2022年03月13日

◆ ウクライナ戦争 13(つづき)

 (前項の続き)
 日本の参戦について、話を続ける。樺太と千島の話。

 ――

  (9) 樺太・千島

 北方四島だけを占領しても、ロシアは西方にいる軍を極東に引き戻さないだろう。そこで、西方にいる軍を極東に引き戻させるために、より広範な範囲を占領する必要がある。特に、樺太・千島を占領する必要がある。
 ここで問題が生じる。北方四島は明らかに日本固有の領土だが、樺太・千島はそうだとは言えない。では、どうして樺太・千島を占領するのか? その法的根拠はあるのか?
 ある。法的に言って、樺太・千島は、ロシア領ではなく、日本領なのである。そのことを以下で説明しよう。

 [i]サンフランシスコ平和条約

 「北方四島は日本領だが、樺太・千島は日本領ではない」
 という見解がある。その見解の根拠となっているのは、サンフランシスコ平和条約だ。そこでは、千島および樺太に対する権利を、日本が放棄することを示している。
 日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
( → サンフランシスコ平和条約(日本国との平和条約) - データベース「世界と日本」

 これはサンフランシスコ平和条約にある記載だ。したがって、この記載は、調印した双方の側を拘束する。この記載の片側には、日本があり、もう片側には、連合国(アメリカやその他多数の諸国)がある。ところが後者には、ソ連は含まれてない。ソ連は調印を拒否したからである。
 仮にソ連がサンフランシスコ条約に調印してたなら、樺太も千島もソ連のものになっていただろう。ところが、ソ連は調印を拒否した。ならば、サンフランシスコ平和条約の条約上の権利を、ソ連は有しない。ソ連の継承者たるロシアも同様である。
 
 では、日本もソ連もともに、樺太や千島に対する領有権を持たないのだとしたら、どこの国が領有権をもつのか? 北朝鮮や韓国か? 中国か? それとも永遠に無国籍か? ……いや、そのいずれでもない。そういうことは、領土問題の歴史的な慣行に合致しない。
 このような場合に最も妥当なのは、「樺太と千島については、サンフランシスコ平和条約は無効になる」という解釈だ。そして、その場合には、それ以前の(ひとつ前の)状態に戻ることになる。では、その状態とは? (日露戦争後の)ポーツマス条約で決まった状態だ。


Portsmouth.png
出典:北方領土に関する取り決めと交渉経緯


 この図に記してあるように、ポーツマス条約で決まった状態とは、次のことだ。
 「北緯 50 度以南の南樺太および千島列島は、日本領である」

 これがサンフランシスコ平和条約以前の状態だ。そして、サンフランシスコ平和条約が(ソ連との間では)有効にはなっていないので、上記()のことが法的には正当であることになる。

 つまり、日本領となる北方領土は、北方四島ではなく、南樺太と千島列島(北方四島を含む)なのだ。それが法的に妥当な解釈となる。(サンフランシスコ平和条約の前に戻るので。)

 とすれば、日本が今回、ロシアに対して「日本の領土の回復を要求する」というときには、南樺太と千島列島(北方四島を含む)の全体を要求するべきなのだ。
 そしてまた、日本が今回、ウクライナ戦争に乗じて占領するとしたら、南樺太と千島列島(北方四島を含む)の全体を占領するべきなのだ。それが法的解釈としては妥当だからだ。

 [ii]日ソ共同宣言

 サンフランシスコ平和条約(1951年)のあとで、日ソ共同宣言(1956年)が批准された。
 この宣言では、次の二点が重要だ。
  ・ 戦争状態の終結
  ・ 領土問題


 第1に、戦争状態の終結の条約化は、ここでなされた。通常は、平和条約でなされるが、今回は共同宣言の形でなされた。ともあれ、ここで戦争状態の終結は決まった。

 第2に、領土問題では、話題は北方四島に限定されている。平和条約を結んだ時点で二島が返還されることが決まった。残る二島は係争中となった。

 では、以上によって、樺太と千島はソ連に帰属することが決まったか? いや、決まっていない。領土に関する条項は、北方四島に関するものだけである。具体的には、こうだ。
 ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。
( → 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言

 ここでは、「南樺太および千島をソ連に譲渡する」という条項はない。
 仮に両国の間で平和条約が結ばれたなら、そこには領土の譲渡に関する条項が含まれるので、そのときには、「南樺太および千島をソ連に譲渡する」という話が決まるだろう。同時に、北方四島の帰属も決まるだろう。
 ところが現実には、両国の間で平和条約が結ばれていない。したがって、北方四島の帰属は決まっていない。同時に、南樺太および千島の帰属も決まっていないことになる。(平和条約が結ばれていないので。)
 こうして、日ソ共同宣言の時点でも、南樺太および千島の帰属は決まっていないことになる。(日本領に対してソ連が不法に占拠している状態が続いていることになる。今も同様。)

 [iii]勝利の成果? 

 ロシアは北方領土をわが物とするための理屈として、次のように述べることがある。
 「ソ連は第二次大戦で日本に勝利したので、勝利の成果として日本領を得た。そこには北方領土も含まれる」
 この理屈は、次のことを土台とする。
 「ソ連は第二次大戦でポーランドやフィンランドに勝利したので、勝利の成果として領土を割譲された」
 それと同様のことを日本にも求める、というわけだ。

 だが、この理屈は成立しない。なぜなら、ポーランドやフィンランドと違って、日本はソ連と平和条約を結んでいないからだ。
 ポーランドやフィンランドは、平和条約を結んだときに、講和の条件として領土を割譲することを認めた。ところが日本は、ソ連と平和条約を結んでいない。当然ながら、講和の条件として領土を割譲することを認めたこともない。仮に日本がロシアと平和条約を結ぶ日が来たなら、そのときに南樺太と千島を割譲することを認めることになるだろうが、その日はまだ来ていない。ゆえに、「勝利の成果として領土を割譲された」ということは、北方四島には成立していないし、南樺太や千島にも成立していない。
 とすれば、その前の状態に戻ることになる。それは、ポーツマス条約の時点だ。つまり、「南樺太と千島列島は日本の領土だ」という状態だ。(前出の図を参照。)

   *   *   *

 結論。
 以上の諸点によって、「南樺太と千島列島は日本の領土だ」と言える。

( ※ 要するに、ロシアは「戦争に勝ったから領土を割譲された」と言っているが、そのための条約を結んでいないのだから、ロシアの言い分は成立しないわけだ。法的には、ロシアは日本に勝っていない。単に交戦状態を終えただけだ。)

( ※ これをロシアの側から言えば、こうなる。平和条約を結んで、北方四島を日本にくれてやれば、ソ連は北方四島を諦めるかわりに、樺太と千島を割譲してもらえた。しかし平和条約を結ばなかったので、北方四島の帰属は確定されず、同時に、樺太と千島の割譲もなかった。つまり、平和条約を結ばなかったというミスによって、領土割譲の権利を得られなかった。そのまま状況が継続しているので、ロシアは樺太と千島を自国領だとは主張できない。せいぜい、所属国が未確定のまま、独立地域となっていて、そこをロシアが不法占拠しているだけだ。現状ではロシアには何の法的権利もない。すべては平和条約を結ばなかったという法的ミスに由来する。)


 ――

 《 加筆 》
 仮に将来、ロシアと平和条約を結ぶ日が来たら、南樺太と千島はどうなるか?
 平時ならば、その時点では、北方領土を得るのと引き替えに、南樺太と千島がロシア領であることを認めることになる。それで、めでたしめでたし、となる。
 しかしその後、ロシアが日ソ共同宣言を裏切る形で、北方領土を「自国領だ」と言い張っている状況である。つまり、ロシアの側から、日ソ共同宣言を破棄したも同然の状況となっている。
 そして、これを理由として、今回は平時ではなくなっている。日本がロシアに対し、「自衛戦争をする」という状況である。したがって、平和条約を結ぶ状況ではなくなっている。話の前提が崩れている。
 ゆえに、「第二次大戦の終結のための平和条約を結ぶ日」は、永遠に来ない。かわりに、「2022年の第二次日露戦争(自衛戦争)における平和条約」を結ぶことになる。その平和条約では、ロシアの敗北が明記され、また、日本が(現状通りに)南樺太と千島の領有権を持つことが確認される。これが(戦争終結の)講和条約となる。

 なお、それが実現するためには、日本とロシアが戦争状態になることが必要だ。そして、そのことは、「世界の正義」という名目で実現可能となる。今現在に限っては、という特別な条件下で。
( ※ ウクライナ戦争が起こっていないときには、それは成立しない。特に、「国際紛争を解決するための戦争」は、憲法で禁じられているから、今回以外では、戦争を始めることは不可能だ。ただし今回に限り、そうならないということは、前項の (8) で示した。)





 以下はおまけふうの話。

 [ 付記1 ]
 ロシアはしばしば、「戦争の勝利の成果で領土を得た」と言う。だが、裏を返せば、それは「領土を返して欲しければ、戦争で奪い取れ。文句があるなら、理屈でなく腕ずくで奪い取れ」と言っているに等しい。ジャイアニズム。
 そういう相手には、理屈は通じないから、腕ずくでもぎとるしかない。とはいえ、そういうこと(武力で領土を奪うこと)は、平時には通用しない。
 しかし今は、平時ではなく戦時である。ロシアは戦争の真っ最中である。ロシアは世界を相手に戦争しているようなものだ。こういうときには、ロシアから腕ずくで領土を引き戻すしかないだろう。ロシア自身がそういう発想であるからだ。
 ともあれ、「北方四島を返還する」という共同宣言を結んでから、65年も放置するような国なのである。条約を守ろうとする気がないのは、もはや明らかであろう。口で言っても通用しない相手なのだから、強引にもぎとるしかない、とも言える。
 そして、それは、平時には「ただの強欲な紛争活動」と見られて、世界中から非難されるだろうが、ウクライナ戦争の最中には、「悪しきロシアを懲らしめる正義の行為」として、世界中から称賛を浴びることができる。(陽動作戦を通じて、ウクライナを支援するからだ。前出。)
 その意味で、今は北方領土を回復することができる千載一遇のチャンスだと言える。このようなチャンスが巡ってくることは、もう二度とないだろう。おそらく千載一遇というよりは、空前絶後である。以後はチャンスは永久に訪れない。こういう稀有のチャンスを、うまくつかむことが必要だ。
 「チャンスは前髪をつかめ」という格言がある。後ろは禿げているそうだ。
   → チャンスの神は前髪しかない

 [ 付記2 ]
 ロシアは憲法を改正して、「領土割譲の禁止」を明記した。(2020年)
 これは北方領土を狙い撃ちにしたものである。だが、法的には、これは北方領土には適用されない。理由は二つ。
 第1に、北方領土はもともと日本領であるから、ロシア領ではない。ロシア領ではないのだから、憲法で言う「領土の割譲」の対象にはならない。単に「日本領であることを承認する」というだけのことだ。
 第2に、たとえそこがロシア領であるとしても、憲法は条約には適用されない。なぜなら、一般に、憲法よりも条約の方が優位に立つからだ。たとえ憲法に矛盾することがあるとしても、条約で取り決めたなら、条約の方が優先されるのだ。これが一般原理である。
 なぜそうなのかというと、憲法はあくまで主権の及ぶ範囲(国内)にしか適用されないからだ。自国の主権の及ぶ範囲外(つまり外国)には、憲法は適用されない。となると、国家間で適用されるのは条約だけであるから、憲法が何を言おうと、条約には関与できないわけだ。
 では、憲法に矛盾する条約を政府が締結したら、どうなるか? その場合、条約はそのまま成立するが、それを成立させた政府が「憲法違反のことをした」として、処罰されることになる。ただし、処罰規定がなければ、何も処罰されない。
 たとえば、日本では、「参院で一票の格差拡大」が憲法違反だと認定されたが、だからといって政府も誰も処罰されない。(単に違憲状態が続くだけだ。)
 また、集団的自衛権についても、学説は「違憲」で一致しているが、現実には違憲の法律が堂々とまかり通っている。
 こういうふうに違憲の状態が続くことは、たまにある。憲法というものは絶対的なものではなく、為政者(独裁者)の意思によって容易にねじまげられてしまうものだ。
 まして、憲法よりも上位にある条約が別のことを決めたなら、ただの国内法である憲法としては、何もできないのだ。

    《 蛇足 》
     ついでだが、「一票の格差」で「2倍以上、3倍以下」を合憲と見なす最高裁は、もはや「憲法を守る」という意思そのものをなくしていると言える。なるほど、判決の初期に限ってなら、「混乱をなくす」という名目で、「2倍以上、3倍以下」を合憲と見なすのも、やむをえない。だが、それから5年以上たっても、なおも「2倍以上、3倍以下」を合憲と見なすというのは、およそ道理が通らない。これはもはや、「憲法を守る」という意思そのものをなくしていると言えるだろう。つまり日本は、法治国家でも民主主義国家でもなく、独裁専制国家の一種なのである。そこでは民主主義も法律もまともに機能していない。その意味では、日本はプーチンのロシアや、習近平の中国と、同様の国家である。実際、安倍晋三と菅義偉は、法律を無視する独裁者だったしね。


 [ 付記3 ]
 地図を見ていて思ったのだが、国後・色丹・歯舞は北海道に近いが、択捉は北海道から かなり離れている。とすると、本来の平和状態であったなら、「国後・色丹・歯舞は日本に帰属するが、択捉はロシアに帰属する」という「三島返還論」が、最も妥当な落とし所だったように思える。
 もしそれが実現していたら、日本とロシアの関係は正常化していたかもしれない。それによってロシアの極東は中国のように発展して、ロシア経済は今よりもずっとまともになっていたかもしれない。そうなれば、プーチンが焦ってウクライナに侵攻することもなかったかもしれない。……歴史の if だが。




 [ 付記4 ]
 本項では「樺太・千島は日本領だ」と述べた。この主張を日本がしなかったことが、平和条約が結ばれなかった理由だと思える。
 仮に日本がその主張をしていたら、たぶん、次のようになった。
  ・ 「樺太・千島は日本領だ」と日本が主張する。
  ・ ソ連はその法的妥当性を認めるが、現実には引き渡したくない。
  ・ そこで、北方四島と引き替えに、樺太・千島の領有権を得る。
  ・ 日本は北方四島を得て、ソ連の極東開発に協力する。

 この場合には、双方の主張が満たされて、丸く収まっていたはずだ。なのに、そうならなかったのは、日本が「樺太・千島は日本領だ」と主張しなかったからだ。そのせいで、日本はソ連を取引に応じさせるための手札をもたなかった。だからソ連が取引に応じず、北方四島は返還されず、平和条約は結ばれなかった。かくてソ連の極東は発展から取り残された。ソ連全体も発展から取り残された。……それが遠因となってウクライナ戦争が起こった。
 日本が本項の主張をしていたら、日ソ平和条約が結ばれたおかげで、ウクライナ戦争は起こらなかっただろう。それほどにも、本項の主張は大切なのだ。(実現させるためというより、取引の手札として使うために。……ポーカーみたいなものですね。)





( ※ 話が長いので、ここで書くのを中断します。 続きは次項で。)


  to be continued. 
 
posted by 管理人 at 23:29 | Comment(4) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 [ 付記1 ] の直前に 《 加筆 》 の箇所を挿入しました。

 
 項目の末尾に [ 付記3 ] を追加しました。
Posted by 管理人 at 2022年03月14日 07:25
 最後に [ 付記4 ] を加筆しました。
 「樺太・千島は日本領だ」と日本が主張するのは、それを実現するためというよりは、取引のためだ、という話。
Posted by 管理人 at 2022年03月14日 14:09
管理人には悪いが、日本の言い分に道理があろうとなかろうとロシアは聞く耳を持つような相手ではない。ましてや、プーチンみたいな男がボスならなおさらだ。
それと、「日本が本項の主張をしていたら、日ソ平和条約が結ばれたおかげで、ウクライナ戦争は起こらなかった・・」なんてことはあり得ない。
ウクライナ戦争は歴史的に安全保障に取り付かれているロシアの病的な感覚が引き起こしたものであって、千島とは関係ない。
Posted by ポール at 2022年03月14日 20:47
>ロシアは聞く耳を持つような相手ではない。

 もちろんそうです。だから理屈で論破して説得するわけではない。理屈は国内向けと西側向けです。自己正当化。
 ロシアに対しては、武力で屈服させます。 (4) に書いてあるでしょ。ちゃんと読んでください。選択肢は、
  ・ 大規模の相手をおびき寄せて、退却する
  ・ 小規模の相手と戦い、壊滅させる
 の二通りだけです。「説得して論破して、返還させる」という選択肢はありません。お間違えなく。

 本項の論理は、西側社会向けです。自己弁明。
 
> ロシアの病的な感覚

 日本が極東を発展させて、ロシアを中国みたいに発展させれば、ロシアの病的な感覚もなかっただろう、という話です。
 その場合には、ロシアの病的な感覚がないのだから、戦争も起こらない。
Posted by 管理人 at 2022年03月14日 22:29
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