2022年02月16日

◆ 寒冷地の EV の炭素排出量

 寒冷地でも EV はかろうじて使えるが、その炭素排出量を考えると、ガソリン車(HV)よりもひどいことになる。本末転倒だ。

 ――

 「寒冷地では EV はうまく使えない」
 という批判に対して、
 「寒冷地でも EV はちゃんと使えるぞ」
 という反論もある。たとえば、下記だ。
 テスラモデル3で検証した結果、エアコン18℃設定なら51時間はバッテリーが持つとわかりました。平均気温マイナス5℃の環境でバッテリー残量80%から10%に至るまで、実際に車中泊で検証しました。
 バッテリー残量が40%の状態で立往生に遭遇しても、20℃設定は14時間、18℃設定は22時間、16℃設定でシートヒーターと電気毛布を使っても20時間程度は十分持ちこたえる事が分かりました。
( → 【動画あり】電気自動車 雪国検証!テスラ『モデル3』で雪道立ち往生38時間実験 - EVsmartブログ

 ガソリン車は、排ガスのマフラーが雪で詰まって、一酸化炭素中毒になりかけた。それに比べれば、EV の方がずっと安全だ。だから雪国では EV の方が適しているぞ……という主張。

 ――

 これと類することは、本サイトでも別項で論じた。
  → 雪と エンジン車・EV: Open ブログ

 テスラのような大容量の電池のある EV とは違って、安いリーフだと、バッテリーは長持ちしない。それでも、バッテリーの問題は、かろうじてセーフになる。
 だが問題は、無駄にエネルギーを消費することだ。ガソリン車ならば、エンジンの廃熱を有効利用できるのに、EV では暖房のためにエネルギーを多大に消費するので、効率が悪い。コストもかかる。……そういう問題がある。

 ――

 さて。上記の項目では、効率の点から EV に否定的に述べた。
 本項では新たに、炭素排出量の観点から述べよう。こうだ。
 「寒冷地で EV を使うと、暖房のために電力を食うので、電力消費量が2倍ぐらいになる。電力の電源に火力発電が使われているとしたら、火力発電の炭酸ガス排出量も2倍になる。これでは、EV の方が(ガソリン車に比べて)炭酸ガス排出量が多くなってしまう」

 EV はガソリン車よりも炭酸ガス排出量が少ないので優遇しよう……というのが、本来の狙いだったはずだ。ところが、寒冷地においては、電力消費量が2倍ぐらいになるので、(消費する電力を通じて)炭酸ガス排出量が増えてしまうのだ。EV はガソリン車よりも炭酸ガス排出量が多くなってしまうのだ。

 これはどうしてかというと、日本では火力発電の比率がかなり高いからだ。


東京電力


北海道電力
   

九州電力



 東京電力では、火力発電の占める比率が8割程度。
 北海道電力では、火力発電の占める比率は、自社分だけで6割程度。他社の分を含めると7割ぐらいか。しかも、炭酸ガスをいっぱい排出する石炭の消費量が多いので、東京電力よりももっと状況は悪いようだ。
 九州電力は、優等生である。日本国内ではめずかしく、火力発電の比率が5割以下だ。だから九州電力の管内では、寒冷地でも EV にしていい。しかし九州は寒冷地ではないから、もともと話の対象外だ。(九州で寒冷地の話をしても、意味がない。)

 ――

 暖房でなく走行の効率についても考えよう。
 同じエネルギーを消費しても、ガソリンよりも EV の方が走行の効率がいい。熱効率は、ガソリンエンジンで 25〜35%ぐらいだが、EV だと、もっと熱効率が高い。LNG発電の 効率は 50%を上回ることが多い。ただし石油や石炭を使うと、40%ぐらいに落ちることが多い。
 一方、電力からモーター駆動するときのロスは 10%以下であるので、ほぼ無視できるぐらい小さい。
 いろいろ勘案すると、EV の熱効率は、ガソリン車の2倍弱ぐらいになりそうだ。
 なお、ガソリン車でも、HV だと、熱効率が良くて、エネルギー回生システムもあるので、総合的な熱効率はかなり高い。HVに対する EV の比率は、2倍にまでは達せず、1.2〜1.6倍ぐらいになりそうだ。

 一方、火力発電で発電した電力を、(寒冷地のせいで)2倍の割合で食うとしたら、その分、効率は2分の1になる。
  ・ ガソリン車に対して2倍弱の効率 → 1倍弱の効率へ (半減)
  ・ HVに対して 1.2〜1.6倍の効率 → 0.6〜0.8倍の効率へ (半減)

 こうして、(寒冷地における)EVの効率は、HVに対して 0.6〜0.8倍となる。
  0.6〜0.8倍というのを、平均して、0.7倍だと見なすことにしよう。
 すると、エネルギーの消費は、その逆数となり、1.4 倍ほどとなる。
 炭酸ガスの排出量は、エネルギーの消費量(1.4 倍)に、火力発電の比率(0.75倍)をかけた数になるので、1.1倍ほどとなる。

 以上をまとめると、こう言える。
 「寒冷地における EV の炭酸ガス排出量は、HV の 1.1倍ぐらいである」
 つまり、EV の方が、HVよりも、炭酸ガス排出量は1割ほど多いのだ。(寒冷地では電力を2倍も消費するせいで。)

    《 加筆 》
   さらに詳細を考えると、1.1倍でなく、1.0倍ぐらいになる。
   こうなると、HVとほぼ同等だと言える。
   ※ 詳しくは、コメント欄を参照。


 EV も HV も、ほぼ同等であるわけだ。
 こういうことであれば、寒冷地では、EV を推進する意味はない、と言えるだろう。

 「 EV に乗っては駄目だ」というふうに、あえて排除するほどではない。だが、高額の補助金でことさら優遇するほどではない、とは言える。寒冷地においては、EV の補助金に 80万円も出すのは馬鹿げているわけだ。(補助金は半減でいい。)

 ※ 補助金は、廃止ではなく半減でいい。そのわけは、寒くない時期(1年の半分強)には、暖房を使わないので、ただの EV となるからだ。その分については、ちゃんと補助金をもらっていい。

 ――

 では、結論としては、どうすればいいか? 
 「寒冷地では EV 補助金を廃止する」
 というのが1案だ。だが、これだと、寒冷地だけが優遇策を受けられなくなって、不公平だ。

 そこで対案を出そう。こうだ。
 「寒冷地では EV 補助金を半減して、PHV 補助金を1割アップする」
 これなら、結果的に、ユーザーは EV購入をやめて、PHV購入をするようになる。しかも、PHV補助金は、寒冷地以外よりも多めにもらえる。これなら、文句なしだろう。( EV 補助金を廃止しても。)
 PHV ならば、冬はガソリン車としてガソリン暖房を使えるし、春・夏・秋には、近距離を EV として経済的に使える。これで万能となる。(寒冷地では。) ユーザーも国も、コストが減って喜ぶし、炭酸ガス排出量も減る。かくて win-win となる。

 ※ 寒冷地と不通知との境界では、どうするか? 制度を中間的にすればいいだろう。つまり、EV 補助金を 4分の1にして、PHV 補助金を 5% アップすればいいだろう。
 
posted by 管理人 at 21:21 | Comment(4) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 大元の、「寒冷地で EV を使うと、暖房のために電力を食うので、電力消費量が2倍ぐらいになる。」という前提条件は、どこから得たものですか? 過去の記事の中で計算されたものですか? この前提が正しいと、走行のみ(エアコンは全く使わない)で消費する電力量(kWh)と、暖房のみ(全く走行しない)で消費する電力量(kWh)がほぼ同じということになりますが、そうなのですか?

 本稿で紹介された検証では、テスラの、2021年式モデル3ロングレンジ(バッテリー容量79.5kWh)と2019年式モデル3パフォーマンス(バッテリー容量75kWh)を用いて、例えば、バッテリー残量が80⇒10%に減少するまでに暖房がどれだけの時間持続できるか(立ち往生を想定して停車した状態で)を、室内の設定温度を変えてテストしています。結果として、20℃の「快適」設定では約33時間、18℃の「やや快適」設定では約51時間も暖房が持続しました。

 もし、走行のみの電力消費量 ≒ 暖房のみの電力消費量が正しいのならば、このテスラモデル3は、バッテリー残量が80⇒10%に減少するまでに、33〜51時間も連続走行できることになってしまいます。カタログ上の航続距離(@ WLTCモード)は、2021年式モデル3ロングレンジが580km、2021年式モデル3パフォーマンスが567kmですから、そこまでには達していない(そこまで長時間の連続走行はできない)と思われます。つまり、暖房のみの電力消費量は、走行のみの電力消費量よりも大分少ない(多くとも半分以下で、3分の1〜5分の1もあり得る)ではないですか?
Posted by かわっこだっこ at 2022年02月16日 23:00
 なるほど。おおざっぱに考えていましたが、厳密な考察をありがとうございました。
 その上で修正すると、次のようになります。

 WLTCモードというのは、連続走行を意味しますが、現実には、33時間も連続走行をすることはありえず、途中では、信号待ちで停車したり、買物のために駐車場で減速したりします。「走行しないのに暖房だけを付けている」という時間が、かなりあります。そのせいで、行動中の平均時速は大幅に低下します。平均時速は 20km/h ぐらいになりそうです。そうなると、
  20km/h ×33時間 = 660km
 なので、おおざっぱには、580km とは大きな差はありません。つまり、元の試算で、特に狂っているわけではありません。

 ただし、
  660/580= 1.14
 なので、先に記した数値を、1.1倍の比率で割り算することで、
  (誤)HVの 1.1倍ぐらいである
  (正)HVの 1.0倍ぐらいである
 に下方修正した方が良さそうですね。

 ※ 訂正しました。
Posted by 管理人 at 2022年02月16日 23:43
 WLTCモード では、信号停止の状態も含まれますが、そこではモーターも停止しているので、電費には影響せず、ノーカウントと同様になります。

 一方、暖房の場合には、信号停止の状態では、暖房の電力だけが無駄に消費されるので、ノーカウントにはなりません。その効果が、上記では出ています。

 なお、あとでよく考えると、「平均時速は 20km/h ぐらい」というのは厳しく見込みすぎで、現実には 25〜30km/h になりそうです。その分、EV が有利になる方に、修正されるべきだと言えそうです。
 ただ、もともと概算なので、「 EV と HV は大差ない」という結論が得られればいい。「 EV が若干不利」から、「 EV が若干有利」になりますが、「両者に大差はない」という結論は同じです。
Posted by 管理人 at 2022年02月17日 00:58
 本項では、EV に厳しめに評価したが、実は、HV にも厳しめに評価した。現実には、HV はもっと健闘している。特に、トヨタの HV は優秀で、炭素排出量がとても低い。これと比較すると、EV の比較優位性は、あまり大きくなくなる。

 日産の e-POWER は、燃費があまり良くないので、炭素排出量が多めだ。ただし、電池量をもうちょっと増やすと、簡単に PHV になる。 e-POWER はほとんど PHV に近い構造をもっている。(価格も高いが。)
  e-POWER が PHV に進化すれば、これもなかなか優秀となる。炭素排出量では、トヨタの HV をしのぐことになりそうだ。( EV としての性質を帯びるので。)

 ただ、本サイトではもともと PHV を推している。「 PHV がいいですよ」という話になるなら、元の結論に戻ることになる。元の木阿弥ふうだ。
Posted by 管理人 at 2022年02月17日 23:19
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