日本は戦争に踏み切るとしても、その場合、開戦後の最善策は何だったか? また、米軍は、開戦後の最善策は何だったか? (もし最善策を採っていれば、どちらの被害も最小化できただろう。)
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日本の最善策
前項で述べたように、日本は否応なしに、戦争をするように仕向けられた。開戦は不可避だった。
だが、いったん開戦がなされたら、開戦を続ける必要はなかった。米国は日本の開戦によって、ドイツとの戦争も始まったから、この時点で、日本はもはや「お役御免」になってもよかった。むしろ、日本との戦争をさっさと切り上げて、ドイツとの戦争に集中する方がよかった。
だから日本としては、いつまでも戦争を続ける必要はなかったのだ。そして、もし戦争をさっさと切り上げていたら、その後の大被害を免れたはずなのだ。
では日本は、いつ、どのような形で、戦争を終えるべきだったか?
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ここで、可能であるかどうかは問わずに、日本の勝手な都合だけで、最善のシナリオを想定しよう。すると、こうなる。
・ ミッドウェー海戦(1942年6月)の直後に、講和する。
・ 講和の条件は、領土の大幅な割譲。(満州など)
・ 米国と同盟関係を結ぶ。
このうち、最後の「同盟関係」が最も重要だ。そんなことを考えている人は、一人もいなかっただろうが、仮にこれが提案されていたら、米国は必ず受け入れたはずだ。その理由は、こうだ。
・ 現状では戦力をほぼ半々で、日本とドイツに向けている。
・ もし講和すれば、日本向けの戦力を、ドイツに向けることができる。
・ こうしてドイツ向けの戦力を、現状から倍増できる。
・ さらには同盟関係を結んだ日本軍を、欧州戦線に投入できる。
・ つまり日本軍の力で、ドイツを打破できる。
こうして、「ナチス政権を打破する」という最大目標を完遂できる。それも、ドイツと日本を戦わせることで、自国軍の被害を最小にしながら。……こんなにうまい方法はないだろう。
さらには、(満州などの)領土の割譲も得られる。これは、まあ、オマケみたいなものだから、たいして重要ではない。場合によっては、領土の割譲はなしでもいい。とにかく、戦争の最大目的は、「ナチス政権を打破する」ということであり、それが実現できるのだから、こんなにうまい話はない。
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かくて「日米の同盟関係」をエサにして、日本は米国と講和を結ぶことができる。これによって、被害を最小化できただろう。その後の大量の死者を出さずに済んだだろう。
ただし、すべては、後出しの話だ。その時点では、「米国が日本を戦争に引きずり込んだ理由」はわからなかった。また、「日本がドイツとの戦争に参戦する(協力する)」のが、米国にとっては垂涎の的(何よりも望ましいこと)であるのだ、ともわかっていなかった。だから、上記のような条件で講和することは、現実にはありえなかった。
そもそも、連戦連勝の続いたあとで、いっぺんぐらいミッドウェーで負けたからといって、国民や軍部が「不利な条件での講和」を受け入れるはずもなかった。
というわけで、上のような「最善の策」を取る道は、しょせんは取ることはできなかった。
とはいえ、その道を取ることができるかどうかは別として、その道は現実には存在していたのだ。その道を取ろうと思って、実際に取っていたなら、大量の死者を出すことは免れていたのだ。
日本は決して八方塞がりだったのではない。うまく生き延びるための最善の道はあった。……ただし、それは目には見えなかったし、たとえ見えてもそれを取ることはなかっただろう。
すべては仮定の世界の話であるにすぎない。一種の歴史 SF である。
米国の最善策
一方、米国は開戦後に、どうするべきだったか? それについても考えよう。
実は、アメリカについても、事情はまったく同様である。「ナチス政権を打破する」というのが最大目標なのであって、日本と戦うことはどうでもいいことだったのだ。アメリカにとって日本は、アメリカが参戦するための口実になればいいのであって、実際に戦う必要はなかった。
ドイツは欧州全体を侵略して、大いなる脅威となっていたが、日本は満州を支配していたぐらいであって、他の列強と同様であったにすぎない。ドイツを打破することは喫緊の目標だったが、日本がどうするかということはたいして問題ではなかった。
ところが、誤算が生じた。ただの雑魚だと思えた日本は、あまりにも強大化して、オランダやイギリスを駆逐して、西太平洋の全体を支配するほどにも巨大化した。
→ 日本の南進勢力圏(1942年)1
→ 日本の南進勢力圏(1942年)2
こうなると、日本はもはやドイツにも似た脅威となってしまった。もともとは放置するつもりの日本は、打破するべき脅威となった。
だから、1942年の時点で、日本軍を打破しようとして、ドイツ以上に軍力を注入したこと(そのせいで対ドイツ戦の手を抜いたこと)は、やむを得なかったと言える。
だが、ミッドウェー海戦以後は違う。これ以後、日本軍は敗勢に敗勢を重ねた。ソロモン海戦、ガダルカナル島の戦い(玉砕)を経て、米軍は圧倒的に優位を確立した。
にもかかわらず、さらに攻撃を続けて、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦などを続けた。……だが、これらの戦いは、まったく不要だったのだ。日本軍はすでに弱体化しており、脅威とはなっていなかった。撤退する前に、必死に抵抗していただけだ。その抵抗を引き剥がすために、米軍は攻撃を加えたが、日本軍も必死に抵抗したので、米軍の損失も大きかった。……硫黄島の戦いでは、日本軍の損失 1.8万人に対して、米軍の損失は 7000人弱。戦傷は 1.9万人。( → Wikipedia )こうして、あまりにも大きな被害と損失をこうむった。これはあまりにも馬鹿げている。
米国は、この時点(1942年6月以後のすべて)では、さっさと日本と講和するべきだった。そして、兵力を欧州に集中するべきだった。できれば、日本と同盟を結んで、日本軍をドイツ打破のために投入するべきだった。そうすればノルマンディー上陸作戦はずっと早い時期に実施されただろう。その結果、ドイツによる欧州支配はずっと早く終焉していただろう。第二次世界大戦における全世界の死者数は、実際にあった死者数の4分の1ぐらいで済んだだろう。もちろん、米国の死者も、同様に激減していただろう。……そうするのが、米国にとって最善の道だった。
なのに、米国はそうしなかった。日本と講和せずに、日本といつまでも戦い続けた。その分、ドイツに割ける戦力は激減して、欧州におけるドイツ支配をいつまでも続けた。米国は最悪の選択をした。
そして、それは米国に大きな被害をもたらすだけでなく、日本にはとてつもなく大きな被害をもたらした。もともと日本は、それまでの侵略を罪として攻撃されたのではなかった。単に「米国を戦争に引き込むための口実」として利用されたにすぎなかった。いったん口実として利用されたあとは、お払い箱になって、放置されても当然だった。なのに、あにはからんや、現実には違った。日本は、本来の目的であるドイツ以上の攻撃目標とされて、莫大な被害を被るに至った。さらには、米国の開発した原爆の威力を確認するためのモルモットにされて、無辜の市民が何十万人も無意味に殺された。
米国は、無駄な戦争をすることで、本来の目的の達成を遅らせただけでなく、自らが悪魔的な悪をなすに至った。(これはもう、ヒトラー並みの悪だとも言える。米国自体が、滅びるに値する悪魔だったとも言える。正義を自称して戦争に踏み切ったあげく、ついには悪に染まってしまったわけだ。闇落ちしたわけだ。)
仮に米国にまともな判断力があったなら、米国は正しい道を選んだだろう。そして、そのためには、特別な洞察力は必要ない。ちょっとまともな判断力があれば足りた。少し考えるだけで、「日本をほったらかして、ドイツと戦う」という道を選んだはずだ。これは決して SF のような話ではない。普通の合理的な判断力さえあれば足りる。
なのに、米国は、そうできなかった。「何が何でも日本軍を打破し尽くさねば」と思い込んだ。本来の目的である「ドイツ打破」という仕事を忘れて、どうでもいいはずの「日本打破」にばかりかまけていた。ほとんど馬鹿丸出しである。(いわば、お使いをしたとき、本来の買い物を忘れて、目に付いたお菓子を買ってしまう幼児に似ている。知能が低すぎる。)
- 《 加筆 》
「どうでもいいはずの 日本打破」と述べたが、そのわけを示そう。
ドイツは欧州の全体を支配しつつあったが、これは米国としては絶対に看過できなかった。欧州全体がナチスドイツの支配下になれば、米国の存立そのものが脅かされるからだ。
一方、日本が西部太平洋を支配したとしても、米国にとっては痛くも痒くもない。そもそも、日本は西部太平洋を支配する能力がない。石油禁輸のせいで、日本自身を維持することにも四苦八苦しているありさまだ。日本が西部太平洋を支配しても、補給線が伸びすぎて、早晩、自壊しそうだ。どちらかと言えば、三年ぐらいは日本に支配させたままにしておけばよかった。それで日本の国力が衰えたころに、あらためて攻め直せばいい。そのころには米国はすでにナチスドイツを完全打破しているので、欧州向けにあった戦力を、日本向けに投入することができる。
こういうふうに「まずはドイツを完全打破しして、その後に日本を完全打破する」という順序にすれば、米国は被害を最小化できた。
というか、そもそも、米国は日本と戦う必要はなかったのだ。日本との戦いは、ドイツと戦うための口実にすぎなかった。いったんドイツとの戦いが起こったあとでは、日本と戦う必要などはなかった。ドイツは欧州を支配していたが、日本は満州と中国に進出していたぐらいで、たいして大きな問題ではなかった。米国がドイツを屈服させた後(欧州で終戦後)なら、それを見た日本は萎縮するだろうから、石油禁輸だけで、日本の中国進出を止めることができたはずだ。たとえば、「一時的には日本有利で講和して、将来はドイツの降伏後に、あらためて石油禁輸で日本に圧力をかける」というふうにすれば、被害はゼロ同然で日本との戦いを止めることができた。もしそうしていれば、その時点で、全戦力をドイツに投入できた。
なのに、米国は現実には、二正面作戦という最悪の選択をした。愚の骨頂と言える。
ではなぜ、米国はそれほどにも愚かな道を取ったのか? 米国人が馬鹿すぎたからか? 米国人の知性が低すぎたからか?
いや、違う。たぶん、真珠湾奇襲の敗北があまりにも大きなトラウマとなっていたからだ。「史上最強で無敗の米軍」という信念が、一夜にして崩され、最強というのは幻であったと判明する。そういうふうに恐怖のどん底に突き落とされる体験を味わったのだ。
米国の国土が攻撃を受けたのは、歴史上、たったの二度しかない。一度は真珠湾奇襲であり、もう一度は9・11 NY テロだ。後者は、かなり小規模な攻撃だが、全米を恐怖のるつぼに落とし込んだ。それに対して、真珠湾奇襲は、圧倒的に大きな被害をもたらした。真珠湾奇襲は、米国を本格的に傷つけた、唯一にして最大の攻撃だ。とすれば、米国人は、そのトラウマから逃れることはできなかったのだ。
この恐怖ゆえに、米国はまともな判断力をなくした。そして、そうさせたのは、山本五十六だった。彼があまりにも天才的な軍師だったので、米軍に手ひどい敗北を浴びせた。そのせいで、米国人はまともな判断力をなくした。恐怖に駆られた米国は、日本を完膚なきまでに叩きのめすことを最大目的とするようになり、本来の目的である「ナチスドイツの打破」という目的を見失ってしまったのだ。いわば、森の中で羅針盤を見失うように。進むべき方向を見失うように。
かくて、世界のなかで米国という巨人は迷走した。そのせいで、巨人に踏まれた犠牲者が大量に発生した。
[ 余談 ]
かつてローマはカルタゴを、徹底的に破壊した。なぜか? ローマ人があまりにも残虐だったからか? 違う。ローマ人はあまりにも恐怖に駆られていたのだ。「偉大なるローマ」というのを信じていたのに、それが幻であると教えたのが、カルタゴだった。
古代カルタゴで最も有名な人物といえば、アルプスを越えてローマを陥落寸前にまで追い込んだ名将ハンニバルでしょう。彼は今でもイタリア半島では恐怖の象徴であり、……
( → ローマを恐れさせたフェニキアの都!世界遺産「カルタゴ遺跡」 ? skyticket 観光ガイド )
紀元前3世紀、イタリア半島を統一したローマは地中海世界への進出を目指していた。しかし、その野望の前に、大きく立ちはだかった一人の男がいた。“ローマ史上最大の敵”の異名をとる、伝説の軍師ハンニバルである。戦闘象を引き連れた冬のアルプス越えなど、大胆かつ奇抜な戦術で、ローマを追い詰めていく。
( → ローマ帝国に挑んだ男 〜天才軍師ハンニバル〜 | 過去の主な放送 | NHK 国際共同制作 )
ハンニバルがローマを恐怖のどん底に落としたように、山本五十六は米国を恐怖のどん底に落とした。偉大なる軍師は、敵にとっては悪魔のごとき恐怖の対象なのだ。だからこそ、恐ろしいものを完膚なきまでに徹底的にたたきつぶさないと、安心できないのだ。
人を悪魔に転じさせるものは、恐怖の体験なのである。

第二次ポエニ戦争が「共和制ローマ」とカルタゴとの戦争であったことは山川にも載っている教科書レベルなので、ここを間違ったら高校生にも笑われてしまう
後、NHKのゴミみたいなリンクを紹介するなら
https://www.youtube.com/watch?v=LzRWiePhOxk
https://www.youtube.com/watch?v=_ZXdyua36Mk
https://www.youtube.com/watch?v=av9aWAh2FIg
https://www.youtube.com/watch?v=6pJtSHXfYhM&t=0s
のyoutubeサイトを見たほうがよっぽどいいです
というか、NHKのドラマ「悪の帝国VSハンニバル」みたいなわかりやすさ優先して、幼稚園生か?というレベルで草が生える。
第二次ポエニ戦争はバルカ家(ハンニバルの一族)の私怨から起こっているみたいなものでしょうに
後、アメリカ軍ってそんなに日本軍に恐怖したんでしょうかね?
本土攻撃されたといっても攻撃された地は中枢から遠く離れた地ですよ
首都を直撃されそうになったローマの恐怖とは全然比べ物にならないです
うーん。これは、私が混同したというより、「ローマ帝国に挑んだ男」という NHK の番組から、「ローマ帝国」という言葉を借用しただけなんです。
批判するなら、私よりも NHK を批判するべきなんだが。……ともあれ、ご指摘に従い、「ローマ帝国」を「ローマ」に書き換えました。
> アメリカ軍ってそんなに日本軍に恐怖したんでしょうかね?
現代でもあちこちで何度も「リメンバー・パールハーバー」と言っていますよ。そのたびに、日本人は肩身を小さくさせられる。
米国人にとって、ヒトラーの欧州侵略なんて対岸の火事だし、ヒトラーのことを憎んでいる人なんかは(ユダヤ人以外には)ほとんどいないが、「リメンバー・パールハーバー」と言い続ける人は、たくさんいます。
> ローマの恐怖とは全然比べ物にならないです
それを言うなら、2000年も前の恐怖なんて、今も残っているはずがない。真珠湾で祖父が攻撃された現代人の生身の歴史とは違う。
米国の恐怖は、相手の特別な巨大さに恐れおののくということではない。
それまでは取るに足りない子犬だと見なしていたものが、一夜にして凶暴な猛犬となって襲いかかってくる……という恐怖です。不意打ちの恐怖。
なお、「米国はいかに日本を恐れていたか」がテーマではなく、「米国はなぜ本来の敵であるドイツを見失ってしまったのか」がテーマです。
当時の世界情勢を見る時の補助線として、白人のレイシズムの視点は忘れてはならないように思います。
あと、山本五十六は天才軍師とはとても言えないかと。
軍事の天才としては、真珠湾の1次攻撃成功後の兵站破壊目的の2次攻撃の不徹底や、ミッドウェーの一石二鳥狙いの杜撰な作戦計画など、穴があり過ぎと思います。
「二正面作戦は愚かだ」という趣旨。昨日のウクライナ戦争の話で、「二正面作戦は愚かだ」という話をしたが、その補強として加筆した。