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余剰電力
まず、太陽光発電(と風力発電)の余剰電力という問題がある。これには二つの意味がある。
(1) 晴れた昼間には電力が余剰になり、夜間や雨天時には電力が不足する。
(2) 九州や北海道では電力が余剰になり、関西や関東では電力が不足する。
このうち、後者の問題を解決するための方策として、「送電線」というものがある。だが、これは津軽海峡や関門海峡を海底ケーブルで結ぶものなので、莫大なコストがかかる割に、効果は小さい。費用対効果で言うと、滅茶苦茶に分が悪い。
大雑把に言うと、100万kW の海底ケーブルを設置する費用と、100万kW の火力発電所を設置する費用は、ほぼ同じである。このことからして、「どっちも同じぐらいの費用がかかるなら、海底ケーブルを設置してもいいだろう」という発想が成立しそうだ。
この発想に基づいて、かくて政府は、海底ケーブルを設置するために巨額の国費を投入することを決めた。総額で1兆円規模の巨額の投入だ。
→ 北海道の風力を東京に 海底送電線、30年度までに整備 : 日本経済新聞
ところが、である。「どっちも同じぐらいの費用がかかる」というのは正しいが、その後が違う。
・ 海底ケーブルの場合は、費用を回収できないので、費用は丸損だ。
・ 火力発電所の場合は、費用を回収できるので、出費はゼロ同然だ。
海底ケーブルの場合は、それを利用する機会がほぼゼロに近いので、その費用を回収することはできない。1兆円の費用は丸損となる。だから国が1兆円の金を出す。たかが電力会社の電力事業という民間の事業のために、1兆円もの国費を投入する。(馬鹿丸出しというしかない。)
火力発電所の場合は、最新型の火力発電所となるので、低コストで運転できる。通常の「投資と営業」という形で、投資した費用は営業によって回収できる。企業が1兆円を投資して、事業収入で 1兆1千億円ぐらいを得て、営業利益として1千億円を計上する。……こうなるのが普通だ。(この場合、国費の負担はゼロで済む。)
火力発電所の場合は、新型の火力発電所を常に運転させて、古くなった旧式の発電所を予備電力として保存する。(バックアック設備にする。)この旧式の設備を維持するために、維持費がかかるが、その維持費はほとんど無視できるぐらいの少額だ。
以上をまとめると、こうだ。
太陽光発電(と風力発電)には、電力の変動や地域差ゆえに、余剰電力が発生するという問題がある。それを解決するために、送電線を整備するという案があるが、これは非常にコストがかかるので、コスト的には愚の骨頂と言える。
その代替案として、火力発電所を新設するという案もあるが、これだと、電力の変動や地域差を解消することはできても、(火力発電所が炭酸ガスを発生するので)炭酸ガスの削減という目的を達成する度合いが低い。
あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?
EV の蓄電
そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「太陽光発電などの余剰電力を EV に蓄電する」
実は、これは本サイトの独自の案ではなく、すでによく知られた案だ。
ともあれ、この案に従えば、送電線も不要だし、火力発電所の新設も不要だ。しかも、炭酸ガスの発生もない。(単に蓄電した電力を放電するだけだからだ。)
こうして、巨額の金を投入することなく、それどころか1円の金もかけることなく、問題を一挙に解決することができるのだ。実にうまい案だと言える。
だから、技術的に言えば、「余剰電力を EV に蓄電する」という方式が最善だとわかる。
※ 容量を心配する人もいそうだが、容量の心配はない。試算すればわかる。EV の充電量が 60kWh だとして、ピーク時の余剰電力を6時間蓄電するとしたら、1時間あたり 10kWh だ。つまり 10kW の蓄電力がある。送電線に相当する 100万kW を吸収するためには、100万kW を 10kW で割って、10万となる。つまり、10万台の EV があれば足りる。これは、北海道の自動車保有台数( 277万台)によって十分にクリアできる。
※ 送電線の 100万kW のかわりに、北電の最大発電量(約 500万kW )だとしても、上記の5倍であるにすぎないから、50万台の EV があれば足りる。これも、十分にクリアできる。
※ 日産アリアのように 90kWh の大型充電池を備える場合には、台数はもっと少なくて済む。また、1時間あたり 10kWh でなく 20kWh を蓄電するように充電量を最適化すると、必要となる台数は少なくて済む。
※ あれやこれやとあるが、いずれにせよ、容量の心配はない。電力が変動する分(余剰になる分)は、EV の蓄電池だけで十分に吸収できる。
制度的な問題
余剰電力の問題は、「EV の蓄電」という方式を取れば、技術的には解決できる。(上記。)
しかし、技術的には解決できるとしても、制度的には解決できない。要するに、技術者が頑張ってうまく解決できる方法を編み出しても、文系の官僚が足を引っ張って、その方式を実現させなくしてしまうのだ。いわば、
詳しく説明しよう。
太陽光発電では、昼間に余剰電力が発生する。その余剰電力を EV に蓄電すればいい。これが技術的な解決案だ。
では、そのためには、どうすればいいか? 日中の電力料金を下げて、夜間の電力料金を上げればいい。通常ならば、EV のオーナーは夜間に充電するので、日中には充電しない。しかしそんなことだと、余剰電力を蓄電してくれなくなる。だから、日中に充電するという行動を取らせるために、「昼間の電力料金を下げる」というふうにすればいい。つまり、時間別の可変料金とすればいい。
それは可能か? 可能だ。いわゆるスマートメーターを使えば、電力料金を時間的に可変料金にすることはできる。そして、スマートメーターはすでに配備中である。東京電力ではすでに全世帯にスマートメーターを配備済みである。
→ プレスリリース・お知らせ一覧|東京電力パワーグリッド株式会社
こうして、技術的には、「昼間の電力料金を下げる」ということは可能になっている。技術的には、何ら問題がない。
しかしながら、制度的には、問題がある。なぜか? 次の制度があるからだ。
「メガソーラーの電力は安値で購入するが、個人住宅の電力は高値で購入する」
→ 太陽光発電は屋根より中山間地で: Open ブログ
メガソーラーの電力は 12円 で購入するので、これを 18円ぐらいで売っても利益が出る。だが、個人住宅の電力は 21円 で購入するので、これを 18円ぐらいで売れば赤字になる。
だから、「昼間の電力料金を下げる」ということは不可能なのだ。やればやるほど、赤字になるからだ。電力会社としては、どうせならば、「昼間の電力料金を下げる」かわりに、「余剰な電力は購入拒否する」方がいい。そうすれば、馬鹿高値の電力を購入するという義務を免れることができるからだ。
→ 再エネ使い切れない 四国電力が受け入れ一時停止、東北電力も実施へ:朝日新聞
一般に、経済の場では、「市場原理」というものが働く。供給過剰な商品は価格が下がり、供給不足の商品は価格が上がる。このことで需給は自動的に均衡する。すべてはうまく働く。
ところが太陽光発電(特に個人住宅の電力)では、その原理が働かない。供給過剰な商品(個人住宅の電力)は、価格が下がるどころか、馬鹿高値の価格が付く。なぜ馬鹿高値かというと、市場で価格が決まる代わりに、政府が統制価格を決めているからだ。
かくて、「価格変動による需給の調整」という機能が正常に働かない。政府が市場を歪める制度を取っている(価格統制をしている)せいで、需給の調整に歪みが発生する。かくて、「余剰電力を EV に蓄電する」という方針を、政府が制度的に阻害していることになる。
※ では、問題を解決するには? もちろん、政府による価格統制をやめればいい。つまり、個人住宅の電力の買い取り料金を、政府が決めずに、市場が決めればいい。そうすれば、問題は自動的に解消する。
※ あるいは、次善の策として、個人住宅の電力の買い取り料金を、メガソーラーと同程度の額まで引き下げればいい。そうすれば、問題は自動的に解消する。
※ 現実には、そうなっていない。そのことは、次の政府の買い取り料金を見ればわかる。
→ 【最新】2022年度(令和4年度)の太陽光発電の売電価格は?FIT制度を解説。
※ 上記ページによると、2020年度は 21円だが、2021年度は 19円、2022年度は 17円、というふうに、徐々に下がっていく。その分、状況は改善されている。とはいえ、メガソーラーの買い取り価格が 10円以下になるのに比べると、やはり倍近い高値となっている。こんなことでは、EV に蓄電するという方針は実現不可能だ。(やればやるほど、電力会社に多額の赤字が発生するからだ。)
【 関連項目 】
前に下記の話も言及した。
(1) 屋根に太陽光パネル
東京都は、個人住宅の屋根に太陽光パネルを載せることを義務づける、という方針を示した。ただし、大手の住宅会社のみが対象。
→ 太陽光発電の話題を二つ: Open ブログ
→ 新築住宅に太陽光パネル メーカー義務化、条例改正へ―東京都:時事
こんなことを推進すればするほど、太陽光発電の発電コストが上昇するので、太陽光発電の普及を阻害する。太陽光パネルの設置場所は、屋根の上ではなく、広大な休耕地であるべきだ。
→ 太陽光パネルの設置禁止 : Open ブログ
(2) 送電線
【 追記7 】
需給逼迫の解決策として、電力の余っている北海道や九州から、本州へ電力を移送するために、連系線を強化する(容量を増やす)ことが不可欠だ、という意見がある。
( → 地震後の電力逼迫: Open ブログ )
ここでは、「連系線を作る」という方針について、あれこれと批判している。
また、「北海道や九州の電力を関東に持ってくるより、関東の耕作放棄地や中山間地にソーラーパネルを置く方がいい」という案も示している。
ともあれ、送電線を作るというのは、最悪だ。
一方、別の方式もある。
・ 関東の各地で発電する。
・ 昼間の余剰電力を EV に蓄電する。
こういう方式ならば、圧倒的に低いコストで、何倍もの効果を得る。
そもそも電力料金を一律で決める制度が良くないのでは。
晴れていて風もあって発電量が多いときには電気料金を安く、少ない時や需要が多いときには高く、秒単位で料金変動をかけても良いのでは。
発電過剰の際には料金をマイナスにして、その場合は使ったほうが儲かるのでその間に蓄熱や蓄電に精を出して有効活用することが可能になります。EV充放電もそういう感覚で行えば台数があるだけに効果が高いのでは。
デンマークの大使館の日本人職員が精力的に発信していますね。ロシアの天然ガスに依存できなくなるとどうなるのかわかりませんが。
自分ではものを生産しないで、口先だけの言葉だけで商売をしている新聞記者だと、そういう発想になります。言葉だけを出していれば世の中が改善されると思い込んでいる。そのためにかかるコストなどはまったく考えない。……書生論議ともいう。
よろしくお願い申し上げます。
充電するのは、次の二通り。
・ 自宅で駐車中である車
・ 会社で駐車中である車
日本全体の自動車の半分ぐらいでいい。残りの半分は、走行中。
人々が努力して設置する充電器は、自宅と会社の駐車場の分だけ。
充電器会社の分は、全体の1割ぐらいだろうから、あまり気にしないでいい。
充電器会社の分は、実際に走行する自動車が消費した分の電力だけ。それは平均して、充電能力の1割ぐらい。
駐車中の自動車に充電して放電する分は、一日ごとに充電器の能力の8割ぐらい。
だから、駐車中の自動車の充電能力を使う分の方が、圧倒的に多い。
充電器会社が充電する分は、ほとんど無視していい。
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そもそも、充電器会社で充電する分は、充電するだけであって、放電しません。放電しないのでは、蓄電機能がないことになる。
大事なのは、夜間に放電することです。それでこそ、蓄電機能が生じる。
その放電をするための接続装置は、街中の充電器にはなくて、自宅または会社の充電器にあるだけです。
だから、街中の充電器の分は、全部無視していい。
よろしくお願い申し上げます。
> 日本全体の自動車の半分ぐらいでいい。残りの半分は、走行中。
有難う御座います。
そのかわり別の人が、1日中、EV を駐車させている。
ただの統計分布です。
やはり、その別の人は(全体の半分の人数になると思いますが)、天気が良くても我慢して出かけられないということなのですね。
統計では人間の心情は反映できないものなのでしょうか。EV蓄電にも、人間の証明という課題がありそうに思います。
たとえば、昼食に和食を取る人が3割はいるとしたら、その3割は(我慢して)「和食を取らなくてはいけない」というわけではなく、「好きなようにしていたら和食を取っている」だけです。
だいたい 一日中 車を運転していたら、疲れちゃうでしょ。普通の人は、仕事をしたり、遊んだり、テレビを見たり、スマホをいじったりするので、自動車を運転している時間は、1割ぐらいしかありません。他の時間では、運転していません。