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前々項と前項で述べたことを振り返ろう。
目的は、戦争の終結である。ただし、勝利ではなく、講和をめざす。そのためには、譲歩と妥協が必要だ。
講和をめざすのならば、まずは、相手の言い分を聞くべきだ。話を聞かないのでは、交渉さえもできないからだ。
※ 講和でなく勝利をめざすのなら、相手の話を聞かなくてもいい。交渉もしないで、相手を軍事的に打破すればいい。だが、現状では、劣勢なので、勝利はできない。勝利をするためには、ウクライナの戦力だけでは不足するので、西側が参戦することが必要だ。当然、日本も参戦する必要がある。つまり、第三次世界大戦となる。それは困難だ。
※ 仮に西側が参戦して、勝利が確実になったとしよう。その場合には、勝利の寸前に、ロシアは(敗北するよりはマシだと思って)、核を使う。つまり、核戦争だ。
※ 要するに、講和でなく勝利をめざすと、第三次世界大戦で核戦争が起こる。そんなことをめざすべきか? まさか。ゆえに、勝利をめざすことはありえない。
背景
講和をめざすからには、相手の話を聞くべきだ。では、話を聞くとして、どんな話を聞くべきか?
それは、下記のような点だ。
(1) 歴史
ロシアは自分の正当性を示すために、歴史を主張する。その主張にきちんと耳を傾けるべきだ。
具体的には、プーチンの演説がそうだ。それを読めば、プーチンがどう考えているかがわかる。だからそれをきちんと読むべきだ。
→ ロシア大統領による演説(機械翻訳): Open ブログ
その上で、上の話にはきちんと反論するべきだ。彼の主張はあまりにも偏った歴史認識である。特に、「ロシアとウクライナは一体化している」というのはいいとしても、「ロシアはウクライナの親や兄であるどころか、弟分にすぎない」という歴史を理解できていない。その歴史をきちんと教えて上げるべきだ。
( ※ プーチンはソ連時代のことだけをすべてだともっているが、キエフ公国以来の長い歴史を教えて上げるべきだ。)
→ ウクライナ危機には? 6(評価): Open ブログ
つまり、相手の話を聞いた上で、相手の誤りを教えて上げればいいのだ。なのに、そうしないで、相手の話を無視するばかりだから、交渉ができずに、暴力に至ってしまうのだ。話を聞こうともしないということが、どれほど危険であるか、西側はわきまえるべきだ。
プーチンが独裁化して、他人の意見に耳を貸そうともしないことについては、次の記事がある。
プーチン大統領は2月21日、最高意思決定機関、安全保障会議を公開で開き、ウクライナ東部の親ロ派が支配する2地区の独立承認を決めた。
……
安保会議の公開は全会一致を強調する政治ショーで、プーチン氏が反対意見を排除する独裁権限を持つ印象だった。
( → プーチン氏の精神状態に異変? ウクライナ攻撃は「密室決定」か【解説委員室から】:時事 )
プーチンが間違ったことを言っても、それをいさめて、正しいことを教える人はいない。いれば、「反逆者」として、左遷または処刑されてしまうだけだ。(スターリン流。菅義偉流でもある。)
だからこそ、プーチンが間違ったことを言ったときには、正面から間違いを正して上げることが必要だ。そのためにも、きちんと対話して交渉することが必要だ。
※ 人の話を聞くというのは、屈服するということとは違う。お間違えなく。
(2) 経済的依存
ロシアは自分の正当性を示すために、歴史を主張する。ではなぜ、そんなことをするのか? 今さらロシアの歴史のことなどを延々と述べても、世界の人々が「はい、そうですね」などと、納得するはずがないのだが。なのになぜ、そんなこと(中学校の先生みたいなこと)をするのか?
実は、歴史を述べるのは、それ自体が目的ではない。本当は、それによって示唆される真実を、遠回しに言っているのだ。というか、語るに語れなかった、秘めた真実があるのだ。
では、秘めた真実とは何か? 次のことだ。
「ロシアはウクライナと経済的な共同性があるので、分かちがたい関係にある」
もう少しはっきり言えば、こうだ。
「ウクライナはロシアに頼るのをやめて、欧州(EU)との結びつきを強めようとしているが、ロシアにとってはウクライナは欠かせない相手だ」
これはつまり、ロシアがウクライナに依存しているという、依存関係があることになる。ただし、あくまで経済的な意味での依存なので、経済的依存と言える。
このような共同性ないし依存関係については、前に地理的に説明したことがある。そちらを参照。
→ ウクライナ危機には? 1: Open ブログ
こういう依存関係がある。なのに、ウクライナはロシアを袖にして、欧州(EU)との関係を強めようとする。しかし、ウクライナにフラれたロシアとしては、ウクライナが離れていくのを認めがたい。(未練たっぷりだ。)
そこで、ロシアとしては、「ウクライナを手放したくない、引き止めたい」と思うあまり、「どうしても逃げていくというのなら、暴力をふるってやる」という気分になっているわけだ。
もちろん、そこには正当性はない。だが、そうだとしても、そういうふうに追い込まれているロシアの心理状態については、理解することが大切だ。
理解するといっても、別に、同情する必要はないし、同意する必要もない。だが、ロシアとの講和をまとめるためには、ロシアがどういう感じているかを、(心理分析的に)きちんと理解しておいた方がいいだろう。
( ※ これは、話を聞くというよりは、語らなかった本心を理解するということになる。)
※ ロシアとウクライナの奇妙な依存関係として、天然ガスをめぐる諍いがある。その概説は下記にある。
→ 「ウクライナと露」エネルギーから見る危機の歴史 | 東洋経済
これは最新分の情報が抜けているので、下記で補える。
→ 着実にロシア離れ進めるウクライナ 希薄になる両国の天然ガス関係
(3) 経済成長
ロシアが歴史のことばかりを強調するとき、語られなかった真実がある。そのうちの一つは両国の依存関係だが、もう一つ、別の真実がある。それは、ロシアの成長鈍化だ。
ロシアの経済成長は、近年、急激に低下している。
ロシアの GDP

出典:Google ← 世界銀行
エリツィン時代の 1999年までは経済は低迷していたが、プーチン時代の 2000年から 2010年までは順調に急成長してきた。
しかしそれも 2013年までだった。2014年以後は、成長するどころか、衰退していった。これは驚くべき惨事である。
世界的に見ても、ロシアの GDP はかなり小さい。日本の3分の1で、英国の2分の1で、韓国の9割程度であるにすぎない。特に中国と比べると 10分1にすぎない。
各国の GDP

出典:Global Note
ここでは、もはやウクライナとの交易が命綱となる。ここで、ウクライナが西側に取り込まれたりしたら、ロシア経済圏に属するものがほとんどなくなるので、ロシア経済そのものが立ち行かなくなっていまう。
その意味は? ウクライナが西側へ取り込まれるのを認めると、ロシアが世界のなかで完全に没落するということだ。それは、恐怖ですらある。現状ですら、かなり没落しつつあるのに、このあとはいっそうひどいことになる。
そういう恐怖と不安があるのだ。それゆえ、恐怖と不安に駆られたあげく、暴走しやすくなる。……つまり、「窮鼠猫を噛む」というふうになりがちになる。
そういうロシアの心情を理解することが大切だ。別に、「同情しろ」とか、「共感しろ」とか、「助けてやれ」とかは言わないが、少なくとも、「貧困のなかで恐怖に駆られて暴走しがちだ」という心情だけは理解した方がいい。
※ ちょっと似た例だが、「貧困のなかで将来に絶望して、凶行に走った」という例が、日本でも去年、二つの例があった。京王線の車内で刺傷した男と、医師を猟銃で射殺した男だ。恐怖と不安に駆られると、人は暴走しやすくなるのだ。……そういう心理状態を理解することが必要だ。(同情はしなくてもいいが、心情を理解することで、犯行を予防しやすくなる。)
* * *
ロシアの経済が破滅的であることについては、下記記事が参考になる。
→ ロシアを非難する国連決議にインドが棄権した理由 WEDGE
冷戦時代、インドは、政治体制は自由民主主義であったが、経済体制は社会主義であった。
社会主義体制下で生産されるインド製品は品質が悪く、国際競争力はない。しかし、ソ連は、そのようなインド製品を、武器やお金にかえてくれ、インド企業にはお金が入った。
これは冷戦時代のことだが、今でも同様の状況にある。インド製品は粗悪であり、直接のライバルである中国製品にまったく太刀打ちできない。国内ではかろうじて輸入制限で済ませていられるが、世界市場ではまともに戦えない。それを輸出できる先はロシアぐらいしかない。
そして、ロシアが粗悪なインド製品を買ってくれるのは、ロシアの国内の工業製品が、輪をかけて粗悪であるからだ。中国は自動車をまともに国内生産できているが、ロシアは自動車をまともに生産できない。かつては日本の中古車をたくさん輸入していたが、これでは自国の産業が育たないということで、日本の中古車を(高い関税で)禁じてしまった。そこでかわりになされたのが、日本の中古車をいったん構成要素に分割・分解してから、それをロシア国内で組み立てるということだ。これならばノックダウン生産なので自国の産業に役立つ……というふうに歓迎している。
→ 第219回: “日本娘”はロシアに渡って自由の象徴となった - webCG
だが、こんなのは馬鹿馬鹿しいというひとことに尽きる。どっちみち、国内ではまともに自動車産業は育っていない。せいぜい、外国メーカーが部品を輸入して組み立てることぐらいだ。
それでも結果的には、日本の中古車がやたらと走っている。特に、極東ではそうだ。
→ 異国の街を懐かしい日本車が走る!? ロシア国内で流通する右ハンドル車
たとえば、ウラジオストクの状況は、下図だ。
ロシアというと、優秀な兵器があるので、すごい先進的な工業国家だと思われそうだ。しかし実は、自動車もろくに作れない。まともな工業製品は、兵器だけなのだ。それ以外の工業製品は、粗悪品ばかりなのだ。ロシアが輸出できるものは、地下資源と小麦だけ……というありさまだ。(中国のはるか後塵を拝している。)
栄光のロシアというものは、もはや昔日の姿であるにすぎない。今やポンコツ国家だ。プーチンとしては、この先のロシアについて、没落の恐怖を感じているのだ。
(4) 軍事的恐怖
ロシアは「ウクライナの NATO加盟を拒否せよ」と要求してきた。そのことにしきりにこだわった。それは、なぜか?
そのことは、先に示したとおりだ。(プーチン演説の解説。)そこで示したロシアの言い分(要約)を再掲しよう。
ウクライナが NATO に加盟するということは、軍事バランスを崩す。特に、ウクライナには核兵器が配備される可能性があるが、もしそうなったら、ロシアは決定的な軍事的危機に瀕する。(ウクライナ国境からモスクワまではたったの 460km しかない。) このようなことは、絶対に認められない。
( → 前項の解説(プーチン演説): Open ブログ )
つまり、モスクワから程遠くないところに核ミサイルを配備されたら、自国は国家存亡の危機にさらされる、ということだ。これは、米国がキューバに核ミサイル配備をされたときに感じた恐怖と同様だ。……こういう恐怖を、きちんと理解するべきだ。
なのに、米国は、その訴えを聞いても、鼻でくくったような対応しかしなかった。せいぜい「ちょっとは話を聞いてやってもいいか」というくらいであって、まともに交渉しようとしなかった。だからプーチンは「人の話を聞こうともしない!」と怒った。前項で示した通り。
→ ウクライナ戦争 2(基本): Open ブログ の (4)
ここには、西側の交渉ミスがあった。ロシアが自己の危機感をしきりに訴えているのに、まともに交渉すらしなかった。比喩的に言えば、キューバ危機の際に、ケネディーが米国の危機を訴えたら、フルシチョフが鼻でくくったような返事しかしない……というようなものだ。これでは戦争になるのが避けられまい。そして、それと同様のことが、今回は起こったのだ。
ここには、西側がロシアの心情を理解できなかった、という失敗がある。それは、ロシアの歴史や地理への無知が理由だ。
→ ウクライナ危機には? 1: Open ブログ
つまり、西側はロシアに無理解であり、それゆえに、ロシアを見くびりすぎたのである。かくて、「ロシアをいくらぶんなぐっても、なぐり返してくることはあるまい」と高をくくったのだろう。そうして、ロシアをなぐり続けた。そこで、なぐられたロシアは、ついに窮鼠猫を噛むで、反発して、襲いかかった。……それが今回の戦争だ。
結局、この戦争は、西側の無知と傲慢が招いた戦争だと言える。ロシアに戦争をされるのが嫌なら、最初からウクライナをロシアからもぎとろうとしなければよかったのだ。また、ロシアの喉元に刃を突き立てようとしなければよかったのだ。
比喩でなく直接表現で言うなら、ロシアが「ウクライナの NATO 加盟を認めるな」と言ったときに、「はい、そうします、お望み通りに 」と答えればよかったのだ。
そしてまた、それを理解することが、今後の講和のときにも、話の基盤となる。
( ※ 書くのに疲れたので、ここで中断します。続きは、次項で。)
to be continued.

西側はNATO加盟をあきらめるじゃないの?
そうすればプーチンの顔も立つし、
ロシアの平和も守られる。
だけど、平凡なので、名案とはいいがたい。良案だが、凡案だ。