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朝日新聞が紹介している。ただし、産業として紹介するのではなく、立派なことをしているエコロジストというふうに。
東大を出て、1990年に当時の通商産業省に入省。同期で「ピカイチ」と一目置かれ、順当なコースを歩む。
転じた先はグリーン・アース・インスティテュートなるベンチャー企業。
細断した古紙を消毒液に、古着を燃料に変えた。
( → (ひと)伊原智人さん ベンチャー企業を上場させた元脱原発官僚:朝日新聞 )
何度も失敗して転進したが、最後には成功した……という触れ込みだ。
一応調べてみると、次の情報が見つかる。
バイオジェット燃料の光明となりえる技術がある。バイオスタートアップのグリーン・アース・インスティテュート(GEI、東京・文京)の発酵技術だ。従来化石燃料で作っていた化学品を、植物など非可食のもので作れるようにする。
GEIはこのほど、日本航空(JAL)と共同で古着をジェット燃料に変換する技術を確立。
( → 目指すは「空のデロリアン」 古着をバイオジェット燃料に:日経ビジネス電子版 )
では、そんな夢のような事業が、本当に成立するのか?
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この件については、私は前に批判したことがある。
→ ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ
ミドリムシからジェット燃料を作るという触れ込みだが、コストは現行製品に比べて 100倍もかかる。とうてい実用化の見込みはない。その理由は、精製コストが莫大にかかるからだ。
さて。古着の場合にも、精製コストはかなりかかりそうだが、水分を分離する手間がない分、精製コストはユーグレナよりは少なくて済みそうだ。だとしても、100倍が 10倍に減じるぐらいのことであって、多大な精製コストがかかることには変わらない。前に、似た話を述べた。
廃棄するしかなかったモモからバイオディーゼル燃料(BDF)を生み出そうとする取り組みを、市と山梨大が共同で2012年から進めている。
ざっと見て、得られるエネルギーに比べて、投入するエネルギーは 5〜10倍ぐらいになるだろう。
( → モモでバイオディーゼル: Open ブログ )
同様の話は、「第二世代バイオエタノール」にも当てはまる。
第二世代バイオエタノールというのは、従来は廃棄されてきた農作物からバイオ燃料を作る、というものだ。
さて、このような第二世代バイオエタノールは、有効だろうか?
最初に結論を述べておけば、「無効」である。
麦ワラなどの余り物を再利用する「第二世代バイオ・エタノール」には、技術的な問題がある。それは「効率が低くてコスト高になる」という問題だ。はっきり言って、「そのまま燃やして暖を取る」という方が、はるかに効率が高い。わざわざ莫大なエネルギーを投入して、麦ワラをエタノールに変えても、無駄が多すぎて、コスト的にもエネルギー的にも割に合わない。たしかに「無駄なものを再利用する」ということはできるが、「無駄をなくすために莫大な無駄をする」ということになる。
比喩的に言えば、「川に落ちた百円玉を拾うために、千円の道具を買う」というようなものだ。
( → 第二世代バイオエタノール: Open ブログ )
さらに言うと、精製のコストだけ出なく、集荷のコストもある。古着や農業廃棄物は、捨てた場所から工場まで運ぶ集荷にエネルギーがかかる。そのコストが莫大なので、とうてい実用化は困難なのだ。
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一方で、この問題をあっさりクリアした頭のいい人もいる。それは、古着や農業廃棄物を使うかわりに、都市ゴミを使うことだ。都市ゴミならば、自治体が自前で集荷してくれるので、リサイクル業者が集荷する手間がかからないのだ。集荷コストはゼロである。だから十分に実用的なコストで、ゴミからジェット燃料を作り出している。この件は、前に紹介した。
フルクラムは2019年、ほとんど無料で入手できる地方自治体の固形廃棄物を回収して、旅客機を動かす燃料「ジェットA(Jet A)」に転換する予定だ。ジェットAは現在、1ガロン当たり5.2ドルで販売されている。
1ガロン当たり5.2ドル = 156円/リットル
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競合他社は一般に、バイオマス源としてトウモロコシやスイッチグラス(イネ科の多年生熱帯牧草)などを使用している。フルクラムがエネルギー源として地方自治体からの固形廃棄物(ゴミ)を使用する。
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つまり、原料は都市のゴミ(生ゴミや紙類)である。そこにある炭素を、高圧や高温で分解して、炭化水素に転換する。そのあとで、合成燃料「シンガス(syngas)」を作ってから、ジェット燃料(≒ 灯油)に精製する。
これは、ゴミ発電に似ている。ただし、熱エネルギーを電力に変換するのではなく、物質的な炭素と水素を、液体燃料に転換しているのだ。
( → 航空燃料の脱炭素化: Open ブログ )
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結論。
古着や農業廃棄物を回収して、燃料にしても、回収するためのコストやエネルギーが、得られるものよりも多く必要である。100のものを得るために、500を投入する、という感じだ。(実際にはもっと悪い。)……こういうのは、やればやるほど浪費となるだけだ。
そんなことをやるよりは、都市ごみからエネルギーを回収する方が、ずっと効率的である。
[ 付記 ]
都市ごみからエネルギーを回収するのはいいとして、古着や農業廃棄物は、どう処理すればいいのか?
これについては、前に紹介した。
米の収穫時に出る大量のもみ殻を利用する。
ボイラーで燃やして熱を取りだし、残った灰は肥料にする。
( → もみ殻の有効利用: Open ブログ )
つまり、燃やして熱として利用するわけだ。これならば、コスト的にも十分に効率的にリサイクルができることになる。詳しくは上記記事を参照。
別途、特に私がお勧めしたいのは、「温室ハウス栽培の暖房用燃料として使う」ということだ。というのは最近は、温室ハウス栽培が大量になされているらしいからだ。
その証拠に、今冬はなぜか、夏物の野菜が大量に安く市場に出ている。ナスやトマトやキュウリが、まるで夏のときのような安い値段で大量に出回っている。これは、温室ハウス栽培が大量になされているからだろう。
そして、温室ハウス栽培では、大量の化石燃料が消費されているはずだ。とすれば、そこで、化石燃料のかわりに、もみ殻や木材チップなどが使われるようになれば、炭酸ガス排出量を減らせるはずなのだ。
いちいち手間をかけて、もみ殻をエタノールに変換しなくても、単にそのまま燃やすだけで、低コストで効率的に炭酸ガス排出量を減らせるのだ。
⇒ 前の記事(◆ 航空燃料の脱炭素化)を読んだときに確認しようとして忘れてましたが、典拠となっている下の記事中の、そのフルクラム社は本当に、都市ゴミからジェットA燃料(またはそれと同品質のジェット燃料)を、
1ガロン当たり5.2ドル = 156円/リットル
(資源エネルギー庁が試算した、合成燃料の理想価格である200円/リットルよりも安い価格)
で生産できているのでしょうか?(例え小さいスケールの生産であってもいいですが……)。記事を読むと、「旅客機を動かす燃料『ジェットA(Jet A)』に転換する予定だ。ジェットAは現在、1ガロン当たり5.2ドルで販売されている。難易度が高いことで知られるこの分野であっても、この価格とコストであれば有効とみられる」との書き方なので、同社はそこを現在目指している、というだけのことではないですか?
https://newspicks.com/news/3468664/body/
ただし、集荷コストが莫大にかかる事業と、集荷コストがゼロで済む事業では、採算性には明らかに差が出るでしょう。
現時点でうまく成功しているかどうかまでは、保証できません。
「A よりも B の方がずっとマシなので、A は駄目」
という話においては、B が成功することまでは保証されていません。A が失敗することが保証されているだけです。
排雪でデータセンターを冷やして、そこから出る排熱で植物や動物を育てて……ということもありますね。
https://www.city.bibai.hokkaido.jp/soshiki/13/417.html
https://corp.wdc.co.jp/
美唄市で、データセンターを雪で冷やして、熱も利用……という話を、朝日新聞が三回も記事に書いている。
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1742WRPDVULFA00F.html
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15177727.html
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1H5DN2PDVULFA00P.html