2022年01月19日

◆ 古着やゴミをジェット燃料に変換

 古着をジェット燃料に変換するというリサイクルをする企業があるそうだ。これは有望か?

 ――

 朝日新聞が紹介している。ただし、産業として紹介するのではなく、立派なことをしているエコロジストというふうに。
 東大を出て、1990年に当時の通商産業省に入省。同期で「ピカイチ」と一目置かれ、順当なコースを歩む。
 転じた先はグリーン・アース・インスティテュートなるベンチャー企業。
 細断した古紙を消毒液に、古着を燃料に変えた。
( → (ひと)伊原智人さん ベンチャー企業を上場させた元脱原発官僚:朝日新聞

 何度も失敗して転進したが、最後には成功した……という触れ込みだ。

 一応調べてみると、次の情報が見つかる。
 バイオジェット燃料の光明となりえる技術がある。バイオスタートアップのグリーン・アース・インスティテュート(GEI、東京・文京)の発酵技術だ。従来化石燃料で作っていた化学品を、植物など非可食のもので作れるようにする。
 GEIはこのほど、日本航空(JAL)と共同で古着をジェット燃料に変換する技術を確立。
( → 目指すは「空のデロリアン」 古着をバイオジェット燃料に:日経ビジネス電子版

 では、そんな夢のような事業が、本当に成立するのか? 

 ――

 この件については、私は前に批判したことがある。
  → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ

 ミドリムシからジェット燃料を作るという触れ込みだが、コストは現行製品に比べて 100倍もかかる。とうてい実用化の見込みはない。その理由は、精製コストが莫大にかかるからだ。

 さて。古着の場合にも、精製コストはかなりかかりそうだが、水分を分離する手間がない分、精製コストはユーグレナよりは少なくて済みそうだ。だとしても、100倍が 10倍に減じるぐらいのことであって、多大な精製コストがかかることには変わらない。前に、似た話を述べた。
 廃棄するしかなかったモモからバイオディーゼル燃料(BDF)を生み出そうとする取り組みを、市と山梨大が共同で2012年から進めている。

 ざっと見て、得られるエネルギーに比べて、投入するエネルギーは 5〜10倍ぐらいになるだろう。
( → モモでバイオディーゼル: Open ブログ

 同様の話は、「第二世代バイオエタノール」にも当てはまる。
 第二世代バイオエタノールというのは、従来は廃棄されてきた農作物からバイオ燃料を作る、というものだ。
 さて、このような第二世代バイオエタノールは、有効だろうか?
 最初に結論を述べておけば、「無効」である。
 麦ワラなどの余り物を再利用する「第二世代バイオ・エタノール」には、技術的な問題がある。それは「効率が低くてコスト高になる」という問題だ。はっきり言って、「そのまま燃やして暖を取る」という方が、はるかに効率が高い。わざわざ莫大なエネルギーを投入して、麦ワラをエタノールに変えても、無駄が多すぎて、コスト的にもエネルギー的にも割に合わない。たしかに「無駄なものを再利用する」ということはできるが、「無駄をなくすために莫大な無駄をする」ということになる。
 比喩的に言えば、「川に落ちた百円玉を拾うために、千円の道具を買う」というようなものだ。
( → 第二世代バイオエタノール: Open ブログ

 さらに言うと、精製のコストだけ出なく、集荷のコストもある。古着や農業廃棄物は、捨てた場所から工場まで運ぶ集荷にエネルギーがかかる。そのコストが莫大なので、とうてい実用化は困難なのだ。

 ――

 一方で、この問題をあっさりクリアした頭のいい人もいる。それは、古着や農業廃棄物を使うかわりに、都市ゴミを使うことだ。都市ゴミならば、自治体が自前で集荷してくれるので、リサイクル業者が集荷する手間がかからないのだ。集荷コストはゼロである。だから十分に実用的なコストで、ゴミからジェット燃料を作り出している。この件は、前に紹介した。
 フルクラムは2019年、ほとんど無料で入手できる地方自治体の固形廃棄物を回収して、旅客機を動かす燃料「ジェットA(Jet A)」に転換する予定だ。ジェットAは現在、1ガロン当たり5.2ドルで販売されている。
   1ガロン当たり5.2ドル = 156円/リットル

  ̄ ̄
 競合他社は一般に、バイオマス源としてトウモロコシやスイッチグラス(イネ科の多年生熱帯牧草)などを使用している。フルクラムがエネルギー源として地方自治体からの固形廃棄物(ゴミ)を使用する。

  ̄ ̄
 つまり、原料は都市のゴミ(生ゴミや紙類)である。そこにある炭素を、高圧や高温で分解して、炭化水素に転換する。そのあとで、合成燃料「シンガス(syngas)」を作ってから、ジェット燃料(≒ 灯油)に精製する。

 これは、ゴミ発電に似ている。ただし、熱エネルギーを電力に変換するのではなく、物質的な炭素と水素を、液体燃料に転換しているのだ。
( → 航空燃料の脱炭素化: Open ブログ

 ――

 結論。
 古着や農業廃棄物を回収して、燃料にしても、回収するためのコストやエネルギーが、得られるものよりも多く必要である。100のものを得るために、500を投入する、という感じだ。(実際にはもっと悪い。)……こういうのは、やればやるほど浪費となるだけだ。
 そんなことをやるよりは、都市ごみからエネルギーを回収する方が、ずっと効率的である。



 [ 付記 ]
 都市ごみからエネルギーを回収するのはいいとして、古着や農業廃棄物は、どう処理すればいいのか? 
これについては、前に紹介した。
 米の収穫時に出る大量のもみ殻を利用する。
 ボイラーで燃やして熱を取りだし、残った灰は肥料にする。
( → もみ殻の有効利用: Open ブログ

 つまり、燃やして熱として利用するわけだ。これならば、コスト的にも十分に効率的にリサイクルができることになる。詳しくは上記記事を参照。

 別途、特に私がお勧めしたいのは、「温室ハウス栽培の暖房用燃料として使う」ということだ。というのは最近は、温室ハウス栽培が大量になされているらしいからだ。
 その証拠に、今冬はなぜか、夏物の野菜が大量に安く市場に出ている。ナスやトマトやキュウリが、まるで夏のときのような安い値段で大量に出回っている。これは、温室ハウス栽培が大量になされているからだろう。
 そして、温室ハウス栽培では、大量の化石燃料が消費されているはずだ。とすれば、そこで、化石燃料のかわりに、もみ殻や木材チップなどが使われるようになれば、炭酸ガス排出量を減らせるはずなのだ。
 いちいち手間をかけて、もみ殻をエタノールに変換しなくても、単にそのまま燃やすだけで、低コストで効率的に炭酸ガス排出量を減らせるのだ。

posted by 管理人 at 23:24 | Comment(5) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> 一方で、この問題をあっさりクリアした頭のいい人もいる。それは、古着や農業廃棄物を使うかわりに、都市ゴミを使うことだ。

⇒ 前の記事(◆ 航空燃料の脱炭素化)を読んだときに確認しようとして忘れてましたが、典拠となっている下の記事中の、そのフルクラム社は本当に、都市ゴミからジェットA燃料(またはそれと同品質のジェット燃料)を、

 1ガロン当たり5.2ドル = 156円/リットル
(資源エネルギー庁が試算した、合成燃料の理想価格である200円/リットルよりも安い価格)

 で生産できているのでしょうか?(例え小さいスケールの生産であってもいいですが……)。記事を読むと、「旅客機を動かす燃料『ジェットA(Jet A)』に転換する予定だ。ジェットAは現在、1ガロン当たり5.2ドルで販売されている。難易度が高いことで知られるこの分野であっても、この価格とコストであれば有効とみられる」との書き方なので、同社はそこを現在目指している、というだけのことではないですか?

 https://newspicks.com/news/3468664/body/
Posted by かわっこだっこ at 2022年01月19日 23:58
 詳しい情報が見つからなかったので、現時点では不明です。
 ただし、集荷コストが莫大にかかる事業と、集荷コストがゼロで済む事業では、採算性には明らかに差が出るでしょう。
 現時点でうまく成功しているかどうかまでは、保証できません。
 「A よりも B の方がずっとマシなので、A は駄目」
 という話においては、B が成功することまでは保証されていません。A が失敗することが保証されているだけです。

Posted by 管理人 at 2022年01月20日 00:08
 ↑本稿の趣旨、「古着や農業廃棄物でジェット燃料よりも、都市ゴミでジェット燃料のほうが、効率的で採算が明らかに取れそうだ。その古着や農業廃棄物は、物質(化合物)リサイクルではなくて、サーマルリサイクルに供するべきだ」には、完全に同意です。
Posted by かわっこだっこ at 2022年01月20日 00:39
現在でもゴミ処理場の近くには熱や電気を利用する施設が併設されているところも多いものです。

排雪でデータセンターを冷やして、そこから出る排熱で植物や動物を育てて……ということもありますね。
https://www.city.bibai.hokkaido.jp/soshiki/13/417.html
https://corp.wdc.co.jp/
Posted by けろ at 2022年01月20日 19:26
> 排雪でデータセンターを冷やして

美唄市で、データセンターを雪で冷やして、熱も利用……という話を、朝日新聞が三回も記事に書いている。
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1742WRPDVULFA00F.html
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15177727.html
https://digital.asahi.com/articles/ASQ1H5DN2PDVULFA00P.html
Posted by 管理人 at 2022年01月20日 20:21
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ