2022年01月09日

◆ 間違いだらけの脱炭素化

 脱炭素化のための方針を朝日新聞が紹介しているが、間違いだらけだ。

 ――

 ここで「間違い」というのは、「朝日新聞が間違っている」という意味ではなく、「朝日新聞は標準的な方針を示しているだけだが、その標準的な方針というのが間違いだらけだ」という意味だ。
 具体的には、次の記事内容だ。
 コロナ禍からの復興と併せて、気候変動対策を進める「グリーン・リカバリー」の動きが世界に広がっている。
 石油販売などを手がける光南工業(愛知県豊田市)は昨年3月、同県刈谷市のガソリンスタンドを水素ステーションに変えた。「脱炭素に向けて何をやるのか、選択肢の一つ」。
 水素ステーションは未来に備えた事業の多角化の一環だ。今はグループの親会社の送迎バスなどで利用されている。
 「サービスステーション(SS)は重要な社会インフラで、崩壊させてはいけない。エネルギー企業として脱炭素には取り組まなければならないし、SSの新たな収益源を提案したい」
 ――
 国際エネルギー機関(IEA)は21年5月、50年の脱炭素社会実現に向けた工程表を発表した。
 それによれば、35年には内燃エンジン車の販売を終え、40年にはすべての発電を実質排出ゼロにするなどの必要がある。
( → (未来のデザイン:6)グリーン 気候危機、残された時間は:朝日新聞

 どこが問題かを、順に示そう。


 (1) 水素ステーション

 「ガスステーション(ガソリンスタンド)が減るから、水素ステーションを増やせばいい」というのは、発想が安直すぎる。
 そもそも、水素を使う燃料電池車は、主流にはなり得ない。「電気エネルギーを水素にしてから電気に戻す」というのでは、あまりにも無駄が多くて、多大なロスが発生するからだ。「発電所で発生したエネルギーを、そのまま EV の充電池に充電する」という方式の方が、圧倒的に効率がいい。
 水素を使う燃料電池車が使われるのは、大型トラックなど、ごく限られた用途だけだろう。( EV では車体重量が重くなりすぎて、積載量に制限がかかるからだ。)
 一方、記事にある「送迎バス」という用途は、EV が適している。送迎の用途ならば、停車時間が長いので、充電時間はいくらでもあるからだ。
 また、路線バスも同様だ。停留所で停車中に充電するシステムを整備すれば、ごくわずかな充電池を搭載するだけで済むので、EV が適している。
 長距離バスも同様だ。SA では、観光客を下ろして、観光客が休憩を取っている間に、バスに充電できる。自家用車よりも、休憩の頻度が多いので、充電の機会は多い。これもEV が適している。
 というわけで、未来の社会は、EV が圧倒的な主流派となる。水素ステーションの出番は、ほとんどない。こんなものに傾倒するのは、暴落する株を買うようなものだ。馬鹿げている。


 (2) SS(サービスステーション)

 記事にはこうあった。
 「サービスステーション(SS)は重要な社会インフラで、崩壊させてはいけない」
 SS(サービスステーション)は、ガソリンスタンドのことだ。これを崩壊させないという方針は、正しい。ただし、その意味は、こうだ。
 「寒冷地においては EV よりも PHV の方が優れているので、PHV を維持するためには、ガソリンスタンドが必要だ」
 つまり、ガソリンスタンドの必要性は、PHV の必要性に依存しているのである。とすれば、ガソリン業界としては、こう唱えるべきだ。
 「将来は EV 一辺倒にはならず、PHV も大事だ。だから、 PHV を走らせるために、ガソリンスタンドを維持するべきだ」
 と。
 ガソリン業界としては、水素ステーションなんかに着目するよりは、PHV に着目するべきなのだ。
 
 また、朝日新聞としては、水素ステーションや燃料電池車の紹介なんかをするより、PHV の重要性を紹介するべきなのだ。詳しくは下記。
  → 雪と エンジン車・EV: Open ブログ の [ 付記2 ]
  → EV の TMS (熱管理システム): Open ブログ の最終部。


 (3) 内燃エンジン車

 「35年には内燃エンジン車の販売を終え」と記事にはある。
 だが、これは妥当ではない。なぜなら、寒冷地では PHV が必要になるからだ。純然たる内燃エンジン車は廃止してもいいが、EV と内燃エンジン車の折衷である PHV については、このあともずっと製造を続けるべきなのだ。(上記の (2) の最後のリンク先を参照。)
 「自動車分野では、炭酸ガス排出量をゼロにする」という方針そのものが、根本的に間違っているのだ。(下記の (4) を参照。)


  (4)発電

 「40年にはすべての発電を実質排出ゼロにする」と記事にはある。
 だが、これは妥当ではない。なぜなら、自動車や発電の炭酸ガス排出をゼロにしても、地球全体では炭酸ガスの排出を抑止できないからだ。なぜなら、暖房や調理のために大量の化石燃料を消費するからだ。
 これらの分野で大量の化石燃料を消費しながら、自動車や発電の炭酸ガス排出だけをゼロにしても、「尻抜け」である。つまり、「底に穴のあいたバケツ」のようなものだ。遺漏が多すぎて、まともに効果がない。
 どうせ炭酸ガスの排出抑制の方針を取りたければ、暖房や調理のための化石燃料の消費を抑止するべきだ。それらを考えることなく、自動車や発電の炭酸ガス排出ばかりをヒステリックに叫んでも、非科学的な馬鹿騒ぎであるにすぎない。

 冷暖房のエネルギー消費を減らしたければ、最も有効なのは、住宅を高断熱・高気密にすることである。とすれば、電気自動車の推進なんかよりは、住宅を高断熱・高気密にすることのために、いろいろと政策を推進するべきだろう。
 
 一方、現状では、高断熱・高気密の住宅は少ない。たとえば、SUUMO で「高断熱」の賃貸住宅を関東地方で検索すると、「 1,346 件 」という検索結果が出る。
  → https://x.gd/sDOaC
 関東全体で検索しても、たったのこれっぽっちしかヒットしないのだ。
 ちなみに、「都市ガス」で検索すると、「 1,475,123件」という検索結果が出る。
  → https://x.gd/cRwnA
 まさしく桁違いである。( 3ケタも違う。千倍の差だ。)

 要するに、政府は「冷暖房のためのエネルギー消費を減らす」ということのためには、何もやっていないに等しい。単に自動車のことを考えるばかりだ。これでは「炭酸ガスを減らすための努力」をまともにやっていないことになる。
 そして、それに気付かないまま、政府の方針を鵜呑みにして報じているのが、(批判精神をもたない)朝日新聞だ。政府の言いなりになるばかり。


 (5) 電力の安定性

 「炭酸ガスの排出を減らすために、再生エネを増やせ」
 という主張がある(朝日もそうだ)が、この主張には大きな難点がある。こうだ。
 「台風が来ると、太陽光発電も風力発電も激減して、(北海道以外では)日本中が一挙に電力不足になる」
 こういう電力変動の問題があるのだ。
 
 これを解決するには、火力発電がどうしても補完電力として必要だ。だが、火力発電だけで足りるかというと、どうも心許ない。
 欧州とは違って、日本には台風というものが来る。こういう気候の状況では、原子力発電は将来とも必要になりそうだ。



 [ 付記 ]
 原発について言うと、特に、小型の原子力発電が有望だ。これは全体を「プールの水」に入れる方式なので、安全性が高い。万一の事態が起こっても、暴走しない。
 この企業の小型炉は、格納容器ごとプールに入れて動かします。出力が小さいため、事故が起きた場合、非常用電源や追加の冷却水がなくても、炉心を冷やして安全に停止させられるとしています。

gensiro1.jpg

( → 脱炭素社会の発電「小型原子炉」は選択肢か| NHKニュース

 原子炉の小型化には大きなメリットがあると、NuScaleの共同創業者で最高技術責任者(CTO)のホセ・レイエスは説明する。小型原子炉は安全性が高くなる。その理由のひとつは、小ささゆえに地下プールの水のなかに沈められる点にある。もし原子炉で漏出が起きたとしても、その熱はプール内にゆっくりと拡散されるのだ。
( → 次世代の原子力発電所は、もっと小型で安全になる | WIRED.jp

 私は前に「事故時の原子炉を水棺に収めるようにしろ」と提案したことがあった。
  → 原発再開の条件: Open ブログ
 
 原子炉の全体をプールの水に入れておけば、最初から「水棺」の条件は満たされていることになる。この意味で、私の求める「安全性」を満たしている。福島事故の再発は起こらない。
 とすれば、このような原発ならば、十分に認めていいだろう。(他の一般の原発とは、条件が違う。)


 
posted by 管理人 at 23:00 | Comment(7) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
エンジンのサイズの原子力発電機が発明されれば良い。
ガソリンスタンドでプルトニウムを売れば電欠ともおさらば。
Posted by 通りすがり at 2022年01月09日 23:39
 原子炉は小さくとも、水没させるプールがいる。さもないと、危険。
Posted by 管理人 at 2022年01月09日 23:56
高気密高断熱とともに日射取得熱を有効利用(太陽エネルギーの直接利用)すると、暖房エネルギーをかなり減らせることと思います。
https://www.biz-lixil.com/column/business_library/article06_003/
Posted by けろ at 2022年01月10日 14:33
 昼間は熱の取得を最大にして、夜は熱の放出を最小にするのが、断熱雨戸。前出。
 → http://openblog.seesaa.net/article/485120040.html [ 付記2 ]
Posted by 管理人 at 2022年01月10日 16:20
断熱雨戸は非寒冷地向けですね。
冬期に凍結する地域では壊れてしまいますから。
Posted by けろ at 2022年01月10日 22:05
> 冬期に凍結する地域では壊れてしまいますから。

 それ、前にも書いてましたね。
  http://openblog.seesaa.net/article/483347916.html#comment

 ――

 裏日本だと、もともと雪で曇りのことが多くて、陽は射さないことが多い。

 北海道も似たようなものだ。
 「北海道は雪のイメージの通り年間の日照時間は少ない。札幌を参照すると11月から3月まで雪や曇りの日が多く、晴れるのは平均で1ヶ月9日前後。」
  https://www.tabirai.net/sightseeing/hokkaido/info/about/weather.aspx


Posted by 管理人 at 2022年01月10日 22:37
和歌山のエネオス(元東燃)製油所が、来年の10月に閉鎖することが決まったようです。
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220125/2000056933.html

コロナと脱炭素化のダブルパンチで、需要が落ち込んだのは仕方ないですが、間違った世論が横行すると、日本が沈没しかねない・・・

エネオスの社長は、Openブログを見ていなかったのかな(笑)
Posted by Hidari_uma at 2022年01月26日 07:44
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