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この件については、前に別項で詳しく論じた。( 追記も多数。)
→ 地震後の電力逼迫: Open ブログ(2022年03月21日)
地震による発電所の停止のあとで、22日には寒さのせいで、朝夕に電力需給が逼迫するそうだ。だから東電は家庭に節電を依頼している。下手をすると、ブラックアウト(全面停電)の危険もある。
ブラックアウトになると、社会には多大な損害が発生する。だから何とか対策するべきだ。政府の不手際は問題だ。……そういうふうに批判する記事も出た。
政府が東電管内に警報を出したのは、3連休の最終日の午後9時過ぎ。この時間帯に翌朝からの節電を求められても、企業は対応が難しい。
今回の電力不足は、3月16日の福島県沖の地震で複数の火力発電所が停止したところに、真冬並みの寒さが重なったのが主な理由だ。悪天候で太陽光発電が減り、暖房で増える需要をまかなえなくなった。ただ、こうした事態は連休前の時点である程度は分かっていたはずだ。
「SOS」を出すなら早くすべきだ。
( → 瀬戸際の節電要請 停電回避のSOS、早めに 長崎潤一郎:朝日新聞 )
直前に警報を出したのでは遅すぎるから、早めに警報を出すべきだ、という結論は正しい。ただし、その論拠に難がある。「悪天候で太陽光発電が減り、暖房で増える需要をまかなえなくなった。ただ、こうした事態は連休前の時点である程度は分かっていたはずだ」というのは、論拠として難がある。「はずだ」というふうに推測で物事を書くのではなく、きちんと調べて書くべきだ。
その点、本サイトでは、推測でなく事実を示している。「はずだ」ではなく、証拠を示した。「2日前の時点ですでに予報されていた」と。再掲しよう。
事前情報はこうだった。( 20日、13:49 )
(中略)
「真冬のような寒さになる」と二日前に予報されている。
( → 地震後の電力逼迫: Open ブログ )
ともあれ、二日前の時点で予報はなされていた。だから二日前の時点で警報を出すべきだった。そういう「正しい対策」を、すでに示しておいた。
※ なお、次の参考記事もある。
→ 「想定外」というが…電力会社や政府の備えは?供給不足かねて指摘:朝日新聞
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さて。警告を事前に出すことはできるとしても、そもそもの話、根源的には、どうして問題が起こるのか? このような不都合が起こるのは、なぜなのか? その点を本質的に考えてみよう。
いきなり結論を言えば、こうだ。
「電力の需給逼迫が起こるのは、電力会社が予備電力(バックアップ電力)となるものを廃止しているからだ。具体的に言えば、古い発電所を廃止しているからだ。本来ならば、いざというときのために、古い発電所を維持しておくべきだった。そうすれば、今回のような不測の事態が起こっても、問題は発生しなかったはずだ。古い発電所を稼働させることで、電力不足を補えるからだ。ところが、現実には、電力会社は古い発電所を次々と廃止していった。つまり、いざというときのための対策を削っていった。何のために? コスト削減のためだ。いざというときのための対策をするには、コストがかかる。そのコストを削減することで、自分たちの利益を増やすことができる。だから、電力危機の危険性が高まるのを覚悟しながら、あえて古い発電所を次々と廃止していったのだ」
実は、これは、福島の原発事故が起こったのと、同じ構図である。福島の原発事故が起こったのは、万一の場合(巨大地震による津波が来た場合)に対する備えをしていなかったからだ。いざというときのための対策をしなかったからだ。何のために? コスト削減のためだ。そして、その方針のせいで、コストを削減して、かつ、いざというときのための対策を省いた。だから、原発事故は起こった。
結局、「コスト削減優先」「会社の利益を優先」という方針のせいで、危険が放置される。……その構造は、どちらも同じなのである。
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こういう問題がある。そのことはすでに知られていた。そこで政府は前もって、「古い発電所を廃止するな」という方針を出した。これは地震発生(3月21日)に先立つ、3月1日に決まった。
政府は、発電所の休廃止を事前に国に届け出るよう電力会社に義務づける。1日、電気事業法を含むエネルギー関連法の改正案を閣議決定した。今国会での成立をめざす。電力自由化で経営に余裕がなくなった大手電力は、古い火力発電所を相次いで休廃止している。電力不足が見込まれる場合に「待った」をかけ、運転を続けてもらうように支援策をとる。
( → 火力発電所の廃止に国が「待った」 電力不足を回避へ法改正:朝日新聞 )
事前にこういう方針が決まっていた。では、その方針が実施されていれば、十分だったか?
いや、十分ではない。この方針は甘すぎるからだ。古い発電所の廃止については、「届け出」を義務づけて、政府がチェックする、というだけのことだからだ。これでは、「届け出をする」という効果が生じるだけだ。「古い発電所の廃止を阻止する」という効果はまったくない。強いて言えば、行政指導で改善させる、ということぐらいだ。だが、そういう不明瞭な行政指導は、政府の過剰な(不透明な)規制であって、好ましいことではない。もっと王道の解決策をするべきだ。では、どういうふうに?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。以下の通り。
そもそも、電力会社が古い火力発電所を廃止するのは、コスト削減で、利益を増やすためだ。そうすれば、電力会社はコストが減った分、儲かる。一方で、停電になると、社会全体に莫大な損失が発生するが、電力社会はその損失を負担しない。つまり、こうだ。
・ コスト削減で生じた利益は、電力会社が得る。
・ コスト削減で生じた損失は、消費者が負担する。
ここでは、「得は自分が得て、損は客に負担させる」という、いびつな構造がある。これが物事の根源だ。
だから、対策としては、いびつな構造を解消すればいい。つまり、こうだ。
「コスト削減で生じた利益は、電力会社が得る。ならば、コスト削減で生じた損失についても、電力会社が負担するべきだ」
具体的には、こうだ。
「停電が起こると、消費者(家庭・企業)には、莫大な損害が発生する。その損失額は、電気料金の何十倍にもなる。そこで、停電が発生した場合には、その損失を電力会社が負担するべきだ」
ただし、損失の額を個別に調査するのは困難だ。そこで、損失の額を、一律で、次の式で認定する。(ちょっと少なめの額だが。)
損失額 = 電気料金の 10倍
こうして認定された損失額の分、次の月の電力料金を割り引けばいい。
例1。電気料金は月額 3万円である。日割りで日額 1000円である。停電は 12時間続いたので、半日分に当たる 500円分の電力を、停電で使えなかったことになる。そこで、 500円の 10倍に当たる 5000円を、翌月の電気代から割り引く。
例2。電気料金は月額 3万円である。停電は3日間続いたので、3000円分の電力を使えなかったことになる。そこで、3000円の 10倍に当たる 3万円を、翌月の電気代から割り引く。
例3。電気料金は月額 3万円である。だが、よその地区は停電があったのに、自分のいる地区では停電がなかったので、自分については割引はゼロだ。(被害がなければ、損害賠償もない。)
以上のように制度化すれば、電力会社としては、停電時に損賠賠償の額を払う義務が生じる。そこで電力会社は、損害賠償をなるべく払わないで済むようにしたがるだろう。つまり、古い発電所の維持費を負担するようになるだろう。なぜなら、損賠賠償の額は多額だが、維持費の額は少額だからだ。維持費のための少額を払えば、損害賠償のときの多大な負担を避けることができる。
こうして問題は自動的に解決する。(最も得をする方法が、最も危険回避対策をすることになるからだ。現状では、そうなっていないが。)
【 関連項目 】
実は、同様の問題発止の事例(もっとひどい例)は、米国でもあった。電気料金の自由化で、供給を絞ったが、そのせいで、万一の場合には、大規模停電が発生した。
→ テキサスの停電: Open ブログ
この項目では、問題回避のための根源対策として「発送電の分離」を示している。停電すると損失をこうむるのは消費者だが、消費者対策をするために、送電会社が頑張る。すると、送電会社としては、次のような策を取る。
・ 古い発電所の稼働による供給増を、発電会社に要求する。
・ 需要減少の制度(需給調整契約)を、送電会社が整備する。
そして、こういうことを促進するために、「馬の尻に鞭打ちする」ような効果が、停電賠償金にある。これを政府が法制化するといいだろう。(停電による被害賠償というのは、十分に根拠となるからだ。いわば正義の実現である。)