――
前項で述べたように、プーチン大統領の演説では、歴史的な説明をして、ウクライナをロシアの勢力下に置くことを正当化する。
(1) ウクライナは歴史的にはソビエト連邦の一部であり、ロシアを主体とした連邦国家の一部であった。ロシアの外にある国家ではなく、ロシアの勢力圏にあった。これをそのままロシアの勢力下に置くことは歴史的に正しい。勝手に外に出ていくことは認められない。
前者の (1) は、歴史的な話だ。プーチンはこれを延々と説明している。歴史的な事柄が根源的な理由だ、と思っているようだ。
ただし、この言い分は、西側の人々には理解しにくい。
( → 前項の解説(プーチン演説): Open ブログ )
プーチンの主張は、上の (1) の通りだ。歴史的な説明をして、ウクライナをロシアの勢力下に置くことを正当化する。「ウクライナはソ連の下では、連邦国家の一部として存在したのであり、そういう歴史的な事情があるので、ウクライナは連邦国家の一部としての位置を占める必要がある。つまり、ロシア連邦の勢力下にあるべきだ」……という説明である。
しかし、これを聞いても、西側の人々には理解しにくい。なぜなら、その主張は理屈が通っていないと思えるからだ。
・ それはただのロシアの一方的なご都合主義ではないのか?
・ それは国家を
というふうに思える。そこで、ロシアの主張はまったく説得力を持たないので、ただの無意味な主張だとしか思えなくなる。
しかし、説得力のない無意味な理屈を、プーチンはなぜ延々と述べるのか? 無意味なことを述べるのはただの無駄ではないのか? こんな長大な文書を記しても、まったく意味をなさないゴミ文章ではないのか? ……そういう疑いが生じる。
とはいえ、ロシアという国家が、戦争という緊急時に、ただのゴミ文章を発表するというのも、理屈が通らない。ロシアという国家そのものが発狂してしまったのか? そう疑う人が多いだろう。
――
そこで私が説明しよう。ロシアが発狂したのではない。ロシアが発狂したと見えるのは、西側の人々が発狂したからだ。自分たちが発狂したから、相手が発狂したように見えるのだ。
いや、それは不正確だ。西側の人々は発狂したわけではない。では何かというと、無知なのである。あまりにも歴史というものを知らなすぎるのである。いかに無知であるかを、以下で説明しよう。
――
まず、話の基礎となる概念がある。それは「民族自決」だ。
西側の人々は、「民主主義」という概念と並んで、「民族自決」という概念を尊重する。「各民族には、民族自決の権利があるのだから、他の国家がその権利をそこなることはできない」というふうに。( ※ 「民族」のかわりに「国家」にしてもいい。)
この基礎の上に、「ウクライナは NATO 加盟を自分たちで決める権利がある」と西側の人々は信じる。たとえば、朝日新聞社説は、こう述べる。
ロシアが米側に示した回答では、北大西洋条約機構(NATO)にウクライナを加盟させない確約を重ねて求めている。
だが、どの国にとっても同盟相手を選ぶのは主権の問題だ。
( → (社説)ウクライナ危機 まずロシアは撤兵を:朝日新聞 )
ここには基本的な認識ミスがある。「どの国にとっても同盟相手を選ぶのは主権の問題だ」というが、ロシアはそれを否定している。プーチン大統領の演説にもあったように、ロシアはウクライナを主権国家とは認めていない。「ロシア連邦の一部としての位置」しか認めていない。話の基盤からして、食い違っているわけだ。
次に、ウクライナを主権国家ではなく(ロシアの言うように)連邦国家の一部として認めるなら、どうなるか? 連邦国家の一部として、民族自決の権利は認められるか? 「イエス」と答えるのが西側諸国だ。だが、そこには根本的な歴史認識の誤りがある。
西側諸国は、ロシアや中国の勢力圏については「民族自決」を声高に主張する。ウクライナしかり、ウイグルしかり。そして、「民族自決」を否定するロシアや中国を野蛮な国家と見なす。……しかしながら、そこには根本的な歴史認識の誤りがある。
それは何か? 自分自身が民族自決を否定している、ということだ。これが決定的に重要だ。
西側諸国は、人のアラ探しはうまいくせに、自分自身のやっていることが見えていない。自分自身が民族自決を否定していることが見えていない。そこで私が具体的に指摘しよう。
(1) イギリス
イギリスでは、イングランドがスコットランドとウェールズを征服して、イングランドの支配下に置いた。スコットランドとウェールズは、民族自決の権利を失った。
そこで、今日ではスコットランドやウェールズで独立運動が盛んになっている。だが、イングランドが主体となるイギリス(ブリテン連合王国)は、スコットランドが独立のための住民投票をすることを禁止している。いつでも好きなときに「独立のための住民投票」をしてもよさそうなものだが、そのような「民族自決」の権利は、スコットランドには与えられていない。( → 出典 )
さらに言えば、以前は、香港という植民地では、民族自決の権利が与えられていなかった。(だから香港は独立できないまま、中国に返還されてしまった。本来ならば、中国に返還される前に、独立させるべきだったが。)
(2) フランス
フランスに、アルジェリアという植民地があったが、そこでは「民族自決」の権利は与えられなかった。では、どうなったか?
アルジェリア人は「2級国民」として差別的な扱いを受けた。そこで独立闘争をして、戦争状態となった。(フランスから見ればテロとも言える。)
そのあげく、フランスはとうとう戦争に耐えきれなくなったので、一方的に植民地を放棄した。こうしてアルジェリアは独立した。(テロ組織による政府の国家として独立した。)
しかし、独立までの過程では、フランスによる植民地化は常に正当化されてきた。そのことは、独立後も、今現在でも、続いている。つまり、フランスは常に植民地化を肯定することで、民族自決を否定し続けてきたのである。
詳細説明は、下記にある。
→ 日本とはまったくちがう歴史認識フランスでは植民地支配は肯定的に評価する!?[橘玲の世界投資見聞録]
(3) 日本
日本もまた、フランスと同様に、国内における植民地化を正当化し続けている。
これに対しては、批判がすぐに来そうだ。
「日本が植民地化しているだと? なるほど、台湾や朝鮮を植民地化したことはあるが、それは過去のことだ。現在では、植民地化などしていない。日本はすでに十分に、過去の歴史を反省した」と。
しかし、それはまったくの勘違いである。私が話そうとしているのは、台湾や朝鮮のことではない。北海道のアイヌのことだ。
日本政府は、明治期の北海道開拓にともなって、アイヌを征服し続けた。その土地を奪い、財産をだまし取り、女性を強姦し、男性を斬り殺していった。そうして最終的に、北海道の全土を日本のものとして奪い取った。また、アイヌの人々は、一部は日本人に同化したが、多くは殺されて滅びてしまった。(インディアンやアボリジニが滅亡しかかっているのと同様だ。)
結局、日本は、北海道において、「アイヌの民族自決」を認めたことはない。また、今現在でも、「北海道をアイヌに返還しよう」と思っている人はいない。
さらに、あろうことか、「北方領土は日本のものだ」と思っている人が多いありさまだ。あまりにも馬鹿げている。明治期の前において、北海道が日本の領土だったことはない。そのすべてはアイヌのものだった。北方領土もアイヌのものだった。
なのに今では我が物顔で、「北方領土は日本領だ」などと主張する。呆れてものが言えないとは、このことだ。
日本人がこれほどにも厚顔無恥なことができるのは、「日本国内では民族自決を認めない」という方針を取っているからだ。
(4) 米国
米国もまた同様だ。米国が「民族自決」を認めるのであるならば、アラスカは エスキモー(イヌイット と ユピク)に返還するべきであり、米国からの独立を認めるべきだ。また、アラスカに在住する白人や黒人は、侵略者・侵入者として、アラスカから退去するべきだ。
さらには、米国本土そのものも同様だ。その全体は、インディアンのものであるから、インディアンの末裔以外は、すべて米国から退去するべきだ。そして、代わりに、米国はインディアンの国家として、民族自決を認めるべきだ。
なのに、米国がそうしないのは、「米国内では民族自決を認めない」という方針を取っているからだ。
(5) オーストラリア
オーストラリアもまた、同様だ。オーストラリアの全体は、アボリジニに返還されるべきだ。なのに、オーストラリアがそうしないのは、「オーストラリア内では民族自決を認めない」という方針を取っているからだ。
(6) イスラエル
イスラエルは最悪だ。国内で民族自決を認めない(パレスチナ系のイスラエル人に民族自決をさせない)というだけでない。隣のパレスチナの自治区に侵入して、侵略行為を続けている。最初は「入植」という名称で勝手に土地を奪ったあとで、壁を作って、そこを繰り込んで、イスラエル領にしてしまっている。つまり、事実上の「侵略」である。
国連決議はこれを非難しているのに、国連決議を無視して、イスラエルは侵略を続けている。米国はそれを容認して支援している。……この意味では、ロシアよりもタチが悪い。
ロシアは少なくとも今現在、「侵略はしない」と言っている。どこまで本気かは疑わしいが、少なくとも口では「占領計画はない」と言っている。
→ 「占領計画ない」も信用できず 侵略否定してきたロシア:時事
だが、イスラエルと米国は、「入植」という名称で、実質的に侵略を実行し続けている。こんな詭弁が許されるのならば、ロシアもまた「入植」という言葉を使えば、いくらでも侵略のし放題だ、となる。
イスラエルと米国は、どうすれば侵略が容易になるかを、自分でお手本で示してくれているわけだ。とすれば、ロシアがそのお手本を見習おうとしても、ただの二番煎じであるにすぎない。
(7)ドイツ
ドイツについては、「ユダヤ人に何をしたか」を考えれば済む。もちろん「民族自決」などはさせなかった。
「以前はそうだが、今では違うぞ」と反発する人もいそうだが、それも勘違いだ。現在のドイツは、大量のイスラム移民を受け入れたが、将来、彼らが「民族自決」を唱えて、国内で自治領を形成したすえに、独立しようとしたら、どうするか? ドイツの領土の一部を「はい、どうぞ」と差し出すか? 庇を貸して、母屋を取られるか? とてもそうは思えない。
ついでだが、同様のことは、日本国内の進歩派にも言える。「日本に移民を大量導入せよ」と唱える人もいる(朝日新聞など)が、しかし、日本に来た移民が独立しようとしたら、「民族自決」を認める気があるか? 国内の移民の3割は中国人だが、彼らが「独立して、中国と合併します」と言い出したら、「はい、どうぞ」と領土を差し出す気があるか? とてもそうは思えない。
要するに、「民族自決」など、自分の国内で認める気はさらさらないのだ。ロシアに対してきれいごとを言っているのは、あくまで「他人のこと」だからだ。「自分のこと」になれば、あっというまに、「民族自決」の旗を引き下げるのである。(どの国でもそうだ。)
(*)まとめ
以上のことから明らかなように、西側諸国はいずれも、自国の歴史上において、「民族自決」を否定している。つまり、国内の少数民族に自決権を与えていない。それどころか、弾圧したり、土地を簒奪したりしてきた。
なのに、そういう自分たちの歴史を理解しないまま、ロシアに対しては「ウクライナに民族自決を」というふうに主張する。そして、侵略を正当化するロシアの論理を、「まったく理解できない」と思う。
だが、理解できないのは、ロシアが狂人であるからではない。自分たちが同じような侵略者であることを、すっかり忘れているからだ。同じことをしていても、他人のことは見えるのに、自分のことは見えない。だから、他人のアラばかりが見えて、他人の行動を理解できないのだ。つまり、「実は自分と同じことをやっているだけだ」と理解できないのだ。
それというのも、自国の歴史に、あまりにも無知だからである。
そこで、私が以上のように、本当のことを教えてあげるのだ。
「西側の人々は、誰も自国の歴史のことを知っていない。自国が民族自決を認めたことなどはないし、弾圧や簒奪をしてきたのだが、それをすっかり忘れている。それほどの愚者ばかりなのだ」と。
そして、こういう無知な愚者ばかりから、「自分たちは正義なのに、ロシアは邪悪だ」と思い込むという、とんでもない錯覚をなすことになる。
それが戦争の原因だ。 (※)
※ どうして戦争の原因になるかは、次項以後で詳しく示す。
[ 付記1 ]
アイヌの人々は、日本人とはまったく別の系統の民族である。そのことを説明しよう。
アイヌの人々は、大陸と樺太と北海道が地続きだったころ(数万年前)に、北海道まで陸伝いで渡ってきた人々だ。その系統は、数万年前の北方アジア人であり、インディアンの源流とも共通する人々だ。この系統は、日本人とは遠く隔たっている。言語的にも、DNA でも、遠く隔たっている。
一方、日本人というのは、源流が、中国南東部にある。
・ 一部は、中国南部から海伝いに、日本までやって来た。
・ 一部は、北方の陸伝いに、朝鮮半島経由でやって来た。
前者は、縄文人と言われる。
後者は、「弥生人」や「古墳人」と言われる。
現在の日本語は、縄文人の単語も多く含まれるが、文法構造は朝鮮語にそっくりである。
→ 韓国語の文法は日本語とそっくり?これであなたも韓国語上級者♪
これは、もともと縄文人がいたところに、「弥生人」や「古墳人」がやって来て、支配層を形成したので、その文法構造が朝鮮語にそっくりになった、と考えればいい。こうして日本語の文法構造は作られたが、もともとあった縄文人の単語も使われたので、両者が混合して、現在の日本語になったわけだ。
以上のことからしても、日本人とアイヌ人が遠く隔っていることがわかるだろう。明らかに別の民族と言える。(その意味では、アイヌは、韓国人や中国人よりも、日本人からは遠い人種だ、と言える。)
なお、アイヌと日本人が共通の源をもっていたのは、北方モンゴロイドと南方モンゴロイドが分岐する時点だろう。つまり、メソポタミア地方において、進行方向が北と東に分れた時点であろう。
[ 付記2 ]
アイヌの民族的な解説をしている書籍を紹介しよう。
「殺人者はオーロラを見た (西村 京太郎)」という本だ。
これは、推理小説ではあるが、まるでアイヌ解説本みたいに、アイヌという民族のことを詳しく述べている。彼らがいかに日本人にだまされて、土地を奪われて、命を奪われていったか……という残酷な悲劇の歴史が解説されている。
これを読めば、「日本人は正義の民族だ」などという馬鹿げた誤解をしなくて済むだろう。
なお、読者の感想の一部を抜粋しよう。
随所で、アイヌの壮絶な歴史について述べられていて、
それは、さながら、学術論文の様だが、読者を圧倒する。
――
今作は徹底してアイヌのことを掘り下げている。
アイヌ=北海道に住む少数民族ぐらいにしか考えていなかったのでかなり衝撃的な内容だった。
作者もよくここまで調べ上げたと思う。「サスペンスの面白さ」「社会問題をさらりと読ませ考えさせる」
この二つをここまで両立させる小説家は珍しい。おススメの一冊。
――
アイヌの歴史を知るのによい。推理小説仕立てになっている。
( → 殺人者はオーロラを見た (講談社文庫) | 西村 京太郎 |本 | 通販 | Amazon )
[ 付記3 ]
英国のスコットランドとウェールズはともにケルト人の領域。イングランドは、(デンマークから来た)アングロ・サクソンの領域。イングランドはその後、北フランスから来たノルマン人に支配された。ただし彼らはイングランドを支配しても、フランス語を話し続けたために、英語( English )への影響は少なかった。とはいえ、単語レベルでは、かなり多くのフランス語が英語に溶け込んでいる。
ケルト人とアングロ・サクソンは、民族的にも言語的にも大きく隔たっているので、統一国家にはなりにくい。「アングロ・サクソンがその支配力でケルト人を支配する」という形になりやすい。強権的な支配なので、反発もまた大きい。民族独立の気運は長々と続く。
つまり、イギリスという国では、民族自決というのは、とうていありえないことだ。
なお、スコットランドについて言えば、「民族自決」に従うなら、住民投票の選挙権は、先住民のケルト人だけに与えられるべきだ。つまり、後からやってきたアングロ・サクソン人(イングランド人)には選挙権を与えるべきではない。もしそういうふうにしていたら、スコットランドの独立はとっくに実現していたはずだ。
それに続いて、ウェールズの独立も実現していただろう。こうして現在のイギリスは解体されることになる。
※ ただし北アイルランドは、プロテスタントの独自領域なので、たぶんイングランドと一体化し続けるだろう。
※ アイルランドは、ケルト人の領域だった。もともとはイギリスに属していたが、スコットランドやウェールズに先んじて、独立を果たした。スコットランドやウェールズが独立を果たしたら、アイルランド、スコットランド、ウェールズの3地域は、合体して、ケルト人国家を形成するのが自然だろう。それが「民族自決」のあるべき姿だ。ただしイングランド人としては、絶対に認めたくないだろうね。「民族自決なんてクソ食らえ」と思っているはずだ。
[ 付記4 ]
スペインのバスク地方では、「高度な自治権を与えられる」という形で、実質的には、民族自決ができているようだ。
ただし形式的には、独自の国家をもてないので、その意味では、民族自決は認められていない。

むしろ、本土から莫大な援助を受けてきた。米軍基地からも、莫大なお金が下りてきた。だから沖縄の次項増加率は、日本で一番だ。経済的には貧困状態だが、温暖で暮らしやすいので、周辺の島々から、人々が沖縄に大量に押し寄せてきた。
現在、沖縄に住んでいる人々は、日本と米国の恩恵を多大に受けている。もともとの独立状態に比べると、もらった恩恵の方がずっと大きい。
仮に民族自決なんかをしていたら、すごく貧しい状態になっていただろう。
ちなみに、現在でさえ、産業の大部分は日本本土からの観光客だ。これが壊滅したら、沖縄は成立しない。
というのが、プーチンの想いでしょう?
1917年、ロシア革命中にウラジーミル・レーニン率いるソビエト政権による布告「平和に関する布告」
国際法上の権利としての確立は1960年12月14日の「植民地諸国、諸人民に対する独立付与に関する宣言」
なので、それ以前に行われたことの責を問うのはいかがなものかと。
別に、責を問うわけじゃないですよ。北海道をアイヌに返せ、と法的に言っているわけでもないし、米国やオーストラリアをインディアンやアボリジニに返せ、と法的に言っているわけでもない。
自分達の過去の歴史を見つめよ、と言っているだけです。認識せよ、目をふさぐな、と言っているだけ。
本項でも [ 付記2 ] で言及している。アイヌの本。