効率が高そうだ。
 ゆえに、「水素製鉄のための原子力」という三菱重工の発想は、原理的に失敗すると見込まれる。その方式はあまりにも効率が悪いので、勝負にならないのである。もし実行すれば、失敗は確実だと思える。

 ――

 失敗確実という点では、これは MRJ 失敗と同様だろう。これは MRJ 失敗の再現になりそうだ。
 かつて私は「 MRJ は失敗するだろう」と予想して、その予想が十数年後にまさしく的中した。
  → MRJ の量産化が無期限延期: Open ブログ
  → MRJ の開発中止が決定: Open ブログ

 それと同様に、三菱重工の「原子炉で水素製鉄」という計画にも、「失敗するだろう」と予測しておこう。これが判明するのも、十年以上もあとのことかもしれないが。



 [ 付記 ]
 小型原子炉は、「もともと水中に設置されるので、安全性が高い」と言われる。ビル・ゲイツも推奨している。
  → 原子力にいま起こっているイノベーション(前編)〜次世代の原子炉はどんな姿?|資源エネルギー庁
  → 小型原子炉開発、世界で加速高い安全性 脱炭素化の切り札に - Sankei
  → 安全性の高い小型炉は将来型原子炉として定着できるのか?(諸葛宗男)

 一方で、「小型原子炉はコストが高い」と批判する人もいる。
  → 小型モジュール式原子炉は、たいていが悪策だ | 自然エネルギー財団

 原子力そのものを「危険だ」と批判する人も、一部にはいる。
  → 脱炭素社会の発電「小型原子炉」は選択肢か | NHK

 これらのうち、どれが正しいか? それを判定するには、原子力の専門知識が必要だが、私にはその知識はない。ゆえに、どれが正しいとも判別は付かない。
 小型原子炉の是非そのものについては、私は判断を示さないでおこう。本項では単に、「原子炉で水素生産」という発想だけを批判しておく。その理由は、「水素の使い道がない」ということだ。特に、製鉄には使い道がない。また、燃料電池車でも、使い道がない。さらに言えば、たとえ使い道があっても、コスト面で「太陽光発電による水素生産」に完敗する。

posted by 管理人 at 23:10 | Comment(0) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
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